-踊り子と真実と猫と鈴- Part4
「改めてミッションを説明するにゃハルにゃん。
依頼主はギャランティ上層部。
ターゲットはオヌイ・ミヨツクにゃ。
任務達成の条件はミヨツクを誘拐することにゃ。
彼はこのクラブのVIPでいつも個室を借りて飲食しているにゃ。
金の出どころは不明にゃけど、毎日来て飲食していくところを見ると金は沢山あるみたいにゃそれかどこかの企業が出資しているか……。
まあ何にせよ彼はマキミ博士の死んだあの日の夜、家の警護に当たっていた隊長だっにゃ。
彼を捕まえ、話を聞けばあの日の夜のことが少しは分かるようになるはずにゃ」
ラプトクィリの持つ端末に次々と店内の地図が立体的に表示される。ターゲットのいる個室の位置や、働いている獣人の場所もかなり分かりやすく視覚的に捉えることが出来るすぐれものだ。
「彼は常に二、三人のボディーガードに守られてるにゃ。
それはトイレでも例外じゃないにゃ。
ターゲット自身もかなり慎重で用心深い男にゃ。
それにどんなに働いている子が気に入ってもすぐに自分の側に侍らすことはないらしいににゃ」
「それは初耳っスよ!?」
「はじめて言ったしにゃ〜。
でも恐れることはないにゃ。
打開策があるのにゃ〜♪」
ラプトクィリは改めてハルサの持つ服を見てゲラゲラ笑う。次第に腹が立ってきたハルサは服の一部を投げつけてやった。
「まあ、そうカリカリしてたら損にゃよ、ハルにゃん。
落ち着いて聞くにゃ。
もう一回言うけど、彼は真正の小児性愛者にゃ。
過去にもこの男はこの店で働いていた小さな獣人を買い上げてお持ち帰りしたことがあるぐらい小さい娘には目がないのにゃ♪
こういう水商売業で働いているのにはボクとかツカサちゃんのよーなボインが多いにゃ!
もうほぼ百パーセントにゃ。
小さい獣人はこういう所で働くことがそもそもめったにないからにゃ!」
「…………」
じろりと睨むハルサをスルーしてラプトクィリは説明を続ける。
「あの用心深い男も性欲には勝てないってことにゃ。
だからこそハルにゃんの出番なのにゃ。
ハルにゃんのような体型の獣人は普通こんなとこで働いてにゃいからにゃ~。
そうそう、ハルにゃんの事はここのオーナーと話をつけてあるにゃ。
だから普通に従業員として働けばいいにゃ。
彼に気に入られるために料理を部屋に運んで踊るダンシングウェイトレスとして頑張ることにゃ〜。
彼を捕まえたあとはここに通じる道を辿って――……どうしたにゃ?」
ハルサはダンシングウェイトレスという言葉を聞いて固まった。産まれてきてから十二、十三年も経っているのにダンスや料理を運ぶなんてこと一度たりともしたことがなかった。
「え、待ってくれっスよ!?
私踊ったことも料理を運んだ事もあんまりというか……ゼロ……」
オロオロするハルサだったが、その隣の猫は涼しい顔をしている。端末を車のスピーカーに繋ぎ、ある動画をハルサの前で再生する。それは男の劣情を煽るような“そういう”ダンスだった。思わず目を逸らし、ハルサは顔を赤くしてラプトクィリに抗議する。
「な、何見せてるんスか!
こんなえ、えっちな……!」
「何のためにここに早めにここに来たと思ってるにゃ!?
後で練習するにゃ!」
「えー!?」
心底嫌そうな顔をしてハルサは倒した座席に倒れる。
「これは任務にゃ、ハルにゃん。
私情を挟んじゃいけないのはかつて番犬してたハルにゃんにならわかるはずにゃ。
それは今はいいとして……。
とにかく彼に気に気に入られる事が重要にゃ。
側に近寄れたらもうめちゃチャンスにゃ。
眠りに簡単に堕ちるスプレーを用意してあるからこれを使って対象を眠らせるにゃ。
えーっと……それからミヨツクを気絶させて部屋から運び出す手順はすでに用意してあるにゃ。
ハルにゃんが運んでもいいけど……多分普通に怪しまれるし大変にゃ。
だから搬送用の機材をこっちで用意して、それはもう店の中に運んであるにゃ。
でもそのためには入口の二人も始末しないといけないにゃ。
こっちの始末はハルにゃんなら簡単にゃ?
入口の二人を始末したら、すぐにボクに連絡するにゃ!」
ラプトクィリは鞄をごそごそと漁ると中から小さなワイヤレスイヤホンを取り出してハルサに渡した。得意げな猫の顔はハルサを少しイラっとさせる。
「これは小さなカメラと発信装置、あとイヤホンとマイクがついている超高性能なやつにゃ!
ボクは常にハルにゃんの行動と言動をモニターしているにゃ。
万が一の事態になったらボクが指示を飛ばすからそれに従うにゃ!」
ため息をついてハルサはラプトクィリから小さなイヤホンを受け取り、自分の人間の耳に付けた。
「分かったっス……」
「もし、万が一戦闘になった時用にターゲットの隣の部屋に着替えを用意してあるにゃ。
もちろんアメミットもさっき搬入しておいたから安心するにゃ。
ざっとこんなもんかにゃ~?
じゃあ早速ダンスの練習としゃれこむにゃ!」
※ ※ ※
「貴女がギャランティの?
ふーん……。
話は聞いているわ。
オーナーのアヤカっていうの」
「よ、よろしくっス……」
アヤカと名乗る中年の小太りのおばさんはそういうと、ハルサの恰好を上から下までじろりと眺めた。灰色の狼、ハルサはというと尻尾を股の間に挟み、ケモミミは折れて下を向いている。この狼は沢山文句を言いながらもしっかりとラプトクィリの用意したあの服を身に纏っていた。任務の為と諦めてはいるものの恥ずかしさは隠しきれないようで、顔を真っ赤にし、腕でお腹や胸を出来るだけ覆っている。
「ふーむ。
間違いなくあの人の好きそうな子ね。
ギャランティには大量のお金を積まれてるわ。
だから今回協力させてもらったけど……。
くれぐれもお店を壊さないでよね。
好きなだけ拷問するなりするといいわ。
ミヨツクはもう個室でお酒を飲んでるわ。
次の注文が入ったら貴女、持っていきなさい。
今宵はあの部屋に誰も近寄らないように言ってあるから」
アヤカはハルサの体を最後にもう一度だけ眺めると踵を返して奥の事務所へと消えていった。
「了解……っス」
ハルサがいるところは調理場横の控室だ。控室の中には他に沢山の獣人の雌がその豊満なバストやぷりんとまん丸のお尻をほとんど露出したハルサと同じような衣装を着て歩いている。若干の獣臭さがハルサの鼻をつんと突いた。
「あの……恥ずかしくないんスか?」
「?」
隣に座ってきた獣人にハルサは話しかけたがその獣人は首を傾げるだけだ。こういう所で働いている獣人達はかなり安いモデルのためハルサやラプトクィリのように言葉を解さない。ご飯をもらえるからという理由で自分のナイスバディを男に見せつけ、安い金で体を買い叩かれるだけの存在だ。ハルサは内心同情しながらもため息をついて出番を待つ。
アップテンポのダンスミュージックが店内に流れ、興奮した人間の男が何匹もの雌を買い漁って奥の部屋へと消えていく。正直ハルサはこの空間に自分がいることに耐えきれずさっさと仕事を終わらせて帰りたい気持ちでいっぱいだった。赤や青色のライトがビームのように降り注ぎ、効きすぎたエアコンが体をガンガン冷やしていく。十五分程待機していると、ハルサの元にアヤカが直々にワインとグラスの乗ったお盆を持ってきてくれた。
「注文が入ったわよ。
ハルサ?だったかしら。
これ、持っていきなさい。
ミヨツクには新人さんって言ってあるから少しのおいたは許してくれるだろうけど……。
ちゃんと他の獣人みたいにバカの振りをすることを忘れないようにするのよ。
わかったわね?
このお店の評判だけは落とさないでよね」
「は、へ、わ、分かったっス!」
「何緊張してんの?
さっと行って、股広げて誘惑して寝かせるだけでしょ?
簡単なんだからさっさと行って終わらせて。
全く……」
お盆を受け取ったハルサはカチカチに緊張しながらターゲットのいる部屋に向かう。途中すれ違う人間の男や他の雌が好奇心でハルサを眺めたりしてくるが誰も怪しんではいない。ターゲットの部屋は店の三階の更に奥、目立たない所にあった。入口にはスーツを着こみ、銃を持ったガードが二人立っている。ハルサは一度深呼吸をして息を整えその二人の前に立つと小さく
「がう……」
と唸って見せた。他の狼の獣人がどのように鳴いているのか全く知らないハルサが咄嗟にだした声に二人のガードは気が付き、ハルサのお盆の上のお酒を見てようやく状況を理解したらしい。
「ん?
ミヨツクさんが頼んだお酒か」
「にしても……。
おい見て見ろよこの子。
こんなにちっこいガキだぜ。
あの人の趣味って本当に……」
「ああ……最悪だな。
なんというか……そろそろ天罰が下りそうなもんだ」
二人のガードはそういいながらハルサの為に部屋のドアを開けてくれる。ハルサはその部屋の中に一歩を踏み出したのだった。
-踊り子と真実と猫と鈴- Part4 End
ありがとうございます~!!
いつも読んでいただけて感謝の極みです~!!




