-見慣れぬ景色、いつもの仕事- Part 1
「中々いい値段するじゃねぇか大鎌野郎もよぉ。
それにこの俺の手書きの似顔絵もかなり様になってやがるな~。
なぁ?
なぁ~?」
「…………」
「なんだよサイントその顔はよぉ。
俺の描いた芸術作品になんか文句でもあんのか?」
「……別に。
先輩がいいならそれでいい」
「んだよそんなに変かぁ……?」
ルフトジウムはAGSのデータベースから都市警察へと送られた一枚の指名手配犯を見て珍しくニコニコとしていた。その横で金髪の兎はニコニコする先輩が見せびらかしてくる指名手配書に対して頬杖しながら目を伏せる。ルフトジウムが前から提唱し、似顔絵を提出した大鎌の獣人がAGS本部からやっと犯罪者として認められたのだ。AGSから承認が降りたということは大野田重工にも間接的に害があると認められたという事でもあり、これによりカンダロ班は大野田重工の最重要地区以外は操作許可なしに立ち入ることが出来るようになった。ちなみにルフトジウムの描いたイラストは全く似ておらず子供の落書きにも匹敵するレベルだったのだが、本部もそれを訂正せずにあえて採用したところにサイントは大いに疑問を抱えているらしい。
「変というわけではありません。
ありませんが……。
これを採用する本部に大いに疑問です」
「まるで俺の描いた絵が赤ちゃんレベルって言われてる気分だぜ…」
「そういってるんですよ」
ぴしゃりと言い切った後輩に信じられないという目を向け、ルフトジウムは眉を潜める。
「し、辛辣だなこの後輩怖いぜ……。
なぁ、カンダロ」
ルフトジウムは指名手配書を折りたたんでカンダロの鞄の中に突っ込むと、怖い顔をしているサイントの視線から外れるように椅子を動かしてそこにまた腰掛ける。
「あのー、ほら、あれですよサイントさん。
本部は画力よりも現場の証言を大事にしますからね。
列車での時と今回の売春婦の館での二匹が同一個体っていうのもルフトジウムさんの主観じゃないですか!
何よりF部隊の中でもトップスリーに入る強さのルフトジウムさんが二回も逃がす程の相手がいるなんて本部も信じれなかったんじゃないですかね?」
本部がなぜ全く似ていないルフトジウムの似顔絵を採用したのかの理由をカンダロが何とか見つけてくるがサイントはとてもそれが正解とは思っていないらしい。頭から生えている兎の耳を倒して、つまらなそうに自分の頼んだジュースの氷をつつくサイントに話しかけようとしたルフトジウムだったが、彼女の持っている端末から最大音量で通知音が鳴り響いた。
「お、来た来た」
ルフトジウムの表情が一気に明るくなり、自分自身の端末を目にもとまらぬ速さで持ち上げる。
「え、えぇ……?
ルフトジウムさん?
今から次の任務についての話をあの……」
「無駄。
先輩は、中華料理店の狼娘に返事返すことに今集中してるから」
サイントは頼んでいた獣人用緑茶を一気に飲み干すとルフトジウムのまだ残っていたアスパラ抹茶にも手を付け一緒に飲み干した。そんなことをされていたら普通は気が付き、首根っこを掴んで怒るはずの山羊は今回は全くもって気が付かない。
「あーハルサはかわいいなぁ。
俺さぁ、前回デートしたときに写真撮らせてもらったんだよ。
めっちゃかわいくないか?」
「はいはい。
先輩、いくら獣人には人権がないとはいえ未成年。
手を出したらダメ」
「ださねーよ!
というかまだそういう目で見れねえ!
あと三年…いや五年……?」
「ガチでダメな奴ですよそれ…」
カンダロとサイントには五分前にも見せびらかしたばかりだがそれだけでは飽き足らずさらに再び見せびらかすルフトジウムの端末の待ち受けには前回レストランで撮った写真が使われており、画面内ではハルサとルフトジウムの二匹が笑顔でカメラに向かってピースしていた。ハルサは笑顔ながらも満腹を超えた満腹なのかどこかしら苦しそうにも見える。
「あ、というかもうメッセージ返し終わりました?
じゃあお話の続きしてもいいですかね?」
思い出したようにカンダロはポケットから端末を取り出し、そのデータを直ぐに目の前の二匹に送り付けた。
「あれ、俺アスパラ抹茶全部飲んだっけなぁ?
店員さん!
アスパラ抹茶お替り!」
「飲み物もいいですけど直ぐにデータを確認してください」
しばらく二匹が作戦の内容を読み漁っている間、カンダロは自分のすっかり温くなったほうじ茶を机の横に避け、その場所に会社から持ってきたクリアファイルを置いた。
「……なぁカンダロ。
これって俺の見つけた獲物だから、本部は俺に手柄をくれようとしてんのか?
そういう意図なんだったら俺逆にやりたくねぇぞ」
先に読み終えたルフトジウムは何かが気に食わなかったのか、むっとした顔をしてカンダロを正面から見据えた。カンダロは慌てて手と首を振り、否定の意志を示す。
「多分ですけど本部にそういう意向はないと思いますよ。
ただ、戦ったことがあるからこそ分かる所もある…みたいな考えじゃないですかね?
考えすぎですよ、きっと。
ごほん。
えっーーと、続きを話しますね。
ルフトジウムさんが言っていた大鎌の獣人に関しての捜査依頼がAGS本部より出ているんです。
彼、または彼女には恐らく余罪がありそうですし」
「なんだか気に食わねえ。
AGSよりも上からの指示というか…。
なんかいいように使われてる気がするぜ俺はよ」
店員が運んできたアスパラ抹茶を飲みながらルフトジウムはぼけっと窓の外に視線を落とした。中央区の八階にあるカフェの窓から見える大野田重工本社都市の風景はいつもと変わらず人間と獣人で賑やかだ。昼間だというのに看板がちかちかと目に刺さるほど眩しい光量で自己主張していて、バイオ桜の花びらが風に乗ってひらひらと舞い散り、ネオン鳥居には今週末行われる予定の祭りの案内が流れている。沢山の人が歩道をせかせかと歩いており、メイン道路から少し離れた裏路地には清掃業者が車から降り、二人がかりで何か大きなものを黒いゴミ袋に突っ込んでいた。
「ルフトジウムさん程の獣人ですら気が乗らない…って。
それだけ強いってことですか?」
カンダロはこれから班全体で相手にするであろう大鎌の獣人の強さを測りかねていた。ルフトジウムはこれだよー、というように手を上にあげてサイントに目配せする。
「大鎌の獣人は先輩が前回ぼこぼこにしていた。
だから実力自体はそうでもないと予想する」
サイントがそういった横からカンダロが知ったように口を出した。
「見事に角を折られましたけどね」
「うるせぇよ…。
あれは普通にお前のせいだろカンダロ」
イラっとしたルフトジウムはコップに刺さっていたストローの先をカンダロに向ける。ヘイトを向けられたカンダロはへへ、と笑って後頭部を掻いた。
「ったく……」
「話が逸れてしまいました。
大鎌の獣人に関しての調査権限は大野田重工の了承を得ています。
特別立ち入り禁止区域以外なら身分証を提示すれば無許可で入れるとのことです。
AGSは都市警察としても機能しているからこその待遇がありがたいですね。
サイントさん、ルフトジウムさん。
ここからが本題なんですよ」
「ほう?」
「何」
「この大鎌の獣人が持っていた大鎌らしい物がとある町の監視カメラに映っていたんですよ。
今から直ぐにそこへ向かって身柄を確保しろとの本部からの指示書もあります」
「そこは?」
ずっと意味ありげに机の上に置いていたクリアファイルを開き、三枚の“カテドラルレールウェイ”のエコノミーチケットをカンダロは二匹の前に提示した。
「“ロバートロボティクス”の支配する都市ですよ」
-見慣れぬ景色、いつもの仕事- Part 1 End
いつも読んでいただき本当にありがとうございます~~!!




