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Requiem-09 イースの全力




 * * * * * * * * *



「あち斬りまさい!」

「ハァ、ハァ……旋風……斬!」

「イースがんばれー」

「……早くマジックポーション、飲んで、下さいっよっ!」

「跳ぶまさい! くびのちゅけめ、刺すまさい!」


 オアシスからの帰り道は、モンスターだらけだった。

 もっと言えば、アンデッドだらけ。全部、ぜーんぶ! アゼスのせいだ。


「頼むぜ……ブラックアイ様がくれた、キートラル社製22型水平二連式ショットガンくん!」


 後方で重たい音が響いた。振り返る余裕はないけど、オルターの高笑いが響く辺り、アンデッドの一掃は任せてよさそう。


「この砂地で、跳べって……無茶言うなよ」

「ぬちゃ、何ますか?」

「無茶! 無理な事を平気で言うなって事!」

「おぉ、えいき……? わからまい」

「跳ぶのは無理! 魔法剣に切り替える!」


 グレイプニールに魔力を流し込み、風魔法エアロを唱える。グレイプニールがオレの魔力を留め、振りに合わせて解き放つ。


「エアロソード!」

「であのそーど」

「エアロ! 次行くぞ! ファイアソードで!」


 街道の前方から、アンデッドが大量に押し寄せている。どれもこれも、アゼスが作戦と偽って無駄に集めさせたもの。


 仲間にアンデッドを使ってテレストロードを襲うと信じ込ませるためには、相応に準備している姿を見せる必要があった。魔王教徒達が町の中で暴れないよう、外でひたすらモンスターを狩り、アンデッドを貯め込むよう指示していたんだ。


「なんか、ごめんよ。アンデッド化させた奴らが全員捕まったおかげで、操られず野良になっちゃったんだなあ」

「なっちゃったんだなあじゃねえよ! でもこれだけいりゃショットガンぶっ放すのも楽しいぜ! うぉらぁ全部蜂の巣にしてやらあ!」

「あはは、本当に銃術士って不遇職なのかい? 見た感じ無双なんだけど」


 オルターは絶好調。仲間がいる方向以外、どこにショットガンを撃っても数体のモンスターに当たる状態。

 おまけに操られていない個体の動きは遅い。オルターの腕なら命中率の低いショットガンだって全弾命中だ。


「弾使い切るくらい撃ちまくれそうだ! ヒューッ! たーのしー!」

「やだいつものオルターじゃない! あたしを守るって役目忘れないでよね!」

「あー、俺達の事も守ってくれないと。あ、馬とラクダの事も」

「そっちはイースがやってくれてる、オルターはあたし達の守りに専念して。あたし今魔力回復中で何も出来ないんだから」


 アゼス自身は魔法が使える。まだ魔具も填められていない。

 ただし、バスターである事を悟られないよう、普段から魔術書を持ち歩いていなかった。ファイアを使っても、オレがグレイプニールなしで発動させたものと大差ない。つまり、戦力にならない。

 護身用と称して持っている細剣も、この状況に限れば微妙だ。脳破壊以外効かないアンデッドに対し、体を突こうが胴を斬ろうが、あまり効果を発揮できていない。


 細剣は小回りが利くものの、破壊力に劣る。斬突より破壊を意識する事。アンデッドを止めるにはそれが重要なんだ。


「俺も魔具を填められている以上、戦力にはなれない。申し訳ないけど2人とも頑張ってくれ。ああイースさん、右に注意だ。レイラさん、1体這って来てる」


 ティートも魔具のせいで戦力外。なんてパーティーだ。

 ラクダと馬の世話役は元銃術士だが、持っているのは小口径のリボルバーのみ。


 遠くに見える個体を含め、目の前にいるのはおよそ……多分200体くらい。


「ぬし、ついえい振る、ぶりかむって思いちり振る。気力、ぶあーてどきはまちゅ、おまなえ、何ますか?」

「剣を水平に思い切り振りきって、気力を……解き放つ技? 気力の刃で斬るなら剣閃って名前だ」

「剣てん! 剣てんしまさい! ボクになほう込める、ボク維持ちます! ぬし気力いぱいとボク合わてた剣てん!」


 そうか。技の名前は知らなくても、剣として最適な攻撃を考える事は出来るんだ。グレイプニールのアドバイスはおおよそ上手くいくからな。その案、採用!


「よし、それで一気に片付けるぞ!」

「イース! ちょっとだけ回復したと思う! あたしがヒール振りまいて全力で守るから、思う存分溜めて放っちゃえ!」

「有難うございます! よし……」


 目の前数メルテにアンデッドがいる。満たす事の出来ない空腹感と食欲だけに突き動かされた骸達が、オレの肉を狙っている。何もしなければ数秒後には噛みつかれているだろう。


「ヒール! ……ヒール・オール!」


 そんな周囲のアンデッドがレイラさんのヒールで癒され、耳をつんざくような悲鳴を上げて倒れ消えていく。

 この調子ならもう少し気力を溜められる。グレイプニールに込めた魔力だって、普段のエアロ5発分くらいあるつもりだ。


「おぉう。ぬし、つもいます」

「全力を見せてや……」

「キャーごめん! 魔力切れ! マジックポーションってば効き目が遅くて!」

「げっ!?」


 まだまだと思っていたら、レイラさんの魔力がまた切れてしまったらしい。5歩先にはアンデッドが数十体。まずい。


「グレイプニール! 合わせろ!」

「よごでぎます!」


 腰を落とし、体を右に捻る。左手に握りしめたグレイプニールを限界まで右脇に引き付け……解き放つ!


「剣閃!」

「おぉう、剣てん」


 水平に振った剣の残像は、まるで光の一枚刃のようになってモンスターに襲い掛かる。更に風魔法のエアロが乗った事で、刃は数十メルテ先まで扇状に広がった。


「よし! とりあえず動きは止めた! 後はファイアソードで燃やす!」

「次はマジックハイポーション飲むから、もう少し頑張って!」

「だから貰ったエリクサー飲んで下さいって! 即効性あるしかなり回復できるって話じゃないですか!」

「1つ10万ゴールドよ!? 勿体ないじゃない!」

「貰いものですよ、今使わないでいつ使うんですか」


 レイラさんが飲みたがらない理由は想像がつく。

 両親や学校の先生曰く、汚泥を口に流し込んだかのようにまずいそうだ。勿論、オレはエリクサーを飲んだ事はないし、汚泥の味も分からない。

 良薬は口に苦しと言うけれど、苦いじゃなくてまず過ぎて吐きそうになるってのは問題があると思うんだよね。


「ファイアソード! ハァ、ハァ……だいぶ片付いたか!」

「ああ、残り1割ってとこかな! 全部焼くか治癒術で溶かすって考えると気が遠くなるぜ」

「夜は寒いから、出来るだけ野宿はしたくないんだけど……クッソ、さすがに足にくる」

「イース! 3体来てるわ! 前からも5体! ……ヒール! 駄目、まだ魔力回復が」


 砂の上で跳んで走ってを繰り返しているうちに、オレの筋力にも限界が訪れていた。動かしたいのに足が動かない。1歩踏み出すだけで次の1歩を出せない。


 あと少し。遠くの個体も近くまで寄りきった。オルターと力を合わせ、あと1度剣閃を繰り出せば終わりそうなのに。

 レイラさんの魔力もヒール1回を途切れ途切れに発動させるのが精いっぱい。


「共鳴、しますか?」

「……くっそ、最後までやり切りたかったのに」

「ボクとぬし、同じ。一緒戦うます。ボクやる、ぬしやると同じます」

「……この状況でプライドなんて無意味だな。剣閃一振りだけ、頼めるか」

「ぴゅい」


 再び剣閃を構え、グレイプニールに体を預ける。その間、オレの意識はない。


 やがてオレの意識が戻って目を開けた時、そこにあったのは砂の海ではなく火の海だった。


「……えっ?」

「ボク、よごでぎしまた。いい子ね、撫でるますか?」

「ご、めん、どういう状況か分からない」


 モンスターは全部倒せたのだろう。でもその全てが燃えてるのは何でだ?

 アゼスとティートは尻もちをつき、ラクダと馬は大慌て。


「グレイプニールの仕業。超速で魔力も気力も溜めたかと思うと、爆発と見間違うような剣閃を繰り出したの」

「剣の一振りと言うより炎の津波が襲い掛かって、辺り一面のアンデッドを焼いた」「ほ、炎の津波……」

「確か、共鳴って持ち主の潜在能力以上の事は出来ないんだったよな。つう事は、イースにはまだまだこれを自力で繰り出せるまでの伸びしろがあるってことか」

「いやあ凄いね! ぜーんぶ倒しちゃった! いいものも見せて貰ったなあ、これも特訓の一環に過ぎないって事だねえ」


 ……。


「いや、あんたが原因でしょうが」

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