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-大陸間弾丸鉄道- Part 11

 スクラップ予定の戦車が乗った貨物車両に食らいついた敵装甲列車は戦車の装甲すら紙切れのように変えていく。抵抗など皆無であるように忽ち一両を砕き尽くした敵走行車両は更にスピードを上げ列車を飲み込んでいく。


「ラプト、機関士にスピードを上げるように伝えろっス!

 そんでジャーグのおっさんは何もできねぇっスから下がってろっス!

 ついでにあんたが全員乗っ取った乗客達にも出来るだけ前に行くように伝えろっス!」


ハルサはアメミットをくるりと回し、対物ライフルの銃口を敵装甲列車に向ける。


『ハルにゃんどうするのにゃ!?』


「ラプトは敵装甲列車の分析を急げっスよ!

 その間私はアメミットで出来るだけ時間稼ぎしてみるっス!」


自分の手袋をぎゅっと引っ張りしっかりと密着させ、太ももに小刀を差し込んでサクサクと身支度するハルサに対し、ジャーグは言う。


「……無理はするな」


「なんだ。

 優しい言葉かけれるんスね。

 血も涙もない悪魔かと思ってたっスよ」


「……………」


 ハルサはアメミットをぎゅっと握りしめると汽笛の音に背中を押されるように最後尾へと向かって走り始めた。ずきりとふくらはぎから鋭い痛みが込み上げ、ハルサは思わず息を漏らす。先程の戦いでいつの間にか切っていた傷口から血が滲み出していた。


「早くケリをつけないと私がやばいっスね……」


列車を貪り食う敵装甲列車が近づくに連れその姿がより鮮明に見え始める。夜の闇に溶け込んでいた怪物の歯のようにも見える回転する刃は鉄も木も同じ物のように易々と嚙み千切る。


「っち……この距離でもダメっスか」


ハルサはアメミットについている対物ライフルを装甲が薄葬な所を目掛けて撃ったがどの弾も弾かれたり、装甲で食い止められたりして全く効果があるようには見えない。


『ハルにゃん、解析できたのにゃ!

 敵の装甲はかなりのもので、恐らく三百ミリはあるのにゃ!

 弱点は……ないこともないのにゃ。

 でもアメミットの貫通力だとどちらにせよ無理なのにゃ!』


「重工の戦車より硬いかもしれないっスよ、こいつ!」


アメミットの弾倉内に弾を送り込み、二発同じところを狙って撃ち込む。一発目が少し装甲を凹ませ二発目がそれを深くしたがこれでは穴を開ける前に弾が無くなるだろう。


「となると、近接でやるしかないっスね」


どれ程敵の装甲が硬くてもアメミットの刃が持つ十万度もの高熱を止める手立ては無い。そう信じ込んでいるハルサは貨物車両と列車砲を超え、一気に近づくが敵装甲車両前方に目のようにも見えるサーチライトがハルサを真正面から照らした。


「うっ、何……!?」


『ハルにゃん!』


ラプトクィリの警告が少しでも遅れていたらハルサは今頃列車の天井に防弾コートのお陰で死なないとは言え、青あざだらけで転がっていただろう。回転する刃を破壊されないよう、二門もの機関銃が敵の足を止めるように弾を進路上に弾をバラまいていた。更に上に乗った戦車のような砲門もハルサのいた方を睨みつけている。


「っち!」


慌てて列車砲と貨物列車の間に隠れて弾をやり過ごし、ハルサははあはあと息を荒くしながら舌打ちする。


「どうすれば……」


 悩んでいるうちにまた一両が刃に捕まり、飲み込まれていく鉄の悲鳴が響き始める。ハルサは隙間から顔を出そうとしたが、ケモミミが少しでも出ると敵の機関銃は敏感に反応し、ハルサの隠れている所に鬼のような数の銃弾が飛んでくる。ケモミミを意識して出来るだけ真上に向け、ぎりりと歯軋りをしてハルサは考え込む。咄嗟に飛び出してアメミットのライフルで敵の機関銃を潰す、これがベストアンサーのようにも思えたがハルサは自分の脚から滴る血とスタミナとを瞬時に計算して無理だと判断する。


「体力が無いのがマジで問題っス……」


大きく息を吸って呼吸を整えようとするが、ハルサの小さな体の小さな心臓はバクバクと強く脈を打つだけで一向にスタミナが回復する気配は無かった。万事休すかと考えたハルサは列車の食堂から食料を奪い、ラプトクィリと共に降りる決心を固め始める。こんな所で無駄死は避けたいからだ。


『ハルにゃん!

 いいこと思いついたのにゃ!』


逃げる前にできるだけのことはやろうと思い、何とかして対物ライフルの狙いをあの機関銃と戦車砲に付けれないかと思案していたハルサにラプトクィリが思いついたように提案してきた。


「どんな!?」


『ボク達は列車に乗ってるのにゃ!

 つまり敵も線路の上にいるってことにゃ!』

  

「ナゾナゾとかどうでもいいっスから、サッサと続きを言えっス!」


『今からプランを伝えるのにゃ!

 耳の穴かっぽじってよく聞くのにゃ!」




   ※  ※  ※




「予備のパーツがあるならはよ言えっスよ。

 心配して損したっス」


「聞かれなかったもんでな」


「アホっスか」


 腕を組んで、ハルサは呆れたとため息を一つつきながらジャーグの個室に置いてあったスーツケースを蹴る。ずらりと並んだデジタルロックの表記が衝撃で一瞬崩れ、鍵が外れると蓋が自動で開く。中にはジャーグの予備パーツがずらりと並んでいた。


「さっさとそれ付けろっス。

 もうあんまり時間がないっスよ」


ハルサはイライラしながら壁にかかっている時計を見る。敵装甲列車が一両を喰うのにかかる時間は約五分。それまでに準備を整えなければならない。


「うるさい。

 静かに待て」


ジャーグは自分の腕を外すと新品の腕を新しく付け直し、手を閉じたり開いたりして調子を確かめると小さく頷いて立ち上がる。


「終わったっスか?」


「今からだ。

 それに、これは着替えだ。

 肉体が無いとは言え、一応女の子でもある君がいては着替えれない」


ハルサは「はぁ?」という顔をしながらも分からないでもないな、と考え直しボロボロに穴の開いた扉から外に出る。


「……クソ面倒なやつっスね……。

 私はもう先に行ってるっスから。

 さっさと来いっスよ」




    ※  ※  ※




列車砲の側でハルサとジャーグはラプトクィリからの提案を聞き、少し抵抗したい気持ちもあったが一人と一匹はおとなしくラプトクィリの提案を受け入れた。


「しかしまぁ……。

 鬼っスね」


『そうかにゃ?』


ジャーグは自分の腕についているパワーユニットがきちんと作動するかを確かめ、拳と拳を突き合わせる。


「だが、これしかないな。

 やるだけだ」


大きく息を吐いてハルサはジャーグから一歩離れると目を見ずにぼそりと


「しっかりしろっスよ。

 私の命を懸けるんスから」


吐き捨てると、列車砲の角にゆっくりと移動する。


「死ぬな」


ジャーグは自分の目の前で神に祈るようなポーズをするとハルサの上にそれをバラまくようなそぶりを見せた。神など信じていないハルサはその行動に意味を見出せず首を少しだけかしげ、アメミットを起動させる。


「……もっと祈れっスよ。

 それで私が死なないなら安いもんス」


ハルサはアメミットの柄を強く握りしめると角から一気に敵の機関銃と戦車砲の睨みつける戦場へと駆け込んでいった。




                               -大陸間弾丸鉄道- Part 11 End

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