Comatose Dreamer-02 すべてを知る者
* * * * * * * * *
「あー、噂通り見目麗しいご一行で! それにしても、お若いのに素晴らしいご活躍が辺境にも伝わっておりますよ、はい!」
「えっと……テリー・アイマーさん、ですよね」
「そうです、ええそうです! 申し遅れましたがもう今更ですかね、はい!」
研究者と聞いて、オレはてっきりお爺さんが現れるものだと思っていた。でも、目の前にいるのは30歳手前くらいの男。
オルターよりも短い黒髪を立たせ、とても爽やか。ただ、村から来たというのは本当なんだろう、その見た目は半袖に七分丈のズボン、くたびれた作業靴。首都で見かける服装じゃない。
それよりも気になるのは、小柄で細身で服装が田舎臭い事じゃなくて。
やたらと明るくてよくしゃべる事。これ、秘密とか守れない人なんじゃ……?
「すみません、本当にあなたが預言を?」
「えっ? ああ、よく言われるんですよ、預言者って。でも違うんですよね、ちゃーんと研究して、調査して、検証して、根拠を持って科学的な話をですね」
「つまり俺達に用があって、会いに来たって事だよな? 用件を知りたいんだけど」
「おぉう……てり、よごおじゃべります」
オルターが少しイライラしながら話を遮る。こっちは身構えて会っているのに、相手がこんな調子じゃ無理もない。
「コホン、喋りだすと止まらない性分でして……おっと失礼。そうです、預言者と呼ばれている者です。イース・イグニスタさんにお伝えしたいことが」
「電話じゃダメなのか? こっちも聞きたい事はいっぱいあるんだけど、わざわざここじゃなくても」
「オルター、ロビーから場所を移そう。不特定多数が聞いている場所ではまずい」
「そうだな。あんたも宿を取ってくれ、満室じゃなければ。そんで俺達の部屋に来てくれ」
テリーに部屋を取らせ、オレ達は自室に招き入れた。
テリーが用件だけ話して帰ると言ったなら、オレ達は自身の事を一切伝えないつもりだったんだ。
泊まるには、必ず入町許可証と身分証明証を提出し、宿泊者名簿に記載する。少なくともその一連の行動が出来ない奴は信用できない。預言者を名乗る別人かもしれないし。
一方、テリーは顔を合わせることで信用して貰えると思ったらしい。怪しければグレイプニールに触れさせると言うと、いつでも喜んでと言う。
会ってグレイプニールに触れる。それも信用して貰うための手段だったそうだ。
どこの誰なのか、それが分かった事で、こちらもようやく肩の力が抜けた。
「なあ、預言って何でも分かるのか?」
「何でもというわけではないけれど、いろいろな情報を集め、検証すれば近しい答えは出せるものだと思っているよ」
「じゃあさ! おれの親父の名前を当ててみろ」
「えっ」
と思ったら、ジャビは預言者を占い師と勘違いしているみたいだ。ジャビの父親の名前って、えっと……何だったっけ。
「おぉう、ボク、おやじ、何ますか?」
「え、君の親? 何というより、誰って話なら」
「ぬしますか? いちゅますか?」
「オレは君の主人だけど、親じゃないよ。作ってくれた人って意味では武器屋マークのビエルゴさんと、クルーニャさんかな」
「おぁ、ボクのおやじ2人ますか?」
「そうだね、母親はいないけど」
ああ、話がどんどん逸れていく。戦闘以外でグレイプニールに緊張感を持てっていうのは無理な話なんだよなあ。
「ジャビさんだったっけ。君の父親は、有名な人なのかい?」
「おう! おれはムゲンの戦士、ジャラトの息子である事を誇りにしている!」
「そうか、ジャラトというんだね。僕の情報にその名は無かっ……」
「そう、ジャラトだ! よくわかったな、親父は人族の間でも有名なのか、うれしいぜ」
ん?
えっ?
だって、ジャビが自分で「ムゲンの戦士、ジャラトの息子」って言ったよな?
テリーも戸惑ってる。そりゃ、そうだよな。自分で口を滑らせた事にも気づいていないなんて。
「ごめん、冗談を言ってる場合じゃないの。イースを狙っているという話を……」
「え、おれの親父の名前は本当にジャラトだ、冗談なんかじゃねえぞ」
「そうじゃなくて! あなたの偉大な親父さんのお話は終わり! イースを狙っているという話を詳しく聞くために部屋に来てもらったんでしょ!」
今度はレイラさんがイライラする番だった。話、全然進んでいないもんな。
「まず、なぜオレを狙っていると判断できたんですか?」
「あ? ああ、そうそう、僕の操るアンデッドがですね、魔王教徒の話を……」
「ちょっと、ちょっと待った!」
「え、あんた魔王教徒なのか? 首都に死霊術士が入り込めるなんて」
預言者が何の気なしに言った「僕のアンデッド」という言葉。こいつ、死霊術士なのか?
でも……グレイプニールがきちんと調べたはずなんだ。
「おぁ? てり、なおうきょうと、ちまう。ボク、ほんとつきます」
「そうだよな? でも……」
「ああ、すみません。僕がどんな研究をしているのか、まずは見てもらった方が早いですね」
そう告げると、テリーは机の上に幾つかのノートと分厚い本を取り出した。
「これって……もしかして、死霊術の研究? あなた、死霊術士と接触があるの?」
「いえ、これは僕が一から研究したものです。死霊術とはちょっと違うんですよ。僕が研究したのはアダム・マジックです」
「魔王教徒じゃない、死霊術士であるという自覚もない、ただの魔法研究家って事か?」
「なあ、何でそんな奴がアンデッドを操ってんだ?」
アダム・マジック。魔力を発見し、魔法の発動を成功させた人。何百年も生き続け、父さん達に伝説の武器に意思を持たせる方法を伝えた人。
元々は「魔法教徒」だったのに、そのアダム・マジックの教えを悪用したのが魔王教徒だ。
「魔法の祖を研究して、それがどうしてアンデッドを操る事になるんですか」
「僕はですね、アダム・マジックが借体で体を乗り換える術、伝説の武器を喋らせる術、それらの研究をしていてですね」
「その研究の結果、アンデッドを操れるようになった、と」
「そうです。魔物もそちらのグレイプニールさんのように喋るのか? アンデッドでなければ操れないのか? と研究していたらそうなったんです」
元々バスター志望で魔法専攻だったテリーは、アダム・マジックが残した書物や術式から法則を導き出し、独学で借体のしくみや武器の覚醒方法を見つけ出した。
試しに術式を見せてもらったけど、グレイプニールに刻まれたものと殆ど一緒だ。効果が同じであれば、多少術式が異なるものでも成立するんだろう。
「確かですね、イースさんのお父様やレイラさんのお父様がエインダー島で戦った際、アダム・マジックはアンデッドを操り、そのアンデッドを通じて様子を見ていたと証言されていますね」
「ええ、父からもそう聞いています……もしかして、あなたも同じことを?」
「大当たりです! アマナ島ではラビがモンスターではなくペットと認識されていますね。その人に慣れたラビを譲ってもらいました。手続きをすれば島の外にも連れ出せますからね」
研究しているうち、アマナ島に住む個体にはシュトレイ大陸内陸部の寒過ぎる気候が合わなかったのか、ラビは衰弱し、手当の甲斐もなく死んでしまったそうだ。
研究とはいえ愛情も沸き、テリーは悲しみに暮れた。そこで、アンデッドを操る死霊術も応用で成り立つと気付いた。
結果、わざとラビのアンデッドを野に放ち、魔王教徒に拾わせたんだ。
「各バスター管理所の魔王教徒情報から、拠点になり得る土地の条件、行動パターン、移動経路を割り出しました。それを逆に管理所に提供もしました」
「あなたも協力してくれていたんですね。とても助かっています」
「えっと、そのラビ、今はどこに」
「わざと塞がなかった移動経路で、無事に目的地まで行きましたよ」
目的地? テリーは魔王教徒のどこまでを知っているんだ?
「あーもう、回りくどい!」
「すみません、性分なもので。目的地はですね、なんとカインズ港の地下水路です!」




