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Mirage-09 かつて縋る相手を間違った若者達



 刑が確定したら、街道の整備に駆り出されたりして、協力どころじゃなくなる。


「ちょめき何ますか? ボク貰うでぎますか?」

「ちょうえき。懲役は、悪い事した人へのお仕置きだよ」

「おぉう、ボクわるくまい、ボクもも、人ちまう。おちもき貰うしまい」

「あの、懲役刑になるって事ですよね? だとしたら4人が協力的だからって連れ出す意味が……」


 うーん、分からない。ただ、オレ達はあくまでもお願いする側だ。懲役刑になっては困るなんて口が裂けても言えない。


「あ、あの……俺達、本当に協力するつもりなんですけど」

「分かっとるっちゃ。4人はそこの扉から入って。手の拘束ば外して、足の鎖を柱に繋ぎますけん。見張りもおるけん、変な気は起こさんように」


 さすがに魔王教徒達も戸惑ってる。俺達も戸惑ってる。

 そんな俺達の気持ちを知ってか知らずか、刑務官が案内したのは廊下の先にあるシャワー室だった。


「え、いいんですか? 俺達まだ拘束されてるのに」

「俺らは囚人が憎いでこの仕事をしとるんやない。汚い格好で法廷ば向かったら印象悪いですけんね。その先に替えの囚人服もあるけん、後はそっちの刑務官に従っちゃらんですか」

「は、はい……」

「着替えたらここと反対側の扉から出るように。裏が裁判所やけんね、そっちで待っとくように」


 4人は手錠を外され、シャワー室の中に消えて行った。今から身綺麗にするってことは、あれ? でも裁判の準備って、そんなに早く出来るんだっけ? 


 証拠写真や実況見分を行って、本人の自白や動機も含めて書類にして。少なく見積もっても1か月は掛かると思うんだ。

 他の裁判との調整もあるだろうし……それを思いつきで今からなんて。


「あの、こんなに簡単に裁判出来るんですか?」

「一番偉い大臣が良いっち言いよるんやけ、大丈夫ばい。4人はサクッと懲役もろて合流出来ますけん。んじゃあ私はここで」


 刑務官は任務が終わったとでも言うかのように、爽やかな微笑みで手を振り、持ち場へと戻っていく。


「あの、大臣。あの4人は……あたし達の作戦に参加してもらわなきゃ困るんです。大臣も話し合いの際には理解していただけたかと」

「はい、勿論ですとも。刑務官が言うとらした……コホン、言っていた通り、懲役刑が下されたらすぐにでも」

「ちょめき、悪い人、おちもき貰うますよ? なおうきょうとちかまれる、おでつまい、でぎまいなす」

「……ああ、皆さん何か誤解されとるようですね」


 刑務官がコッテコテのテレスト訛りだったからか、大臣の喋りもどこかつられている感じがする。って、オレ達の誤解って?


「魔王教の計画に近しい者に対して、寛大な処分など有り得ません。しかしながら、拘束を続けていては協力が出来ない」

「ええ、そこが心配なんです。執行猶予でも付くのでしょうか」

「いえ、敢えて実刑とします。国王陛下の命令として、魔王教徒殲滅に従事させる。それが彼らへの懲役です」

「あ、そういうこと……」

「懲役の内容は、過酷な街道の補修や炭鉱作業だけとは限りませんからね」


 成程、協力に強制力を持たせるって事か。逃げたら命はない、協力を惜しんだ場合は極刑も有り得る。だけど監視されつつも真面目にこなせば刑務所の中とは比べ物にならないくらい自由に出来る。


「彼らは魔王教解体を承諾しています。グレイプニールさんが確認したため、今更冤罪の可能性もありません。ならば後は正式に処分として宣告するだけです」

「そっか、勝手に許す訳にもいかないんすよね。国家転覆を狙うなんて、準備罪だけでもかなり重いわけだし、お咎めなしも有り得ない。懲役の形で従わせるのはいい案と思います」


 1時間程が経ち、夕陽が遠くの砂丘に隠れ始めた頃、魔王教徒4人の公開裁判が始まった。


 開廷前に触れ回ったわけでもないのに傍聴席はいっぱいで、当然だけど墓に眠る故人をアンデッドにされた遺族は怒っていた。


 オレ達は彼らを捕まえた側なのに、いつの間にか弁護にまわっている状態。


「アンデッド化については酷い事だし、許されません。だから4人には懲役刑を科すべきです。だけど、各地で同じ事をしようとしている奴らを止める事も必要なんです」

「この4人は魔王教の組織にも計画にも詳しい。罪を償うためにも協力させて、この4人の手で魔王教を潰すんだ」


 きっと、オレ達の言い分はみんな理解しているんだ。だけど感情としては許したくない。裁判を見守る多くは、そのバランスを取れずにいた。


「先祖の墓を暴くような真似されたんやぞ! 協力するけん許せっち言われても」

「魔王教徒捕まえるのはバスター達がやるっち聞いたけど! この4人を手伝わせる必要あるんかね」

「死者の冒涜なんざ、極刑で良か!」

「起きた事実は変わらんのよ! こいつらが後悔しようが改心しようが、所詮は自己満足やないの! 厳しい労働に就かせて!」


 傍聴席からは厳罰を求める声が上がる。そりゃあ成功していないとはいえ国家転覆を狙ったんだから、危険分子だったのは間違いない。

 たまたま死人が出なかっただけ、たまたまアンデッドまみれにならずに済んだだけ。

 阻止されただけで、実行する気はあった。それを大目に見てくれと言うのは無茶というものだ。


 だけど、オレ達としても協力を取り付けたい。何より4人がチームに入ってくれないと効率が悪過ぎる。


 例えば何か知りたい事があった場合、グレイプニールか伝説の武器、いずれかが魔王教徒に質問しなければならない。

 当然、同行できないなら各地もしくはどこか1か所の刑務所をいちいち訪ねる事になる。

 英雄1人と武器1つをテレストに残し、他のみんなで探す事もできるんだけど……旅先で確認を取りたくなったらどうするのか。


 手段は1つ。


 捜索地点から近隣の町や村に戻り、そこから刑務所に電話を掛け、該当する町に滞在中の英雄に伝えてもらう。

 刑務官が英雄を宿か飯屋か、それとも別の場所かを探し回る、もしくは町内放送で呼び出す。

 ようやく連絡がついた英雄からの折り返しをひたすら待ち、掛かってきた電話で事情を伝え、いったん切った後で英雄と伝説武器が取り調べ。


 その結果の折り返しをオレ達はまたじっと待ち続ける……無駄でしかない。


「皆さん、シュトレイ山の中腹に魔王教徒の拠点があったのをご存じですか」

「その拠点の場所を訊き出したんでしょ? 問題ないはずよ!」

「場所だけならそうでしょう。ただ注意点の全ては網羅できません、時間が無さ過ぎます」

「武器達は、あくまでも質問した事に対しての思考を読み取るだけなんです」

「旅先で疑問点、不審点があったら……」


 この主張は、4人の贖罪には一切触れないオレ達に有利というだけのもの。被害者の気持ちに寄り添ったものじゃない。


 検察は刑務官が兼ねている。被害者側というよりは淡々と事実を確認していくのみ。それもまた悪者を打ちのめしたい人達にはつまらないだろう。


 司法取引とでも言うべきか、4人が協力するのは決まっている。だけど、被害者や国民を無視して利益を求めるべきでもない。

 法的にはそれでも問題ないんだろうけど……と思っていたら、魔王教徒側が口を開いた。


「魔王教徒は……殆どが挫折し、踏みつけられ、嘲笑われて生きてきた者だ」

「こんな世界なくなればいい、俺だけ不幸だなんて許せない、そう思いつつ地べたを這って死んだように生きていた時、目の前に現れたのが魔王教徒だった」

「家も職も、頼れる人も、明日食うものもなく、何十日と着続けたボロを纏い、路地裏やいつ襲われるか分からない町の外に身を隠す日々。奇しくも救ってくれたのは魔王教徒だった」


 いつの間にか、その場の皆が耳を傾けていた。このような情報も、質問しなければ武器達は読み取る事が出来なかった。


「でもその救ってくれた奴らの持ち物は、やはり誰かの犠牲の産物だった。魔王教徒は一方ではオレ達のような奴を仲間にし、他方ではオレ達のような苦しむ奴を生み出していた」

「俺達は目が覚めた。もうそんな安定には縋らない。……この連鎖を止めたい。オレ達の代で終わりにしたい。次はこの町の誰かの犠牲が奴らの糧になるかもしれない。

「だからお願いします! 罪滅ぼしにならないというなら、帰ってきてから相応の罰を受ける。でも今は俺達の手で止めさせて欲しい、どうか止めさせて下さい!」

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