-見慣れぬ景色、いつもの仕事- Part 11
「カンダロ、護衛対象が乗ってる車にもっと寄せろ!」
車の天井へサンルーフから這い上がりながらルフトジウムは運転席にがなり立てる。
「えっ、でも……」
当然ではあるがカンダロは正気か?というような顔で横に乗っているサイントを目を合わせる。サイントはまたはじまったよ、みたいな目線だけをカンダロに残してマグナムに弾を込める。ルフトジウムはそんなことを知ってか知らずかまた大声で運転席へ命令する。
「いいから!
大鎌野郎が持ってる対物ライフルの威力が必要なんだよ!
あの飛行ビークルの装甲見てねーのか!?」
運転してるのに見てるわけない、と言いたい言葉を飲み込んでカンダロは一応の確認の意味も込めてショーグンに目配せをする。
「ショーグンにはそう伝えておきます。
…とのことですが聞こえてましたか?」
「サイント!
また来るぞ、構えろ!」
二発の銃声が響き、二発分のミサイルが弾頭を射抜かれて爆発する。そのうち一発はかなり低空での迎撃になってしまい、爆発に驚いた一般人の車が思わずブレーキを踏んでしまいその後ろにいたトラックが追突する事故が起きる。
「…あれは俺たちのせいじゃねぇよな?」
「たぶん」
心配している二匹の獣人を後目にカンダロは引き続きショーグンに呼びかける。
「ショーグン、聞こえてます?」
『…………』
マイクが入ってるのか心配になり、マイクの様子を確かめるために自動運転に切り替えようとするカンダロ。ショーグンは包帯から滲み出している血を服の袖で拭い、部下に何かを命じていたがやっと返事をしてくれた。
『ちゃーんと聞いてましたよ、ホホホ。
私達の制御を離れたその三機はどうなろうが“エクステンド”としては罪に問うつもりはありません。
高速道路の運営会社からの撃墜許可も、大企業からの破壊許可も先程降りました。
なので逆にこちらから貴方達に依頼しようとしていた所です。
その三機をどんな手を使ってでも無力化してください。
現状そのビークルを破壊できるほどの威力を持った兵器を扱う部隊がこの都市には不在でしてね。
どうかよろしくお願いしますよ、AGSの皆さん』
「ってことらしいですよ、ルフトジウムさん!
聞こえてましたか!?」
「ああ、ちゃーんと聞こえてたぜ!
これで俺達があの飛行ビークルを落としても罪には問われないなら後はやることをやるだけだ。
飛ばせカンダロ!
あとは大鎌野郎を説得するだけだ!」
アクセルを踏み込んだカンダロの運転する車は大鎌の獣人の乗っている黒い車にジリジリと追いついていく。
「待て!
落ち着け!
俺達は今回やり合うつもりはない!」
黒い車の近くにまで寄ると相手方も迎撃する気になったのか、車の天井を丸くくり抜いて大鎌の獣人が出てきた。体の大きさには似つかわしくないほど巨大な大鎌を構え、大野田重工のロゴが入っている防弾コートをはためかせている馴染みの姿に向かってルフトジウムは叫ぶ。
「お前の持つ武器であの三機を落として欲しいだけだ!
あの三機を放っておくとお前たちを狙ったミサイルで一般人への被害がどんどん増えちまう!
それにお前達も死ぬぞ!」
サイントのマグナムの銃声が三つ高速道路に響く。射出した直後のミサイルを狙っての発射だったが道路の凸凹を検知した車のサスペンションの動きによって手元がブレてしまい、ミサイルを一発撃墜出来ずに逃してしまう。
「先輩!」
「っち!
俺はこういうのは苦手なんだよ!」
ミサイルは確実に黒い車に向かって足を進める。大鎌の獣人が持っている大鎌の先を向け、引き金を引こうとしたが到底間に合わない。
「当たれぇぇぇえ!!!」
ルフトジウムはデバウアーを両手に構えると、付いているアサルトライフルを連射して弾幕を張り巡らせて何とか残る一発を撃ち落とす。
「はぁ…はぁ………。
な?
俺達は…今は敵じゃない。
お前の大鎌の対物ライフルであの三機を落として欲しいだけだ!」
黒い車の窓が開き、これまた仮面をつけた赤色の髪の獣人が運転しながら口を開く。
「我々にとってのメリットは?」
「そうだなぁ。
お前達のとりあえずの身の安全の保証だ。
もし手を貸さねぇならお前達はここでミサイルに追われて死ぬだけだ。
俺達も任務失敗になるが……こんなん想定外だからな。
お咎めなしだろうよ。
どうするんだ?
一応釘を差しておくが“お前らは選べる状況に無い”んだぜ?」
ルフトジウムはにやっと笑い、デバウアーを肩にトントンとリズムよく当てながら考える時間を少しだけくれてやる。運転席の獣人は三秒ほど口を閉じていたが「分かった」というように頷くと天井の大鎌の獣人へとボソボソと何かを呟いた。それを聞いた大鎌の獣人は立ち上がるとその大鎌を支えるバイポットを展開するとルフトジウム側の車に飛び乗ってくる。
「まさかここまで信頼されるなんてな。
寝転がるためのスペースが必要ってことか?」
「……そう」
「へっ、来るミサイルは俺達が責任を持って撃ち落としてやるよ。
だから、頼むぜ?」
「黙って見てろ」
「先輩。
次のが来る!」
「おうよ!
絶対落としてやる!」
腰を踏ん張って両手に持ったデバウアーに装填されている弾を次々とばらまいていくルフトジウム。その弾は飛行型ビークルの大事なパーツに当たってはいるのだが、そこは流石戦闘兵器とも言える代物で全く持ってダメージになっていない。ルフトジウムから銃弾を叩き込まれ続けている一機に積まれている人工知能がルフトジウムを任務行使の邪魔になると睨んで最優先ターゲットに指定するまでそう時間はかからなかった。
「どんなもんよ!
少しは応えたか!?」
デバウアーの銃口が熱で赤く光り、車の上には焼けた薬莢が沢山転がる。空っぽになったマガジンをデバウアーは全てパージする。対獣人モードに移行した飛行ビークルの機首に付いていたガトリング砲が起動し、ルフトジウムを狙う。
「えー、“それ”は流石にやばいな…。
なぁ、大鎌さんよ。
撃てるなら早く撃ってくれないか?」
頬を掻きながらルフトジウムは足元で寝そべる大鎌の獣人に話しかけた。
「構造から弱い所を探ってる」
「んだよ、意外と頭脳派なのかよ。
あんなもんバーっと撃ってバーッと壊してくれよ」
「うるさい。
残弾が少ないんだ無駄にはできない」
ガトリング砲の銃身がゆっくりと回り始めエネルギー弾が装填されていくのが下からも見える。やがて銃身の回転が早まっていくと攻撃を開始する為の簡易的なブザーが鳴り響く。
「ここか」
大鎌についている対物ライフルの振動は車全てに伝わるほど大きなものだった。その銃口から吐き出された炎はアサルトライフル等とは比べ物にもならないほど大きく、戦車砲にも近いものだった。音速を遥かに超える程の威力で放たれた徹甲弾の貫通力は百八十ミリにも達し、その威力は簡単に戦闘ビークルの人工知能が積まれた装甲版を射抜き破壊した。
-見慣れぬ景色、いつもの仕事- Part 11 End




