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BRAVE STORY-03 今は相棒だけで十分。



 ただ、幸いなのは今が秋だということ。


 新人達の旅立ちから半年近くが立ち、パーティーの方向性の違いや、性格の不一致が顕著になるのがちょうどこの時期。

 上手くいけば、オルターの同期が加入してくれるかもしれない。


 問題は、加入者を待っているのはオレ達だけじゃないって事か。


「加入を求めるならホワイト等級への昇格後、だな。イースはホワイトになってりゃ同期と比べて遅くないし、オレは今上がれたら最速昇格組と変わらない」

「そうね。バスター2年目でブルー等級に上がるパーティーなら、決別だ解散だなんて崩壊の仕方はしない。募集しても確保は難しいわ。あなた達がホワイト等級だったら、同じくらいの歳の子も気負わず応募できる」


 今後はしばらくギリングを拠点にして、信頼できる人を増やす。ゆくゆくは仲間に。それから魔王教徒の動向を探る。

 目標ややるべき事があるって、いいものだな。酒場のアルバイトは久しぶりだから、ちょっと楽しみだ。


「……イース、何ニヤついてんだ」

「ふえっ? あーいや、バーの開店が楽しみだなって」

「まあそうでしょうね。マイムにいた頃、お店にあなた目当ての女の子がいーっぱい来てたって話は聞いてるの」

「えっ、誰から!?」


 お、オレはマイムにいた頃の酒場の名前なんて出してない。しかもマスターに了承を得て偽名で働いていたんだ。

 そりゃあ最後にはお客さんにも本名や辞める理由を告げて旅立ったけどさ。


「マイムの酒場を幾つか調べて、猫人族の男の子が1年くらい働いていた酒場を知りませんか? って電話かけて尋ねたらすぐに分かったもん」

「なんで、調べる必要が? オレ嘘はついてませんけど」

「出店にあたってどこまで任せていいのか、計画にイースくんの能力を織り込むのは当然でしょ?」

「おっ、イース何か知られたらまずい事でもあんの?」

「な、ないよ別に! ちょっと恥ずかしいなって思っただけ」


 そ、そりゃあね? バスターとして落ちぶれていたとはいえ、親の名前を出さずとも接してくれる人達の存在は有難かった。楽しかったし、ちょっとはその……良い思いもした。

 でもちゃんと働いてたし、簡単なメシも作って出せるようになっていた。マスターに考え直せと引き留められるくらいには、売り上げに貢献した自信がある!

 オレが旅立つ日は、常連さんが勢揃いで見送りに来てくれたんだ。


 ……あれ? ちょっと待て。とすると、オレってバスターより酒場で働く方が性に合ってたのか?


「あー、そういう事か。また女の子にキャーキャー言われたかったんだな」

「キャーキャーとか言われてないし!」

「あらそうなの? おかしいわね。大将の話じゃ女には困ってなさそうだったって」

「そ、そんなのマスターの冗談ですよ! 底辺バスターがそんないい気になれるわけないでしょう!」

「偽名を使ってバスターって事も伏せて、解放的な気分だったよね。思いっきり羽を伸ばしたのよね。いいの、あたしは気にしない」


 レイラさんの笑顔が怖い。いや、存在が怖い。

 一体どこまで知っているんだ? 親にも知られていないはず……はずだぞ?

 え、知られてないよな?


「ぬし、ぬし!」

「な、何?」

「キャーキャー、みんな怖います時、言うしますよ」

「あ、うん。でもさっきのキャーは怖い時に言うやつじゃなくて」

「おぉう? 何ますか?」

「えっ……」


 どうしよう、この空間にオレの味方がいないんだけど。


「それなりに羨ましい経験してきたんだな。やることやってんじゃん、イース」

「あら? オルターくん。あなたも職業校時代は彼女が途切れなかったんですってね」

「ちょ、へっ!? いや、お、俺みたいな不遇職まっしぐらの男、相手にされるわけないでしょう!」

「へー、オルターってそうなんだ、へー」


 オルターめ。さっきまでオレの事をニヤニヤしていじってたくせに、自分の事もバレてると知って焦ってる。

 ……レイラさん、本当にどこまで知ってるんだ?


「と、とにかく! バーを開いたら女の子と出会えるなんて期待はなしだ!」

「えっ?」

「ターゲットは引退したおっちゃんおばちゃんだろ?」

「あー……そうか、そうだな」

「それに最初は殆どがレイラさん狙いの独身男になると思う。女の子は来ない」


 まあ、うん。出会いは諦めるしかない。というより世界各地を旅して何年も故郷を空けるのに、彼女を待たせるなんて無理だもんな。

 オレも本名が知られつつある以上、マイムの頃のような振る舞いは出来ない。


「ぬし、ぬし! かのちょ、何ますか?」

「え? あー……恋人のこと。いつも一緒にいたいと思える女の子だよ」

「おぉう。ぬし、ボクいつもいっしょは、かのちょますか? ボクおんなもこますか?」

「えっ、いや、違うよ」

「ぷぇっ? ボク、いいこますよ? 一緒ます、愛剣ます」


 グレイプニールがとんでもない事を言いだした。

 もちろん彼女や恋人、愛や恋についていくら説明しても分かってくれない。

 そりゃそうだ、武器に恋愛感情なんて備わっていないんだから。恐らく好き=恋、大好き=愛程度の認識だと思う。


 かつて父さんと聖剣バルドルも似たようなやりとりがあったと聞いてる。

 バルドルは父さんの愛剣である事を誇りに思ってる。なぜ人の場合は「愛人」と言わないのか、愛人が2番なら、愛剣も2番なのかとしつこく質問して父さんを悩ませたんだとか。


 武器達は言葉の意味を当てはめているだけで、自分の性別なども考えた事がない。

 武器と人では価値観が違うから、そういった部分は一生分かり合えないかもしれない。


「グレイプニールは良い子だし、いつも一緒にいたいと思ってる。でも彼女や女の子は人で、君は武器だ。君はいつも一緒にいたい武器、いつも一緒にいたい愛剣」

「おぉう、むじゅかし。ボク、いちばん一緒ますか?」

「ああ、そうだよ」

「ぴゃーっ!」


 自分が1番なのかどうか、そこが重要だったんだろう。

 うーん、もしオレがバスター稼業に一区切りつけて、それから彼女が出来たとしたら……大丈夫なんだろうか。


「あ、マイムの酒場のマスターから、店の宣伝をしろとエプロンを渡されたんです。時々使ってもいいですか」

「うん、他所との横の繋がりがあると思われるのは大事だから、いいよ。あたしは気にしない」

「良かった。有難うございます!」

「イース、宿屋暮らしだったよな? これからは少し用心して、フロントが無人にならない所を選んだ方がいいぜ」

「そうだな。お金に余裕も出てきたし、明日から別の宿に移るよ」


 できればトイレくらいは自室にあるところがいい。グレイプニールがその間留守番してくれるといっても、不安がないわけじゃないし。


「さ、今のうちにゆっくりしなさい。必要なものを買い揃えるのもいいし、置く場所がないならこの事務所に置いてもいい。いずれゆっくりなんてできなくなるから」

「おぁっ、ひちゅよう! ぬし、ボク、ひちゅようあります!」

「えっ?」

「ぶきまやーく、いくます!」

「武器屋マーク、ね。いいけど……何買うんだ?」


 グレイプニールは何か欲しいものがあるみたいだ。確かに連れて行ってあげると約束はしているけど、必要なもの? オレ、何か買い忘れてるかな。


「じゃあ、オレはグレイプニールを連れて買い物に行ってきます」

「俺は昨日サボった銃の手入れだな……じゃ、また明日! レイラさん、失礼します」


 オレ達は事件屋の前で別れ、それぞれ反対方向へと歩き始めた。お金に余裕が出て、なんとなく気持ちにも余裕が出た気がする。


「ところで、何が必要なんだ?」

「なまえ、わからまいのなす。ぶきまやーくにあるます」

「武器屋」

「ぶきや」

「マーク」

「まーく」

「武器屋、マーク」

「ぶきまやーく!」

「……ま、いっか。あんまり高いもの強請るなよ?」


 手入れ用の布のもっと上等なやつ? それとも柄の艶出し?

 グレイプニールが知っている物は少ない。おおよそ持っているはずなんだけど……。

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