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-踊り子と真実と猫と鈴- Part5

「ぐるる……」


 ハルサは小さく呻りながら、部屋の中に注文されたワインとグラスを持って入った。中はかなり広く、カラフルな照明が天井から吊るされ、部屋の真ん中に置いてある小さな、しかしながら立派なステージを照らしている。

 天井から沢山の透明な布が垂らされ、開いていると窓からは大野田重工の看板が覗いていた。キラキラと水色に光る小さな光が部屋中に散りばめられていて、これはホログラムで出力されているものだろう。要するに踊る気にさせるもしくはそういうことをする雰囲気は抜群ということだ。強烈な照明はチカチカとハルサの目を刺激してあまりそういう所に慣れていないハルサの軽い頭痛を引き起こした。


『無事に部屋に入れたにゃ。

 ここからはボクもサポートするにゃ。

 それにしても個室って言ってた割には大きいにゃ〜』


 ハルサがつけているイヤホンからラプトクィリの声が聞こえる。ここから先はラプトクィリとニ人三脚でターゲットに取り入る作戦を展開する。知能のない獣人のマネをした鳴き真似の声もきっとラプトクィリには聞こえていたのだと思うとハルサはまたもや恥ずかしくなり顔を真っ赤にした。


「おお、酒か!

 待っていた!!」


 中央に置いてあるステージを眺められるように、ステージの真正面に大きなベッドが一つ、そしてふかふかのソファーが置いてある。ソファーの周りには人の接近を許さないように柵のようなものが置いてあり、電流が流れているようだった。


『あれがターゲットにゃー。

 思ったよりでかいにゃ。

 それにあの柵……触ったらいくらハルにゃんでも気絶するにゃ。

 これは予想外だったにゃ……確かに情報通り中々慎重な男だにゃ』


 ソファーの上にどっかりと座っている大柄な男性が一人。今回のターゲットのミヨツクだ。予想していたよりも優しそうな顔をしていることにハルサはホッとするが、こいつがあの日の警備担当をしていた人間であることに変わりはなく、ハルサは心の中で敵意をむき出しにする。

 ミヨツクの脇にはほとんど裸に近い二匹の牛の獣人がいて、ミヨツクに対して交尾をもとめるアピールをしているが当の本人は全然乗り気ではないらしく、乳を触りその感触を楽しんでいるだけだ。


「ん?

 おお!?!?

 お前、新人か!?!?」


『明らかに巨乳と貧乳に対しての対応の差が激しいにゃ……こいつもある意味獣にゃ……』


 ハルサはいつもの癖で返事しそうになったがあわてて演技で頭の上にはてなを浮かべ、首を傾げながら机の上のお盆とからお酒とコップを取り出し、差し出した。言葉が分からないアピールも欠かさない。


「ほうほう、礼儀もまだ教わってないほどの新人か!

 この店もようやく俺好みの獣人を入れてくれたんだな!

 しかしまぁ……なんだ。

 俺好みのかなりの上物じゃないか……」


 ミヨツクは明らかに目の色を変えてハルサを物色し始める。部屋にいるのはミヨツクと、二匹の戦闘用ではない獣人だけだ。戦闘用獣人の力で抑えてもいいが、暴れられて外にいる監視役に聞かれても面倒だ。


『ハルにゃん、ここは作戦通りあいつにスプレーをかけて眠らせるにゃ。

 まず対象の劣情を煽って柵の中に入れるようにするにゃ。

 周りに柵がある以上、普通にやっても絶対に近寄れないにゃ』


「それが一番難しいんスけど」と心の中で文句を言いながらもハルサはお酒を柵の外にある机の上に置いた。あわよくばそのまま近寄れないものかと思ったがミヨツクの周りにある柵の入口が開く気配はない。ミヨツクは横にいる二匹の乳を揉みながら立て続けにハルサに要求してくる。


「お前、俺のために今踊れ。

 踊りが素晴らしかったら餌を食わせてやる。

 その後は抱いてやるから覚悟することだな。

 当然チップは弾むし、交尾での感想次第ではお前を家で飼ってやる。

 まぁお前が俺を“その気にさせることができたなら”の話だけどな」


『言葉が分からないと思ってくだらないこと言ってるにゃこいつ』


「……?」


ハルサは言葉が分からないアピールで首をもう一度傾げて見せた。


「理解できないか。

 まぁいい。

 踊ってみせろ」


 ミヨツクはそういうとステージを指さした。ラプトクィリと練習したダンスを披露するチャンスが巡ってきたという事だ。

小さく頷いてそれは理解できたという旨を伝えつつ、ハルサはステージの上に登る。それと同時に腹の底から響くような重低音と、電子音に三味線や龍笛を混ぜた音楽が始まった。


『見せつけてやるにゃ、ハルにゃん!』


すうっと息を吸い、三本の尾をピンと立ててしっかりとステージに立つ。短いイントロが終わり、女のボーカルが歌い始めると同時に小さな狼は舞い始める。その動きは少しぎこちないものの、華麗であることに変わりはなく両腕についている紫色の薄い布がひらひらと舞い、白い肌が照明を反射するその姿に一瞬でミヨツクは虜になっていた。


「ほう……これは……」


 戦闘用獣人のしなやかな筋肉が埋め込まれた腕と脚に纏われた装飾がチャリと音を立て、腰まである灰色の髪が照明を反射して七色に輝き、安っぽい金属の飾りに埋め込まれた多くのガラス玉がキラリと光る。赤と黄色の二つの吸い込むように深い色の瞳がミヨツクの瞳を捉えるともう離さない。薄く、簡単に折れそうな細い体の上を汗が弾け、うっすら見えるアバラはまさにミヨツクのタイプの“雌”だった。


「お前達、出ていけ」


 ハルサの舞から目を離さずミヨツクは両脇にいる牛の獣人を部屋から追い出すための行動を起こしていた。柵を開き横に座る二匹を無理にソファーから立たせる。牛の獣人は餌にありつくためにミヨツクの股間を触るが、彼はそれを跳ね除けて二匹の背中を押して部屋から追い出す。


『もうひと押しにゃ、ハルにゃん!

 最後に“アレ”をやるにゃ!』


勝ちを確信したハルサだったが最後にダメ押しでラプトクィリから教わったとっておきのポーズをしてやる。自分の右手中指についていた指輪を取り、それをミヨツクに見せびらかした後にその目の前に投げたのだ。



挿絵(By みてみん)



「この……!

 わかってやがるのかその意味?」


「………♪」


『決まったにゃ、ハルにゃん!』


その一連の行動が示すのは「私を買わないか?」という意味だ。自分のタイプの雌からそんな行動をされたミヨツクはすでに慎重さを失い、舞終ったハルサをいとも簡単に柵の中のソファーへと招き入れた。


「ごめんっス。

 少し眠っていてくれっスよ」


そしてその瞬間をハルサは逃さず、ラプトクィリから預かっていた睡眠スプレーをしっかりとミヨツクの顔に吹きかけたのだった。




              -踊り子と真実と猫と鈴- Part5 End 

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