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-大陸間弾丸鉄道- Part Final

「なんだったんスかあれ……」


「知らんにゃ。

 知らんし、何も知りたくもないのにゃ」


「そう……っスよね」


「問いが簡単すぎるのにゃハルにゃん。

 ……あんなもの作るの大企業しかいないのにゃ」


 ラプトクィリは目を瞑って自分のメカケモミミの上からいつものシルクハットを被るとそっぽを向きこの話題を打ち切ろうとする。ハルサも同じような気分だった。脳の奥底に眠っていた本能とも呼べるものからの危険信号のようなものが触れるなと、そう告げているようだった。二匹の目の前にぽっかりと開いたであろう巨大なクレーターの直径は少なくとも五百メートルにも及んでいただろう。クレーターの淵にはまだ水色の粒子のようなものがキラキラと光っており、そこだけ見ると蛍が沢山飛んでいるようにも見える。

 彗星のように襲来し、流れ星のように消えていった水色の光はクレーターを作った後も少しだけその場に浮かんでいたのだが、“砂漠の虎”の装甲列車が蒸発したのを確認すると直ぐにスピードを上げ、大野田重工本社都市のある方へと消えていった。


「大野田重工の作る次世代兵器を思いがけずに見ちゃった……ただそれだけなのにゃ。

 この映像はしっかり録画してあるにゃから上手いこと売ればボク達は――」


「あれ?

 こんな所に雪…?」


「これボク昔…」


「別に雪が降るほど寒くもないっスけどね」


 ラプトクィリが話している途中で寒くもなく、雪雲もないのに雪のような真っ白な物体がキラキラと降り始める。ちらほらと降る雪の頻度はまばらだったがその密度はクレーターに近ければ近いほど濃くなっているようだった。ハルサが触ろうと降ってくる雪の予測高知店に掌を上に向けて置く。しかしその手をラプトクィリが無理に降ろさせた。


「これ…!!

 ハルにゃん!!!

 絶対に触っちゃダメなのにゃ!

 早く列車の中に入るのにゃ!!」


「わ、わかったっスよ!?」


余りの剣幕に気圧されたハルサは慌ててラプトクィリと一緒に列車の中へと避難する。


「ラプト?」


「もしかして……。

 そういうことなのかにゃ……。

 いやでも…」


雪を見て明らかに顔色が変わったラプトクィリに対して説明を求めるハルサだったがラプトクィリはハルサの方を見ようともせず、掌で顔を覆っていた。


「大丈夫っスか…?」


流石に心配になったハルサはラプトクィリの肩を触ろうとする。その時いつも余裕そうな彼女が座っている椅子からカタカタと小さな音が聞こえてようやくハルサは彼女が震えていることに気が付いた。体を小さく隠すように丸まり、膝を抱いた彼女の目は座っていて焦点はまるで定まっておらず、どこか遠くを見ているようだった。


「………………」


「でも……。

 ああ、そういうことなのにゃ……?」


 ラプトクィリのそんな姿を初めて見たハルサは何もしてやることが出来ず、こういう人の慰め方も知らない狼を置き去りにして時間だけが経ち、脅威を無くなったボロボロの列車はどんどんスピードを上げていく。ちらほらと降っていた雪は直ぐに止んだが、ラプトクィリの怯えたような様子は一晩中続いていた。




      ※   ※   ※




『流石、博士です。

 大野田重工の動きは貴女の予想通りでした』


「……まぁ思ったより簡単に出したわね、っていうのが正直な感想よ。

 それだけ貴方たちが“上手くやった”っていう証拠だから誇っていいわよ」


 赤髪の雑にまとめたポニーテールを解き、ぐるぐる眼鏡を外し、アイリサは電話を聞きながら誰にも覗かれていないことを確認して窓のシャッターを降ろす。ラプトクィリが持ってきたコーヒーの匂いが部屋の中に充満しており、アイリサは少しだけ窓を開けたい気持ちに駆られていた。傭兵から送られた作戦の第二段階完了を聞いて安堵したアイリサはクシャクシャになった髪の毛を手櫛で適当に整えるとパソコンの画面に表示された画像に目を通す。


『ありがとうございます。

 我々はそのために存在しているのですから。

 しかし今回は値段もかなりのものでした。

 内訳に関しましては……』


「言い値で払うとボスの申し付けよ。

 ギャランティに請求書を送っておいて頂戴。

 暗号化されているキャッシュチップを使ってね」


『分かっています。

 報告書はまた送っておきますのでいつもの偽装アドレスを参照して頂けたらと思います。

 それとラプトクィリに仕込んでおいた視界ジャックインプラントから受け取った画像の解析は今から行う予定です』


パソコンの画面に映っている水色の彗星の画像は光量の問題で細部が写っていなかったが、ギャランティの優秀な画像解析班に回せば一週間もしないうちに細部までバッチリ写し出された写真が届くことだろう。

 コーヒーを二口飲み、慣れない苦みに顔を少し顰めながらもアイリサはなんとかそれを飲み込むと、まだ温かい湯呑を机の上に置き急須から二杯目を注ぎ込んだ。


「上手く行ってよかったわ。

 これでこの世の中のくだらない企業による支配が終わりを迎えるかもしれないのだから。

 歴史を変える第一歩を一緒に踏み出した感想は?」


『感想なんてありませんよ。

 ただ……そうですね。

 面白いなって』


「面白い……ね」


アイリサは鼻でその言葉を笑い、湯呑に注いだコーヒーから立ち上る湯気をぼんやりと見つめる。茶柱のような何かをそこに期待していたがあいにくコーヒーは答えてはくれない。


『感想としてはかなりチープな物ですが。

 しかし、今回の件につきましては大野田重工が黙っているとは思えません。

 どうやってあのような大男を――』


「ふふふ。

 私には少しインターネットや電子頭脳に詳しい知り合いがいるのよ。

 ただそれだけの話。

 また連絡するわ。

 そちらのボスによろしくね」


『……はい。

 失礼いたします』


アイリサは机の上に乗っているマキミの写真を手に取りため息をつく。


「“鍵”探しの旅もまだまだ続くのかしらね…。

 ねえ、マキミ。

 貴方一体何を見つけていたの……?」






                -大陸間弾丸鉄道- End

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