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-見慣れぬ景色、いつもの仕事- Part 6

「そこを曲がれ!」


ルフトジウムはサイントに叫ぶように言うとサイントも負けじと言い返してくる。


「先輩は反対側に!」


「わーってるよ!」


 二匹は二人を抱えて転がるようにして部屋から出て、廊下の角を曲がる。ルフトジウムの短い山羊の尻尾が丁度廊下の角に隠れた時、空から降って来ていた爆弾が爆発した。爆風と先ほどまでカズタカがいた部屋の破片が一緒になって廊下を荒れ狂う。


「ひえぇ~!」


 カンダロが何とも情けない声を出し、対爆風姿勢を取るために二人と二匹は地面に寝転がってしっかりと目を閉じ、耳を両手で覆った。爆風は二人と二匹の上を通り過ぎると勢いを緩めながら廊下の窓を突き破って外へと出ていった。パラパラと細かいゴミのようなものが落ちる音と、瓦礫の細かい埃が空気中を漂う。


「大丈夫か?」


「なんとか」


「カンダロ達は?」


「何とか生きてます~!」


「死ぬかと思ったわい……」


 続いて攻撃が来るかと想定して立ち上がったルフトジウムとサイントは武器を構えながら家の周りの音に集中する。スナイプされる可能性のある窓には近寄らず、また爆弾が降って来たとき用に直ぐに避難できそうな場所を意識して確保しながら一行は何とか屋敷の玄関にまでたどり着いた。


「カズタカさん。

 ここは危険です。

 我々が安全な所までお送りします。

 “エクステンド”のショーグンをご存知ですか?」


カンダロはショーグンに電話をかけ至急玄関口にまで車を回すように要求する。


「そんな奴は知らん」


「なら今からはじめまして、ですね。

 しっかり我々の後ろに隠れながら着いてきてくださいね。

 ああそれと」


「ん?

 どうした?」


「玄関の門……アレって大事な物ですか?」


カンダロは玄関の扉の隙間から見える門を指さした。入るときにも見た立派な家紋付きの門だ。


「玄関の門……?

 そんなもの必要ないわい!

 ワシの命が助かれば玄関の門なんて安いもんじゃ!」


「そうですか。

 ならば失礼することになります。

 玄関の門と引き換えに貴方の命を保証する企業に引き渡します」 


カンダロもすっと拳銃を抜き、ルフトジウムとサイント二匹と同じラインでカズタカを守るようにして先頭に立つ。


「その言葉、必ず守られよ。

 ワシはまだ死にたくないのだ!」


カズタカはそうボヤくと、自分の胸に吊るしていたお守りをぎゅっと握りしめたのをルフトジウムは見逃さなかった。




  ※  ※  ※




第二撃があると油断せずに護衛を続けた結果、無事に屋敷から出た二人と二匹は門を突き破って駐車しているショーグンの車にカズタカを押し込む。ショーグンの車は来た時の普通の乗用車から装甲車へと乗り換えていた。その窓越しにカンダロは今すぐにシェルターにカズタカを連れて行くように要請した。


「この車の装甲は戦車砲でもないと貫通できませんから。

 ご安心ください、カズタカ殿。

 必ず目的地にたどり着けることを保証しますよ」


「それは本当かね?

 信じるぞ。

 “エクステンド”は信じんが、ワシはお前さんを信じるんじゃぞ。

 そこらへん分かって――」


カズタカは装甲車の上に設けられたエネルギー機関銃を見て訝しんだ表情をカンダロに向ける。カンダロは肩をすくめて見せ、そのままショーグンにカズタカを引き渡した。


「さあ、どうぞどうぞ。

 我々、“エクステンド”は全力で貴方をお守りしますよ。

 それだけの費用もAGSから頂いていることですし、ホホホ!」


そんな不安そうな気持ちも跳ね除けそうなショーグンの笑顔に釣られたのか、カズタカは渋々と装甲車へと乗り込んだ。


「すぐに出発してください。

 我々も何とかして後を追いますから」


「車もねーのにかよ?」


ぼそりと呟いたルフトジウムにショーグンは玄関先に止まっている赤い目立つSUVを指さした。


「ホホホ、ご安心を。

 皆様の分のお車もご用意させて頂いていますよ。

 こちらが鍵です」




      ※  ※  ※




 シェルターへと出発した装甲車の後ろをカンダロ達三人が乗るSUVが追いかける。二台は直ぐに高速道路に乗るとスピードを一気に上げた。シェルターまではかなりの距離で今からぶっ飛ばしても約九時間ほどかかるらしい。


「しかしいきなり爆弾が落ちてくるなんてなぁ」


広めの後部座席にどっかりと座りながらルフトジウムは自分の青いコートについているゴミをつまんで取りながらぼやく。


「あの状況下で爆弾を使用するなんて、思ったより大きな組織から狙われているみたいですね。

 大鎌の獣人が属している組織も同じ所でしょうか?」


「さぁな、わかんねーよ。

 けどなぁ、前々から俺は気になっていた事があるんだ」


「気になっていたこと?」


「大鎌の獣人の仲間を前回の事件の際に殺したのは覚えてるよな?

 その時身分を洗ってみたんだがそいつは傭兵だった。

 そんでもって今回の件だ。

 大鎌の獣人はまだ見てねえけど、カンダロの読み通り敵はかなりの規模だぜ。

 今までみたいな単発の事件じゃ無さそうだ」


「爆弾も一体どうやって運んできたんでしょうか」


「……この街は重工とは違い個人の飛行ビークルの所有が認められている。

 爆弾を落とす手段なんて沢山ある。

 そこは重要じゃない。

 重要なのは誰が、なぜ」


「分かってますよサイントさん……」


ハンドルをぐっと握ったカンダロは車の中に置いてあったコーヒーをぐっと飲む。自動保温機能で温かいまま置いてあったコーヒーを口に含んだカンダロは一瞬にして顔をしかめた。


「うわ、なんですかこれ苦い……」


「毒だって、毒」


ククク、と笑いながらルフトジウムがカンダロのわき腹をつつく。


「先輩、今はふざけてる場合じゃない」


「わーってるよ!

 もー!

 話を戻すにしてもあのジジイが死んだら終わりだぜ。

 何か聞かれたらまずい情報でも持ってるのかも知れねえしな。

 それに今回大鎌の獣人と襲ってきた勢力が同じ勢力とも限らねえ。

 何にせよあのジジイが大きな秘密を持っていることは確実だぜ」


「それが分かるまで死んでもらうわけには行きませんね」


「そーゆー事だ。

 油断せずにしっかりシェルターまで守り通すぞ」


ルフトジウムはそう話しながらも追い越し車線を白い三台のバンが追いかけてくるのをサイドミラー越しに見つけた。三台も同じ色のバンが並ぶなんて不自然だ。スピードを上げた三台はそのままルフトジウム達の車を追い越して行こうとする。フロントガラスだけではなく全てのガラスにスモークが入っており中にいるのが人間なのか獣人なのかすら分からない。


「まさか……」


何やら胸騒ぎが起こり、ルフトジウムは体を起こしてカンダロにブレーキを踏むように言っていた。


「カンダロ!

 ブレーキ踏め!!!思いっきり!!!」


「は、はい!?

 そんなことしたら危ないじゃないですか!!」


「いいから早くしろ!!

 死にたいのか!!?」


 バン三台のスライドドアがほとんど同時に開き、中からエネルギーガトリング砲の銃口が覗くと直ぐに火を吹いた。毎分二千発もの発射速度を誇る六本の銃身を束ねたエネルギーガトリング砲から吐き出された弾幕は先程までカンダロ達がいた位置に大量に着弾する。コンクリートを抉り取りながら車線を一つまたいだ先にいた自動運転トラックが被害を受けて一瞬にして内属されていたバッテリーが引火、吹き出した炎がタイヤを吹き飛ばしバランスを崩したトラックが横転する。トラックの残骸を咄嗟の判断でハンドルを切り躱したカンダロは大きなため息をついて気を抜いた。


「危なかった〜…」


ホッとしているカンダロの頭を叩き、ルフトジウムはアクセルを踏んで追いつくように急かす。


「突っ込めカンダロ!!!

 俺が相手する!!」


デバウアーを後部トランクから引っ張り出し、ルフトジウムはサンルーフをこじ開けるとそこから上体を出した。デバウアーの残弾を確認して、電源を入れる。


「援護します、先輩」


 窓から身を乗り出し、サイントは左手に不釣合いなほど大きなリボルバーを構える。すでにターゲットをカンダロ達から、ショーグン達の乗る装甲車へと移していた三台のバンはガトリングの熾烈な弾幕を装甲車へと浴びせている最中だ。戦車砲でも持ってこないと壊れないと言っていたがビームの高熱に長い間耐えれるようには出来ていないだろう。

 サイントはリボルバーの銃弾を粘着小型爆弾弾頭へ入れ替え、狙いを定めると直ぐ様六発発射した。銃弾は吸い込まれるようにガトリング銃の銃身に二発ずつ張り付くと、銃身の熱を受けて起爆する。


「よくやった、サイント!」


小さな爆発ではあったが、ガトリング銃の銃身を捻じ曲げて使えなくするぐらいの威力はある。事実、先程まで放たれていたエネルギー弾は完全に止まっていた。


「当然です、先輩」


そう言いながらも誇らしげな顔をした兎の頭を撫でてやり、ルフトジウムはサンルーフから体全てを出すとデバウアーをハサミ形態にする。


「さぁて、車上パーティと洒落込むか!」




                -見慣れぬ景色、いつもの仕事- Part 6 End

読んでいただきありがとうございます・・・!

引き続きよろしくお願いいたします~!

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