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Black or White-11 思い出にするにはつらすぎる



 オレはわざとグレイプニールを掲げ、そのまま剣先をミノタウロスに向ける。

 人の持ち物を無理矢理にでも身に着けようとする辺り、ゴブリンやミノタウロスは挑発を理解できる程度の知能があるんだ。


 思った通り、ミノタウロスは歯を剥き出しにして咆哮する。オレは体中がビリビリするのにも耐え、ミノタウロスを突き刺す構えで走り出した。


「レイラさん、ライトボールの位置をミノタウロスとオルターの間に! オレの都合は気にしないで!」

「ぬし、飛ぶまさい!」

「おっと!」


 ミノタウロスもオレに突進してきた。それを避ければ大丈夫と思っていたら、ミノタウロスは最後に突き上げを狙っていたようだ。


 慌てて角を避けるために飛び退くと、ミノタウロスはそのまま右腕でアッパーを繰り出す。確保した距離が短かったため、その腕はオレの左肘を掠めた。


「あっぶね、あっぶね!」

「ぬし、しゃがみまさい!」


 防寒着が衝撃を吸収するとはいえ、小手は装備できない。まともに喰らっていたら骨折は免れなかった。

 さすが、オレンジ等級モンスターだ。これくらいでいいだろう、が通用しない。


 ミノタウロスがオレを捕まえようと手を伸ばす。それを避けるため瞬時に伏せ、転がって大げさに距離を取った。

 次の攻撃は踏み付けか、飛び掛かりか。オレの経験と能力じゃ攻撃の予測が出来ない。


「くっそ、動きが俊敏で狙えねえ!」

「こいつの片腕はもう使えない! 右脇を開けさせるから狙え!」

「わかった、胸に打ち込む、オレとミノタウロスの間に入るなよ!」

「ラピッド! イース、体少し軽くなったはず!」

「はいっ!」


 オルターに狙わせるように避けまわり、ミノタウロスが腕を上げる動きを誘う。左腕はへし折ったものの、そのせいでダラリと下がった腕が狙撃の邪魔になる。

 左からは狙えないため、オレはオルターが狙い易い位置を調整しないといけない。


「グウゥゥ……」

「グレイプニール、こいつの顎の下から斬り上げたい! 首を落とせなくても、上体を仰け反らせることが出来ればオルターが狙える! 指示を頼む!」

「うちろ、まわりまさい!」

「背後?」

「指示、ボクよごでぎます!」


 グレイプニールの狙いは分からないが、疑問を持ってそれを解決するなんて余裕はない。オレは背後を取るような動きに切り替え、その瞬間を待つ。

 もちろんミノタウロスはオレを追うから、オレ達はその場でぐるぐる回る事に。


 なぜ背後を取れと言ったのか。それはミノタウロスに何かの行動をさせるためじゃなかった。


「ウオォォアアァァ!」

「なっ!?」


 ヒュンっと何かが空気を裂く音がした直後、ミノタウロスが急に雄叫びを上げた。上体を仰け反らせ、何が何だか分からない。

 ただ、仰け反ってはいるものの、ミノタウロスはオルターに背を向けている。


「ナイフを足に投げた! 今のうちに!」

「飛び道具、なるほど!」


 ミノタウロスは怒り狂っている。オレを見ずに吠え続け、不意打ちしたオルターを探し出そうと振り向く。

 ただ、光を生み出す魔法ライトボールは、ミノタウロスのすぐ近くに打ち上げられている。強い光の中ではオルターが見つからないんだろう。


「ぬし! こち! こち払いまさい! 向き、変えまさい!」

「そうか、分かった!」


 ミノタウロスがあと半分体を捻ったらオルターから狙える。

 オレはミノタウロスの体を回転させるため、ミノタウロスの尻の左から腰に掛けて斬り上げた。


 同時に筒を抜ける発砲音が響く。


「グギャァァァ!」

「やったか!」

「まだ動いてる! イース!」


 ミノタウロスが衝撃で仰向けに倒れた。ショットガンを使うと言っていたけど、ライフルに持ち替えていたようだ。オレとミノタウロスの距離が近かったせいか。


 見れば、手にしていた頭蓋骨は地面に放り出されていた。

 ああ、この人はようやく解放されたんだ。


 ミノタウロスの胸が赤く染まっている。心臓は射貫けなかったようだけど、血が1秒に満たない感覚で噴き出している所を見るに、大きな血管が損傷している。もうミノタウロスに残された時間は長くない。


 ただ起き上がれないとはいえ腕を動かし、オレの足を掴もうとする気力はあるようだ。オレはグレイプニールを構え、再度ファイアソードの状態にする。


「トドメだ!」


 オレはミノタウロスの真上に飛び上がった。そのまま落下の速度と重みを加え、左胸にグレイプニールを突き刺す。


「グププ……」


 ミノタウロスが口から血を大量に吹いた。窒息するのが先か、血が回らず意識を失うのが先か。オレはそんな事を考えながら、グレイプニールを引き抜いた。


 剣が引き抜かれる瞬間、ミノタウロスの目が見開かれた。

 そのままその表情が固まり、噴き出ていた血が止まる。


「終わった、よな」

「倒したます、よごでぎしまた、ぬしおりこうます」

「ミノタウロス、オレ達だけで倒せた……」


 バスターになって2年弱。だけど活動を再開してからは3か月ほどだ。その期間でミノタウロスを倒せたなんて。


「イース、いい誘導だった。動き回っていたとはいえ、大きく場所を移動しなかったおかげで腕を左右に振らずにじっと待てた」

「あたし、補助魔法を掛けただけで終わっちゃった。苦労しない方がいいのは分かってるんだけどね」

「グレイプニールの指示のおかげ。有難うな」

「全体の指示は、ゆくゆくはあたしが出来なくちゃいけない事。グレイプニールの指示を聞いてあたしも勉強する」


 オレ達がこんなに順調に戦えているのは、グレイプニールのおかげだ。

 オレ達が指示通りに動けて、グレイプニールが想定する展開を作れるだけの強さがあるから成せるのだとしてもね。

 その動きに到達するまで、多くのパーティーは経験を重ね、試行錯誤をする。オレ達はその過程を1つ飛び越えさせてもらってる。他のパーティーより強いってわけじゃないんだ。


「さて、反省会よりも先にやる事がある」

「そうだな」


 オレ達は頭蓋骨を丁寧に拾い上げ、ミノタウロスが身に着けていた装備を剥がすと黙祷を捧げた。3人並んで右手を胸にあて、故人の無念を想う。

 この頭蓋骨が誰のものか、恐らく判別する手段はない。装備の持ち主とは違うかもしれない。


 でも、きっと町に帰りたかったと思う。名もなき英雄のたまごは、オレ達が連れ帰る。


「……装備、名前が書いてある」

「うん」


 汚れた小手の裏に、小さくサインが彫られていた。万が一の場合を考え、バスターは装備の裏に名を彫る事が多い。

 そうすれば、自分の生死を誰かに知らせてもらえる確率が上がる。


「イーベル・ミエイガ」

「こっちの足具は別の人のものね。アレイサー・ジョア」

「同じパーティーのもの、か」

「えっ」


 オルターがボソリと呟いた。何故同じパーティーだと気付いたのか。

 それらしい印なんかないし、もしかしたら名前を聞いて知り合いだと気づいたのか。


「持ち主の事、何か知ってるの?」

「……ああ、忘れもしない。アレイサ―・ジョア、同じ職業校で別のクラスにいた女だ」

「そう……知り合いだったのね。お悔やみを」

「ああ、別に仲が良かった訳じゃないんです、もちろんこうして見つけた事は複雑な気持ちですけど」


 今回の失踪者リストには載っていなかった人物だ。オルターはアレイサ―という名のバスターについて、少し語ってくれた。


「卒業間近、みんながパーティーを組もうと声を掛け合う時期だった。当然、オレみたいな不遇職を誘ってくれる人はいない。だからオレはなるべくみんなと仲良くなって、一緒にやろうぜって言ってくれる人が出る事を願ってた」

「……うん、続けて」

「オレはイーベルの友人のシュベインって奴と気が合って、有難い事に一緒にやろうと言ってくれた。歳は2つ上、剣術士の中では並だったけど、オレには十分だった」


 オルターの懐かしむような眼は、装備を通り越してその先の何かを見ているようだ。


「でもそのシュベインに対し、アレイサ―が声を掛けた。アレイサ―のパーティーにはシュベインの友人であるイーベルもいて、治癒術士、剣盾士も揃ってた」

「……シュベインくんは、そっちに行ったのね」

「オレが、あっちで頑張れって言ったんですよ。オレはいいからって。その仲間の装備がここにあるって事は」


 オルターは俯き、それ以上を語ろうとはしなかった。

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