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Starless night-02 うちは事件屋ですから。


 * * * * * * * * *




「うちは事件屋です。私は自分の事務所の報酬でご飯を食べてるの。バスターとしての稼ぎはおまけ、事務所を守ってくれてる従業員もいる」

「ですがこの事態です、詳細まで話して頂けないと」


 翌日の午後になり、オレ達は管理所から呼び出された。もちろん、あのエインダー島での出来事を詳しく話してくれと言われたから。

 けれど、そこでオレ達は恐れていた事を目の前に突き付けられた。


「あたし達が出来るのはイースが写真を見せて、簡単に説明をしたところまで。パープル等級以上のバスターがやるんでしょ? あたし達はブルーです」


 今回の魔王教解体作戦および、エインダー島への討伐隊の編成に関して、参加資格がパープル等級以上となっていたんだ。

 そうなると、オレ達は当然参加する事などできない。英雄の子だから特別だなんて言い出す奴もいたけど、それはしっかりと断った。


「情報提供にまで等級制限を掛けた訳じゃない。助けると思って教えてくれないか」


 エインダー島への派遣を認めてくれたアマナ共和国の役人達にも睨まれ、職員達が困っている。役人達はオレ達に要請をしたかったらしいけど、バスターを管理するバスター協会側が拒否をすれば、バスターとしての活動は出来ないんだ。


「あっ、そうだ。オレ達はまったく、何の役にも立つことが出来ないけれど……武器は別ですよね。グレイプニールが説明すれば」

「そうね、物もダメとは書いてないし、グレイプニールはアダマンタイト製。等級関係なく誰でも使える」

「パープル以上の資格があると言えるよな。なんなら俺の銃も出そうか? 喋らねえけど協力すると思うぜ」


 協会側は一度出した決定を覆したくないんだと思う。というより、現実としてあの気味悪いモンスター相手に、ブルー等級など足手まといだ。

 等級制限を掛けなければ、無駄な犠牲を生んでしまう。ギリングにいた時に行方不明者を探したけれど、あの時だってかなり危ない目に遭ったわけだし、やむを得ない。


 でも情報だけちょうだい、あとは自分達でやっとくからというのは納得いかなかった。


 オレ達は英雄の子として特別扱いをされるつもりはない。けれども、今回の件を暴いた功労者として、見守らせてくれるくらいは希望していいと思った。


「グレイプニール、説明してやれ。お前の話を聞きたいそうだ。イースもいいって言ってる」

「おぉう、ボクおじゃべりますか?」

「うん、どうぞ」


 オレ達が喋らずとも、誰が情報を提供したっていい。そう考えた管理所の職員達は、メモ帳を取り出してグレイプニールの話を待つ。

 話してしまえばオレ達は用済みになる。そう考えるとオレ達にとって損な提案に見えるかもしれないね。


 ただ、オレ達にはそうならない自信があった。


「ボク、おぷめ、乗るしまた。うみ、おゆでらでます。えいんやと、なおうきょうと、おらでしまた。あー、もしゅたいまいなす、ボク斬るたいまあ、おらまいなあ、つもいもしゅた、斬るよごでぎる、しまわせわまあ……思うしまた」

「えっと……」


 職員がバッと顔を上げ、グレイプニールとオレを交互に見る。オレはニッコリと微笑み、グレイプニールに先を促す。


「なおうきょうと、おえちゅがい、いぱいます。わるももぬしたいじゅ、斬ゆでぎまい。しかたまい、きょめいしまた。わるもも、おちゅかまれなす、ちく、おじゃべりしまた。まるどむ、おじゃべりしまた。なおうきょうと、あぎらでしまた」


 職員達はメモ帳に1文字も書き取っていない。誰一人として、グレイプニールが何を言っているのか聞き取れないし、理解も出来ていないんだ。

 黙って聞いてくれる事が嬉しいのか、グレイプニールの説明は止まらない。


「なおうきょうと、おぷめ来らでます。いぱい待ちゅ、来るまい。ふちか、来るまいなす。もしゅた、ためももまい。どちもかまあ、しまた。そでからおそと、しにももいぱい、斬ゆ、いぱいしまわせ」

「す、すみません! あの、グレイプニールさん」

「ぷあー?」

「もう少し、分かり易く喋っていただけませんか?」

「ぷあ? ボク、お喋りよごでぎますよ?」

「グレイプニールは精一杯、必死で喋っていますので。さあグレイプニール、どんどん聞かせてやれ」


 グレイプニールは饒舌……舌はたぶんないけど、とにかく存分に喋り倒した。レイラさんもオルターも「うんうん」と頷いて聞いている……けど、多分殆ど分かってない。

 オレは概ね何をどこまで喋ったのか把握したけど、グレイプニールの喋りを初めて聞くであろう職員達は、単語1つ取っても分からなかったと思う。


「あで、斬るよごでぎまい。おぷめお逃げむ、うべちゃーなたもしゅた、おちゅちゅ……おぉう、おちゅしゅ? おちゅしゅ! おちゅしゅしまた。もい駆け……」

「わ、分かりました、よく分かりました!」

「ふひひっ、ボク、おじゃべりよごでぎるますよ」


 ついに職員が降参した。調子に乗ったグレイプニールは、聞きかじっただけの言葉をどんどん使い始め、もはやオレでも分からない域に到達。

 あの場にいたオレだから推測できるだけで、初めて聞けば固まっていたと思う。


「ともく、つもいもしゅたつぐらでます。ごむに、きあぬぬむ、もーが、おぉう、いぱいもしゅた一緒ます。ちく、あむまい言うしまた。どんまもしゅたおでらる、わがらまい」

「そ、そうですね! こ、こうなったらあの犬人族の青年から訊き出すしか」

「そ、そうしましょう!」


 諦めた職員の数人が、ジャビを勾留している警察署へ向かった。モンスターに関する知識がないジャビに、一体どこまで説明できるんだろう。


「あー……もう聴取したのに、したけど分からなかったから聞きに来たというのに」


 職員の1人が引き留めようとしたが、もう遅かった。やはりジャビは状況を的確に伝える事が出来ていなかったようだ。


「それで、パープル等級以上のバスターさん達で、明日にでもエインダー島に向かうんですか?」

「いや、無理じゃないですかね。世界中のバスターに声かけても、そんなすぐに動けないっすよ。蟲毒の場所だって1か所と決まった訳じゃないし」

「まあ、そうだよね。話を聞いてすぐ船に飛び乗ったところで、一番不便な場所から出てきたら……」

「北半球ならギリング周辺だって雪の中の移動は難しい。真冬は隣のリベラから鉄道に乗るにしても、雪を溶かしながら首都まで1週間だ。エンリケ公国やノースエジンの北方の村は不凍港に出るまでだって数週間だし」


 レイラさんの問いかけにオルターが答える。オレもオルターの考えに同意見だ。アマナ島を目指すための港ですら、酷ければ1か月かけて向かうパーティーもいるだろう。電話が通じない地域もあるし、呼びかけはどこまで伝わるやら。


 おまけにバスターは決して協会の手駒ではない。各自の目的を果たす手段であって、冒険や退治業をその場で放り投げられる人ばかりじゃない。


「まあ、そうよね。つまり、ここで結論を出したところで、みんなが動けるのはせいぜい3か月後。その後は南半球の極地方が雪と氷に閉ざされるから、今度はあまり待つとそっちの人が動けない」

「……召集の期限などは、まだこれから決める話で」


 職員が困った顔で俯く。昨日の今日で迅速に方針を決定するのはさすがに無理があった。パープル以上という条件だけが決まり、それ以外はこれから決まるという。


「とにかく、ここにその決定を覆す権限を持つ人はいない。そういうことよね」

「……まあ、そう、です」


 職員の歯切れが悪い。きっと、オレ達が手放しで惜しみなく協力すると思っていたんだろう。悪いけど、そこまでお人好しじゃない。


「おぁ? ボクお剣よちますか?」

「心を読むな。まあ、お人好しを剣で例えるとそうだね」

「おぉう。お剣よち、何ますか?」

「え、意味分からなくて言ってるのか」

「ほらほら1人と1本とも。あたし達がここで出来る事は何もない。さ、帰るわよ! ギリングに向けて出発!」

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