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BRAVE STORY-13 新メンバー決定!



 レイラさんはじっと下を向いて、少しの間沈黙していた。

 諦めていたって事は、やっぱり当初はバスターになる気でいたって事だ。


「……あの、バスターになる気がなかったんじゃなくて、諦めたんですか」

「2年で卒業出来て、フライパン振り回せるくらい健康で、何も支障なんてないですよね?」

「もしゅた、倒さまい? いやますか?」


 聞いてはいけない事だったのかな。レイラさんがバスターにならなかったのは、親が英雄の1人であるゼスタさんだからと聞いたことはあった。

 親がバスターだから子供も当然バスターになると思われるのが嫌だったと。


 でも、それだと最初から治癒術は学ばないと思うんだ。


「……ハァ、仕方ないわね。イースくんに大口叩いた手前、とても言い難いんだけどさ。あたしはバスターの道から逃げたのよ」

「逃げた?」

「仲間が誰か、分かんなくなっちゃった。兄弟は運動が苦手だからとバスター課程に進むのを拒否。卒業後は役所勤め。あたしへの期待は大きかった」

「……イースが言ってた、英雄の子だから凄いとか、英雄と繋がりを持ちたいとか、そういうやつですか」

「そうよ。バスターにならないあたしに価値があるのか。そんなあたしでも気さくに接してくれるのか。分かんなくなったんだ」


 オレの時と一緒だ。


 あの頃はオレも結局誰ともパーティーを組めなかった。疑心暗鬼でどこにも入ろうとは思えなかった。

 レイラさんはオレと違って、バスター登録すらしなかったのか。


「バスター登録は卒業後すぐじゃなくても出来る。だから、あたしは管理所で働くことにした。どうしてもあたしと一緒がいいって人が現れたら考えよう、って」

「現れなかったんですね」

「ええ。管理所の職員となったあたしに近寄ってきた人はいたわ。お父さんは元気か、特権で昇格させてくれ、そんなのばっかり」

「レイラさん自身を見てくれなかったのか。そりゃあ……挫けるわな。俺は英雄の子供なんて、羨ましい以外の何物でもなかったけど、大変なんだな」


 事件屋を開いたのも、そういう人と距離を置きたかったからかもしれない。

 事件屋は管理所からの委託であって、職員ではなく昇格業務に携わらない。

 厄介な安いクエストしか置いていない。


 ここにバスターやバスターを目指す者、その保護者が押し寄せないって事は、こんな場所にいるレイラさんには用がなかった、って事になる。


「あたしも悪いのよ。疑心暗鬼ってのはまさにそうで、職業校時代には親しい人を作らなかったから。あたし自身、人望が生まれるような行動を取らなかったんだ」

「今日だっていろんな人が駆け付けてくれたでしょう。人望がなかったら警官の格好した相手にあんなに強気で守ってくれませんよ」

「……そうかな、そうね。有難う」


 レイラさんは治癒術士としての才能がある。通常4,5年の職業校を最短の2年で卒業。管理所業務を4年、事件屋としての資格を取り、開業までこぎつけた。

 オレ達のサポートも完璧で、頭の回転も速い。


 親が凄過ぎるってだけで、レイラさんの能力だって負けてはいない。バスターとしての経験がないだけ、魔王アークドラゴンを倒していないだけ。

 なのに、こんな人がバスターを諦めていたなんて。


「……レイラさん。一緒にバスターやりましょうよ。治癒術士として一緒に来てくれるなら、本当に助かります」

「事件屋は俺達も手伝いますし、バーだって頑張りますよ。俺達、ゼスタ・ユノーに会わせろとか、口利きしてくれとか、1度だって言ったことないです」

「レイラさんだからお願いしているんです。同じ境遇だったオレの気持ち、理解してくれたじゃないですか」


 武器を振り回す近接職とは違い、治癒術士なら体力が戻れば活動に支障は出ない。でも、あと5年後、10年後にバスターに戻ったって流石に使い物にならない。


 今ならまだ取り返しも付く。


 オレは親や武器屋マークのみんなやグレイプニールのお陰で再出発できた。

 レイラさんのお陰で大きな仕事が出来て、昇格の可能性も出て来た。オレは色んな人に救われたんだ。


 もしレイラさんがバスターになりたいのなら、今度はオレが救いたい。


「2年で卒業、22歳の若さで事件屋として独立。頭の回転も速い。そして、事情を知っている仲間がいる。諦める理由がありますか」

「……2年で卒業、身体能力は高く、剣術は親にも習った。素直でいい子、案外考える力もある。イースくん、そんなあなたも挫折したでしょ」

「オレは立ち直りました。次はレイラさんの番です」


 レイラさんは暫く無言だったけど、ふと事務所の奥の部屋に入っていった。


「ぬし、ぬし」

「ん? どうした」

「……ひとの考える、読むする、勝手いけまい」

「ああ、そうだね。悪い事をしていないなら、むやみに秘密を暴いちゃいけない。知られたくない事だってある」

「……しらでる、したいのはいいますか?」

「オレ達に伝えたいって事? レイラさんの?」


 まさか、レイラさんの秘密か? 知ってほしい事? 伝えたいのに伝えられない事って、何だろうか。


「なあ。グレイプニールって人の考えが分かるんだよな」

「うん」

「ボクよごでぎます。さわる、さでる、よごでぎます」

「あっ、そうか。触られてないと出来ないんだったか。じゃあ、グレイプニールは以前触れられた時に読み取ったんだな」


 伝えたい秘密って、何だろうか。伝えたいのに秘密?


「……ボク、おごらでます。でもボクも、りらたしける」

「助ける?」

「……りら、バスターしたいます。りら、信じむでぎる人、いまいなす。ぬしとおるただけます」

「俺達の事は信じてくれてるって事か。……よし、じゃあやるしかねえよな!」


 オルターが大きな声を出したせいか、それとも何かをしていたのか、レイラさんが部屋から戻ってきた。

 その胸には……魔術書が抱かれていた。


「レイラさん?」

「……。本当に諦めていたら、多分この魔術書も処分していたよね。捨てられなかったのよ、多分これがあたしの夢だった」

「一緒にパーティー組んでくれるんですか!」

「ええ。4年も待ったの、他の誰でもない、親の名前も気にしないって人。あたしじゃないと駄目だと言ってくれる人達を。あたしは……4年、待ったんだ」


 そう言いながら、レイラさんはパーティー登録の用紙を取り出した。

 オレとオルターの氏名、生年月日、登録管理所、登録番号を記すと、レイラさんが鞄を持つ。


「行きましょ。あたしはバスター登録から始めないといけないから、まずは管理所まで」

「りら、一緒ますか?」

「ええ、一緒よ。そして……そろそろレイラって言って欲しいな」

「りぇ、り、るぇ……ぷぇぇ~……」

「あ、ああ、言えないのならいいの! ごめんね? あたしを誘った事、後悔するくらいサポートする。でも初心者だからお手柔らかにね」


「俺らがレイラさんに口答え出来るわけ……」

「何?」

「な、何でもないっす!」


 ようやくちょっと無茶な戦いも出来る。アンデッド戦でも怖くない。


「一番得してるの、俺だよな、絶対」

「え、何で?」

「親は一般人、そして俺は不遇職」

「あら、あたし達が得したと思えるくらい活躍するんだよね? ん?」

「あ、はい……」


 救う側にいた人が、本当は救われたかった、か。明る過ぎても近過ぎても、見えなくなるものなんだな。

 一番近くにいる人を置き去りにしなくて良かった。


「ほらイース! 一緒にって言ったのあんたでしょ!」

「あ、はい!」

「ふひひっ。ぬし、お楽しそます」

「あっ、オレの心読んだな」


 魔王教徒と戦うなんて不安しかなかったんだけど。

 オレは今、他人の役に立てて、そしてなにより嬉しい。使命感や責任感じゃなく、まずはそれを原動力に頑張ってもいいんじゃないかと思った。

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