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Black or White-12 彼らがいた証



 後処理と片付けに時間が掛かり、気付けば5時になっていた。オルターは殆ど眠れていないはず。

 とはいえこんな胸糞悪い戦いの後で寝直すのは無理。オレ達はそのまま歩き始めることにした。


「オルター、きつくなったら遠慮せず言ってくれ」

「2人とも無理しないで、遺品拾いが屍になっちゃ意味がないもの」

「大丈夫だ。俺みたいなのはこういう時に役立たないと」

「オルター」


 オルターの悪い癖。まるで昔のオレだ。

 オルターはいつも不遇職だからと卑下する。オレはそんなオルターの振舞いを聞き、以前のオレの態度がどれだけ周囲に気を遣わせていたのか、理解できるようになっていた。


「オレはオルターが役に立たないと思ったことはない。引き金を引けば必中、飛び道具も使いこなす。野草や毒物にも詳しい。役立たずのように言うのはやめろ」

「あ、ああ……うん、悪い。もう自虐が癖になってんだよな、気を付ける」

「仲間だろ、頼りにしてるんだ。レイラさんもこれくらいしかしてないとか、言わないで下さいね。補助魔法は助かってるんです、本当に」

「うん、分かった。ふふっ、自分に自信を持てずに生きていると、イースから言われるくらい無自覚に自分を下げちゃうんだね」


 そう。オレに言われるってよっぽどだぞ。

 対して、グレイプニールは武器として自分に誇りを持っている。大剣の方がいい、弓の方がいいなんて言わないし、自分の切れ味を信じてる。


「ボク、頼りなるますよ? 斬る、よごでぎます!」

「ああ、オレ達が自信を持たないとな」

「おぉう、ぬしボク持たまい、じちん持つ、だめます」

「自信って自分を頼りにする、自分は良くできるって思う事を言うんだ。オレが手に持つのはグレイプニール」


 ったく。自信満々なくせに、オレが持つと言えば何にでも嫉妬するんだから。


 持つと言えば、早朝に確認した装備は、目印の旗を立てて分かるように置いてきた。元々遺体や遺品などが見つかれば、後日馬車で収容に向かう事になっていたんだ。


 その時に馬車を護衛するのも引退したバスター達。人手不足と言われるギリングにおいて、レイラさんの企みは着実に効果を上げている。


 ただ、出来る事ならこんな悲しいクエストはなくなって欲しい。誰もが生きて帰って欲しい。

 後輩バスターの無念を、引退した先輩方はどう受け止めるだろうか。





 * * * * * * * * *





「グレー等級9人分、ホワイト6人分、ブルー4人分、か」

「ミノタウロスかオーガか、何かの巣になってたんだな」


 ニータ高原方面に歩いて更に4、5時間、オレ達は日が昇りきる前に岩場に差し掛かり、小さな洞窟を見つけた。

 近くに小さな川があったから、その浸食作用で出来たんだろう。


 その奥から異臭が漂っている事に気付いて進んでいくと、大量の人骨や動物の骨が積まれていた。武器防具、魔術書、それにバスター証も。


 その場に転がっていた防具とバスター証はほぼ一致。アレイサ―、イーベルらの物も見つかった。


 洞窟の天井は人の背丈の倍程の高さで、幅は両腕を広げたら武器を振れないくらい狭い。これじゃバスター達は満足に戦えない。


 潜入したのはいいが、満足に戦えずに殺されたのか。

 それとも、モンスターが外で攫った者を運んだのか。パーティー単位でせっせと運び入れるなんてあるだろうか。


 いや、待てよ。こんな所に何組もバスターが押し寄せるだろうか。


「レイラさん。今回って、クエストを受注したまま行方不明になった人達の捜索ですよね」

「ええ。この骨の山には行方不明扱いになってない人も含まれてるけど」

「リストに載ってる人達がどんなクエストを受注していたか、調べる事ってできますか」

「管理所は情報を持ってると思う。場合によっては3つ、4つ同時に受けてるかな」


 バスター証から、少なくとも19人分の遺品だと判明している。リストと合致しているバスターが13人。それって、偶然この周辺を通りかかって狙われたんだろうか。


 洞窟の中にパーティーまるごと引っ張り込まれた?

 そう考えるより、何か目的持って入り込んだと考える方が自然だ。


「……なあ、オルターの友達は?」

「ない。他の4人はあったけど、シュベインのだけないんだ」

「生き延びてるか、もしくはタグが外のどこかに……」

「あの時、俺が勇気を出して一緒にパーティーを組んでくれって言えてたら」

「オルター、そんなタラレバやめて。管理所から出発して命を落としたバスター達を、あたし達が止めていたら……って、どれだけ後悔してきたと思う?」

「……すみません」


 悔やんでも仕方がない。誰かが理由だとしても、オルター達が悪いわけじゃないんだ。


 オルターと組んで分かった事だけど、銃と剣の組み合わせは案外相性がいい。

 剣術士の敏捷性はモンスターの位置調整が楽だし、剣盾士ほど密着しないから仲間に当てるかもという不安もない。


 それをオルターも感じているから、一層無念なんだと思う。


「まさかあの頭蓋骨がシュベインのものだったり」

「いつから行方不明なのか、知らないか」

「2か月前には確かに見かけたんだ。声は掛けられなかったけど」

「2か月の間にシュベインさんだけパーティーを抜けて、別行動を取っていた可能性もある。それに2か月じゃ人の頭部は骨だけになるまで朽ち果てない」

「あっ、ボク良い考えるしまた! おるた、ボク見せる、しますか?」


 ああ、そうか、心を読むんだな!

 シュベインさんとその仲間の装備や顔をグレイプニールが把握すれば、言葉では伝わりにくい特徴も探すことが出来る!

 オレが探し、グレイプニールがそれだと言えば、それが手がかりだ。


「オルター、グレイプニールにシュベインさんの……」

「あーごめん。あたしその、先に見つけちゃったかも」

「えっ!?」


 オレ達の案は、レイラさんの声にかき消された。


 レイラさんが骨と装備の山から拾い上げたのは、左足用の革の足具だった。中には大きく名前が彫られている。間違いない。


「それ、シュベインの装備だ」


 仲間4人分の装備やバスター証は既に見つかっている。ここにシュベインさんの足具があるという事は、シュベインさんも犠牲になったと考えられる。


 ライトボールの影となったオルターの顔は分からない。ただその肩が震えている事から、泣いているのは分かった。


「……絶対に見つけて帰ろう。恐らくあのミノタウロスの」

「待って! 何か来るわ」

「え? 何も聞こえませんけど」


 猫人族の耳は人族よりも音を拾う。レイラさんに聞こえて、オレに聞こえないはずはない。


「空気が揺れたの。ふわって風が吹いたでしょ、入り口からじゃなくて、ここから外に向かって」


 何かが入ってこようとし、オレ達の声に気付いてそっと外に出た?

 その体が洞窟を抜ける際、一瞬入り口を蓋するような形となり、気圧差で風が流れた……ってことか?


「でも……足音は、しない。砂と小石が積もった狭い洞窟だ、大きく曲がっているとはいえ、入り口から100メルテもない。オレの耳が音を拾わないはずない」

「もしゅた、逃げたますか? 斬る、もいかけますか?」

「オレ、見てきます」


 オレがそう告げて少し動いた時、今度はしっかりと風が吹いた。こんなにはっきりと感じる風が最奥から流れるだろうか。


「……おい、ここ、隙間があるぞ!」


 オルターが行き止まりの空間の端に隙間を見つけた。そこから風が流れ込んでいる。これ、明かりがなければまず分からないな。


「ここ、外に通じてる?」

「おい、このグラグラした岩の先、少し進めそうだぜ」


 そうオルターが呟いた直後、目の前に小さな石が転がってきた。


「えっ? ……中から、小石が飛んできた?」

「中に何かいるのか」


 レイラさんがオレ達を制止し、隙間の中へライトボールを移動させる。数メルテ四方の空間は湿っていて、水が微かに湧き出ているみたい。


「また小石が飛んできたぞ」

「……おい、おい! 大変だ、レイラさん、右を照らして下さい!」

「え、何か見えたの?」

「オルター、この岩を動かすぞ!」

「え、中に入るのか!?」


 小石が勝手に飛んでくるわけない。落ちてきたとしても、こんな水平に飛んではこない。オレは小石が飛んできた方向を覗き込んだ。


 一瞬ビクリとしたせいか、オレの尻尾が逆立ったのが分かった。

 覗き込むまで死角となっていた場所に、人が横たわっていたんだ。


「中に誰かいる!」

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