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-大陸間弾丸鉄道- Part 4

「そりゃ反撃できない訳っス……」


 襲撃によりスピードが落ちたとは言え、時速百キロ余りで走る列車の天井から飛び出そうとしたハルサだったがあまりの風の強さに二の足を踏む。コートが前面から風を受けて膨らむとハルサの軽い体重では吹き飛んでしまいそうなのでコートのファスナーを閉じ、万全の体制で外に出たハルサは燃え盛るこちら側の装甲列車を見て一人で勝手に納得する。本能的な嫌な予感が的中してしまったというわけだ。

 “カテドラルレールウェイ”の用意する装甲列車をもってしても今回の盗賊団には敵わなかった、ということはもし最悪の場合“カテドラルレールウェイ”の所持するLA(超巨大兵器)が出てきてもおかしくない。思ったよりもまずい状況を把握したハルサが列車の中に戻ろうとしたとき、列車全体に大音量で車内放送が入った。


「お客様野郎に告げるぜ!

 この列車は俺達“砂漠の虎”が支配した!

 俺達の狙いはこの列車のお宝なのは理解しているよな!?

 全員貴重品と武器を持ってこの列車の一号車に集合しやがれ!

 集まらない奴は遠慮なく殺す!

 問答無用で殺す!

 この列車の車掌と運転士以外の戦闘員は既に全て殺した!

 逆らうやつは全て殺すから無駄な抵抗をするんじゃねぇ!

 お客様野郎にどうか神のご加護があらんことを!

 がっはっは!!」


 品のない放送になんとも言えぬもやもやとした感情を覚えたハルサは自分の開けた穴から再び車内へと戻る。そんなハルサが見たのは放送を無視して商売道具でもあるカスタマイズされたノートパソコンを隠すラプトクィリの姿だった。


「何してるんスか……」


「ボクはハルにゃんと違って戦闘用獣人じゃないのにゃ。

 本来のボクの役目はハルにゃんの援護。

 だからその道具を隠しているのにゃ」


ラプトクィリは銃弾でボロボロになった椅子のクッションを外し、その置くに立てかけるようにしてパソコンをしまい込む。


「バレたら殺されるんじゃないっスか?」


「バレなきゃいいのにゃ」


「そういう問題じゃないと思うんスけどねぇ…」


ひそひそと小声で話しつつ、ラプトクィリはクッションをしっかりと元の位置に戻す。


「喋らずに進め!

 死にたいのか!?」


 ぞろぞろとハルサ達の部屋の前を大勢の客が怯えながら移動する音が聞こえる。怒鳴りつける強盗の声、子供が恐怖から泣き喚き、それを母親があやし、その母親を強盗が銃口を向けて脅しているのだろう。時折銃声が混じり、その後は一つ人間の声が消えていく。


「神のご加護があらんことを、ってな」


強盗団が神のご加護と言っていることに対してハルサは鼻で笑いそうになりながら自分の持つアメミットをどうするか頭を捻る。


「……アメミット持っていったら取り上げられそうっスよね」 


「それは置いていったほうがいいかもしれないのにゃ」


「でもあとからバレて殺されそうになるのなら持っていってしっかりと取り返すチャンスを伺ったほうがいいかもしれないっス」


 自分の商売道具を隠しきったラプトクィリは刃がむき出しのアメミットを見て少し考え始める。しかしそれもドアが二人の強盗によって蹴破られる五秒間だけだった。穴だらけのドアを開けた強盗の二人はハルサ達に銃を突きつけて大声で叫ぶ。


「てめぇら獣人がニ匹で何してやがる!!

 さっさと出て来て一号車に移動しやがれ!

 お前の……なんだその大鎌は!?」


 アメミットを発見した強盗はぎょっとして隣の相棒へと指示を仰ごうとしたが、それは出来なかった。なぜなら隣にいた相棒の体は木で出来た壁を突き破って出てきた鋼鉄の腕をつけた義手の男に吹き飛ばされていたからだ。吹き飛んだ側の強盗の体は割れた窓ガラスから外へと投げ出されすぐに見えなくなる。


「なんスかこいつ!?」


「何なんなのにゃこいつ!?」


「なんだこいつ!?

 お頭ぁ!

 獣人ニ匹とアンドロイドが一体まだここに……ッ!?

 こいつら逆らいやがっ――!?」


 闇雲にアサルトライフルを撃ちながら後退りする生き残った強盗の掌から無線機が落る。その無線機を足で踏みつけて破壊した義手の男は弾を装填しようとしていた強盗の胸倉をつかむと、再び窓から外へと投げ捨てた。


「うわああああああああああああ!!!!!!」


強盗の悲鳴はゴン、と何か柱のようなものにぶつかった音とともに消える。


「こいつ……!

 隣にいた義手の野郎っス!」


「え、こいつがかにゃ!?」


「ほう驚いた。

 こんなに小さな戦闘用獣人と……クラッキングに特化した獣人か。

 貴様らなぜ武器を……ああそういうことか。

 “ギャランティ”に属する獣人ってことだな?」


 二匹と一人の周りにいた一般人達は我先に一号車へと走って向かう。ハルサの持つアメミットと男の戦闘に特化した義手を見て今からここで戦いが起こるということを予想できない危機管理能力のない乗客は乗っていなかったということだ。周りに人がいなくなったことでハルサはこの場をフルに使って戦う方法を思考する。男は何やら拳法のようなポーズを取り、ハルサへ向かってその拳を向ける。


「ラプト、下がるっス。

 ここは私が……」


アメミットを構えたハルサを男は上から下までじっくりと目を細めて嘗め回すように眺める。その目も恐らく機械で、ハルサの鼓動や呼吸、体温など様々なものがその視界には提示されているのだろう。視線にたじろぎそうになったハルサだったが、男の視点はハルサの首についている一つの紋章の所で止まった。


「やめた。

 君と戦うと俺に被害が大きく出そうだ」


「……今ここではヤり合わないって事でいいっスかね?

 それなら私も助かるっス」


男は構えを解くと、手足の義手の表面に出ていた放熱板が格納される。ハルサも警戒しつつアメミットの構えを解き、男から少し距離をとるために後ろに下がる。


「君の持つその大鎌――何万度もの熱量だ。

 “遺跡”から採掘された機関を搭載しているのか?

 驚異的なメカニズムだ。

 そんなことが出来るのは大企業かもしくは“ギャランティ”だけだな。

 武器がそれだけの品物な上に君の体からは動きの無駄が見つからない。

 弱点はスタミナとリーチの短さぐらいだ。

 違うか?」


「さあ、どうっスかね」


ハルサはアメミットを肩に担ぐと、男から視線を逸らす。これ以上面と向かっていたら戦法と年齢、好きな食べ物までバレてしまいそうだ。


「嘘もへたくそだがまあこれは年齢と共に上手くなるだろう。

 とにかく君と私は偶然事件に巻き込まれた乗客同士、というわけだ。

 私の名前はジャーグ。

 ジャーグ・ジャーガード・ジャーグージだ。

 “ロバート・ロボティクス”支配地域出身のしがないセールスパーソンだ」


「ボクはラプトクィリにゃ。

 こっちのちっこいのはハルサ。

 同郷者と会えるとは思ってもみなかったのにゃ」


 ラプトクィリとジャーグは握手を交わし、続いてハルサにもジャーグは握手のためか手を出して来た。しかし大野田重工出身のハルサはその差し出してきた手を無視して窓から少しだけ頭を出して外を見る。敵の装甲列車は一号車付近を走っており、その銃口は全て客車側を向いていた。


「敵かなりの量っスよね。

 協力体制を築くのはいいっスけど目的はなんスか?」


ジャーグはおやおやと首を竦め、掌を上に少しだけ向ける。そのままドアから廊下の状況を確認し、安全を確認するとハルサ達の方へ向き直す。


「ここは危険だ。

 安全な場所を見つけてそこで話そう」






                -大陸間弾丸鉄道- Part 4 End

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