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Requiem-05 少年の人生を変えた2つの存在



 ……えっ?


「えっ?」

「ふひひっ、りぇいら、ぬし思うとおまじことお喋るしまた」

「いや、その報告はいいよ……。えっと、魔王教徒ハンター?」


 初耳だからか、ティートは口を開けたまま固まっている。もちろんオレ達の口もあんぐりと。

 ティート達を捕えたのも、このアゼスの策略によるものだったって事?

 じゃあ、地下牢にいる8人が捕えられたのも?


「その忠剣はグレイプニールって名前だったよね。おれが嘘を付いていないと信じて貰わないといけないから、柄を握らせて貰ったよ。どうだい」

「あでつ、ほんとうつきます。なおうきょうと、つかまでるする」

「本当に……魔王教徒を」


 アゼスはニッコリと笑い、今度こそオレ達と握手を交わした。リザさん達も不審そうに見てるけど、アゼスはそう思われるのが当然と言って笑うだけだ。


 度胸があるというか、悪く言えば何も気にしていないというか。


「ああ、ちょっと電話貸してくれる?」

「どこに電話を?」

「うん、魔王教団本部に」

「はああっ!?」


 サラッと言ってくれたけど、魔王教団の本部がどこか知ってるってのか!?

 魔王教団に潜入して以降、一体どこまで何を掴んできたんだ……?


「いやあ、計画では今回でテレストへの潜入に成功する事になってるんでね」

「なってるって……」

「テレストロードは壊滅、辺境警備にまで手が回らない」

「っていう嘘を報告するって事?」

「あったりー」


 電話1本でそこまで信用されるものなのか。というか他の魔王教徒がやって来て現状を見られたらすぐにバレるよな?


「おぉう、嘘つく、だめますよ? ほんとうつきになりまさい」

「本当の事を言ったらおれが潜入者だってバレちゃうじゃん。魔王教徒捕まえられないよ、いいの?」

「グレイプニール。悪者に本当の事を教えちゃいけないんだ」

「あるもも、ほんとうつく、いけまい? おぉう、むじゅかし」


 グレイプニールは純粋無垢だ。敵に有利な事をポロっと零す可能性がある。魔王教徒の前ではあまり喋らせない方がいいかもしれないな。


 みんな電話を掛けさせる事について、止めようとはしていない。だけどここまで幾らなんでも説明がなさ過ぎる。何で潜入しようと思ったのか、なぜ魔王教徒ハンターになったのか。

 なぜティート達を送り込んだのか。


 そして、なぜオレ達の前に現れたのか。


「もう少し具体的な情報をくれないかしら。私達、あなたの計画に乗せられて動き回ったのよ? レイラちゃん達も私達も丸2日起きっぱなし」

「テレストロードに着いた日も、墓暴き騒動で徹夜。その後休めたとはいっても、また徹夜で移動。あたし達に説明する義務があると思うんだけど」


 うん。ハッキリ言って眠いし、疲れたし、振り回されていい迷惑だった。オルターなんて、さっきから立ったまま目を瞑ってる。


「……あれ? グレイプニール?」


 反応なし。こいつも寝てやがる! 


 疲労と騙された憤慨で、皆あまり好意的な雰囲気ではない。

 特にリザさんとレイラさんが怪しむ様子を隠さないためか、アゼスはため息をついてその場に座り込んだ。


「よっこらしょっと。まあ連絡が1日2日遅れたくらいで事態は動かないか。じゃあお詫びも兼ねておれの正体や昔話など」





 * * * * * * * * *





 23年前、ノースエジン連邦の港町ジュタにごく普通の家族が暮らしていた。夫婦は港の近くで小さな雑貨兼日用品店を営み、1人息子は生まれたばかり。

 贅沢は出来ずとも貧しくはない。夫婦は仲睦まじく、息子もすくすくと成長していく。


 古物商も兼ねていたため、時にはバスターの古い装備等も買い取っていた。部品取りの需要は案外高く、材料の再利用のため鍛冶師に安く払い下げる事もあった。

 店にはバスターが多く訪れ、息子はそのバスター達から旅の話を聞くのが好きだった。


 息子が12歳になった頃、町に英雄ゼスタ・ユノーとイヴァン・ランガが立ち寄った。2人は偶然にもその日用品店を訪れ、息子の頭を撫で、握手をしてくれた。


 それまで店を継ぐと信じて疑わなかった少年は、その瞬間バスターを目指すと決心し、親を必死に説得した。


 息子を跡継ぎに出来なければ、店は一代限りで畳む事になる。少年は引退後に店を継ぐと約束し、数年後なんとか職業校のバスター科に通わせてもらった。


 少年には魔法の才能があった一方、武器の扱いは全くダメだった。

 2年生の卒業可否を決める試験の日。少年は見事な成績を収めた。合格は確実。


「おれの人生が明るく楽しく、幸せだったのはその時までだった。その日、おれが家に帰ると親は3人組の客と揉めていた。中古の魔術書の値段についてだった」


 3人が欲しがっていたのは、黒い表紙の魔術書。少年はそれを売りに来たのが若い女性で、「親の遺品の蔵書だが、大量だから本を燃やすにも捨てるにも困る。タダで引き取ってくれ」と言っていた中の1つだった事を思い出した。


 3人はその本を欲しがっているだけではなく、売り主の事も教えろと迫っていた。夫婦は不審者と判断して3人を追い返した。


「翌日にでも、魔術書屋に持ち込んで調べて貰おうと話していた。だけどその夜……」


 寝静まった深夜、少年は船の汽笛や港の漁師の声ではない物音で目が覚めた。何かと思って音の出所へ向かうと、店舗の方に誰かがいるのが分かった。


 親なら明かりをつけるはずだ。物盗りだと思った少年が親を起こしに戻ろうとした時、小声での会話が聞こえた。


 ……ないぞ、どこにやった

 ……崇高な魔王教の経典を売り払う奴がいるとは

 幸い、店主は魔術書と思っていたようだが


 その会話を聞いて、少年はハッとした。魔王教の存在は学校の歴史の授業で習ったことがあったからだ。


 声の主は見えなかったが、店先で親と揉めていた声と同じ。


『……どうする、本部に連絡を入れるか?』

『経典を渡した信者の名簿はある、全員確認させれば』

『俺達の存在を知られたら厄介だぞ』


 こいつらは魔王教徒だ。

 そう思った少年は、今度こそ親を呼ぼうと踵を返したのだが。


「その瞬間、後頭部に衝撃が走った。その後の事は覚えていないけど……目が覚めた時、おれは病院にいて、店舗兼住宅が全焼したと教えられた。両親も焼け死んだと」

「……親の仇、ってわけね」

「ああ。焼け落ちた家の跡を探し回る3人組がいるという話も聞いた。すぐに駆け付けて見張っていると、1人を捕まえる事が出来た。奴は両親を殺し、家に火を放ったと認めやがった」


 1人の首を締めつつ脅し、残りの2人が泊まるホテルも突き止め、3人は逮捕された。放火殺人で3人は死刑。

 ただ、3人は終始魔王教徒の事を口にしなかった。だから少年がいくら訴えようと、魔王教団の存在は公にならなかった。





 * * * * * * * * *





「後日、おれの家に経典を売った女性に、泣きながら謝られた。母親の遺品の手帳などから、祖父母が魔王教徒で、母親はそこから逃げ出した過去を持つ事を知ったという」

「それで、あなたは魔王教団を壊滅させようと」

「どうしてみんなに魔王教徒狩りを提案しなかったの? 私達、声が掛かっていれば喜んで手伝ったわ!」


 オレ達も、魔王教徒が実際に活動していると知ったのはつい最近だった。


「バスターの中に、内通者がいると考えたのね」

「ああ。だからおれはそれを利用しようと思った。女性から親の手帳を譲り受け、そこに書かれていた魔王教の支部を訪ねた」

「結果、どうだったの? バスターの中に魔王教徒はいたの?」


 レイラさんの問いかけに、アゼスはゆっくりと頷いた。


「ああ、魔王教徒に魂を売ったバスターは少ないながら存在した」

「それをおれ達に教えたくて、こうして現れたって事か? 魔王教徒が周囲に確実にいないと言い切れる状況を作りたくて」


 そんな細心の注意と、用意周到な姿勢によって、今まで欲しい情報を得てきたんだろう。きっと、親を殺された恨みや執念は全く薄れていないんだ。


「そういう話なら協力するわ。奴らを止めましょう!」

「いやあ、それもあるけど……おれ、このままだとテレストロードや他の集落に入れないもん。だから魔王教徒だけど味方っつうことでさ、あんた達の口添えでお咎めなしにならねえかなと思ってさ」


 えっと、今の重い話、どこに飛んで行った?

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