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Ark-08 今後の事を考える



 ほぼ全員が悪事に繋がっている事は薄々でも気付いていた。好きな事をしているだけで、実際に悪い事をしているのは真の魔王教徒。そう思って目を背けていた。

 でも悪気はなかったとしても、結果が出てしまえば責任が伴う。


 それぞれが既に聞いた話から隠していた話まで、おおよそを話し終わるのには2時間程掛かったと思う。

 どうせ隠していたって、グレイプニールやバルドルが暴いてしまうからね、仕方がない。この島に置き去りにされたって島民は助けてくれないし、出ていく手段もない。素直になる以外、生きる手段はない。


「アークを従えるため、最終的にはアンデッドにするつもりだったのか」

「途中から手に負えなくなっていたのなら、どうしてその時点で止めなかったんだ」

「……分かるだろ、草木のない火山島で反抗すればどうなるか」

「置き去りにされて野垂れ死ぬだけだ、生きていくだけの物資を貰うには何かしらモンスターに変化がないといけなかった」


 島にいた時には「自らの正義に従った」と言っていた男も、結局は船に乗った。正義だ何だと言っていたけれど、グレイプニールが投げかけた言葉に目が覚めたんだろう。


「あんたの正義、どんなもんだ」

「……過ちを認める。この世界を浄化するべきだとは今でも思っているが、手段は間違っていた」

「絶対に考えは変えない、って言ったよな。悪い事をしたとは思っていないって」

「……その言葉も間違っていた。俺は大罪人だ」


 ここで問い詰める事に何の意味もない。だけど1人でも非協力的な奴がいれば、もしもの時に手間が掛かって間に合わないかもしれない。

 アマナ島に送るまでに、少しでもおとなしくしてくれなきゃね。


「戻ったぞ」


 宵闇の港で輪になって座り島での事を話していると、父さんが戻って来た。その後ろにはシュンとして耳も尻尾も垂れ下がったジャビがいた。

 その姿を見ながら、レイラさんは腕組みをしながら立ち上がった。


「ジャビ、あんたもだからね。バスターになりたい、なりたくない以前に、自分が正しい事をしたのか考えなさい」

「レイラちゃん、大丈夫、ジャビも分かってくれた。自分に何が足りないのかをよく考えて貰ったよ」

「あたしはバスターとして活動しているけど、本来は事件屋として送り出す側なの。今のあなたを送り出す事は出来ない」


 犬人族なら、身体能力面での不合格はまずない。

 でも強ければ何だっていい、モンスターを倒せば偉い、そんな考えでは適正ナシとみなされて合格できない。


「……おれも悪い事手伝ってたんだよな。そんなつもりなかったけどよ、強いモンスターと戦えると思って、そのモンスターが何をするかまで考えてなかった」

「あなたが今後どうなるか、それはミスラに着いてから国が決める事。本当にバスターになりたいのなら、まずは自分を変えないとね」


 レイラさんの言葉に、ジャビは目を潤ませたまま尻尾だけで返事をした。落ち込んでいるだけでなく、ようやく自治区の外の生き方を考え始めたんだろう。


 捕まるかどうかまでは分からないけど、根が素直で純粋で情に厚いのが犬人族だ。そんな犬人族の良さに知識も備われば、きっとやり直せる。


「明日になったら捜索の船を出してやる。まあ生きている見込みは限りなくゼロに近いが、運が良ければ遺体の回収は出来る」

「それ以外の奴はミスラまで送ってやろう。船のアブラ代は痛いが……」

「精製したものを使えばいい、そのくらいの量は問題にならない」


 村長のヤマダさんが燃料を提供してくれ、ようやく魔王教徒の護送の手筈が整った。





 * * * * * * * * *





 夜、オレ達は船の中で仮眠を取る事になった。父さんとバルドルは、ジャビを連れて1軒の民家にお世話になっている。


 といっても、起きた出来事が大き過ぎたせいで興奮しているのか、全然寝付けない。レイラさんとオルターも船で戻る間ずっと寝ていたから、ずっと起きている。


「なあ。あの火山島、あのままで大丈夫なのかな」

「うーん、海の中には入ろうとしてなかったからね、とりあえず被害は広がらないと思うんだけど」

「国にも情報が回るし、知らずに立ち寄って酷い目に遭うなんて事態は防げる、か。モンスターって言っても食い物なけりゃ弱るだろう」


 2人の会話を聞きながら、オレもあの火山島さえ監視していれば終わるのではないかと考え始めていた。

 もっとも、他の場所で蟲毒を試していないとは断言できないけどね。


 だけど、あの悪臭や、倒したと思った後のドロドロした液状の体は? もしかしたら……。


「アンデッドだった、って可能性はないかな」

「えっ」

「最初からアンデッドなんてこと、ある?」

「もしゅた、しにももますか? おぉう、わからまい」

「アンデッドだったとしたら……食べ物を絶ったとしても意味がない。息をする必要がなければ、水の中を移動する事もできる」


 そもそも生きているモンスターが、食べたもので進化するなんて話は聞いた事がない。負の力そのものが、生きているモンスターを取り込んだのか?


「モンスター学の講義で、モンスターの飼育実験の話ってなかったか。確か世界でも2カ所しか認められていない実験があるって」

「モンスターがどうやって負の力を取り込むのか、ってやつよね。バース共和国のメメリ市と……」

「エンリケ公国の首都、カインズ」

「今回の事を伝えて調べてもらいたいな」


 ただ、どちらもこの海域からは遠い。一度戻ったとしたら、往復だけで1カ月掛かってしまう。

 でも、電話だけで伝えきれるだろうか。


「写真……撮ってないよね」

「ああ、写真撮ってなかった! 電話で伝えても伝わるかどうか」

「絵に描いて説明を加えても、結局手紙だって船便だもんね、届くまでの時間は変わらない」

「あまりグズグズしていられないんだよな。ゴブリンやオーガなど、道具を使う知恵を持つモンスターの特性も取り入れられている。いつどうなるか分からない」


 オレ達が悩んでいても、良い知恵は浮かばない。正確に伝えられないなら、明日捜索のために出してくれる船に乗り、岸からモンスターを撮る、という作戦でいくしかない。


「レイラさん、オルター、2人は先にアマナ島に魔王教徒達を送ってくれないか」

「えっ? まさかイース1人で」

「上陸はしない、船から撮るんだ」

「でも、あの触手って何メルテも伸びていたし、危ないよ!」


 危ないのは分かってる。だけど、レイラさんもオルターも船の揺れを経験してすぐは動けないだろう。それだけじゃない。


 小さな島は自給自足の生活だけでなく石油の代金も入ってくる。だけど食料の備蓄は島民の分しかないんだ。

 オレ達4人がいるだけでも備蓄が減るのに、20人程の食事を2日も3日も賄えない。


 となれば、明日にはアマナ島まで魔王教徒達を護送しないといけない。だけど、本当に彼らは変な気を起こさないだろうか。

 ミスラに着いて事情を伝え、誰一人として逃さず拘束できるのか。


 そう考えると、レイラさん、オルター、そして父さんとバルドルは一緒にミスラへ行った方がいい。

 2人にそれを伝え、オレも無理をしないと念を押すと、ため息と共に許してくれた。


「確かに、島のみんなの負担が大きすぎるものね。管理所の巡回艇が来たって全員は乗れないし、この島の備蓄にも手を付ける事になる」

「1日でも早く全員を管理所と警察に任せるべきだな。いずれにしても魔王教徒の処遇について、オレ達が出来る事はもうない」

「写真を撮るだけ、戦わない。姿が見えなければ諦めて小さな島に戻る」

「約束して、絶対」


 オレ達は頷き合い、明日それを皆に話そうと決める。そんなオレに、グレイプニールが恐る恐る声を掛けた。


「ぬし、ボク、おねまい、聞きますか?」

「お願い?」

「まるどむ、お話せる、しますか?」

「バルドルと話したいの? いいけど……」

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