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-大陸間弾丸鉄道- Part 3

「めちゃめちゃ速いっスね!?

 本当にこれ蒸気機関車なんスか?」


「そうだにゃ。

 まあ蒸気は蒸気でも半永久機関と蒸気タービンを組み合わせた――」


 ハルサは何やら興奮しながら窓の外をビュンビュンと通り過ぎる景色を目で追いかける。本社都市を出発してすぐに速度は最高速度に達し、列車は本社都市を二十分足らずで脱出した。都市から出ると外は化学物質に汚染された緑色の大地と青い空が広がっていた。人間や獣人が触れると即死するような汚染物質の塊があちらこちらに散らばっているにも関わらず植物だけはその物質を喰らい栄養として適応し育っていた。小さな動物の姿すら見えずその大地はまるで死んでいるように見える。


「で、遺跡から取り出された過去の異物を使用して作り上げたのがこの蒸気機関車ってワケ。

 全部で二百台にも満たない量だからかなり貴重なのにゃ」


どや顔で説明していたラプトクィリの説明の九割九分九厘を無視したハルサは自分が抱いた疑問を普通に口にする。


「見たことがない植物ばかりっス。

 こういうのってどうして都市部にはないんスかね?」


「聞いてたのかにゃ……?

 まあいいのにゃ。

 そんなの簡単……ふぁ……にゃ。

 適切な環境にならないからにゃ。

 ふぁ……ハルにゃんボクは早起きして眠いにゃから少し寝るのにゃ……」


「えー!

 起きてっス~!

 今やっと旅が始まったばっかりじゃないっスか~!」


「ボクの説明を無視したくせになんなのにゃそれ……。

 勝手に一人で歩き回ればいいのにゃ……。

 それじゃお休みにゃ」


 ラプトクィリは帽子をとって、座席を伸ばしてベッドを作りごろりと横になる。ハルサは話し相手がいなくなることに唇を尖らせたが本当に疲れているようにも見えるラプトクィリが寝るのを邪魔するわけにもいかず大人しく一人で外を眺めることにした。――のだが流石に一時間も外を見ていると景色も植物と山と空だけになり退屈になる。


「くそ暇っス……」


ハルサが横を見ると一時間もの間静かに眠るラプトクィリがいる。朱色の髪の毛と朱色のまつ毛を持つ彼女が眠る姿は実年齢よりも遥かに子供に見える。まるで猫のように丸まって寝ている姿は本物の猫のようだ。


「…………」


ハルサは眠るラプトクィリの顔を見て、そのあと頭についている金属の耳にゆっくりと手を伸ばしてみる。随分と前から存在は知っていたのだが実際何に使っているのかとても気になっていたハルサは好奇心を抑えきれなかった。


「――ハルにゃん。

 なーにいたずらしようとしているのにゃ」


あともう少しで指先がその耳に触れると言った所でラプトクィリはぱちりと目を開けててハルサを睨みつけてきた。


「わーー!!

 び、びっくりしたっス!」


「それはボクのセリフなのにゃ。

 全くツカにゃんと同じことしようとしないでほしいのにゃ」


「いたずらなんてしようとしてないっス!

 金属の耳が気になったから触ろうとしただけっス!

 わ、私列車の中を見てくるっス!」


「全く……」


 ハルサは上に羽織っていた茶色のコートを一枚脱いで、列車の座席の上に乱雑に放り投げると慌てて個室から出た。


「起きてるなら起きてばいいのに……。

 ラプトは意地悪っス……」


 個室の外に広がる長い廊下の地面はふかふかの絨毯のようになっており“カテドラルレールウェイ”のロゴにも使われている金色の蔦のような植物が描かれている。かなり贅沢に見える壁は間違いなく高価な木が使われており、火のホログラムがついたランプが穏やかな光を発していた。この列車は列車特有のガタンという音がせず、揺れもほとんどない。とりあえず先頭車両へと目掛けて歩く前にハルサは壁に付いている列車案内表を熟読する。


「展望車とかそういうのは無いんスね。

 なんかまともなのは食堂車とシャワー車ぐらいっスか。

 あとは全部客室……。

 えー……マジで部屋でゆっくりするしかないんスねこれ。

 食堂室にある売店でなんか買うぐらいしか楽しみがないっスね……」


 看板の下には運動不足解消のために列車の端から端まで歩くことを推奨する文章が書かれていて、同時に列車の接合部は特に気を付けるようにとのお達しだった。展望車から外の景色を眺める事を楽しみにしていたというのに展望車自体がないのならお話にならない。諦めて部屋の中に帰ろうとしたハルサだったが、同じ車両の別個室にいるであろう人間と目が合ってしまった。


「……何見てるんだ、獣人」


 その男はサングラスをかけ、スーツを着ていた。スーツの下には明らかにそれとわかる防弾チョッキを着ており、長袖と長ズボンでサイバネに変換してある腕や脚を隠そうとしているのが見て取れる。素人目線にはこの男がサイバネの手足を持っているなど到底わからないだろう。しかしハルサには鋭い嗅覚があり、その嗅覚がサイバネ特有の油の匂いをしっかりと捉えていた。油の匂いはサイバネを使用している人間や獣人全員から漂ってくるためいいとして、それよりもハルサがもっと気になったのはうっすらと火薬と血の匂いも男から漏れ出していた事だった。


「…………?」


 普通の人間や獣人からは香って来ない匂いに不信感を持ったハルサはとりあえず言葉が分からない振りをして首を傾げてみせ、そのままくるりと踵を返して部屋の中へと戻る。相手もそこら辺にいる知能指数が低い獣人だと思ってくれたようで特段気にすることなくハルサから目線を離し、自分の部屋へと帰っていった。


「およ。

 もう帰ってきたのかにゃ」


「ラプト……。

 なんかやべーやつがいたっス……」


「どういうことにゃ?」


 匂いの事をラプトクィリに話したハルサだったが、ラプトクィリは気にするな、とだけ言ってまた座席の上に横になる。


「“カテドラルレールウェイ”は世界で一番、二番を争うほど安全な移動手段なのにゃ。

 社内には常に戦闘用獣人が待機しているし、車掌たちも戦闘訓練を受けたエキスパートなのにゃ。

 だから放っておけばいいのにゃ」


「ならのんびりするっスか……」


ハルサも考えすぎだろう、と自分で自分を納得させる。ツカサがしこたま日常生活品を詰め込んだキャリーケースの中からお菓子を取り出し窓をディスプレイに切り替え、無料で見れる映画をのんびりと見始めた。




     ※  ※  ※




 ドスン、という鈍い爆発にも似た音とビリビリとした衝撃波がシャワーを浴びてすやすやと眠るラプトクィリを揺すって起こした。


「何事にゃ……」


眠い目を擦って起きたラプトクィリは廊下が何やら騒がしいのに気が付く。


「何事だ!?」


「盗賊団です!

 盗賊団が現れました!」


「何をやっている追い払え!

 目にものを見せてやるんだ!」


「それが……うっ!」


「おいしっかりしろ!!

 敵はどこから来るんだ!!

 衛生兵!

 衛生兵を呼べ!」


バタバタと列車の関係者達が走り回っていて、その騒がしさはまるで小学校の休み時間のようだ。ラプトクィリは上の段で眠るハルサを揺すって起こす。


「んん……なんスか?」


眠気眼を擦りながらハルサは大きなあくびをして体を起こした。鋭い犬歯が暗い部屋でもチラリと覗く。ツカサとの血の繋がりを改めてラプトクィリは認識すると共に今得た情報を全てハルサに与える。


「何やら爆発音のようなものが聞こえたのにゃ。

 それに盗賊団とか言ってたのにゃ。

 ハルにゃん万が一のことを考えて戦闘準備しておいたほうがいいのにゃ」


「ふぁ……。 

 装甲列車もあったんスよね?

 じゃあ大丈夫っスよ……おやすみっス……。

 せっかく三食団子をしこたま食べる夢だったんスから……」


 また布団に戻りそうになるハルサの腕をつかみ、ラプトクィリは無理やり布団からハルサを引きずり出していつものコートを鞄の中から引っ張り出し、眠い顏のハルサに着せる。


「もーなんなんスか……」


「敵にゃ、ハルにゃん。

 一応襲い掛かられてもいいように準備だけでもするのにゃ」


「了解っス……」


ハルサはようやく目が覚めてきたようでリモコンのスイッチを押して窓をディスプレイから窓に戻した。


「!?」


「やべえのにゃ……」


 真っ暗な外の景色が広がるはずの外には景色ではなく、十メートルほど離れた横の線路を同じ向きに走る真っ黒な装甲列車の銃口があった。その銃口の上にはガラス窓からこちらを見ている二つの男のものにも見える眼があり、その眼ははっきりとハルサを見据えていた。


「ラプト、伏せるっス!」


「にゃー!」


ガガガ!と銃口が発火し実弾が部屋の中へと飛び込んでくる。防弾仕様じゃないガラスが粉々に砕け散り、高笑いする相手の声と吹き込む風、びりびりに破れたカーテンが部屋の中を荒れ狂う。横を走る装甲列車はさらにスピードを上げ先頭車両へと向かっていく。それと同時にこちら側の列車のスピードがゆっくりと落ち始める。他の客の悲鳴が聞こえ、また爆発音と閃光が部屋の中からもはっきりと見てとれた。


「いきなり撃ってくるとか反則っス!」


「無法者にはルールもへったくれもないのにゃ!」


部屋の中の電気が消えたことで二匹の姿が見えなくなったからなのか銃は撃つのを止め、横の客車への機銃掃射に移る。真っ黒な横を走る装甲列車の側面には髑髏のマークが描かれていた。敵の装甲列車はさらにスピードを上げ先頭車両へと向かっていく。


「安全で安心なルートじゃなかったのかにゃ!?

 おのれ、カテドラルレールウェイだましたのにゃー!」


「なんでこっちは撃ち返さないんスかね!?

 ラプト、少し見てくるっス!」


「分かったのにゃ。

 ボクは荷物置き場の中に隠れるのにゃ。

 ハルにゃん、無線は常にオンにして仮面ホログラムと声を変えるのも忘れないようにするのにゃ!」


ハルサはアメミットの電源を入れ、自分よりも大きな身長の大鎌を構える。


「この天井の厚さは分かるっスか?」


「装甲は薄いはずにゃ!

 アメミットの熱無し超振動でもくりぬけるのにゃ!」


「了解っス!」


二段ベッドの上からジャンプしたハルサは円状にアメミットを振り、天井をくり抜き外へと飛び出した。






                -大陸間弾丸鉄道- Part 3 End

読んでいただきありがとうございます~~!!

うれしみ!!

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