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-見慣れぬ景色、いつもの仕事- Part 10

「くそっ!

 全然見えねぇ!!

 どこ行きやがった!?」


まさか敵が閃光手榴弾を持っているとは考えすらしていなかったルフトジウムは真正面から閃光と轟音を受け止めてしまっていた。その隙に大鎌の獣人が追加の攻撃をしてくるかと身構えたルフトジウムだったが、恐れていた攻撃はこず視界と聴覚が戻ってきた頃には目の前に寝転がっていたはずの大鎌の獣人の姿はなかった。


「まさか……!?」


慌てて目線を装甲車へと移す。案の定護衛対象の乗っていた装甲車の天井は大鎌によってこじ開けられ、中の護衛対象は既に掠め取られてしまっていた。


「ちっ、やられたか!

 おいサイント!

 無事か!」


サイントはパタパタとルフトジウムの近くに駆け寄ってくると頭を垂れる。


「先輩、ごめんなさい。

 沢山撃ったんだけど全部大鎌に弾かれて…」


「よくやった!

 ……けど、あいつはどこに行った!?」


ルフトジウムはデバウアーを振って武器の無事を確かめると、頭をガシガシと掻きながらイライラとした様子を隠そうともせずにサイントに大声で尋ねる。兎は耳と肩を竦めながら


「それが……」


 指さした先にはスモークグレネードが吐き出している真っ白な煙幕が張られていた。が、あいにく夜にもなり吹き始めていた風が煙幕を直ぐに散らしてくれる。装甲車の歩道側のドアの横にはショーグンが気絶した状態で転がっており、なんとも幸せそうな顔をして眠りこけていた。煙幕の向こう、道路の反対側に止まっていた黒色の車のエンジンがかかると、スキール音を出しながら急発進する。その車には間違いなく大鎌の獣人とこれまた仮面のようなものをつけ、シルクハットのようなものを被っている赤色の髪をした獣人が乗っていた。


「待ちやがれ!

 おい!」


デバウアーを構えてアサルトライフルの弾をバラまく事しか出来ないルフトジウムが大声を張り上げるが、当然そんなもの無視して黒い車はたちまちスピードを上げていく。


「くっそ!!

 おいサイント車を――」


追いかけるために辺りを見渡したルフトジウムの横にボコボコに凹んでいる赤いSUVが止まる。運転席の窓から顔を出したのはカンダロだった。


「ルフトジウムさん!」


「カンダロ!

 いいタイミングだぜ!」


 ルフトジウムとサイントは二人でほとんど同時に助手席と後部座席に乗り込むとシートベルトを付けるのを待たずしてカンダロはアクセルを踏み込んだ。後輪がスリップするような勢いでタイヤが回り、黒い車の後ろを猛スピードで追いかけながらカンダロが口を開く。


「大鎌の獣人が閃光手榴弾を起爆させたとき、護衛対象を運ぶ為に絶対に車を使うだろうと思ったんです。

 ですからお二人には申し訳ないんですが、直ぐに車を取りに行ってました。

 大鎌の獣人は何やらルフトジウムさんに対して思いがあるみたいなので殺さないと踏んでいました。

 どうやら読みは当たってたみたいでよかったです!」


ルフトジウムは一応豊かな胸の間にシートベルトを通そうとするが、銃弾によってシートベルトが切れてしまっているのを見つけると掴んでいた金具を車内に投げ捨て、後頭部を椅子に付けた。


「……まあ言いたいことは色々あるけど後にしておいてやるよ。

 とりあえず飛ばせ、飛ばせ。

 絶対に捕まえるぞあいつら!」


 黒い対象車は高速道路へと向かう道を車と車の間を縫うようにして走っていく。どうやら敵のドライバーはかなりの腕前らしい。その後ろをえっちらおっちらとカンダロは置いていかれないように必死に運転している。


「あんだぁ?」


 バタバタバタと空気を揺らすような音が後方上空から聞こえ、ルフトジウムは割れた窓から顔を出して振り返る。

 三機の飛行ビークルが噴射炎を可変翼にあるノズルから出しながら、ルフトジウム達の車の後を追いかけてきていた。側面には“エクステンド”のマークがデカデカと付いており、所属している部署のカラーリングのようなものが随所に施されている。


『やぁ、AGSのみなさん。

 ショーグンです。

 先程は無様なところを…』


車のフロントガラス右上に着信のお知らせと救護隊に包帯をぐるぐる巻かれながらショーグンのボロボロになった映像が映し出される。


「ショーグン!?

 無事だったんだな!?」


『ホホホ…ご心配くださってありがとうございます。

 身体的には問題はないみたいです。

 それと先程本部に追加戦力を要請しましてね。

 そうしたら特別ケースだからレベルⅢ相当の援護を送ると。

 しっかりと護衛対象を取り返さないと“エクステンド”の恥になってしまいますから』


ホホホ、とショーグンはハニカムと割れたワイングラスにシャンパンを注ぎ、一口飲んだ。


「何にせよ助かるぜ!」


 この三機は各々が各自の判断で動く戦闘人工知能を積んでおり、はじめから人間の補助無しに動けるようになっている。また、戦闘行為を実行すする際にはネットワークから自身を切り離して完璧に自立モードになる。そのためクラッキング攻撃にはかなり強い。


「心強い“エクステンド”の援軍ですねー!

 これで助かりました!

 相手の車の前に機銃を撃って足を止めてもらえれば……」


三機ともウェポンベイには大量の筒状のものがぶら下がっており、ミサイルやロケットが大量に積まれているのが分かる。パイロットの乗っていない細い機首の下にはHの形をしたガトリング砲がぶら下がっていた。


「な、カンダロ。

 あの装備、治安維持部隊にしては大袈裟じゃねぇか?」


応援に来てくれたと安心したカンダロとは反対にルフトジウムは妙な胸騒ぎを覚えていた。あくまでも“エクステンド”は治安維持部隊だ。軍隊ではない。


「へ?

 それは一体どういう意味です?」


「大野田重工の支配地域とは違うのか……?

 いやでも俺達警備会社は……あんな武器を持てる……?」


 三機のビークルが敵の車の後ろに陣取ると、ほとんど同じタイミングで火器管制装置からロックオンするための赤くて細いレーザーが放たれる。そのレーザーの先は黒い車の天井に集中した。


「やっぱり!

 あいつら、護衛対象を殺す気だ!

 ショーグン!

 てめぇ何考えてんだ!

 今すぐにビークルを止めろ!」


ルフトジウムはまだ通信が繋がっているショーグンに抗議する。しかし帰ってきた返答はルフトジウムすら驚くものだった。


『へ?

 私は存じませんよ!

 一体何の話です?』


どうやらビークルのその行動はショーグンすら知らないものらしい。


「まずいことになったぞ……」


「一体何が起こってるんです!?」


状況を飲み込めていないカンダロがルフトジウムの方を見る。ルフトジウムは前を指さして運転に集中しろ、と無言で圧をかける。


「……きっとカズタカはもっと大きな秘密を持っている。

 サイント的にはそれが命よりも重いと考える」


「となるとその秘密が気になってきたぜ俺は。

 命よりも重い秘密っていうと……大企業絡みだろ?

 サイントやれるか?」


「大丈夫。

 任せて先輩」


サイントはシートベルトを外し、車の窓から上体を乗り出してマグナムを構える。高速道路の脇に設置されている街灯の明かりがマグナムに反射して鈍く光る。赤色の細いロックオンレーザーが消えると、三機のビークルからほとんど同じタイミングでミサイルが放たれる。


「やれ、サイント!」


「ふぅー……」


 サイントは目を細め、息を止める。両目でマグナムの銃口の先を、照準器を通して全てを計算する。そして引き金を三度目にもとまらぬ速さで引く。三回鳴るはずの銃声はこの時はたった一度にしかルフトジウムの耳ですら聞こえなかった。マグナムの銃弾は風の影響を少し受けつつも、ほとんど真っすぐサイントの狙い通りにミサイルの弾頭に命中する。


「サイントさんすごい……!」


三つ空に爆発の影響で丸く大きな火薬の花が咲く。サイントはマグナムをおろして呼吸を整えると無表情を維持したままブイサインを一人と一匹にして見せた。






                -見慣れぬ景色、いつもの仕事- Part 10 End

ありがとうございます~~!!

またよろしくお願いします~!!!

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