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Requiem-08 魔王教団から守るべき秘密



 * * * * * * * * *





「ああ、そうだねえ。喋る武器を持とうと研究してるらしいけど、まだ作れてはいないらしい。まあ方法が分からない以前に、アダマンタイト自体入手が難しいから」


 翌日も晴天。青白い空の下、砂色の海が輝いている。

 朝食を取りコートを羽織ると、オレ達はアゼスとティートが泊まる宿に向かい、話を聞いた。


 喋る武器の生産は成功していないみたいだ。


「アダマンタイト製の武器を作れる鍛冶師なら、そもそも魔王教徒に服従なんかしないよな。名人の客となるバスターも名人、強いバスターが寄り付くし」

「アダマンタイトの入手が必要、製作依頼の大金が必要、名匠への伝手も必要。何より名匠が持たせるに値すると認める武勲も必要。秘密裏に入手するのは難しいわね」

「……なんか、オレに当てつけるように言ってない?」


 オルターとレイラさんの納得の仕方が、オレの心に突き刺さる。

 素材は親が預かっていたアダマンタイト製の武器達。名匠に依頼してくれたのも親、製作費も親が払った。

 持たせるに値すると認めた理由は「オレの親の頼み」だったから。


 持ち主のオレは名人や強いバスターの域に達していない。功績はまあまあだけど、それはオレの強さに由来したものじゃない。


「ぬし強いなりましたい、もしゅたたいじゅまさい。つもい、よごでぎる、いい子ね、もしゅた斬ゆ褒めらでる、にんな強い思うます」

「え、えっ? 何? グレイプニールは何て言ってるのかい?」

「強くなりたいならモンスターを倒せと」

「よく分かるなあ。失礼だが全く聞き取れない」


 ……あ、そうか。オレはグレイプニールと四六時中一緒にいるから分かるけど、グレイプニールはまだまだ人に分かるように伝える力がない。

 喋り方を教えてくれたのはアスタ村の喋る鎌テュールだし、バルドル達も言葉を発するようになるまで数十年掛かったと言ってた。

 父さん達が活躍して以降20年ちょっと。武器が自発的に喋るようになる程の年月は経っていない、か。


「オレは持ち主だからね。グレイプニールはオレの気力と魔力で命を吹き込まれているし、自然とオレには分かるような喋り方になってるんだと思う」

「相性ってあるもんね。実際、いいコンビだし」

「ぷぁー? ボクお喋るよごでぎますよ? ボクぬしまい、あるでぎまい剣しまた」

「ああ、一生懸命喋って偉い」

「ふひひっ、ぬし撫でるますか?」


 撫でろとか褒めろとか、こんなに感情豊かな剣に育ったなら、隠し通すのは難しいと思うんだよね。

 父さんはバルドルとだけ心で会話が出来るけど、その方法はバルドルが偶然思いついたもの。術式以外のその要素を知るのは、バルドルがやり方を教えた英雄5人と伝説の武器達だけだ。


 ……もちろん、オレも知らない。


「武器の入手は困難。喋る武器に仕上がったかどうかの判断も困難。魔王教徒は、そもそも術式が正しいかどうか検証できる程長く武器を持ち続けていない……」

「潜入しておきながら無責任だけど、出来ればそうであって欲しい。人を傷つけるための武器だなんて可哀想だ」

「しと斬ゆだめます。武器もしゅた倒すためます」

「そうだな。でも立場が変われば正義も変わる。魔王教徒が人を殺すために作ったなら、その武器にとって人を斬る事は良い事って話になる」

「おぉう……」


 少し難しい事でも、グレイプニールはオレの考えを読み取って納得できる。納得できるだけの思考能力があるって事。

 もしもそれが分からないうちに「使えない武器」と判断されてたら可哀想だな。


「……あれ? 喋れるかどうか、どうやって判断しているんだろう」

「アダマンタイトの使用割合とかじゃないの?」

「あ、そうか。でもアダマンタイト100%じゃ武器として耐久力がないし」

「アダマンタイトって、アダマントっていうモンスターの殻だっけ」

「アダマントの殻に術式刻んだら、殻が喋るのか? って言うとそういう訳でもないでしょうし。その辺は本当に奇跡としか言いようがない割合があるんでしょうね」


 伝説の武器達は、それぞれ成分が違う。アダマンタイトの使用割合も数%単位で違うらしい。アルジェナのようにしなりが必要な弓だと、割合はギリギリなんだって。


 魔法の祖アダム・マジックが魔法を研究し、術式に何らかの法則を見出した。その術式の発動に必要な媒体としてアダマンタイトに目を付け、喋る割合の法則まで発見した。


 ……というのはバルドルに聞いた事がある。


 アンデッドを操る事とどこか似てる気もするけど、恐らく武器を喋らせる事と操る事、方向性が違うんだろう。

 魔法を生み出したアダムは、武器を喋らせる術や体を乗り換える借体術を編み出した。それを利用したい魔王教徒の存在も把握していた。


 アダムは魔王教徒が死霊術を編み出した事に危機感を覚え、自分を仲間だと思わせつつ、術の核心から巧みに研究を逸らしていった。オレはそんな気がする。


「ぬし、いぱい考えるでぎます言わまいなすか?」

「ん?」

「考える、言わまい、しと分からまい。たいせちゅます事、もしえる良い思うますよボクは」

「……そうだね。喋る武器を生み出したアダム・マジックは、魔王教徒の悪巧みを知っていた。だから術の核心に辿り着かないよう、死霊術に辿り着くよう誘導したっていう仮説を頭の中で考えてた」

「成る程。方向性が違うと、魔力の質も流れも変わるからね。攻撃術と治癒術を両方極められないのと同じように、死霊術と武器を喋らせる術式は相性が悪いのかも」


 ……という事は、死霊術の適性がない魔王教徒なら?

 うーん、やっぱりまだまだ安心できないな。


「とにかく。伝説の武器達の術式や発動方法を知られないようにしないとな。イース、トイレに行く時でもグレイプニール連れて行けよ」

「いや、それはなんか……」

「どうせ風呂場で全部見せてるじゃねえか、恥ずかしがる必要あるか?」

「あーもう、そういう下品な話はやめて! 要するにまだ魔王教徒は喋る武器を持ってないって事! あたし達の考えが漏れる事はない!」


 ティートは全てが初耳だったからか、「へぇー」しか言えていない。ティートは末端の信者だったし、利用されているだけだった。

 魔王教団は主要メンバー以外、全員駒なのかもしれない。





 * * * * * * * * *





「さーて、テレストロードに帰りましょう!」

「何でそんな元気なんすか」


 5日後、アゼスが壊した壁の修復が終わった。アゼスは申し訳ないと平謝りだけど、集落のみんなはもう怒ってなかった。


 捕えた魔王教徒は8人。8人をテレストロードに引き渡せば、集落は報奨金を貰うことが出来る。

 何せ懲役刑が下されたなら、人権など考慮せずとも好きなだけ働かせられる労働力になるんだからね。それでお釣りがくると笑っているのがちょっと怖い。

 テレストでは絶対に悪い事はできない。


「だって5日も規則正しく生活してたんだもん。お風呂も毎日! 水質もいいし! 肌の調子もいいし!」

「規則正しい生活? 食って散歩して寝るぐうたら生活……」

「はぁぁい?」

「なんでもないっす」


 レイラさんは超ご機嫌。オルターの銃は全てピカピカ、砂から保護するカバーまで買っている。


「イースはなんか疲れて見えるけど。大丈夫?」

「大丈夫です。グレイプニールの気が済むまで特訓してたからかな」

「毎日朝から夕方まで砂漠でモンスター追い回してりゃ、疲労も抜けねえよ。おいグレイプニール、持ち主を労わるのも忠剣の務めだぞ」

「いたまる、何ますか?」

「持ち主が疲れないように、休ませてやれって事。ったく、イースも夜中まで戦闘に付き合うのはやめとけ、甘やかし過ぎ」

「あ、うん……そんな遅い時間までやってたつもりないんだけど」


 グレイプニールへの償いの意味で、この数日はグレイプニールが満足するまでモンスターと戦った。

 だけど、夜中に戦ったってのは言い過ぎだ。日が落ちる頃には宿に戻ってたし。


「私達は王都から警備応援の兵士が来たら、交代で戻るわ。レイラちゃん、みんなも元気でね」

「はい。リザさん、みなさん、とても心強かったです。有難う御座いました」

「後輩と一緒に戦う事も指導する事も、案外経験出来ないからね。こっちも楽しかった」

「さあ馬とラクダの準備が出来たってよ。それじゃ帰ろう!」


 リザさん達とはひとまずお別れだ。

 相変わらず軽いノリのアゼスに促され、オレ達はオアシスを後にした。

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