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-朱と交わろうが白であれ- Part 18

 ルフトジウムは目を白黒させているハルサに手招きし小さな狼は慌ててアメミットを掴むと、山羊の言う通りに壁の穴から銃弾が飛び交う廊下へと飛び出し、横倒しになったベッドの後ろに隠れる。銃弾が鋼鉄製のベッドに当たり、金属が弾ける甲高い音が立て続けに鳴り響く。


「いや、めちゃめちゃ敵いるじゃないっスか!

 こんな所越えて来たんスか!?」


ハルサは頭を引っ込めながら銃声に負けないよう声を張り上げてルフトジウムを糾弾する。ルフトジウムは目を細めて小さく表情を緩めた。


「いやー、来る時は忍んだんだがよ。

 お前の部屋をこじ開けたときにバレちまったんだよ。

 “サンレスキャット”の警告が遅くてよ〜!

 ガハハハ!」


「そんなに笑ってる場合じゃないっスよね!?」 


 廊下に出た二匹を出迎えたのは暴徒鎮圧用に使われている制圧力を高めた戦闘アンドロイドだった。大野田重工が製造、販売しており、腕に接続された二門の三連装ガトリング銃と肩にグレネードランチャー、そして非殺傷用として催涙弾を備えている。建物の中にも投入出来る程の小ささと簡単な作り、搭載される戦術AIによる自動での暴徒鎮圧は販売と世界的に話題となり数多くの企業が導入している戦闘アンドロイドの一つだ。


「うわ、クソ面倒じゃないっスか!

 いちいち相手してたらキリが無いっスよ!?」


「うーむ、そうだなぁ……。

 けどまあ、迂回路は無ぇし突破するしかねぇなァ。

 寝起きの所すまねーが、戦えるか?」


「何一つ話を聞いてくれねぇっスこいつ…」


 呆れ顔のハルサの足元へとアンドロイドが撃ち出たばかりのグレネードがコロコロと転がってくる。ハルサはほとんど条件反射で爆発寸前の弾頭を蹴って、持ち主へと返すとルフトジウムへ親指を立ててみせた。覚悟を決める。やるしか無いのだ。綺麗に撃ち返されたグレネードはアンドロイドの胴体に当たり床へ落ちると爆発し、ニ体のアンドロイドを吹き飛ばした。


「おーおー、中々良い所狙ったじゃねぇかよ!

 それでこそ“大鎌の獣人”だぜ!

 いいか、よく聞け。

 俺が先陣を切る。

 お前は病み上がりだろうから俺の援護に徹しろ!」


ルフトジウムはハルサの肩をポンポンと叩く。ハルサは長い後ろ髪を纏めるように頭を振り、鋭い犬歯を見せて生意気に笑ってみせた。


「別に私が全部倒しても文句はないんスよね?」


「おう、勿論だ。

 やれるならやってみろ。

 …じゃあ、行くぜ。

 遅れずに付いてこいよ?

 出口までかなりあるからな〜…」


「理解したっスよ。

 じゃあ……はい。

 お先にどうぞっス」


 ハルサは右の人差し指をアンドロイドの方に向ける。ルフトジウムはタイミングを伺い、大きく息を吸い込むと敵のグレネードランチャーが発射された特徴的な音と同時に遮蔽物から飛び出した。ハルサも一拍遅れて彼女の後ろに続く。

 二匹が飛び出してきたのをレーダーで検知したアンドロイドは直ぐにその腕についているガトリングの銃口を向け、絶え間ない弾幕を張る。狭い廊下に何発もの発砲音が重なり合い、メロディーを刻み始める。 


「ガトリングなんかで俺達が止められるものかよ!」


ルフトジウムはデバウアーを盾にして銃弾を弾きつつ廊下を突き進み、最前列の一体目に襲い掛かる。デバウアーの灼熱の刃は一体目の胴体を簡単に分断し、一体目はガトリングの弾をバラ撒きながら倒れていく。倒れても尚発砲をやめないガトリングの銃口の向きを山羊はすかさずデバウアーの先で回して調節する。二枚目の胴体に一秒間で五十発を超える勢いで銃弾が叩き込まれる。銃弾の勢いは二体目のバランスを崩し、フラついた所を狙ったルフトジウムは構造上柔くなっている首をもぎ取ると、出来上がった首の間にデバウアーの銃口を差し込んで引き金を引いた。二体目の体内で暴れ狂った銃弾はリアクターを破壊し、人工知能を粉々に砕く。


「やり方がエグいっスね。

 バーサーカーじゃないっスか」


「こういうのは確実にトドメを刺さないとダメなんだよ」


「それには同意っスね」


 ハルサはルフトジウムが首をもぎ取ったアンドロイドを足場にして飛び上がる。低めの天井を軽く蹴り、体の向きを変えつつハルサは手に持ったアメミットを三体目目掛けて上から下へと振り下ろした。ド真ん中で左右に別れた三体目は直ぐに機能を停止すると、ハルサは対物ライフルの銃弾を四体目に向けて叩き込む。弾丸は容易に表面装甲を砕き、四体目のリアクターを破壊する。

 

「お前も大概バーサーカーだろ」


「えー!?

 そうっスかねぇ〜…」


 あっという間に四体を破壊した二匹の脅威度を更新した五体目は、下がって距離を取りつつグレネードランチャーから五発のグレネードを撃ち出す。


「バカな人工知能だぜ!

 普通このクソ狭い場所でそんなもの使うか!?

 だが、遅延信管だ!

 ハルサ、恐れんなよ!」


敵の照準をハルサからルフトジウムに移動させようと、山羊は効かないことを承知でデバウアーから銃弾をバラまく。


「言われなくても分かってるっスよ!」


 ルフトジウムは空中で弧を描いて飛んできた一発目をデバウアーを振って撃ち返すと、壁に当たって軌道を変えながら地面をコロコロと転がってきた二発目を遠慮なく蹴って跳ね返す。


「二発やれるか!?」


「任せろっス!」


 ルフトジウムの後ろにスタンバイしていたハルサはすかさず三発目をキャッチし、直ぐにそれをセキュリティアンドロイドの方へ向かって投げ飛ばす。それから走り出した彼女は壁を駆け、勢いをつけて飛び上がると四発目をオーバーヘッドキックで蹴り返した。

 残りは一発。ルフトジウムは落ちてくるハルサを受け止め、デバウアーを逆さに持つとまるでゴルフをするかのようにグレネードを撃ち出した。ドライバーで飛ばしたかのようにまっすぐ飛んだ五発目は三発目のグレネードとぶつかる。その衝撃はグレネードを爆発させるには十分で、爆発した二発のグレネードは残り三発のグレネードもまとめて起爆させた。爆発に当たった残りのアンドロイドが吹き飛び、ばらばらになった破片が廊下を荒れ狂う。とっさにその場に伏せた二匹の上を熱い灼熱の空気が通り過ぎていく。小さなネジや金属の破片が床に落ちる音と共に、熱を検知したセンサーから緊急消火用の水が噴き出すと二匹は各々の武器を傘にして立ち上がった。


「全部ヤったか?」


「銃声はしないっスね」


二匹の目の前には一体として邪魔をするアンドロイドの姿はなく、ガラクタだけ広がっていた。そんな折、ラプトクィリから通信が入る。


『よっしゃ、セキュリティに入れたのにゃ!

 アンドロイド停止信号を送信!!

 二匹とも今なのにゃ!』


「もうおせぇよ。

 全部終わってるぜ?」


「そういう事っス」


ルフトジウムは首元についたマイクに向かって報告すると、解除するためにかなり苦労したであろうラプトクィリの怒りの声が向こうから流れ出した。


『はぁ〜!?!?

 なんなのにゃこいつーーー!!!

 ボクがどれだけ苦労したと思っているのにゃ!?』


「落ち着けって。

 俺達が制圧したのはまだこのフロアだけだ。

 次は出口近辺の奴らを黙らせてくれよ。

 本当にお前を頼りにしてるんだぜ?」


『チッ……ま、いいのにゃ。

 えーっと、出口まであと三百メートルはあるのにゃ!

 破壊されたアンドロイドから応援信号が出てるにゃから、敵はまだまだ来るにゃ!

 とにかく先へ先へ急ぐのにゃ〜!!』


「わーってるよ!」


『あ、そうだ。

 言い忘れてたのにゃ!

 ハルにゃん、無事でよかったのにゃ~!』


「へへ、ありがとうっスよ。

 本当に感謝――わっ!?」


「そんなん後にしろ!

 いいから行くぞ!」


 ルフトジウムはハルサの手を取り、急加速する。ツカサやマキミよりも基礎体温の高いルフトジウムの掌にはうっすらとした汗が滲んでいたが、暖かく何処か安心するような気がした。





                -朱と交わろうが白であれ- Part 18 End

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