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-見慣れぬ景色、いつもの仕事- Part 5

 朝日が窓ガラスから斜めに差し込みまだまだ眠気の残るルフトジウムの頭を少しずつ覚醒に向かわせようとするものの、微振動による眠気の増幅には若干の力不足だ。当然眠気の原因は時差もあるのだが自動運転のだらだらとしたメリハリのない運転、更に高速道路を一定速度で走る車の中というのは何故か眠くなるのが常というものだ。力なく右手で持っていた端末でハルサにメッセージを返し


「んぅ……ふぅ……」


伸びをして、ルフトジウムは大きく息を吸う。車内の時刻は午前十時にも差し掛かろうという時間で、ルフトジウム達がホテルを出たのが朝の九時なのでかれこれ一時間は走っている計算になる。


「ホホホホ!

 わかりますよ、わかります。

 なら第四部での活躍は貴方にとっても最高だったのでは?」


「そりゃもう!

 辛酸を舐めさせられ続けていた主人公側の反撃が敵の空中要塞を沈めた瞬間と言ったら!

 あの瞬間こそがアーセナルメイデンの一番の見せどころかもしれないですよね!」


ショーグンとカンダロは今話題のアニメについて熱く語っている。サイントは無警戒にも完全に眠っていてすーすーと小さな寝息を立てていた。ルフトジウムもそうしたいが、もし万が一何かが襲ってきたらと思うと眠るに眠れない。


「ホホホ、まさかこんなところであのアニメを見ていた人に会えるなんて。

 感激ですよ。

 しかもしっかり理解しておられる」


「いやぁ〜、ああいうアニメは少ないですよね。

 昔からアニメは好きで見続けていたんですけど――」


 車は都市部からゆるりと離れ、閑静な住宅街へ差し掛かっていた。その住宅街の一角にたどり着くと、ようやく車は小さくブレーキの音を出して止まった。目的地にたどり着いたという文字が表示版に映し出されルフトジウムはまだうとうとと眠るサイントの腕を引っ張って起こすと、ドアを蹴るようにして外に出た。


「ああ、そうそうカンダロさん。

 私は車の中で待っていますよ。

 関係ない第三者が仕事の会話に挟まるべきではありませんからね。

 お話が終わったら電話してください」


ショーグンはそういうとシャンパングラスを取り出して並々と注ぎ始める。


「お昼からお酒を……?」


サイントが眉を顰めるがそんなこと気にしないというようにショーグンは一気にシャンパンを飲み干した。


「ご武運を願っていますよ、ホホホホ」


ドアが自動で閉まり、ショーグンを乗せた車は静かに走り出し、住宅街の道を曲がって見えなくなった。


「……ルフトジウムさん、サイントさん行きましょう。

 アポはきちんと取ってあるので先鋒も歓迎してくれると思うのですが……」


カンダロに続いて二匹は扉の前に立つ。扉はかなり頑丈な素材で出来ており、その門には家紋のようなものが付いていた。監視カメラのようなものがあちこちに付いていて、自動の非殺傷兵器に繋がっている。


「余程敵が多いんだろうな」


「………」


カンダロがインターホンを押そうとすると、その気配を察知したかのように扉が開いた。


「お待ちしておりました」


扉の中にはきれいなスーツのような服を纏った雄の初老の犬の獣人の執事が立っており、お辞儀をして出迎えてくれた。


「我々は……」


「全て御主人様から伺っております。

どうぞ中へ」




   ※  ※  ※



 屋敷の作りは大野田重工支配地域と同じデザインになっており和風を基調としていた。事実、カンダロ達は入る前に靴を脱ぐように命じられた。住宅街の中にあるというのに広い屋敷の一番奥の部屋に通された一行を待っていたのは間違いなくこの館の主であり、カンダロがショーグンからデータをもらっていたアサガワ・カズタカその人だった。


「アサガワ・カズタカさんですね。

 はじめまして。

 我々は貴方を守るために来ました。

 また我々の追っている大鎌の獣人についてもお話を伺えればと思っています。

 どうかよろしくお願いします」


 車の中で見た写真よりも痩せた小柄な身体はガリガリに瘦せておりとても六十半ばの男には見えず、八十歳といっても納得できる程老けていた。全ての髪の毛が白髪になっているのも実年齢よりもさらに歳をとって見える原因だろう。サングラスにもなっているメガネの奥の目は窪んでおり、義眼なのか時折瞳周りが赤色に光っている。床や机の上にはなにかの薬の空容器が大量に転がっていた。

 握手しようとカンダロがお辞儀して差し出した手をカズタカはふんと鼻で笑って無視する。


「お前みたいなクソガキをAGSの役人はよこしたのか…!

 ワシも嘗められたもんじゃ!!

 クソッ!!クソッ!!

 AGSの首脳共め!」


「えーっと……?」


 あまりの態度の悪さと情緒の不安定っぷりに絶句したカンダロは言葉を続けようとしたが、怒りに体を震えさせ、話をまるで聞こうとしないカズタカに気圧されてしまっていた。ルフトジウムもサイントもヤバい人の所に来てしまったという感覚からお互い目を合わせて帰りたい雰囲気を出す。


「う、うぐ……!」


突然カズタカが苦しそうに胸を抑え、倒れ込む。


「大丈夫ですか!?」


カンダロが駆け寄って助け起こそうとするのよりも早く犬の執事が駆け寄って胸ポケットから取り出した薬を渡す。


「御主人様!

 こちらに!」


その薬の蓋を開けてザラザラと口に放り込んだカズタカは少しの間荒く息をしていたが五分もすると息を整え、執事の助けを借りながらも立ち上がると近くの椅子に座る。


「あぁ、ふぅ……。

 見ての通り心臓が弱くてね…。

 ワシは…ワシはアサガワ・カズタカじゃ。

 まぁ座るのじゃ。

 今抹茶を淹れさせるからのぉ」


「ああ、ありがとうございます」


カンダロは椅子の上に転がっていた薬の瓶を下に置いて腰掛ける。ルフトジウムとサイントがその椅子の後ろに立つと、カズタカは執事に言ってお茶を持ってくるように言いつけていた。


「後ろの二匹は?」


「俺達は遠慮しておきます」


ルフトジウムがサイントの変わりにそう言うとカズタカはジロジロと二匹を頭から足先まで眺めた。


「山羊に…兎か。

 草食獣人ばかり……。

 なぜもっと頼りになりそうなのを連れてこなかった小童。

 やはりAGSの首脳陣はワシのことを……」


またドタバタが始まりそうだったので慌ててカンダロはここに来た理由を説明した。


「我々はあなた様を守るのと同時に、大鎌の獣人について話をしようと思って来たのです。

 それにこの二匹は優秀な戦闘員です。

 ご心配なく。

 それで?

 大鎌の獣人について何か知っていることはありませんか?」


「大鎌…。

 大鎌ってのは本当に鎌なのか?

 そんな、武器に向いてなさそうなものを使う獣人は生憎だが知らないなぁ…」


カズタカは顎に手を当てて考えている素振りをしたが、すぐに考えるのをやめると執事が持ってきた抹茶を啜った。


「話が違いますね…。

 貴方は大鎌の獣人の情報を流してきたお方なのでは?

 資料によると貴方の家の監視カメラに大鎌の獣人が映ったと伺っているのですが?」


埒が明かないと思ったカンダロは食い気味に話を進めようとする。


「あー?

 あぁ、大鎌の獣人か。

 それはうちの執事が勝手にやったことじゃ。

 ワシ自身は何も知らん。 

 なにやら適当に賛同したときにそんなことを言われたような気もするのぉ」


カンダロはルフトジウムとサイントに目配せをする。どうやらカズタカは護衛が欲しかったばかりに嘘をついている可能性があるらしい。


「帰りますか、お二人共」


こんな遠くまで来たというのにまったくの無駄骨だったわけだ。カンダロは席から立ち上がると後ろに立っていた二匹に帰るぞ、と指で指示をする。


「ま、待て!

 命を狙われているのは本当じゃ!

 大鎌の獣人かどうかは分からないが…!

 忌々しいAGSの首脳共め!

 ワシの事を不要として切り捨てるつもりだな!?

 ワシは命を狙われておるのじゃ!

 この街の“エクステンド”では話にならんからお前達に来てもらったのじゃ!」


「はぁ……?

 なんでまたそのように思われるんです?」


「それはその……」


もごもごと口ごもったカズタカ。カンダロは首を傾げ、答えが出るのを待つつもりではあったのだが何処か遠くから聞こえる風切り音みたいなものを聞き取ったサイントが敏感に動いていた。


「なにか来る!

 先輩!」


兎の獣人のサイントの聴力は人間の五倍にもなる。そんな彼女が捉えた音をルフトジウム達は疑ったりしなかった。


「おう!

 カンダロ!

 逃げるぞ!」


「へ?

 わっ!?」


「な、何をする!?

 離せ痴れ者が!」


ルフトジウムはカンダロと老人を抱えてサイントと共に部屋から飛び出す。先程まで全員いた部屋の天井を突き破り、真っ黒な黒い物体…爆弾が落ちて来ていた。




                -見慣れぬ景色、いつもの仕事- Part 5 End

ここまで読んでいただきありがとうございます~!

また宜しくお願い致します。

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