-大陸間弾丸鉄道- Part 13
「私よりジャーグと確かめ合えばいいんスよ……。
どっちが強いかとか私興味ないっスから……!」
ぼそりと呟いた文句も興奮して、イきり立っている敵にはまるで聞こえない。特大剣を両手に持った敵は背中についているブースターの噴出口から青炎のようなものを吹き出すと足の裏と天井との摩擦で発生した火花を散らしながら一気にハルサとの距離を詰めてきた。そしてその両手についている特大剣をまるでハサミのようにしてハルサを挟撃する。ハルサは挟み込まれる直前にその小さな上半身を大きく後ろへと逸らし、そのまま腹部の筋肉の勢いで両脚を蹴りだすと丁度足の先は敵の腹部に位置していた。
「うっ…」
切り取った多脚戦車の脚をも蹴り飛ばすハルサの脚力を思いっきり腹部に食らった敵は小さく呻き、その体は少しだけ浮き上がり衝撃を受けた装甲版が撓む。その体が倒れることを期待していたハルサだったが
「倒れないっスか…」
倒れそうになる体を支えるために敵の背中のブースターが一瞬だけ点火される。敵の義体は倒れない。そのまま持ち堪え、敵はにやっと笑ってハルサに向かって真上から特大剣を振り下ろした。
「ガキが……なかなか痛いじゃねぇか……ハハハ……!」
「痛みすら感じない体の癖によくいうっスよ」
兎にも角にも現状危ないのはその特大剣だけで、いい機会だと言わんばかりにハルサはアメミットの刃で敵の特大剣を受け止めた。当然ながらアメミットの十万度の熱が敵の特大剣を抵抗もなく二つにぶった切る。
「その大鎌かァ……!
俺のかわいいかわいい子分達をよくもやってくれたなァ!!」
「へへ、私の“とっておき”っスよ」
「ガキがァァ!!!」
折られた特大剣の先端が落ちて、電車の天井にカランカランと乾いた音を立てる。柄だけになった二本の特大剣を敵は惜しげもなくハルサに向かって投げつけてくる。アメミットを一振りしてハルサはその一撃を躱すとその勢いを借りて体を回し、もう一振りアメミットを敵へと目掛けて振り下ろした。しかしそこに敵の体はすでになく、背中からブースターの炎を出しながら少し遠い所から敵がハルサをじっと睨みつけている。
「なんスか?」
「お前を殺すプランを練っていてなァ………。
それで、今決まったよォ…」
「それで?」
冷めた目つきでハルサは敵の後ろの列車砲を見る。砲門はハルサが戦っているうちにすでに敵の装甲列車を狙える位置にまで来ており、あとはラプトクィリの射撃を待つだけだったが、いつまでたってもその形跡がなくハルサは少しイライラしていた。ラプトクィリに無線を繋ぎ、ハルサは小声で現況を窺う。
「ラプト、まだ射撃できないんスか?」
『それが……。
ジャーグの心臓機関が負荷に耐えられるかどうかが分からなくて。
出力を上げたらすぐに心臓機関がレッドアラートを吐き出したのにゃ。
その原因の把握にまだ少しかかりそうなのにゃ…』
「出来るだけ早くしてくれっス。
私、割ときついっスよこれ」
『ごめんにゃ!
でもあと五分待ってくれればきっといけるのにゃ!』
敵はハルサをぐっと睨みつけたまま自分の両脚、更には両手の一部を触る。すると拳は丸いボクシングのグローブのような形に変形し、脚からはバーニアのようなものが飛び出して来た。その体は人間というよりはもはや大野田重工製品のバトルマシーンやAtoZの戦闘アンドロイドにも近しいもので、兵器を無理やり義体の大きさに押し込めたといっても過言では無かった。
「わー、これがプランの一つっスか?
まるで幼児のおもちゃ箱みたいっスね」
ハルサはアメミットをくるくると回しながら鼻で笑う。
「生意気だなァ……!
だがそんなこと言えるのも今だけだぜェ……!?」
ボクシングポーズを取った敵をチラリとだけハルサは見ると、やれやれというように首を小さく振り、少しずれていたモノクルの位置を直す。
「何をしようと無駄っスよ。
たかが人間が機械の力を借りたからって戦闘用獣人の力に勝てるわけ……」
まだハルサが喋っているというのに敵は背中のブースターに脚のバーニアを吹かし、その手についたボクシンググローブのようなものを使ってハルサをぶん殴ろうとしてきた。
「!
かなり早いっス…!」
ほとんど条件反射のようにハルサはアメミットの柄の部分を盾にするようにして敵の攻撃を防いだがその行動は間違いだったとすぐに後悔することになった。敵のグローブがアメミットにくっついた瞬間、グローブに備え付けられていた小さな針から電気が流れ出し、その電気はアメミットを伝ってハルサに到達したのだ。
「うぅうああああ!!」
「ハッハッハッハァー!!
かかったなァーーー!!!
そうすると思ったんだぜェェエ!!!」
思わず悲鳴を上げた狼は電気を携えたアメミットを手放そうとするが、電気が筋肉を縮めているお陰で指はアメミットの柄から離れようとしない。何とか逃げようともがくハルサを敵が別方向から腹部をグローブでぶん殴ってくれたお陰で小さな体がすっ飛ぶ。
「うぐっ………!」
四メートルほどぶっ飛んだハルサの体はべしゃりという効果音がピッタリな程なんとも情けなく列車の天井に倒れこんだ。
「はぁ……はぁ……」
生まれて初めての電気の感覚にハルサの心臓は早鐘のように脈打ち、まるで犬のようにハルサは天井に這いつくばっていた。頬に冷たい鉄の感覚を得たおかげで、ようやくハルサは自分が倒れていることに気が付いたのだった。
「はぁ……はぁ……ふ、ふざけてるっ……ス」
刺すような痛みよりは鈍い痛みが殴られた腹部からこみ上げてきてハルサはヨロヨロとしながらも立ち上がる。しかし敵がぶん殴ってくれたお陰でハルサは何電流地獄から逃れることが出来たのだ。
「まだ立つのかァ……?
戦闘用獣人ってのは頑丈だなァ!!
まぁいい!!
俺もまだまだぶん殴り足りねぇとこだったんだよォ!!!」
普通の人間ならばあの一撃で死んでいるだろうが戦闘用獣人のハルサは持ち前の頑丈さで致命傷には至らなかった。しかし、それは苦しみが長引く事と同じでありそれを本能にも近い所で理解しているハルサは相手のペースに乗せられまいとアメミットを杖のようにしてよろけながらも次の作戦を考えていた。
「もう何をしようが遅いぜェ!?
俺とお前に残された時間はあと五分程度なんだからなァ!!
ほら、後ろを見ろ!!」
「……忘れてたっス」
嫌な顔をして呆れかえったハルサの後ろから聞こえてきたのは敵の回転する刃がまた一両列車を完璧に食いちぎった音だった。そしてその一両が消えたということは次のターゲットは今一人と一匹が足場にしているこの車両ということになる。
「あのマシンがこの車両を食らいつくすまで約五分だぜェ!!
さあ、最高の五分間にしようぜェ!!
なぁ!!!」
再び突っ込んできた敵のパンチを受け止めないようにハルサは右へと跳躍するが、ここにきてずきりとハルサの脚の傷が傷む。その痛みで踏ん張れずハルサの足がずるりと滑りその体は天井の上でゴロゴロと転がった。
「っしまったっス…!」
当然その機会を見逃す敵では無い。ハルサの頭を踏みつぶそうとその巨体が跳躍する。
「ッ!!」
ハルサは慌ててアメミットの銃口を向け、すかさず引き金を何度も何度も引く。装甲列車にはまるで刃が立たなかったが今回の敵の義体は流石に装甲列車よりも装甲が薄かったようで弾丸は装甲を打ち抜き内部へと到達する。しかしハルサの狙いは焦りからか甘く心臓や脳天を狙ったはずの弾丸は敵の腕や腹に命中しただけだった。しかし敵の攻撃体勢を崩す事は出来たらしい。ハルサの頭から少しずれた所に敵の膝が突き刺さり、天井がべっこりと凹む。
「こんのガキがァァア!!!!!」
避けられたことに対して憤怒し、吠えた敵の拳がハルサに再び向かってくる。ハルサはその拳を頬を掠める程ぎりぎりの所で避けると
「ここっス!!!」
敵のがら空きになった脚に向かってアメミットの刃を叩き込んだ。
-大陸間弾丸鉄道- Part 13 End




