BRAVE STORY-11 事件屋の推理で追い詰めろ!
グレイプニールに触れさせることが出来たなら、その思考を読み取って真意を暴けばいい。レイラさんがオレに鋭い視線を向け頷いたのは、魔王教徒との繋がりを疑っての事だと思う。
警官がグレイプニールに触れる可能性は高かった。オレを襲った奴らは、喋る武器の能力を警戒していなかった。何も伝わっていなかったか、特に重要視していないか。
(グレイプニール、今はお喋りなしだ。後でゆっくり。いいな)
オレの考えを読み取り、グレイプニールは「まるでただの武器」のように黙った。数週間一緒に過ごした事で、多少は場の空気を読めるようになったみたい。
「その剣が犯行に使われた凶器ですか?」
「そうではありませんが、あの場で使った武器なので証拠品ではありますね。机の上に置きます。フライパンという情報はあくまでも証言で、証拠はないんですよね」
「……その剣で殴ったという事ですか」
「そんな事は言ってませんけど。調べますか、調べませんか」
「……調べるので離れて貰いましょうか」
警官2人はムッとしつつもグレイプニールに触れた。オレがグレイプニールに素直に持ち上げられるように伝えているから、案外すんなりと持ち上げて調べている。
ただ、警官の狙いはあくまでもレイラさんなのだろう。刃の輝きを見たり、表面を小さな拡大鏡で見るだけ。指紋を取ろうとか、構造を確認しようなどという素振りはない。
レイラさんの味方も全員がその様子を見守っている。数人はグレイプニールが喋る事も知っているようだ。
今日は喋らないわね、あのへんちくりんな言葉を聞きたいなどと囁き合っている。
「……モンスターを斬った後で手入れをしたか」
「もちろん」
「血や肉片などは?」
「そのままにするバスターなんて、いると思いますか?」
警官の眉間に皺が寄った。
まあ、でしょうね。ムッとするように話をしてるし。そもそもレイラさんがフライパンで殴ったかどうか、その証拠になるとは言ってない。
「では何でこの剣を調べさせたんだ」
「グレイプニール、もう喋っていいよ。お疲れ様」
「おぉう……ボクおじゃべまない、ちかれた! 何、おじゃべりますか?」
「この警官達、魔王教徒に情報を漏らしていたか」
オレの問いに警官の目が見開かれた。驚き、明らかに動揺している。皆もそれに気付いているようだ。
「なっ……そいつが喋る剣だったのか!」
「ぬし、ちかまえたなおうきょうと、一緒ました」
「やーっぱり、おれ怪しいと思ったんだよ! こいつら内通者だったか!」
「まあ、魔王教徒の邪魔になるレイラちゃん達を排除する気なのね!」
「な、何の事だ! 内通者? 俺達が魔王教徒に情報を伝えたとでも?」
警官が魔王教徒と内通していたという証拠はまだ出ていない。
内通者だとして、昨晩の魔王教徒達が拠点の崩壊を知らなかった点も気になる。
魔王教徒の出現と拠点の破壊に関する情報なら、警官の全員が知っていておかしくない。オレ達が役所や警察署で伝えたのだから。
とすれば、考えられる事はそう多くない。
「イース、グレイプニール、お膳立て有難うね。ところで警官さん。あたし、まだ警官手帳を見せて貰ってないんだけど。任意同行を求めるなら、当然見せるものよね」
「それは……」
「見せられない理由がある、そうでしょう? グレイプニール」
「ぴゅい」
ああ、レイラさんも最初から疑っていたんだな。オレが頭フル回転で考えた事なんて、既に考えていたか。
いつかはレイラさんを上回る推理で活躍したい。なんか悔しい。
「なおうきょうと、ます。けいたつ、ふく、むすまれももます」
「警官の服を盗んでいた? はぁっ? コイツら警官じゃねえって事かい!」
「警官のフリをして、レイラちゃんを誘拐するつもりだったの!?」
「さあ、違うというなら手帳を見せてちょうだい。まさか2人とも忘れたなんて事ないわよね。それともここにいる全員で署まで行きましょうか」
ここの全員で署に向かったなら、署でこの2人の身分を確認させたらいい。こんな警官はいないと言われ、即捕まることだろう。
「で、でたらめを……そもそも、その剣が嘘や妄想をツラツラ並べただけかもしれないだろう! そろそろ警務執行妨害で……」
「あら警官さん。あなたジルダ共和国の警官よね? 故郷が別の国だとしても、ジルダ共和国内で警官になるなら、この国で試験を受けたはずよ」
「もちろんだ! 何が言いたい!」
「ジルダ共和国ではね、警務執行妨害とは言わないのよ。ジルダ共和国では国務執行妨害と言うの」
……ごめん、オレもそれは知らなかったよレイラさん。
警官モドキは苦々しい顔を隠さない。バレている事を自覚しているはずだ。その上で認めなければ逃げられると考えているんだと思う。
でもこの大勢に囲まれていれば逃げる事も出来ない。
「あー、そうか。だからカーテンが閉まっていたのか」
これだけ大勢が集まっていたのに、オレはカーテンが閉まっていたから分からなかった。わざと閉めていたって事か?
「魔王教徒が死霊術を使ったとして、影移動は視界のどこかの影にしか移動できない。逃げようとしても、外が見えないから建物外に逃げられない」
「うん。……出勤してすぐ来られたから、カーテンを開けられなかっただけなんだけどね」
「え、偶然ですか!? ま、この人数の前で死霊術を使えば、どちらにせよ身分を明かすようなもんだ。詰んでるよ、お2人さん」
オレ達のやり取りを聞いて、なぜか周りの人の方が余裕そうな表情を浮かべている。まるでオレとレイラさんの推理を楽しんでいるかのよう。
「だから何だ! 俺達が魔王教徒という証拠は? 偽物という証拠は? お前らに手帳を見せたって信じないだろう! 今度は偽造だと言うに決まっている!」
警官が怒鳴った直後、玄関扉が開いた。外を見られたらまずいと思ったが、幸いにも人に囲まれて見えなかったようだ。
入ってきたのは……オルターだった。
「おはよーございまーす。イース、今どこまで確認したか教えてくれ」
「えっ、何で状況を理解したかのように……」
「大きな声が漏れてんだよ。俺、朝から警察署で事情聴取受けて来たんだ。そしたら警官2人が制服と手帳と一式盗まれてるって大騒ぎでさ」
「こいつらか。ちょうどグレイプニールで真意を暴いたところだよ、頑なに認めないけどな」
「ボク、よごでぎ……よご、でぎ、ました! はっ、まだ撫でるてらでません! ぬし、おもうび! 撫でるしてくまさい!」
「あ、うん。お利口さんだ」
「ぴゃーっ!」
一瞬和んでしまったけど、そんな雰囲気の場じゃない。オレはすぐに表情を引き締めたが……モドキは癇に障ったようだ。
「だからって、何故俺達が盗んだ事になる! クッソ、気分が悪い! また来るから覚悟しておけ!」
2人は怒った表情で野次馬を押しのけ、玄関に向かおうとする。拉致に失敗して逃げるつもりなのは明らかだ。
とそこでオルターが玄関扉の鍵を掛けた。
「おい。手帳、見せてくれるか。警官なら堂々と見せられるよな」
「こいつらにも言った! どうせ偽造だなんだと言って信じないだろうが!」
「……でも、他人の名前の手帳は偽造しないよな」
オルターが鼻で笑い、手招きで手帳を出せと要求する。そっか、自分の名前の手帳は用意しても、他人の手帳は用意しないよな。顔写真入りだし。
でも、手帳を出さなかったら確認できない。
「アーサー・エクセル、ドミニク・オレンシエ」
「……誰の名前だ」
「制服と手帳を盗まれた2人の警官の名前さ。警官の制服は、襟首の裏にネームを入れてるそうだ。そんな事、警官か指定の仕立て屋でもない限り知らねえよなあ」
「はいはーい、ちょっと失礼」
レイラさんが1人の背後に立ち、強引に襟首を掴んだ。頭脳明晰なのに、どうにも行動が大胆なんだよなあ。
「……ドミニク・オレシエ。あら、おかしいわね」
「お、俺がドミニクだ、何の問題が……」
「だそうですよー、外にいる警官さん!」




