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Mirage-06 魔王教徒の恐ろしい計画



 その後の展開は早かった。


 魔王教徒達も自分の命は惜しかったようだ。今までの言動が脅しではないと分かった途端、ポロポロと真実を語り始めた。


 まあ、そりゃあそうだよな。銃を構えられ、実際に発砲され、人権は保証しかねるとまで言われたんだから。撃たれて死ななくとも、手当して貰えるとは限らないんだし。

 四肢を拘束され飯を抜かれ、トイレその他の世話も放棄される日々に耐えられるような人なら、そもそも魔王教徒になってないんじゃないかな。


 結局、周囲や仲間が何とかしてくれると思っていただけなんだろう。


「テレストロード北東10キロメルテ地点、北西に50キロ行ったオアシスの5キロメルテ西の地点、南西の海岸集落から北に5キロメルテの地点……」

「アンデッドにせず、死骸のまま置いてあるってのが救いね」

「イース、オレは刑務官と一緒に王宮へ報告に行こうと思う。取り調べはお願いしていいか。まだ仲間が潜んでいるなら、こいつらの解放のため刑務官を襲う可能性もある」

「そうだな……分かった、宜しく」

「じゃああたしは協会の管理所に。各地にもテレストの状況を知らせてもらう」


 オルターとレイラさんに連絡を任せ、オレは自身をリーダーと名乗る男の取り調べを続けた。

 グレイプニールは真実を知る事が出来る。だけど、グレイプニールの知識や語彙力には限界がある。どうしても魔王教徒の口で話してもらう必要がある。


 刑務官が魔王教徒の抵抗する気力をへし折ってくれたのは、正直助かった。


「今回の作戦の目的は」

「……魔王教はこの世の浄化を諦めていない。まあ、どうせ隠せないのだから正直に言っておく」

「浄化?」


 聞いたことがある。かつて魔王教徒は封印されたアークドラゴンを復活させ、この世界を破壊して真っ新にすることで、理想の世界を1から作り上げようとしていたんだ。


 だけど、アークドラゴンはもういない。父さん達と死闘を繰り広げ、倒された。

 だから、厳密に言うと今の魔王教徒は当時の方針を受け継いだだけ。理想を実現するため、あらゆる手段を使っているって事だな。


「……おぁ、ぬし、ぬし」

「ん?」

「ぬし、ぬし、知るます、なおうきょうと、見るしたますよ」

「……オレが知っているものを見てる?」

「ぴゅい」


 グレイプニールが魔王教徒から何かを読み取った。リーダーはオレ達に抵抗してはいないものの、魔王教徒である事を辞めようとはしていない。


 これからの計画? グレイプニールは何を見たんだ?


「ぬし、おうち、どこますか?」

「え、宿?」

「ちまう、ぬし、おうちます! おぁー……ぬし、あるまいと、ボク持つする前なす。どこますか?」

「アルバイト、グレイプニールを持つ前?」

「ぴゅい」


 バスターに挫折したオレが滞在していたのは、ギタ国の基幹港であるマイムだ。確かにその時は集合住宅のひと部屋を借りて住んでいた。


「マイム?」

「みゃいむ! おぼいました(思い出した)なす! みゃいむ! みゃいむ、行くしまた」

「マイムに行った事があるのか」


 リーダーは頷いた。なぜと問われる事が分かっていたからか、こちらが聞く前に話し始める。


「マイム付近はガレ場、ザレ場が続き乾燥しやすい土地だ。見通しが良過ぎてアンデッドを隠すのは難しいけど、東のギタカムア山脈は誰も近づかなくて好都合だった」

「好都合?」

「あの地域はアークドラゴンの手下の4魔が封印されていたせいか、今もその気配が消えていない。だから安全だ」


 4魔はアークドラゴンと共に大暴れした事で、伝説の武器で封印されていたモンスター4体の事だ。もちろん4魔は倒されている。

 その封印場所や死骸を処理した場所は、なぜかモンスターが近寄ろうとしないんだ。


 ジルダ共和国のシュトレイ山に、ヒュドラ。

 ジルダ共和国の北に位置するエバン特別自治区の南部山脈にゴーレム。

 ママッカ大陸のムゲン特別自治区にあるアルカ山にメデューサ。

 そして、マガナン大陸のギタカムア山にキマイラ。

 キマイラは山から一番近いシロ村で大暴れし、父さん達がそこで倒して死骸を処理した。


 最後に、アークドラゴン。これはエンリケ公国南部の山に封印されていた。残念ながらその場で倒しきる力がなく、父さんが一時的にアークドラゴンの封印となった。


 それから封印を父さんの故郷であるアスタ村の北に移動させた。5年後に聖剣バルドルが封印を解き、父さんがようやくトドメを刺した後、その場で死骸を処理しているはずだ。


 これらの場所は辺境にあるものの、モンスターが近寄らないため安全とも言われてる。道中のモンスターが厄介で集落などを形成するのは難しいけど。

 魔王教徒がシュトレイ山の中腹に構えていた拠点は、まさにヒュドラの封印地だ。


 ……あ、あれ?


「もしかして、他の4魔の封印地にも拠点を? モンスターから狙われる事なく、安全に事を進められる……」

「お前達、分かっていてシュトレイ山の拠点を狙った訳じゃなかったのか」


 男はため息をついた。オレが知りたかった事以上の情報を与えてしまったからだと思う。


「……あんでっど、なす、まちょ? ぬし、あぶまい。なおうきょうと、あたまちいもしゅた、お作ります」

「アンデッドをなす……ま? 場所? アンデッドを作る場所?」

「ぴゅい」

「新しいモンスターを作るって、どういう事だ」


 グレイプニールの言葉だけじゃ詳細を掴み切れない。リーダーの男は言い渋る素振りを見せたものの、刑務官が銃のハンマーをカチャリと鳴らした事で観念した。


「負の力が溜まっているって事は、どういう事か分かるだろう」

「本来ならモンスターが強くなる傾向がある場所だな。それは分かってる」

「そこにアンデッドや嫌がるモンスターを無理矢理集めりゃ、どうなるか。分かるよな」

「……強いモンスターを、作り出せるって事か! しかも見た目は弱いモンスターだから、オレ達は油断する」

「ハァ、そこまで頭が回るとはお利口なこった。まあそういう事よ」


 魔王教徒は嘘をついていない。何かを意図的に隠してもいない。それはグレイプニールの柄に触れた状態だから確実だ。グレイプニールは嘘を指摘していない。


「まずい、まずい!」


 そこにどれくらいの人員がいるのか、魔王教の本部はどこか。進捗も含め一通り確認したオレは、刑務官に後を任せてバスター管理所へと走った。


「すみません!」

「……あ、イース! ちょうどよかった、各地のバスター管理所に通達を出してもらったの。魔王教徒がアンデッドの量産を……」

「レイラさん! それ以上にまずい事が分かったんです!」

「え、ちょっと、どういう事?」


 オレは普段からそんなに慌てない方だと思う。そんなオレが血相を変えて飛び込んでくれば、ただならぬ事態と分かっただろう。テレストロードの管理所マスターや、複数名の職員も集めて緊急の会議が開かれることになった。

 王宮にはオルターがいる。電話を掛けてもらい、オルターには大臣を連れて来てくれと頼んだ。





 * * * * * * * * *





 会議室は重たい空気に包まれていた。この場にいる人は、全員グレイプニールで確認済み。魔王教徒と繋がっている人はいない。


「モンスターを、強化? そんな事が」

「いや、ちょっと考えたら分かる事ではあった。負の力が強い場所は、モンスターが強い傾向があるし」

「4魔やアークドラゴンの忌み地はモンスターが嫌がって近寄らないけど、それ以外にも負の力が強い場所は無数にある」

「忌み地なら、自分達を狙うモンスターは近寄らない。人の目にも付かない。材料さえ運び込めば、そんなに好都合な場所はない……各地を確認しなければ」


 職員達もゾッとし、何人かが慌てて協会本部に電話を掛けに行く。

 協会に魔王教徒が入り込んでいる可能性は排除できないけど、すぐにバスターを向かわせたなら、拠点を引き払う時間的余裕はないはず。


「レイラさん、イース。親の伝説武器に協力してもらった方がいい」

「え? バルドル達に?」

「ああ。派遣するパーティーが魔王教徒側だった場合、そいつらが現地調査と称して現地にこっちの動きを伝える可能性がある」

「信頼できるパーティーの厳選のため、ね。分かった、あたしちょっと家に電話してくる」

「親の力を借りたくないとか言ってられないな。オレも故郷に掛けてみる」

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