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Mirage-07 英雄達の始動




 * * * * * * * * *





「あ、はい。元気です、はい、何とか今はテレストで……そうです、バスターとして、はい、はい、有難うございます。それで村長、父と母をお願いしたいのですが」


 管理所の電話を借り、遠く離れた故郷のレンベリンガに連絡を入れた。アスタ村もそうだけど、ギリングのように電話がある家ばかりじゃない。

 レンベリンガ村で電話があるのは、村長の家、役場兼集会所、それに診療所だけ。みんな集会所で電話を借り、村外からの連絡は村長の家に掛けるんだ。


 村から旅立つ際、必ず持たせられるのがお守りと村長宅の電話番号。村内で電話を掛け合う事はなく、何か伝えたい事があれば直接出向くんだ。


 村長の家に父さん達を呼んでもらうため、いったん電話を切って10分待った。再度掛けなおして村長に名乗った後、ようやく父さんと話が出来た。


『もしもし』

「あ、父さん……久しぶり」

『ああ、声を聴いた限りだと元気そうだな。どうだい、活躍している事は村にも伝わってるけど』

「あ、うん。そこそこに。グレイプニールをくれたおかげだよ、改めて有難う。それで……」


 あまり世間話をしている時間はない。遠いから電話代もかかるだろうし。オレは魔王教徒の動き、テレストの状況、そしてかつての4魔やアークドラゴンの封印地が怪しい事を伝えた。


『そうか、今は忌み地って呼ばれてるんだな。分かった、そっちに派遣するバスターは、俺達で選別する』

「うん、お願い。ごめんね、引退してのんびり暮らしてるってのに」

『何もイース達だけで背負い込む話じゃない。何だ? ああ、勿論そうだよ。……ああ悪い、バルドルが《《俺達》》の中に僕が含まれているのかと煩くて』

「バルドルも相変わらずだね。じゃあ、宜しく、母さんにも……」


 電話を切ろうとしたら、受話器の向こうでガタガタと音がした。


『ああシーク切らないでくれ! ……イース! ああ、良かった! 元気かい、わたしは元気だ。どうだい、そっちは。こっちは相変わらずだ、のんびり過ごし……ああすまない、わたしばかり話して』

「母さん、相変わらずで安心したよ。うん、元気。魔王教徒の件で父さんに色々頼んだから。うん、うん。大丈夫、食べてる』

『もう2年会っていないんだ、1度くらい里帰りしてくれ。わたし達でいつもイースの話を……ん? ああ、勿論だよ。ああ、こっちの話。アルジュナとバルドルが《《わたし達》》の中に僕達が含まれている事も伝えろと』


 レンベリンガ村はオレが旅立った頃とちっとも変わってないらしい。

 のんびり屋で、バルドルといつもおかしな掛け合いをしている父さんと、落ち着いた雰囲気があるのに、静かに焦り出す母さん。きっとその背にはアルジュナがあるんだろうな。


 村は標高1000メルテ級のテーブルマウンテンの頂上に位置し、テーブルマウンテン南部の斜面のつづら折りの道以外に到達方法がない。

 外壁と呼べるものはないけど到達がまず困難で、天然の要塞って感じ。


 さすがにそんな村まで魔王教徒の手は伸びていないみたいだ。

 まあ、かつての英雄が住んでいるというのに、好き好んで襲い掛かりはしないか。


 あの辺はみんな自分で自分の身を守るから、大人は剣や弓を使えるし、魔法の祖であるアダム・マジックも住んでいて「魔法教」が根付いている。魔法を使える人が多い。

 魔王教徒とはいえ、制圧するのは無理だと思う。


 オレは通話を終え、会議室に戻った。皆は世界地図を広げ、方針を話し合っているところだった。


「イグニスタ夫妻やビアンカさん達が協力してくれるのなら、もう安心だ!」

「私、まだ会った事ないんです。どんな方なんですか? シャルナクさんとイヴァンさんって、猫人族なんですよね」

「みんな気さくでいい人だぞ。そうだなあ、猫人族や犬人族は少ないからな、ムゲン特別自治区の外に出始めたのだってこの20年以内の話だし」

「イースさんって猫人族だから、最初見かけた時はビックリしましたよ」


 と思ったら、かつての英雄の話をしている所だったみたい。基本的にはみんなが言う通りなんだけど、時々「無かった事」が語られるのが面白い。


 例えば魔法の祖であり、「借体術」で数百年生き続けていたアダム・マジックの弟子だとか。

 350年近く前の英雄「勇者ディーゴ」の生まれ変わりとか。

 炎の魔法が火炎旋風となって、モンスターを消し炭にしたとか。


 父さんは魔法が使えるけど、アダム・マジックに魔法を習った事はない。

 ディーゴの事も知っているバルドルは、父さんとディーゴを別人と断言してる。

 父さんは魔術書を買う金がなかったせいで、魔法をメインに使用した戦闘経験はほぼない。


「シークさんがバルドルを振り下ろしたら、モンスターの群れが割れるように倒されたんですって!」

「シャルナクさんが炎弓アルジュナで射貫いたら、モンスターを10体貫通したんだってよ!」

「ギタ荒地の大きな窪み、ビアンカさんが魔槍グングニルで突き刺した跡らしいぞ。あの辺りに大きな岩がないのは、ゼスタ・ユノーが剣撃の特訓で砕き回ったせいって」

「イヴァンさんも、剣術の特訓なしであの大きな炎剣アレスを操ってるわけだし。あり得る話だよなー」


 いや、イヴァンさんはまあそうなんだけど、それ以外はあり得ないって。

 話の尾ひれは年月とともにどんどん長くなる。そのうち父さんは口から炎を吐き、母さんは嵐を呼ぶ事にされそうだ。


「なあ、シークさんって本当に攻撃術士志望だったのか? 剣術士になりたいけど魔法の才能があったとか?」

「オルター達がどう聞いてるか分かんないけど……5歳だか10歳だかの頃、誕生日に子供向けの魔法の簡単な解説本を買って貰ったくらいには魔法一筋だった人だよ」


 バルドルが今でも「シークは最初、僕を見なかったことにしようとした」って恨み節を吐いてるくらいには、剣に興味がなかったはず。


 武勇伝に尾ひれがつくくらいの活躍……か。いつかはオレも出来るんだろうか。


「話の尾ひれが年々長くなるんだ」

「尾……はっ、さかま! お喋るますか?」

「あ、いや……だんだんと話が誇張、本当の事よりも大げさに言われるって事」

「お喋るさかま、うそつくますか?」

「そうじゃなくて」

「ぬし、焼きざかま、好きます」


 ああ、グレイプニールに比喩表現は通じないんだった。グレイプニールの尾ヒレがあるつまり魚。オレはどう説明していいのか分からず、グレイプニールにオレの心を読ませて理解させた。


「ぬし、でせちゅ……みんな、でせちゅ、お喋る楽しいます」

「そうだね。誰かの偉業って勇気付けられるし、オレも頑張ろうって気になる。ま、自分と比べて落ち込むこともあるけどね」

「ボクでせちゅなる、つもい剣、グレイプニールよごでぎる、お喋るされたいます」

「この魔王教徒の一件が終わったら、本格的に昇格や強いモンスター探索に動こうか。人助けが先だよ」


 オルターとレイラさんが職員さん達と協議をする中、オレは父さん達と話した内容を伝える。

 それは、絶海の孤島「エインダー島」のラスカ火山で起きた事件だった。


「死霊術が使える魔王教徒との直接対決は、シークさん達以外経験がないんですよね。掃討作戦の際、他のパーティーも対峙はしたそうですが」

「すぐに降参したり、そもそも数人しかいなかったり。魔王教徒が使う術について、私達も今一度認識を統一しておきたいです」

「じゃあ、イースの話に補足があれば、それはあたしが。イース頼める? 先代の知識を正しく受け継ぐのは後輩の使命」


 これは親のお陰や七光りのお陰ではない。レイラさんはオレに気を使い、そう伝えたかったんだと思う。

 オレはそんなレイラさんの思いに賛同すると同時に、そもそも自分達だけに留めておくべきだとは思っていなかった。

 父さん達が得た知識をみんなのものにしないと、彼らの活躍が無駄になるからだ。


「……いい方法があります」

「いい方法?」

「捕えた魔王教徒の中で、魔王教を脱退したい死霊術士がいたら、協力してもらうんです」

「過去の戦闘経験の話とは別に、死霊術の事は確かに死霊術士に聞くのが一番……分かりました。募ってみましょう」

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