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Disaster-09 テレスト王国へ




 * * * * * * * * *




 オレは南のアスタ村では祖父母や従弟と再会し、更に南へと歩いた。


 この数か月で何度か祖父母の家にも行ったけど、婆ちゃんと叔母さんはとにかく喋る。父さんの弟のチッキーさんと従弟のジュネスは性格が似ていて、目を輝かせ旅の様子を悪気なく数分単位で尋ねてくる。

 爺ちゃんは口数が少ないけど、オレの腹がはち切れるまで食事を勧めてくる。

 時間が幾らあっても足りないから、今回は挨拶だけにしたんだ。


「お前の婆ちゃん、すげえな」

「うん、父さんがいつも喋る才能はあるけど聞く才能がないって言ってる」

「その言葉がしっくりくるわ」


 アスタ村までは雪道を馬車で進み、アスタ村から南のスタラ村までは徒歩。そこからも徒歩。この辺からモンスターが多くなり、スタ平原では見られない個体も現れ始める。


 スタラ村まではイノシシ型のボア、キラーウルフ、ゴブリンなどを数体倒した。オレ達にとって、苦戦する相手じゃない。

 スタラ村から歩いて1日、乾燥する地域に突入した昼過ぎ、とうとう足元に雪がなくなった。


「足元、悪くなってきたよね。そろそろテレストに入るかな」


 街道にあるゲートで出国、入国の手続き。町に入る際、この入国証明がないと逮捕されてしまう。なくてもいいのはエバンやムゲン特別自治区だけ。


「ああ、あんたらが」

「……あ、どうも」


 オレとレイラさんの苗字を確認すれば、気付かない人はまずいない。おまけに全バスター最速昇格の銃術士までいれば、その噂も回っているはずだ。

 バスターも多く通る国境ゲートは、国だけでなくバスター協会との繋がりも深い。


「あんたら、テレストロードまで行くんやろう? この時期砂嵐が酷いけねえ、夕方の砂漠は注意しんさい。他のバスターが魔法で岩を出しとるから、風よけにでもして」

「休憩は絶対に岩の上におらないけんよ。砂の中からサソリみたいなモンスターが襲ってくるばい。あとは、蜘蛛みたいのが砂の中さ引きずり込む」

「ひええ……」

「まあ必ず予兆があるけん、四方注意すりゃあ逃げるのも簡単ばい」


 オレ達が向かう事情まで分かっているのか、守衛のおじさん達はテレスト王国の首都テレストロードまでの地図までくれた。

 そして、気まずそうに頭を掻きながら、テレストの管理所の事を教えてくれた。


「実はですねえ、その……言い難いんやけどねえ」

「3日、4日? くらい前にですね、ギリングの管理所の所長さんから連絡が入っておったんですわ」

「え、所長……って、4日前だと前所長ですか」


 所長は亡くなっている。その所長が亡くなる直前に国境に何の用があったんだろうか。


「もしかして、オレ達が魔王教徒と対決してる事、ですか」

「ああ。必ず通る事になるけん、実情やら色々と教えてやってくれとね。それからすぐ事件を起こして亡くなったち聞いたんやが」

「それは……」


 連絡できたのは魔王教徒のエデリコ・ハイゼンを刺し、監視の目がなくなった後の事だろう。

 色々教えてくれたおじさん達に、オレ達は前所長が亡くなった理由と、当時の状況を説明した。

 所長が亡くなった事は知っていても、その理由はテレスト王国内の管理所から知らされていないという。


 国が違えばその程度の事なのか、それとも意図的に伏せられているのかは分からない。ただ他所の管理所の所長が交代するなら、各管理所には協会本部から連絡が来るもの。

 テレストが魔王教徒に牛耳られている可能性は、考えないといけないようだ。


 さらに、おじさん達は首を傾げて何やら心配そうに話を進める。


「その話を聞いた後だと、なーんか引っ掛かるものがあるなあ」

「ああ、なんつうか、最近やけにバスターの往来が少ないんよ。冬といってもテレストからギリング方面に行くにゃあ、後は船しかないけんね」

「テレストから回るには2週間弱掛かる。陸路だとその時間を惜しんで馬車込み5日やけん、そこそこ需要はあるはずなんやが」

「商人とその護衛は秋まで往来も多かったけど」


 ギリング方面にバスターを集めさせないため?

 テレストは砂漠の真ん中に鉱山があったり石油が取れたり、オアシスが観光地になっていたり、かなり人の動きも多いんだ。

 ジルダ共和国との国境付近こそ岩石砂漠から礫砂漠程度だけど、王国内は殆どが砂砂漠。砂砂漠は案外他の土地では珍しく、砂丘を訪れる観光客は必ずバスターを雇う。


「テレストからジルダに向かわない理由は何か、って事ね。すみません、お金は払うので電話をお借りできますか」

「ああ、ええよ。どこに電話するんだい」

「あたしの事務所です」


 レイラさんは事務所に連絡を入れ、先程の話をベネスさんに伝え始めた。


「俺は砂漠って好きだな。遮る岩も建物も木も、草さえもなくて標的を狙いやすい。欠点は砂に注意しないと銃の故障が怖い事か」

「砂嵐は怖いな、砂の中から襲い掛かってくるってのも今までにないし」

「ボク、すとんしゅばいま、斬りますか?」

「しゅと……ストーンスパイダー?」

「そでます! ボク斬るしたことまい……」

「これから嫌って程出るよ」


 これからの戦いを考えていると、レイラさんの電話が終わった。そんなに長い時間は掛けていない。レイラさんはおじさんに1000ゴールド札を渡し、頭を下げた。


「レイラさん、何を?」

「ベネスから管理所に連絡して、最近ギリングに来たバスターの渡航歴と、テレストロードの管理所を出たバスターの渡航歴を確認してもらう」

「バスターの流れを確認すれば、何か分かる事があるかもしれないからか」


 テレストロードの管理所に着けば、ベネスさんからの伝言があるだろう。オレ達は守衛さんの好意で少し休ませてもらった後、国境の門を越え、テレスト側に足を踏み出した。


「あー、ちょっと待った! さっき言った通り、バスターが全然通らなくなったんだ。モンスターの数を減らす奴がおらんけん、結構な頻度でモンスターに襲われる」

「ぴゃーっ! もしゅた、倒さまけえば! ぬし、行きます!」


 物騒な忠告を受け、グレイプニールだけが喜ぶ。

 砂地の上で踏ん張り、飛び跳ね、走る。それがどれ程疲れる事なのか、絶対分かってないよな。


「名剣さんよ、砂の上は疲れやすいし動きにくい。バンバン戦ってるとご主人があっという間に倒れちまう」

「ぷぇぇ……ぬし、ボク……もしゅた、斬るますか?」

「斬らなきゃいけない時はね。遠いモンスターはオルターに任せないと」

「まあ、遠くは俺に任せろ。街道っつっても砂嵐で埋まってたりするからな、歩くだけで精いっぱいだ」


 グレイプニールは銃を羨み、ボクが倒すはずだったのにと不満そうだ。


「話してるところ悪い、少し先にモンスターが溜まってるってよ、見張り塔の奴が伝声管で教えてくれた」

「うげー……」

「ひゅうん……ぬしぃ、斬る、ますか?」

「……倒さなきゃ前に進めないだろ」


 砂の上を歩き、モンスターを倒し……はあ。

 定期便まで数日あったとはいえ、スタラ村で馬車を待てばよかった。


「あー、あれ倒してくれるんなら、明日の朝の馬車に乗せてやろうか」

「えっ!?」

「今日の夕方には、明日から勤務の守衛2人と物資が届く。その帰りの便で、休暇の守衛と一緒に戻ればいい」

「いいんですか!?」

「おう。5人パーティーだとさすがにきついが、3人なら」


 これは助かる! モンスターを数体倒すくらい、どうって事ない!


「明日までの仮眠室もあるし、シャワーもあるから、悪い話じゃないと思うが」

「シャワー!? お願いします!」


 レイラさんの目が輝いた。オレもオルターもすっかりその気だ。


「行くぞグレイプニール! オルター、蹴散らすから頼むぞ!」

「おう!」

「ぴゅい! あーしまわせ! 斬るしまわせ!」


 勇み足で外に飛び出し、数十メルテ程走った。


「おぉう」

「この数……うっそ」


 そこにいたのは体長約1メルテ、数十体はいるであろうストーンスパイダーの群れだった。


「クッソ、わざと大群だって言わなかったな、おっさん達」

「……どうせ倒さなきゃ進めないんだ、やろうぜ」

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