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-大陸間弾丸鉄道- Part 6

「ラプト、あいつらの様子は分かるっスか?」


「ダメなのにゃ〜……。

 呼びかけても返事はないし、あっちからかけても来ないのにゃ~……。

 列車の監視システムはダウンしてるし、状況がまるで掴めないのにゃ……」


 ラプトクィリは列車のネットワークに繋がっている自分の耳から伸びたコードを格納し、おとなしく首を左右に振る。ハルサは腰に手を当ててアメミットを地面にさして立てかけると鼻から小さく息を吐いて目を細めた。


「ならしゃーないっスよ。

 とりあえずこの作戦通りに動いてみるしかないっス。

 あいつも傭兵や兵士の端くれなら自分の立てた作戦に従うんじゃないっスか?」


 砂漠の虎の追手からギリギリで逃げた二匹は見事に姿を晦まし、列車の最後尾でジャーグから転送された作戦概要を読み漁りすでに理解していた。かなり無茶苦茶な内容だったのだがハルサは自分の力量の範囲内で可能な限り頑張るとだけ返事を返し、二匹は今自分達に出来ることのみを淡々と行っていた。


「まあそれもそうなのにゃ。

 状況がわからないからと言って敵装甲列車を放っておくわけにもいかないのにゃ。

 どちらにせよ敵を排除しないわけにはいかないのにゃからやることをやるだけにゃ。

 さ、ハルにゃん我々はさっさと行動に移るのにゃ」


 ラプトクィリがそういって立ち上がり、パソコンを閉じたと同時に二匹は列車の前の方から響いてきた爆発音に一瞬首をすくめた。すでに開いていた窓から顔を出したハルサがすかさず空気中に溶け込んだ火薬や硝煙の臭いを嗅ぎ分け、併走している敵装甲列車の砲門から煙が昇っているのを確認するとその事実をラプトクィリに伝える。


「爆発は敵装甲列車からの援護みたいっス。

 敵装甲列車からの援護があるっていうことはあいつはまだ生きて戦ってるってことじゃないっスかね?」


「トドメをさされた音かもしれないのにゃ。

 あいつが戦死したとしても我々はこの作戦をこなさないといけないのは間違いないのにゃ。

 ハルにゃん、準備はいいかにゃ?」


「いつでもおっけーっス」


 モノクルと首輪のスイッチを入れ、ホログラムの仮面を被ったハルサはラプトクィリのカウントダウンと同時に列車の天井をアメミットで切り抜き、ジャンプして列車外へと飛び上がった。列車のスピードは次第に落ちてきているらしく、先ほどまで強く吹き付けていた風は優しくハルサの体重といえどその動きを阻害する程の物では無くなっていた。


『ハルにゃん敵装甲列車を止めるのがこの作戦の肝なのにゃ。

 そのためならある程度の殺人と破壊は許容されるのにゃ』


「分かってるっスよ。

 あの装甲列車の援護射撃があるとまともに敵のボスをぶっ飛ばせないっスからね。

 “ギャランティ”にも迷惑はかけないようにするっス」


ハルサはつけている手袋を引っ張って整え、太もものバンドに小刀がしっかりと装備されているのを確認する。


『ジャーグが一番厄介な敵ボスを引き付けてくれている間がチャンスなのにゃ。

 アメミットで敵機関車の動力部を破壊し、速やかに脱出するのにゃ!

 道に迷わないように逐次報告はするにゃけど、情報がそもそも少ないのにゃ。

 ドアはボクがクラッキングして開けるにゃから心配はいらないのにゃ~!』


「じゃあ作戦開始といくっスか!」


 列車の天井をハルサはまるで平原を走る虎のように、森を駆ける狼のように軽やかに大鎌を持って移動する。敵装甲列車はまるでこちらに気が付いてはおらず、定期的に銃撃を加えていた。ジャーグがまだ戦っているのか、列車の乗客が抵抗を起こしたのかのどちらかだろうがハルサは気に留めずただ進む。特に妨害という妨害を受けずにハルサは敵装甲列車に飛び移れるような距離にまで近づくことが出来た。ジャーグが戦っているのはここから五両ほど先の車両で、数多くの銃口がその車両を蜂の巣に変えていく。


『さっさと飛び移るにゃ!』


「うるさいっス!

 結構怖いんスからこれ!」


 ハルサはラプトクィリにそう吐き捨てると、軽く後ろに下がって助走をつけ、敵装甲列車へとジャンプした。鋼鉄の天井はハルサが乗ったぐらいでは音も立てず、ハルサのステルス性を維持してくれる。すかさずしゃがんだハルサは天井を軽く指でなぞったあとに拳で軽く叩いて鉄板の厚みを大体で計測する。


「百ミリってとこっスか。

 アメミットなら楽勝っスね」


 ハルサはアメミットの出力を少し上げ、その刃がさらに熱を持つのを十秒程待つと優しく刃の先を装甲へ当てた。まるで豆腐に箸やフォークが刺さるのと同じように何の抵抗もなくアメミットの刃は装甲を十万度の熱で溶かし、すぐにハルサが入れる程の穴が開く。


「お邪魔するっス……」


小声で挨拶して穴をくぐり、スタンと降り立ったハルサの先に待っていたのは全身を戦闘用のパーツで作られた戦闘用ロボット三体だった。ロボットの目がハルサを捉え、次額についているステータスランプが赤に変わった。


「あー……やべっス……」


『あちゃー……』


「侵入者を発見。

 排除します」


 直ちに戦闘態勢に移行したロボットの腕の先端が座右に開き、中から伸びてきた銃口から銃弾がハルサ目掛けて吐き出された。大野田重工製の三台のロボットは情報を共有し合い、一糸乱れぬその動きはハルサの動きを制限するのに完璧な役割を果たしていた。


「ラプト!

 あいつら、止めれないっスか!?」


『戦闘中は全機体がローカル通信に切り替わるから外部からは手を出せないのにゃ!

 おのれ大野田重工にゃ~~!

 アナログな方法でこのボクを……!』


ハルサは銃弾を腰を低くしながら避け、慌てて廊下の壁に隠れ機会を伺う。


『しっかしやらかしたにゃ〜、ハルにゃん?』


「そんな一筋縄で行くような相手じゃないのは分かっていたっス!

 けどまさか、三体ここにいるとは思わなかったっスよ~!」


 廊下の壁に跳弾した銃弾はそのまま置いてある空の木箱やボロボロのソファーに突き刺さり細かい埃が空気中に舞う。恐らく磨いていないであろう床は油のようなものが広がっておりハルサの足を取ろうとする。


「この銃弾ならコートで耐えれるっスかね……?」


ハルサは落ちている銃弾が一般的なハンドガンと同じ大きさであることを確認すると、今着ているコートの襟にまでチャックを伸ばして上にあげた。


「でもめっちゃ痛いんスよねぇ……」


 ハルサの着ているコートは防弾仕様になっているが衝撃が無いわけではない。中に入っている薄くて固く布のような性質をもったしなやかな金属板が弾は通さないが、運動エネルギーを全て消してくれる訳ではないのだ。

 躊躇うハルサの目に飛び込んできたのは先ほど自分が切り抜いた円形の天井装甲版だった。


「アレ使うっスか……」


 アメミットの対物ライフルに弾がしっかり装填されていることを確認し、相手が撃ち止めたその一瞬でハルサは物陰から飛び出す。が、油に足を取られて前のめりにこけそうになり慌てて開いている右手を地面についたが勢いのついた体はそれでは止まらない。ハルサは無防備にもその体を三体のロボットの前にさらす結果になってしまった。


「くっ……!」


そのまま地面を蹴り飛ばし、体を空中で一回転させロボットへとさらに距離を詰める。そして図らずして両脚の隙間にロボットの頭がすっぽりと入ってきてしまったのだった。傍から見るとウラカン・ラナ・インベルティダのような形になってしまった。


「こんの……!」


すかさずハルサは上体を逸らし、アメミットの勢いも借りてロボットの一体を地面へとなぎ倒す。しかしロボットが倒れるまでの間にハルサは倒れるロボットから離れて片手を地面にまた付け、体勢を整えつつ二体の頭を目掛けてアメミットの対物ライフルの引き金を絞った。撃った時の反動を借り、アメミットの刃を倒れるロボットの首の前に動かす。


『おーお見事にゃ!』


ハルサの腰まである長い髪の毛がふわりと元あったところにまで戻ると破壊された戦闘用ロボットは床に散らばっていた。






               -大陸間弾丸鉄道- Part 6 End

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