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-踊り子と真実と猫と鈴- Part1

「やっと来たわね」


  アイリサ博士は口に咥えていた電子タバコの吸い殻を携帯灰皿に入れ、訪問者を扉の中で待ち構えた。家の玄関には昔作られた古臭い直線ばかりの一台の車が止まっていてスモークガラスで中は見えないようになっている。その車から降りてきた獣人は今、玄関のベルを鳴らし、あともう少しでここにたどり着く。

 そわそわとして落ち着かないのはアイリサ博士の横にいる小さな狼、ハルサだ。アメミットを手に持ち、防弾仕様のコートは脱いでいるものの全く気が抜けない様子だ。


「あの、博士?

 姉様もやっぱり一緒にいてくれた方が……」


そんなハルサの様子を見てアイリサ博士はふふふ、と笑った。


「何も怖いことはないわよ、ハルサ。

 それに貴女はもっと社交的に話すようにならないと。

 いつまで経っても人見知りなのはダメよ?

 前回お友達作ったんでしょ?」


「分かってるっスよ~。

 それに友達も作ったっスけどあれは私からというか……」


 口を尖らして反論しつつも不安そうな顔をしたままハルサはアイリサ博士に一歩近寄る。ふとしゃんしゃん、と鈴のような音をハルサは頭の上の大きなケモミミで捕え、耳をピクリと動かした。アイリサ博士の横でハルサは心配そうにドアを見つめる。しばらくすると鈴の音がどんどんと近づいてきて、優しくドアをノックする音が部屋の中に響いた。


「どうぞ」


アイリサ博士が応答し、ハルサは壁に立てかけてあるアメミットをちらりと見た。


「ダメよハルサ。

 あれは今は使わないの」


「ういっス……」


「お邪魔しますにゃ~♪」


 ドアの隙間からぴょこりと熟したトマトのような髪の色を持った猫の獣人が文字通り猫を被ったような態度で入ってきた。身長はツカサよりも少し低いくらいで、彼女から見て右のケモミミの所にはカテドラルレールウェイのマークが入ったシルクハット被っていた。更に人間の左耳があるところにはヘッドセットのようなものをつけており、そのヘッドセットは鈍く部屋の光を反射して光っている。髪の毛とは真逆の青空をそのまま降ろしてきたような澄んだ瞳を持っていて、赤いまつ毛との対比はまるで夕暮れをそのまま持ってきたかのようだ。かなり整った顔立ちをしており、自分の体に自信があるのかわざとブラジャーを見せつけるように着ているパーカーの前の部分を開いている。そのおかげで鎖骨の下辺りにスペードの入れ墨のようなものがあるのが見えた。胸の大きさはかなりある方、少なくともハルサが羨むレベルであることは確かだ。赤と白のタイツを右足だけに履き、おしゃれなブーツはこの獣人がファッションに興味をあることを示していた。


「…………」


ハルサはじりじりと後ろに下がって、アイリサ博士の陰に半分隠れる。アイリサ博士は呆れたようにハルサの背中を押して前に立つように促したがハルサは動こうとしない。


「こら、ハルサ!」


「……………」


「あらら、怖がらせてしまったかにゃ?

 ボクはラプトクィリ。

 君が……えっ?

 このちっこいのがハルサなのかにゃ!?」


いつもそうしてきた通りにラプトクィリは自己紹介に入ろうとしたがつい驚いて自分のペースを乱してしまった。ラプトクィリは驚いたようにアイリサ博士の後ろに隠れるハルサの顔を見て、次にアイリサ博士の顔を見る。


「ええそうよ。

 私はアイリサ・ハルカ。

 で、この小っちゃいのがハルサ」


「へー!!

 面白いにゃー全然予想も出来なかったにゃ。

 君が戦車ぐらいなら倒しちゃうって噂の戦闘用獣人にゃ!?

 そしてボクのパートナーになる子だにゃ?

 これからよろしくにゃ、ハルサ!」


そうやって手を差し出してきたラプトクィリに流石にハルサも何もしないわけにはいかないと感じ取りおずおずと握手する。ラプトクィリはその時思いっきりハルサを引き寄せるとそのままの勢いで抱きしめた。


「!?」


「ちっこーい!

 かわいいにゃ~♪」


「ちょ、は、離せっスよ~!!

 何するんスか~!!」


ラプトクィリはしばらくハルサを抱っこしていたが、すぐに仕事モードに自らの空気を切り替えた。そして一緒に持ってきたのであろういくつかの鞄をアイリサ博士に差し出した。


「これが頼まれていたやつだにゃ」


「ありがとう。 

 これであの人もきっと浮かばれるわ。

 この件は後で話しましょう。

 まずはハルサの事をどうギャランティがするつもりなのか教えて頂戴」


ラプトクィリはハルサの顔をもう一度見て、鞄から端末を取り出すとアイリサ博士に手渡した。アイリサ博士はそれを受け取り自分のパソコンに差し込み中に保存されているファイルを開く。


「――ああやっぱりそうなるのね。

 でもこの子にはこの方がきっと幸せね」


机の上においてあるコーヒーを一息に飲み干すとアイリサ博士はハルサにこっちに来るように手招きした。


「?

 なんスか?」


「いい、ハルサ。

 貴女はこれからこのラプトクィリと行動するのよ。

 ギャランティがツカサと貴女の身元を引き受ける事になったわ」


ハルサが固まったのを見てアイリサ博士は慌てて言葉を付け加える。


「ああ、といってもこの家から出ていくわけじゃないわよ!

 だからそんなにショックな顔をしないの!

 私が貴女達を捨てる訳ないじゃない!

 いいかしら?

 ギャランティの回す仕事をこなして貰うようになるだけ。

 ここはいつまでも貴女の家だから安心しなさいな。

 ツカサもこの家から出ていくこともないわよ」


ハルサはほっとしたのか裾を掴む力を緩めたが、すぐに口を開いた。


「え、でもアイリサ博士!

 私は陽天楼のバイトがあるっス……」


「あそこもギャランティが母体のご飯屋さんだから休んでも大丈夫よ。

 それに更に高額の報酬金をギャランティから受け取ることが出来るわよ~。

 貴女が欲しいもの買えるようになるしそれに……。

 それにマキミ博士を殺したやつに近づけるかもしれないわ」


「………。

 それならやるしかないっスよね」




               -踊り子と真実と猫と鈴- Part1 End

ありがとうございます~~!!

見て頂けて本当に幸せ・・・!

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