-大陸間弾丸鉄道- Part 5
一人と二匹は一号車とは反対方向に隠れながら進み、何とか盗賊達の監視の目が無い車両に辿りついた。先程の車両からはあまり離れてはいないが、なぜかこの車両には客も盗賊もおらず一人と二匹は少しだけ落ち着くことが出来た。
「その大鎌……かなりの獲物だな。
靭やかな輝きはかつて世界を救ったとも滅ぼしたとも噂される超巨大空中戦艦の装甲をそのまま削って作り上げたのか?
その様な事が出来る技術力を持った企業や組織は少ない。
積んでいる機関部はその小ささで戦車のエンジン並みの出力をしている。
もはやパーツの類にも匹敵しているぞ、狼少女よ。
――私の義手もそういう素材から出来ている」
安心して話せる所に辿り着くとジャーグはペラペラとアメミットの素材について自分が予想しているであろうことを話し始める。
「はぁ」
ハルサはそんなこと言われてもちんぷんかんぷんな訳で、ただ飼い主だったマキミ博士から貰った武器に愛着がありそれをずっと使っていただけなのでジャーグがべらべらと話していた情報はまるで役に立たない。その価値を理解出来ないハルサにジャーグはさらに呆れたような表情になり、それを見たハルサは内心少しイラッ、としながらも堪える。
「ふむ……。
君は少し幼すぎるようだな。
まぁいいラプトクィリとか言ったな?
作戦を練るぞ」
「にゃ?
このままあいつやらが列車を去るのをここなら待っていればいいんじゃないのかにゃ?」
ラプトクィリの楽観的な言葉にジャーグはハルサにも見せたのと同じような呆れた表情をして見せる。ラプトクィリも内心イラッ、としたがハルサと同じく堪えて見せる。
「あいつらはそんな簡単に去らないだろう。
盗賊団“砂漠の虎”といえば襲った街や列車の荷物を奪った後快楽で人を殺す事で有名だ」
「皆殺し――って事っスか?」
オズオズとそう尋ねたハルサにジャーグは半ば呆れたような表情をしながらもお決まりのセリフを言う。
「ふむ、一人は幼く一人は無知か……。
まぁいい。
いいか、皆殺しだとこいつらの噂が広まらないだろ?
生存者を一人か二人だけ必ず残すのさ」
「え、でもこんな盗賊団知らなかったのにゃ。
ボクの情報網から逃れるなんて相当なのにゃ」
ラプトクィリは無知の汚名を返上する為に食ってかかる。ジャーグは義手の根本の弁を回し、出力の構成を変えつつ二、三度ぐーぱーして動きを確認すると自分の義手の中からタンブラーを取り出した。
「それもそうだろう。
彼らは今まで大企業のコンボイや列車には手を出さなかったからな。
“大野田重工”の支配する地域で“大野田重工”に属していない企業を重工は守らない。
関与していないからニュースにも、情報網にも流れない。
企業の体質をうまく利用しているとも言えるのか?
それこそネットの掲示板ぐらいにしか情報がない連中だ」
「しかし今回、“カテドラルレールウェイ”の列車を襲ったのにゃ」
ジャーグは少し視線を下げ、タンブラーの入り口を開けたり閉めたりする。
「……ボスが変わったらしい。
今まで“砂漠の虎”のボスは四十代のおじさんだったんだが今回の放送ではかなり若い声をしていた。
間違いなくまだ二十代になったばかりの無茶の仕方だ。
それに何やら変な宗教観も持っているらしい」
「祈れ……って言ってたのにゃそういえば。
神のご加護があらんことをーみたいなのも」
そこまで聞いてハルサは我慢できずにアメミットを振りかぶり、壁に突き刺した。
「そんなことどうでもいいっスよ。
あいつらの狙いとか、ボスがどうとか関係ないっス。
さっさとこいつらみんなぶっ殺せばいいっスよ」
「ああ、その通りだ。
間違いなく我々は殺される。
この列車から彼らを抹殺しなければならないので、その作戦を練った。
その為には……」
「みぃーつけたぁー!!!
そこにいるな貴様ら!!!!」
ジャーグが説明しようと人差し指を立て、それを壁に貼ってある列車の地図を向いた時、天井から背筋がゾワッと寒くなるような声と共に天井を構成していたであろう何枚もの木材と鉄板が部屋の中へと落ちてきた。
「もう見つかったか」
何枚もの板材と鉄板を押しのけ、中からぬっと黒い影が一人と二匹の前に現れる。
「貴様らよくも俺の部下を殺し、俺の命令を無視したな?
一号車に集まらないものは皆殺し、って言っただろ!?
聞いてたよなぁ!?」
その頭に頭髪は無く、代わりに鉄のような物が頭皮を覆っている。両目にはサイバネが入っており時折赤く点滅している。頬には虎の入れ墨が頬から首にまで伸びており、その右腕にはチェーンソーのような武装がついていた。その左手はまともなようにも見えるが間違いなく武器が仕込んであるのだろう。それを証拠に腕のところには放熱板がついておりレーザーの類、もしくはパイルバンカーのような近距離火力型の何かが装備されていることを示唆していた。“砂漠の虎”のマークが入った分厚いジャンパーの前は大きく開いていてそこから見えるおへそは不自然なほどきれいな形をしている。両脚はかなり太く、ゴツゴツとした突起がズボンを押し上げており、その両脚もサイバネティックに変わっているのが簡単に想像できた。
「二人で戦えば首取れるんじゃないっスかね?
どうするっス?」
アメミットを構えたハルサといつでも逃げれる体制のラプトクィリの二匹と敵ボスの前にジャーグが立ちはだかる。
「狼、猫、全速力で逃げろ。
ここは私が引き受ける。
先ほどの作戦内容は猫、貴様のパソコンへと転送しておいた。
後で確認してその通りに動け、いいな?」
「いつの間に!?
わ、わかったのにゃ!」
「大丈夫なんスか?」
「構わない。
必ず作戦通りに動け。
わかったな?」
二匹はその場をジャーグに任せて列車の最後尾へと逃げ始めた。
※ ※ ※
「で?
貴様一人でどうするつもりなんだァ……?」
にやにやと歩いてくる敵のボスを相手にジャーグは構えを取る。目に組み込まれたコンピューターが敵義体の装備を解析する。敵の義体は全て高価な戦闘用義体だ。沢山の武装が組み込まれておりその出力はジャーグの義体を軽く凌駕する。
「……私は時間稼ぎをすればいい。
貴様の命運、ここで終わらせてもらう。
そのために貴様と戦わせてもらうぞ、ミシュエ・ホーラル。
今から三年前の事を忘れたとは言わせない」
コンピューターは勝算を三割と見積もっていたが、ジャーグは体の内側から沸々と煮えたぎるような感情に突き動かされていた。“砂漠の虎”を皆殺しする事だけを目指して、彼は死の淵から返ってきたのだ。妻と娘を殺された三年前のことを思い出し、目の前に立つミシュエを殺すことだけを目標にして彼は今まで生きてきたのだ。
「俺の名前を知ってる……。
さらに三年前……お前かつての“生き残り”だな?
三年前かぁ……わりぃ、全っ然覚えてねーわ」
ミシュエはにやっと笑ってジャーグのことを頭の先から足の先までじろじろを見渡した。
「――だろうな。
お前からしたら日常生活だもんな。
だが私は覚えているぞ!!
何が起こったのか一分、一秒全てを!!」
「へーぇ……?
なら俺に思い出させてくれよ!」
「言われなくとも!!」
-大陸間弾丸鉄道- Part 5 End
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