-山羊の恋、新たな事件- part4
「おっさんとお姉さん達は治安維持の人達なのか……?」
「お、おっさんだと……?」
おっさん、という一言にカンダロは一瞬怒りが沸き起こったようだが、その感情を自分の奥底に押しとどめる。男の子はおどおどとした態度で三人を見上げて来た。カンダロと二人の獣人は顔を見合わせると、それぞれがポケットからAGSと、重工のロゴが入った手帳を取り出し、それを男の子に見せた。
「あわわ!!
ごめんなさい!!
生活が苦しくて……!!
だから逮捕からの少年刑務所送りだけは勘弁してください~~!!」
男の子は慌てて土下座をして許しを乞うてきた。
「いやまぁ返してもらったからいいんだけど……」
カンダロはまるで弱い者いじめをしている感覚に陥り、罪悪感の芽生えで男の子に立ち上がるように言ってポリポリと自分の頬をかいた。しかしルフトジウムはまるでそんなこと気にしないようで土下座する男の子の横にしゃがむとその頭に銃口を突きつけた。びくっとした男の子の体が震えだす。
「ルフトジウムさん!?」
なにやってるんですか、と言いそうになったカンダロを手で静止してルフトジウムは続ける。
「いいから知ってること全部吐け。
じゃねーとお前もここでゴミみたいに死ぬ事になるぞ」
「ルフトジウムさん、流石にこれは見過ごせません。
リーダー命令で命じます。
すぐに辞めてください」
「はぁ?」
耳をぴくりとさせ、眉をひそめながら何か一言を続けて抵抗しようとしたルフトジウムの意見を遮る。
「お願いします」
「っち……。
はいはいそうですか」
ルフトジウムにはルフトジウムの考えがあったのだろうが、その態度をカンダロはどうしても許せなかったのでリーダー権限ですぐに辞めさせる。サイントが小さくため息をついたのが聞こえたがカンダロの耳には入らない。
「大丈夫かい?
ごめんね、怖がらせちゃったね」
男の子を怖がらせないようにカンダロはルフトジウムとサイントを自分の後ろに下がらせ、 男の子に手を貸して立ち上がらせて改めて持っている情報が無いかを聞く。
「この辺に住んでる子だろ?
何か知らないか?」
「うーん……」
ニコニコした表情を崩さないでカンダロは男の子の前に立ち、ポケットから飴を一つ差し出した。男の子はそれを受け取ると嬉しそうに口に入れる。
「チッ……」
カンダロが御覧の通りにかなり下手に出たのでルフトジウムは明らかに大きな舌打ちをする。そしてつまらなそうに自分の持つ武器を弄り始めた。下層部に住んでいる人間や獣人はとにかく精神的にも肉体的にも強い上に、無駄に勘がいい。カンダロの尋ね方から男の子は何かの確信を得たらしい。頭に手を乗せて考えるふりを始める。
「知ってるには知ってる!……。
あー、何かキラキラした物を見たら思い出せそうなんですよなぁ〜……」
「キラキラしたもの……?」
頭の上にはてなを浮かべるカンダロ。
「だから言ったんだよ温室育ちのボンクラが。
お前が招いた事態だからな」
「あっ!
ちょっと!」
そんなカンダロを押しのけてルフトジウムはカンダロの財布をカンダロの尻ポケットから抜き取ると、中から五百リル硬貨を取り出して男の子に投げて渡した。男の子はそれを受けとり、頭を下げるとベラベラと知っている情報を喋り始めた。
「多分深夜だったと思うんだよな!
俺が盗みから帰ってきたら――おっと、ここは見逃してくれよな。
盗みから帰ってきたら四番通りの路地裏の奥でなーんかがぼんやりと光ってたんだよ!
悲鳴みたいなのは聞こえなかったぜ!
でも明らかに怪しかったし、やばいと思ったから怖くて、逃げた!」
笑顔を保ちながら男の子はそれだけ一気にまくし立てると、急に話すのをやめた。
「……それだけか?」
カンダロが続きを促したが
「それだけだよ。
更に聞きたいと思うだろうけど残念ながらこれ以上はないんだ。
お金、助かった!
ありがとう、おっさん!
じゃ!」
男の子は硬貨をポケットに入れると風のように逃げて行ってしまった。
「逃げ足は本当に早いんだな……」
呆れたようにカンダロがその背中を見てサイントとルフトジウムを振り返り、ルフトジウムから財布を取り返すと自分のポケットに戻す。ルフトジウムはかすかに笑みを顔に張り付けながらカンダロの視界にぬっと入ってきた。
「だけど重要な情報は掴めたな。
四番通りの路地裏。
そこの近辺の住民にまた聞き込みをすればいいだろうな。
どうだ?
五百リル分の価値はあったか?」
口の前に指を立てながら片目を閉じ、意地が悪そうな笑みを浮かべながらルフトジウムはカンダロの前をうろうろして見せた。カンダロは山羊のその動きを見て赤面し、目を右左に動かして視界に入らないようにしていたがすぐに観念したのか目を閉じて大声で
「あー!
認めますよ!認めます!
僕がバカでしたー!」
そう言った。道の反対側を歩いていた通行人がその声に反応してびっくりしていた。
「分かったならいいんだよ。
なぁ、カンダロさんよ」
「うぐぅ……」
五百リル失って悲しむカンダロをひたすらにいじるルフトジウムだったがサイントの冷静な分析と報告がカンダロをいじり地獄から救い出した。サイントの兎の耳がピクリと動く。
「先輩、そこまで。
なんか五人ぐらいがこっち見てる」
さっきまで燥いでいたのが嘘のようにルフトジウムは落ち着きを取り戻すと自分のハサミ型の武器の起動スイッチを入れる。
「……ああ気づいてるよ。
五人のうち三人は多分獣人――それも戦闘用崩れな感じがするな」
「……どうします?」
二人の獣人はカンダロにだけ聞こえるように今の危機を乗り越えるための作戦を追跡者たちに気が付かないように細々と話し続ける。
「サイント、お前カンダロ連れて隠れてろ。
俺が一人で撃退出来るだろう。
気が付かない振りして歩け。
そんで先の路地でお前のジャンプ力でカンダロつれてビルの上に逃げろ。
出来るな?」
「任せて、先輩」
一人と二匹は何もなかったかのように歩き出す。その後ろを追いかける五つの影。
「作戦開始と行きますか」
-山羊の恋、新たな事件- part4 End
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