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-作られた命、自然の村- Part 17

 地震と捉えるには少し大きすぎる音が響いたような気がした。眠りながらも癖で気を張り詰めていたハルサは些細な音ではっと目を覚ます。ベッドの上に置いてある時計は早朝の五時を指しており、ハルサはいつもなら眠っている時間だ。ふかふかのパジャマ姿のままカーテンを少しだけ開ける。分厚い布と布の隙間から見えるそこには何も変わらないジオフロントの景色があった。


「……?

 気のせいだったんスかね?」


変に目が冴えてしまい、冷えた水を一杯でも飲もうと部屋から出るとラプトクィリが机の上で突っ伏して眠っていた。寝る前に一緒にいたエクロレキュールの姿はそこには無く、またたび酒の瓶がコロコロとだらしなく床に転がっている。


「ん……?

 ハルにゃん、どうしたのにゃ?」


 部屋から出てきたハルサの気配を察知したラプトクィリは体を起こし、寝ぼけ眼を猫のように擦って欠伸する。


「別に。

 なんか少しだけ嫌な予感がしたっスから…」


「にゃ〜……?

 ツカにゃんに報告したほうがいいのかにゃ?」


「いや、多分気の所為っス。

 心配するようなことわざわざ言わなくていいっスよ。

 とりあえず今は水飲みに来ただけっス」


 そう言いながらハルサはコップに水を入れ一気に飲み干す。ああラプトクィリに言ったはいいものの、やはりどこか気になるハルサは嫌な予感に引きずられるように居間を通り過ぎて外に出た。早朝の冷たい空気がジオフロント中を覆っていて、静かな、本当に静かな朝としか言いようがない。しかしその静けさが破壊されるのは直ぐだった。ズズン、という地響きが再びジオフロントの中に響いたのだ。


「やっぱり、気のせいじゃないっス!

 ラプト!

 エクロ!!」


「んにゃ~……。

 どうしたのにゃ~さっきから……。

 騒がしいにも程があるのにゃ。

 寝ぼけて何か怖い夢でも見たのかにゃ~?」


「そういう事言ってる場合じゃねっス!

 すぐに戦闘準備をした方がいいかもしれないっス!」


ハルサは自室に戻ると速攻で着替えてコートを羽織り、アメミットの電源を入れる。寝ぼけ眼のラプトクィリに早く着替えるように言ってハルサは家中エクロレキュールを探して走り回る。しかし彼女の反応は無い。


「エクロー!?

 どこなんスか!

 エクロ―!?

 あ、忘れてた。

 グンジョウー!」


 エクロだけでなくグンジョウの反応もない。ハルサは家の中を探すのを諦め、アメミットを手に持つと家の外に出る。二度目の地響きで何か異変を察知した獣人達が目覚め、中心街には明かりが灯り始めていた。


「エクロー!

 グンジョウー!!」


家の外でハルサは大声を上げて一匹と一人を呼ぶ。しかしここでも反応は無い。


「またこの音!

 心配っス、早くエクロとグンジョウを見つけないと……!」


 まるで巨大な怪物が地の底から吠えているような、聞くものを不安にさせる地響きがジオフロント中にこだまする。二度目の時よりも大きなその音はジオフロントの獣人たちを驚かせるのに十分だった。そして、今度の地響きは直ぐには収まらなかった。更に大きな地響きが立て続けに起こる。夜空を模していたジオフロントの星空のライトが消え、分厚い鉄の天井がまるでミカンの皮のように破れたのだ。


「にゃ!?

 なんなのにゃあれ!?」


ようやく支度を終えたラプトクィリが玄関から出てくる。ハルサは首を横に振り、また大声でエクロレキュールを呼ぶ。しかし今度も反応は無い。エクロレキュールを探してそうこうしている間に破れた天井の穴から大きな黒い影がドズン、と落ちてきた。大きな影が落ちてきた衝撃で中心街の周囲にまで広がった衝撃波が木々をへし折り、逃げ遅れた獣人達がゴミのように吹き飛ぶ。


「なんスかあれ!?」


 黒い影のようなものはその巨体で明かりが灯っているジオフロントの中心街を押し潰す。エクロレキュールと一緒に行った店も、おいしい肉の店も、落ち着く雰囲気だったカフェもその巨体の下でただの瓦礫になる。


「あれ、“A to Z”のドリル搭載型戦闘艦にゃ!

 あんなものがどうやってここにきたのにゃ!?」


「なんスかそのピンポイントでここを狙うような名前の艦は!」


「名前は“大野田重工”側のだから正式名称はまた別にあるのにゃ!

 元々は“大野田重工”や“ドロフスキー”の超巨大兵器を内部から破壊するために開発されたものにゃけど……。

 まさかこんな所で見れるなんて思いもしなかったのにゃ……!」


 ドリル搭載型戦闘艦、という名前通りその艦は細長くまるで芋虫のような形状をしている。その体には格納式の多数のレーザー砲台やミサイル発射装置が搭載されており、その攻撃力は戦闘艦という名に恥じない程立派な物だ。艦の側面に大きく“AtoZ”の企業ロゴが入っていて、所属部隊番号がその下に小さく白く描かれている。特筆するべきはその艦首に設けられている大きなドリルだろう。全長八十メートル程の大きさの約三分の一はそのドリルに割かれている。船体も地中を進めるようミミズのように沢山の関節が設けられており、体のあちらこちらには推進時に使用するであろう丸鋸のような物が回っていた。


「ラプト、あの化け物には弱点とかあるんスか?」


ハルサは既に刃が加熱し、陽炎を立ち昇らせているアメミットをぐっと握りしめ短刀を自らの太ももに巻いたベルトに差し込む。ハルサのその言葉に驚いたのはラプトクィリだ。ぎょっとしたようにハルサを見て、慌てて口を開く。


「ハルにゃん、戦うつもりにゃ!?」


「この街はエクロが守ってきた街って聞いたんスよね。

 友達の大切な物は出来るだけ守ってあげたいというか…」


「気持ちは分かるにゃけど……。

 でも、駄目にゃハルにゃん。

 いいかにゃ?

 もし戦ってもなんのメリットもないのにゃ。

 さっき連絡があって“ギャランティ”が迎えに来てくれるらしいのにゃ。

 だからそれまで隠れて生きて帰るのにゃ」


 戦う、というハルサにNoを冷たく言い放つラプトクィリ。彼女としてはハルサを無事にツカサの元に連れて帰るのが第一目標なのだから、その為にこの街に出来るだけ関わらないようにするのは道理が通る。そしてハルサもそのことは頭の片隅で理解していた。ただ、このときの状況は過去ハルサのことを友人と呼んでくれたタダノリの事を彼女に思い出させた。


「ラプト!

 あれ!」


「にゃ!?」


まるでジオフロント中を満たすような赤色の雷がドリル搭載型戦闘艦の前に落ちる。かなり距離が離れていたハルサとラプトクィリですら目を瞑ってしまうぐらいの眩しさがジオフロントを一瞬染め上げる。次に目を開けたハルサとラプトクィリが見たものはドリル搭載型戦闘艦の前に立ちはだかる全長四十メートル程の純白の“龍”だった。






                -作られた命、自然の村- Part 17 End

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