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Wish you the best-14 共鳴



 共鳴を許した途端、グレイプニールを握る手が熱くなった。体の中の血管か神経か、それとも別の何かを伝って自分のものではない鼓動が駆け巡る。

 それはオレの気力魔力と響き合い、ついにはオレの意識にたどり着く。


「イース!」


 遠くでビアンカさんの声が聞こえる。振り向きたくても、体はオレの思うように動かない。


「ぬし倒す許さまい。ボクのぬし刺すしたやつ、おしのきます」


 意識を手放す直前。オレの意思とは無関係に発せられた言葉は、グレイプニールの声だった。





 * * * * * * * * *






「しかしまあ、派手にやってくれたもんだわ」

「いや、ビアンカさんの牙嵐無双がらんむそうが全部のテント破壊したから」

「そりゃあんた、こっちは武器なんやけん。柄加減とかしきらんばい」

「俺達、遠くからちまちまと撃ってただけだぜ? な、オルター」

「私が一番暴れたみたいに言うけど、一番やってくれたのグレイプニールだからね?」


 会話が聞こえる。

 オレは……座っているのか。次第に覚醒していく頭で会話を理解し始めた時、さっきまで自分がどこにいたのかを思い出した。


 ぼんやりとした頭で確認した山の端から、太陽の位置は少し動いている気がする。


「はっ、魔王教徒」

「あ、目覚めた? お疲れ様。まあよくやったというか、やりすぎというか」


 目の前にはオルター達。それに……何でこんなに何もかも壊されているんだ?

 魔王教徒達との戦いは?


「そうだ、共鳴」

「共鳴は成功。ただ、グレイプニールはもう少し手加減を覚えないとね」

「ごめまない、ぬしごめまない」

「えっと、どうなったんですか」


 周囲のテントは全て壊れ、まだ煙が上がり燻ぶっている所もある。奴隷にされた人々は解放されているみたい。

 魔王教徒と思しき奴らは……?


「魔王教徒は全員再起不能。3割は私とクレスタとオルター、7割はグレイプニールのおかげ」

「えっ、何やったんだ?」


 共鳴をしていた間の事を、オレは何も覚えていない。意思を持ってオレの体を動かしていたのはグレイプニールだ。

 アンデッドを操る術は、この共鳴を研究した際の失敗が基になっているらしい。


「イースの言いつけ通り、グレイプニールは1人も斬ってない。刺してもいない。腕や足や胴体を思いきり叩いて、死霊術は全て吸収」

「奴隷にされてた人の縄を使って、俺達が拘束。まあ、殆どの奴は拘束の必要もないわけだが」

「多少なりとも骨折してるから、逃げるのも無理だろうな。みんな1人でモンスターと立ち向かえる程の度胸も力量もない」


 魔王教徒の多くは死霊術に頼って戦う。物理攻撃など殆ど訓練していなかった。

 そのため鬼の形相で襲い掛かるオレ……ならぬグレイプニールとの接近戦は、一方的なものになっていたらしい。


 術は目の前で吸収され、次の瞬間に剣の腹の部分で殴られる。元々モンスターを相手にするオレ達に、手加減という文字はない。

 グレイプニールは斬るなという指示には従ったものの、オレを攻撃された事への怒りに任せ、全力で叩き散らかしてしまったそうだ。


「死人はいないから、そこは心配しないで。戦意を喪失させるにはこれくらいしないと無理だったし」


 魔王教徒達は後ろ手に縄を括られ、呻きながら横たわっている。人々を攫い、酷い傷を負わせていたのだから、これでも手緩いのかもしれないけれど。


「それにしても、凄い動きだったぜ。1度の跳躍で2,3回叩き回って、その跳躍もいったい何メルテ跳ぶんだと」

「ぬし、ボク……」

「怒ってないよ。オレのためにやってくれたんだ、斬るな殺すなって約束も守った。有難う」

「ボク、あびちかったます。ぬし負ける、あびちい」


 グレイプニールは、オレのために必死になってくれたんだ。臆することなく、殲滅する事だけを考えて動く。それによって、魔王教徒側も必要以上に傷つかなかったと言える。


「共鳴は、その間に持ち主の意識がないというリスクもある。おまけに、どんなに強くても、その間の動きはイースの潜在能力以上にはならない」

「裏を返せば、共鳴の時に出来る事は、イースちゃん本人でも出来るっち事。まだ使えとらん気力、魔力、筋力、それを共鳴であたしらが使うだけ」

「オレは、ちゃんと強くなれるって事?」

「まあ、早い話がそういう事たい。イースちゃんとグレイプニールが一緒なら、いずれ共鳴がなくても同じ事が出来る」


 体の疲れ、筋肉の痛み。それらはあっても自分が戦った自覚はない。達成感はなく、どんな結果になるのか分からない。

 一時的に強くなるとはいえ、良い事ばかりじゃなさそうだ。


「さて、さすがにこの人数を私達だけで連れて行くわけにもいかないわ。けが人もいるし」

「ご、ごめんなさい」

「ボク、だめますか? わるい子、撫でまいますか?」

「悪くないよ、言いつけ通り、ちゃんとやって良い子だ」

「ぴゃーっ! ボク、あびちい、あびちい!」


 寂しいの意味を「一緒にいたい事だ」と教えてしまったから、何だか意味不明な発言になってる気がする。いずれきちんと教えないといけないな。


「あびちい! と言いながら叩き回る姿、ちょっとおもしろかったな」

「おしのき! もあったっけ。お仕置きって言いたかったんだろうか」

「……」


 な、なんか、強くてもカッコ良くなかったのが悲しい。共鳴の1番のリスクはこれかもしれない。


「さーて、ここで1晩は野宿かな。後続のバスターを待って、治癒術士が着いたら骨折した魔王教徒も全員連れて行かなくちゃ」

「あ、アモーナさんは?」

「捕まっていた人達と一緒に、食事の準備をしているみたいよ。ま、あいつらの持ち物や経典も含め、燃やせるものもあるし燃料の心配はない」


 そうだ、戦って終わりじゃない。イサラ村や、他の村から連れてこられた人がいる。戦いはグレイプニールに任せたんだ、後の事はオレがやらなきゃ。


「オルター、クレスタさん。モンスターへの警戒をお願いします。オレは簡単な料理くらいなら出来るし、炊き出しの手伝いに行ってきますよ」

「じゃあ、私は魔王教徒の監視かな。人数が少ないし、手分けしましょう」

「……オルター、何で嬉しそうなんだ?」


 オルターは心なしか目が輝いている。そんなに警備が好きなのか?


「ライフルもいいけど、この擲弾発射器! フリントロック式で、手榴弾を遠くに飛ばしたかのような威力! モンスター相手なら使えるぜ!」

「速度はないから命中率に難がある。クセを教えてやるから、実際に使ってみよう」


 心だけ少年な2人は、楽しそうに銃火器について語り合う。物騒な話だけど、本当に銃が好きなんだな。


「この会話を聞かせてたら、それだけで魔王教徒も抵抗する気をなくす気が」


 オレは料理のため、オルターとクレスタさんは監視、ビアンカさんは見張り。


 バスターはモンスター退治以外にも出来る事がある。

 一般の人達にただの戦闘狂じゃない、モンスター相手以外でも役に立つと知ってもらえるチャンス。


「レイラさんにも、いい報告が出来そうだな」

「おぉう。りら、来ますか?」

「ううん、ギリングで今頃動き回ってくれてるよ。役に立つ方法は様々だ。みんな、出来る事をしよう。グレイプニールは戦ってくれたから、後はオレの番」

「ボク、たべもも斬ります」

「まだ役に立ってくれるのか? いい子だ。じゃあ、頼むぞグレイプニール」

「ぴゅい! ぬしいい子! ボク共鳴したとき撫でるしました!」


 共鳴中、自分で自分を撫でるオレを想像して少し笑いが出た。


 その時に出来る事をやる。望まれる事をする。それが事件屋だ。


 何だろう。戦いに明け暮れるよりも、オレ達にはそっちの方が似合っているような気がした。

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