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-作られた命、自然の村- Part 19

『追うのにゃ!』


「追うって言ったってどうすれば……!?」


  天井の穴からパラパラと落ちてくる巨大な破片から逃げてくる獣人達をかき分け、ハルサは前回外に出た階段を目指して走り出そうとする。しかしここからあの入口まではかなりの距離。ハルサが全速力で走っても軽く二十分はかかるだろう。何か使えるものが無いか周りを見渡したハルサの目に飛び込んだのは一台の小さな車だった。


「ボクがそれを運転するにゃから乗るのにゃ!」


いつの間にか家の中から外に出てきていたラプトクィリが走って小さな車に飛び乗ると自動車の古いコイルを緊急発進に切り替え温める。長年放置されていたにも関わらず小さな車は小さい音を立てて起動し、ハルサもその音を確認すると助手席に乗り込んだ。


「かっ飛ばしていくのにゃ!」


思いっきりアクセルを踏み込んだラプトクィリの意志とは反対に車は静かにパンクしたタイヤを回してゆるりと発車した。




      ※      ※      ※




「ふうっ……!

 俺の勝ちだエクロレキュール。

 まさかここまで君がやるとは思っても見なかったよ。

 ははは……」


 グンジョウはいつの間にか切っていた額から流れ出る血を服の裾で拭い、ボロボロになった自分の艦の状態をもう一度確認した。四層まである装甲版の三層までの甲版はそのほとんどが剥離し、関節と関節を繋ぐジョイント部分には超近距離からのエクロレキュールのブレスにより大きな穴が開けられてしまっている。比較的装甲の薄い関節を痛めつけられたので動きがだいぶ制限されてしまい、三つあるメインジェネレーターのうち二つを喪失。予備ジェネレーター無しではもはや兵装を起動する事すらできないだろうが、もうそんなことはどうでもよかった。全長八十メートルのうち半分を使い物にならないと判断したグンジョウは破損部分をごっそり切り捨て固定砲台にしていた。もっとも今回はそれが吉と出たのだが。


「流石は“大崩壊時代”の兵器だ。

 数少ない資料を元に対策してみたが効果はあったようだな」


 グンジョウ側の被害は甚大だったが、それはエクロレキュールも同じだった。彼女の胸部にはドリル搭載艦艦首の肉を削る金属部分が深く突き刺さり、片方の翼は戦闘の時に根本からへし折られていた。かなり分厚い鱗に囲われていた体――特に首元周りには鱗を貫通して大量の銃痕が刻み込まれており、エクロレキュールが呼吸するたびに赤い血が噴き出していた。もうその場に立っていることすら厳しいぐらいにフラフラなのに白い龍はまだ立ってグンジョウを睨みつけていた。


「戦うには大崩壊時代の兵器は優しすぎたな?」


 珍しく汚染の全く無い綺麗で正常な空気の風がグンジョウの頬をサラリと撫でる。ゆっくりと東から昇り始めた朝日の鋭い光りがグンジョウの目を刺激し、グンジョウは機械の目にアクセスして電子サングラスをかける。

 全く隙が無かったエクロレキュールの隙を作り出すのはとても楽ではなかった。グンジョウはコックピットをあえて開けて自らの姿を晒すことでエクロレキュールの動揺を誘い、すかさず切り離した固定砲台からの一撃を加えたのだ。痛みに怯んで動けなくなった所に艦の全速力で突撃、その胸部に艦首ドリルをめり込ませることに成功した。

 首を持ち上げて龍としての威厳を失うまいと堪えていたエクロレキュールだったがやがて力尽き、その首と巨体は地面を揺らして倒れる。そしてその巨体を紅い雷が一瞬覆いつくしたかと思うと一瞬にして龍は真っ白な服を着るいつもの幼さを残す少女へと変わっていた。


「終わりだな」


グンジョウはコクピットの無線機を取り上司に通信を繋ぐ。激しい戦闘中に二度着信があったがとても出れる状況ではなかった。


「こちらグンジョウ。

 すいません、戦闘中で通信を受けれなくて。

 任務ですが、ほぼ達成です。

 赤い防御壁はどうですか?

 消えましたか?」


『…ジョウか!

 す、すまないが今は……!

 今我が部隊は“大野田重工”の部隊……!

 交戦中だ!』


上司の声はかなり切羽詰まっていた。そして発砲音と爆発音が無線機から零れだしてくる。


「大佐!?

 すぐに援護に……」


グンジョウは無線機に怒鳴るように話しかける。


『おのれどこから嗅ぎ付けて来やがったこの野蛮人共――!

 グンジョウ、お前はターゲットを連れて離脱しろ!!

 私達はいい!!

 任務を遂行しろ!

 ここからは――おい避けろ!!

 おいおいおい……なんだよあの光……!?

 “天使”…!?

 まずい!!

 重工の――!!』


 無線はグンジョウの耳をキーンとさせるほどの騒音と共にブツッと切れる。


「大佐!

 大佐!!」


 グンジョウから見て右手側、間違いなく大佐と味方がいるであろう方角が一瞬光った。その光りは太陽よりも強く、そして冷たさを感じさせる冷酷な光だ。光ったところと同じ場所から小さいきのこ雲が昇り始める。


「もう来たのか“大野田重工”!!」


グンジョウは通信設備を放り投げて慌ててコックピットからエクロレキュールの力を抑える首輪を持ち出し、それを気絶してぐったりとしている彼女の首に取り付けた。


「ははは……。

 気絶しているところ悪いが来てもらうぞ、エクロレキュール」


「……………」


 グンジョウが近づいて持ち上げた真っ白な彼女の体はぐったりしているというのに驚くほど軽く、驚くほど細く、驚くほど小さかった。グンジョウはふと彼女のオーラが彼女を少しでも大きく見せていたのだろうか、と考える。そのまま急いで開いているコックピットの中にエクロレキュールを先に入れ、続いてグンジョウも乗り込もうとはしごに手をかけた。


「!」


グンジョウが手をかけたはしごから少し離れた横の装甲版に明らかに大きな口径から撃ち出された大きな銃痕が出来上がる。弾は装甲版の一枚を容易く貫通しており、開いた穴からは硝煙が立ち昇っていた。


「グンジョウ!!」


静かだったその場に聞き覚えのある一匹の小さな狼の大声が広がる。何度も聞いた覚えのある声にグンジョウはゆっくりと振り返る。


「来たのか、ハルサ。

 初めの一撃は俺の頭を狙うべきだったな?」


「っ……グンジョウ。

 貴方、やっぱり……。

 人間なんて大っ嫌いっス!」


振り返ったグンジョウは初めて見るハルサの正式な戦う格好に目を細める。身の丈に全く合っていないブカブカのコートに胸に輝く“大野田重工”の文字。右手に大鎌のアメミットを持ち、左手には小刀を握りしめている。


「……ハルサ、ここは取引をしよう。

 俺はエクロレキュールが欲しいだけだ。

 何も見なかったことにしてくれれば俺はお前に攻撃しない。

 これでも少しはお前に対して情はあるんだぜ?

 それに時間が無いんだ、分かるだろう?」


「あいにくっスけどその取引は出来ないっスよ。

 私だってエクロが必要っスから」


「必要?

 ああ、そうか。

 さてはお前の飼い主は“大野田重工”じゃないんだな?」


ハルサは少し表情を強張らせる。


「今それに答える義理はないっスよ。

 グンジョウ、ここで別に殺りあってもいいんスけど貴方もう私には勝てないと思うんスよね。

 それなら言葉を言葉で返すっスけど、戦う時間がもったいないってもんっスよ。

 逆にあんたが大人しくエクロレキュールを渡せば……」


ハルサが話しているというのにグンジョウは唐突に上半身の服を脱ぎ始める。


「え、えっ!?

 何してるんスか!?」


予想外の行動にハルサは慌て、目を背ける。


「ハルサ。

 俺は教えたはずだぞ。

 見た目で人を判断するな、と。

 自分がなぜ狩る側だと思い込んでいる?」


「へ…?」


 脱いだグンジョウの肉体は人間そのものだった。しかしその体は一瞬にして変わる。背中が盛り上がり、皮膚を突き破って二本の金属の腕が出てくるとグンジョウの両腕にすっと線が走る。その線の部分から腕が左右に割れると中からは二本の高周波ブレードが現れた。そして人間なら心臓がある部分が次第に黒く変色し、やがてその黒い部分は金属であるかのように鈍く朝日を反射し始める。肩の人工皮膚が上にせりあがるとその下からは鈍く光る銃口が覗いた。


「なんスかそれ!?」


『そいつの肉体を分析したのにゃ!

 人工皮膚で、静粛性の高い生体モーターを使っていたからボクやハルにゃんでも気が付かにゃかったけどそいつの体は軍用強化骨格…!

 つまり脳みそ以外は機械にゃ!』


「ふざけた奴っス……!」


一歩下がり、ハルサは大鎌を小刀と大鎌を構える。脱いだグンジョウの上半身にきらりと宗教のネックレスが光る。機械の体になっても神の救いは必要らしい。


「ハルサ、これは俺からの最後の授業だ。

 俺を倒して証明して見せろ。

 お前がお前の天敵を超えれるかどうか」


まるで本物のような人工皮膚がベロリと破れ、グンジョウの上半身の機械が次第に露になる。


「お祈りは済ませたっスね?

 死んでからじゃお祈りは出来ないっスから」


「ははは…!

 ――さあ、見せてみろ!」






                -作られた命、自然の村- Part 19 End

いつもありがとうございます~~!!!!!!!

またお願いします~~!!!

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