-大陸間弾丸鉄道- Part 2
大野田重工本社都市の行政区から少し離れたところには大昔の日本の城にそっくりな大きな天守閣が一つと、その周りを囲うように四つの天守閣をつけた摩天楼がある。新旧が入り混じったその建物の周りには沢山のレストランや日常品店、電気屋などが並んでおり真っ昼間からギラギラと光る電光広告板とホログラムを駆使したかわいい猫や犬、金魚といった動物が物珍しさで近寄る客を招き寄せていた。
「……目が痛いっス」
「こんなに電光広告板があればそりゃそうなるにゃ。
そのモノクルにもサングラス機能でも付けときゃよかったのにゃ。
ホログラムもちかちか光ってうっとおしいのにゃ……」
これ程までにどうしてこれ程までに賑わっているのかというと先ほどの天守閣が乗っかった摩天楼は“カテドラルレールウェイ”の建造した世界で一番大きい駅だからだ。この駅に接続しているのは“ダンガンセントラル”の環状線や中央線、“首都高速鉄道”と言った様々な重工の地域を駆け巡る交通機関で、ホーム数は二十を超える。この地域の発展はまさに交通の要所としての確固たる地位を得たおかげとも言えた。
「めっちゃでっかい駅っス……」
“ダンガンセントラル中央線”に乗り、家から三十分ほど揺られるとハルサとラプトクィリの二匹は“カテドラルレールウェイ”駅――ここ、“大野田重工本社都市駅”に辿り着く。今は平日の昼間だが立派な和服や袴、スーツや洋服等様々な服を着た人間と獣人が列車に乗ったり降りたりしていて、かなりの活気だ。
「そりゃそうにゃ〜!
ここは一日辺りの利用者数が千万を超える世界で一番大きな駅なのにゃから!」
「ちょっといまいち想像がつかないっスね……」
ハルサは背中に背負った巨大な荷物を改めて肩に掛け直して人混みから離れるように動く。刃と柄が隠れるように布でぐるぐる巻にされ、背中にあるのはアメミットだ。
「さーてと。
そろそろ行かないと乗り過ごすから観光はまた今度にゃ。
乗る予定の電車がもうすぐつくのにゃ。とだめなのにゃ。
それに列車に乗るのにはボディーチェックもあるのにゃから早めに行くのにゃ」
「えー、ボディーチェックもあるんスかー?
私あんまり人から触られるの得意じゃないんスよ。
獣人にも人間には触られたくないっス」
「にゃー。
匂いつくもんにゃ〜」
「そうなんス」
ハルサは自分の背丈より少し小さめの旅行カバンを引っ張りながらラプトクィリに愚痴をこぼす。二匹は今から海を超えて“ロバート・ロボティクス”の支配する大陸へと向かう。そこでマキミ博士のことをよく知っている人物に会うらしい。細かい任務内容は列車の中でラプトクィリが話すと言っていた。
駅内部を移動するように作られた動く歩道の上を二匹は素早く人目につかないように人間が来たら道を譲りつつ、入り口から二十分程歩くとようやく四十番ゲートの前に辿り着いた。ゲートの横には一匹のカテドラルレールウェイの制服を着たアライグマと思わしき獣人が立っている。
「チケットを見せてください。
それが済みましたら、今度はボディーチェックを受けてください」
「りょーかいなのにゃ。
ハルにゃん、チケットを見せるのにゃ」
「これっスか?」
ポケットから端末を取り出し、電子チケットをハルサは受付のアライグマ獣人に見せる。それをスキャンして正規のものか確かめた後、アライグマ獣人は奥を指さして進むように促した。
「当然ですが危険物の持ち込みは禁止されています。
もし持ち込むなら……おっと。
そういうことなら、大丈夫です。
お通りくださいませ」
続いての荷物検査所でハルサはアメミットを見せるように要求されたがラプトクィリがポケットから何かを係員に見せると、係員は二匹の体をとアメミットをチェックせずに通してくれたのだった。
「何を見せたんスか?」
「“ギャランティ”と“カテドラルレールウェイ”は世界を支配するどの企業にも所属していない唯一の大企業にゃ。
お互い何かと入用なのにゃ〜♪」
「よく分からんっスけど、なるほどっス?
前回姉様が見せてたのと同じっスね?」
二匹がくぐった門のような所も恐らくは金属探知機の類なのだろうが、ハルサのアメミットとラプトクィリの杖には反応しなかった。
「いらっしゃいませ」
ホームに出るとそこには“カテドラルレールウェイ”のマークをかなり長い炭水車部分に堂々と貼り付けられた真っ黒な蒸気機関車がゆったりと蒸気を吐き出しながら停まっていた。
「今からこれに乗るんスね……」
「そうにゃ〜。
ボクはあまり興味ないにゃけど好きな人にはたまらないらしいのにゃ」
以前ハルサ達が乗ったものよりも二回りほど大きなこの蒸気機関車は“S6光波共震蒸気タービン機関車”といって、合計二十両の客車と三十両もの貨物貨車、そして重量の重装甲要塞列車を引っ張る化け物だ。先頭車両は主力戦車並みの装甲が施してあり、戦車砲じゃないと破壊出来ないほどの硬さを誇る。先頭部分には大きな二枚の除煙板がスタイルを整えていた。どの企業の支配力も殆ど及ばない海の上は無法地帯になっており、そこを通る“カテドラルレールウェイ”の列車は海賊の獲物だ。
もっとも“カテドラルレールウェイ”側としても搾取されるだけではなくこのように武装したりして自衛しているし、防衛装置を橋桁につけたりとかなりの対策をしているらしい。
「八号車の……A三番目の個室……ああ、ここにゃここにゃ」
ハルサがのんびり機関車と装甲列車部分を眺めているうちに出発まで残り二十分になり二匹は自分達がこれから四泊する部屋にたどり着いた。部屋はこじんまりとしていてかなり小さく、窓を真ん中にして二つの長椅子が並んでいる。その椅子は寝る時には展開して上下でベッドのようになるらしい。ブランケットが窓の上の棚に置いてあり、有料のシャワールームも車両の前にあるようだった。トイレは別の所に設けられているようで清潔さをしっかりと維持している。
「時速二百五十キロの旅にレッツゴーなのにゃ♪」
二匹は自分の荷物をそれぞれの椅子の横に置く。ハルサはアメミットを入り口の横に立てかけ、ラプトクィリもその横に杖を置いた。
「四日間も何するんスか?
退屈で死ぬかもしれんっス」
「のんびり窓から外見て〜それから……映画?」
「姉様オススメの映画でも見て……」
「あまりにも暇すぎて死ぬかもしれんのにゃ」
窓の外から力強い汽笛の音が響いてくる。午前十一時ピッタリの時報と同時にゆっくりと機関車は動き始めた。
-大陸間弾丸鉄道- Part 2 End




