-踊り子と真実と猫と鈴- Part7
「よう、長時間待たせちまったか?
あんたが契約の護衛獣人だな、話はラプトクィリから聞いてるぜ。
なんでも戦車を相手に立ち回れるらしいじゃねぇか?」
「げへへ、絶対嘘だと思うんだよな兄貴ィ。
戦車に勝てるやつがいるワケねェ」
まるでハルサの事を品定めするような目つきだったが、ハルサはすでにこういう好奇心を満たすためにジロジロと見られる事にもう慣れていた。小さく目を伏せ、舌打ちしそうになるがそれも我慢する。変にここで喧嘩になっても面倒だ。
「ふん、すぐにわかることだからどうでもいいな。
とにかくお嬢ちゃん。
こいつを連れてさっさとここをずらかる。
おい!
準備はいいか?」
「あいよォ!」
回収に来た二人組は簡易的なパワードスーツを装着し、腰には少し大きめの銃を二丁ぶら下げていた。兄貴と呼ばれた片方は背が高く、もう片方はデブで背が低い。顔は防弾マスクのようなもので覆われていたので見えなかったがそれは相手からしても同じことだ。今、ハルサの顔はモノクルから出るホログラムで完全に隠れ、更にその音声は首輪によって変えられているのだ。
「私が援護してやるっスから二人とも大船に乗った気分でいるっスよ。
援護するぐらいなら速攻で終わらせてやるっス。
私は何より今日もうだいぶ疲れてるっスからね」
「体は小さいくせに態度はとてもでかい狼さんだな?
この業界、自分の技量以上に自分を大きく見せるのはやめた方がいいぜ?
死にたくはないだろう?」
「兄貴ィ!
準備出来たぜェ~!」
カチンと来たハルサが軽口で何か言い返そうか考えているとラプトクィリが通信を送りこんできた。
『ハルにゃん、逃走経路はすでにこいつらも送信済みにゃ!
ミヨツクを屋上に待機させてあるステルスヘリの所まで頑張って運搬するのにゃ!』
「よし、経路をアップデート完了。
さあ行こうか、大鎌の狼さんよ!
屋上まで一気に行く!
付いて来いよ!」
「げへへ、遅れるなよ!」
背が高い男が、ぐったりと気絶し眠りこけているミヨツクを肩に乗せて走り出す。開けてある窓から警察特有のサイレンの音がガンガンと室内に入り込み、赤色の警光灯の光が差し込んだ。すでに敵はそこまで来ている。二人と一匹が部屋から飛び出すと非常ベルの音はすでに鳴り止み、代わりにドタバタと何者かが沢山駆け上がってくる足音に変わってしまっていた。ハルサのケモミミはそれらの音をしっかりと捕え、大まかな数まで分かるのだが、数えている途中で店員の悲鳴のようなものが混じる。ハルサは数えるのを諦め、クッション性のある床でもあれだけの音がするという事はそれだけ重装備の敵兵が迫ってきているという事に他ならないと考え直し、二人に義理から報告してやった。
「めっちゃ来てるっスよこれ。
多分二十……いや、三十人入るかもしれないっスね」
「分かってる!
敵はAGSさんだろ!
おい!足止めしろ!」
「あいよ!
集合地点で待っててくれよなァ兄貴ィ!」
一緒に走っていたデブの男がその腰に付けた銃を抜き、立ち止まって敵が大量に来る方へ銃口を向ける。ハルサも援護するべきか考え、一瞬足を止めそうになったがデブが手を振って先に行くように急かした。
「お嬢ちゃんは援護だろォ!?
兄貴の後ろをついて行け!
俺はここが落ち着いたらすぐに追いかけるからよォ!」
「じゃあまた後でっスね!」
「おう!」
走り始めたハルサの背中で銃声が多数鳴り響く。すでに背の高い男は階段にたどり着き、屋上へ向かって登り始めていた。三段飛ばしで飛ぶように走る男のスピードはとても早かったのだが、追いかけてくるAGSもプロだった。いつの間にか走る男の前を塞ぐように大きな盾を持った兵士を送り込んでいた。おそらく反対の階段を使用し、騒ぎを先回りしたのだろう。
「止まれ!
止まりなさい!
止まらないなら発砲するぞ!」
「おい!
出番だぞ、お嬢ちゃん!」
「言われなくても!」
狭い通路ではハルサの高機動力もある程度制限されてしまうが仕方がない。ハルサは一気に背の高い男の脇を抜けると盾を持った兵士たちへと突っ込んでいく。四人の盾兵士は綺麗に並び、その銃口はハルサを狙っていた。
「戦闘用獣人か!?
撃て!
撃ち殺せ!」
「遅いっスよ!」
ハルサは敵の向けた銃の銃口が光るのと同時に地面を蹴って高くジャンプしていた。当然相手はハルサの動きに追従し、空中でまともに動けるわけがないハルサはハチの巣になるはずだったがそこら辺を考えていないハルサではない。ハルサはアメミットの引き金を二回高速で引くと、アメミットの先端についている加速用のノズルが弾倉内の弾薬を使用しぼう、と加速用の炎を噴き出した。ぐん、とアメミットに引っ張られる形でハルサの体が前へと移動しその動きを変える。
「なんだあの大鎌!?」
「特注っス!」
そのまま盾の縁に着地したハルサは躊躇う事も無く、目の前にある敵の首にその大鎌の刃を振り下ろした。まずは一人目だ。
「おお、やるじゃねぇのよ!」
慌てた残りの三人がハルサから距離を取るように動いたことで出来た通路の隙間を背の高い男が走り抜ける。ハルサは軽く手を振って先に行くように促した。
「嘗めやがってクソガキ!」
三人はお互いがお互いの死角をかばい合うようにして動きながらハルサの制圧を試みる。背の低いハルサからしたらその威圧感はかなりのものだったが、相手の背に文句を言うわけにもいかない。ジリジリと距離を詰めてくる三人相手にどう立ち回るべきか一瞬考え、ハルサは見つけ出した天井の配管をアメミットでなぞることにした。一か八かだったがその配管内部には水が流れていて、零れだした水がアメミットの十万度の刃に触れ、爆発的に水蒸気に変換されると膨張した水蒸気に押し出された空気が一瞬で広がり三人を襲った。ハルサも吹き飛ばされかけたが、咄嗟にアメミットの柄を地面に突き刺していた為かなんともない。それよりもこの隙を逃している場合ではない。
「クソッ!!
なんなんだあいつは!!」
水蒸気が場を完全に覆い、何も見えない空間で三人が態勢を整える前にハルサはまず一人目の盾をアメミットで切り落としてやった。
「わああああああっ!!!」
「うるせぇっス」
「どうした!?
おい!」
す かさずアメミットを持ったままその場でもう一周回り、その刃が兵士の胴体を蒸発させて切断する。“貪り食う者”の名前を与えられたアメミット、ハルサの大鎌の持つ十万度もの高熱と、超振動している刃は簡単に何でもプラズマ化させて切り落としてしまう。
「こんにちわっス」
見えない二人に比べハルサは獣人特有の耳、匂いから完璧に二人の位置を特定していた。だから見えなくとも敵の大まかな位置は把握していたし、あとはアメミットの刃が当たりさえすれば勝手に敵は沈んでくれる。蒸気で何も見えない中、二人の目の前にいきなり現れたのはアメミットの放つ青とピンクの光と、ギラリとした刃でそれが見えた時にはすでに二人の首は胴体から離れていた。
「っち、思ったよりも時間がかかっちまったっスね。
すぐに追いかけないと……」
倒れた二人を跨いでハルサは静かに音を聞く。護衛対象はもう屋上のすぐ近くにまで迫っている。護衛任務はもう終わりだ。倒れている四人のばらばらになっている体に軽く一瞥してハルサは右手を胸の上に置いて少し荒れた息を整える。アメミットの性質上その傷口からは血が出ない。切った側から熱がその肉を焼き傷口を塞いでしまうのだ。代わりに焼肉にも似た何とも香ばしい匂いが残る。
「もう屋上近くには行ったみたいっスね。
すぐに追いかけないと」
ハルサは濡れた自分の前髪を手で払い、再び走り出した。
※ ※ ※
「う……頼む……。
助けて……くれェ……」
「なあ、おっさん。
ミヨツク氏はどこに行ったんだ?」
逃げようとするデブの男の脚に一発、更に手にもう一発銃弾を放ちAGSの山羊、ルフトジウムは苛立ちを露わにする。早く答えて欲しい時に限って、こういう敵は中々喋らない。
「う……あ……」
今回の敵もそうだった。粋がってこちらの進行を防いできたにも関わらずルフトジウムが出てくると戦意を喪失し、泣いて謝ってきたがもう遅かった。デブの男は少し喘ぐと倒れ動かなくなる。
「っち、死んだ。
使えねぇ」
『痛めつけすぎです、先輩』
通信から兎の獣人、サイントの嗜めるような声が聞こえてくる。
「うるせぇなぁサイント。
本部からの要請でぐずぐずしてる暇がないんだからあたりめ―だろ。
それより敵の逃走経路は分かったのか?」
『これを見るとおそらく屋上かと。
カンダロに報告した方がいいのでは?』
「じゃあしておいてくれ。
近辺にヘリの気配とかはなかったけどステルスかもしれねー。
一応AGSの対空部隊に出動を要請しておくかぁ」
『分かりました。
他には?』
「俺はとにかく標的を追いかける。
あとはなるようになるだろ。
さっさと終わらせて晩飯は陽天楼で食おうぜ。
もう俺腹が減ったよ」
-踊り子と真実と猫と鈴- Part7 End
先週は旅行に行っていたので更新できませんでしたごめんなさい~!!
今週は少しゲームしていて完璧に忘れていました重ねてごめんなさい!!




