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-灰狼と白山羊の平和道- Part3

てもらった通り財布を握りしめてパンフレットを買いに意気揚々と売店の前に行ったハルサだったが、パンフレットの値段を見て固まる。


「よ、四百リル……」


 売店に並ぶパンフレットは四百リル。子供には少し高い買い物だ。ハルサは財布の中身を開けていくらかの小銭と何枚かのプラスチック製の紙幣を数え、財布の蓋を閉じる。ハルサの尻尾と耳がしょんぼりと垂れ下がり、それを見たルフトジウムはその様子を見て売店のおじさんに


「なー、おじさん。

 これ、二つちょーだい」


そう話しかけた。ハルサはそれを聞いて驚いて体の前で手を振る。


「え!

 流石にこれは……」


「いいからいいから」


売店のおじさんが渡してきた二冊のうち一つをハルサに押し付けるように渡し、お金を渡してルフトジウムは映画館の出口に向かう。


「ルフトジウムさん、その、あ、ありがとうっス……」


「いいんだよ。

 子供は自分の小遣い大切にしな」


ハルサは買ってもらったパンフレットを愛おしそうに抱きしめ、鞄の中に入れたポップコーンの残りの横に入れる。


「なぁ、そのポップコーン全部半分ずつ残してどうするんだ?」


ハルサはパンフレットにポップコーンの油がつかないように隙間に紙を三枚程挟みながら答える。


「姉様に持って帰ってあげるんス!

 ツカサ姉様も食べたことないかもしれないっスから!」


その笑顔は屈託のないもので、ルフトジウムの邪な心を洗うようだった。


「……お前ほんといい子だな」


 ルフトジウムはハルサの頭を撫でながらこれくらいの時の自分を思い出していた。ルフトジウムを育ててくれたのはAGSのF部隊の全員で、今はいない隊員も何人かいるが殆どはルフトジウムが本当に小さかった時の事を知っている。グリズリー姉妹やダイズコンビはその最たる例で今でもルフトジウムの事を子供扱いしてくる。ルフトジウムのような既に企業が決まっていたような特別な境遇ならともかく、ツカサとハルサのような姉妹の境遇はまるでルフトジウムは予想がつかなかった。ただ、こう見えてかなり苦労しているのは確かだ。もしくは本当に運がいいのか。


「?

 どうしたんスか、固まって」


「ん……ん?

 ああ、いや。

 なんでもない。

 さーてと、少しドライブして飯でも食いに行くか!」


「やったっス〜!!

 晩ご飯っス!

 あ、でもその前に……」




      ※  ※  ※




「おー、少しここで休んでいくか」


「っス!

 休憩っスね」


 お昼過ぎから始まったデートはびっくりするほど順調で、ルフトジウムはもうサイントにヘルプを頼む意志はとっくに消えていた。車が高速道路に入る前にハルサが『本社都市をぐるりと見て回りたい』とリクエストを出してきたので、都市周囲を循環している高速道路を二時間ほど流し、二匹は本社都市の西側にまで来ていた。自動運転とはいえ乗っているだけでも疲れるので二人は一番近くのサービスエリアに立ち寄ることにしたのだった。


「おー!!

 めっちゃキレイっス!」


「あんまり遠くに行くなよ」


 本社都市の西側は高層ビルの並ぶような感じではなく、大野田重工のグループ会社が運営する巨大なアトラクション娯楽施設が密集している。

 世界最大の観覧車や、世界最長のジェットコースターといった謳い文句の遊園地もあれば温泉街や、動物園、水族館といったものも揃っていて本社都市にあくせくと生きるサラリーマン一家の癒やしの場だ。本社都市内部にありながら本社都市の雰囲気を感じない事から日々大盛況で、本社都市外からも沢山の人が訪れてくるのでいつも予約が一杯らしい。


「なんスかあの大きな車輪は……」


そんな西側を眺めるために山の上を通る高速道路のサービスエリアには展望台が設置されていた。すでにだいぶ日が傾き始めており、観覧車やジェットコースターが夕日の逆光で黒く塗りつぶされていく中、ハルサは展望台からその景色を夢中になって見ていた。


「あれは“観覧車”っていうんだぜ。

 俺は乗ったことがねぇ 」


ハルサは首を傾げる。


「かんら……?」


「観覧車、さ。

 そんで横の蛇みたいなやつあんだろ?

 あれがジェットコースターってやつだ」


観覧車やジェットコースター以外にもたくさんの遊具がそこには敷設されていて、そこで遊ぶ人間の声がこっちにまで聞こえてくるようだった。


「か、かんらんしゃ…っスよね。

 そんでじぇっ……と……こ……?

 んん、ちょっとなじみ深い言葉が多すぎて覚えきれないっス……」


「気持ちはわかる。

 私達には関係ない場所だからな。

 でも、この景色は綺麗だよな」


「そうっスね。

 私もいつか乗ってみたいっス!

 あんな高いとこから見下ろしたら……?

 あんなスピードで落ちたら……?

 考えるだけでワクワクするっス!

 是非とも行ってみたいっスね〜!」


「バカかお前。

 獣人は全面立入禁止なんだぜ?」


ハルサが展望台から目を細めて夕焼けに浮かぶレジャー施設を眺めていると、真横にいた二人組の人間の男がハルサとルフトジウムの会話に割って入ってきた。


「なんだお前……」


「獣人ごときがこんないい服といい帽子持ちやがって!!

 自分の身の程を知れ!」


「あっ!

 返せっス!

 何するんスか!」


 ルフトジウムがハルサとの間に入るよりも早く男二人はハルサの持っている鞄を引ったくりそれを反対にすると、鞄の口を開けてひっくり返した。鞄の中から四つのポップコーンの袋と映画のパンフレットが転がり出る。


「映画なんて行きやがって! 

 生意気なんだよ!」


ハルサが屈んで拾い集めようとするよりも早く男二人はその転がり落ちたポップコーンとパンフレットを思いっきり踏みつけていた。




               -灰狼と白山羊の平和道- Part3 End

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