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-朱と交わろうが白であれ- Part 16

「手がかり…。

 ボクはよく分ってないにゃけど、その“鍵”って一体また何なのにゃ?」


カンダロは首を振り、小さく俯く。


「すいません、そこに関しては僕の方でも全然分からないです。

 “鋼鉄の天使級”と“鍵”、この二つが密接に関わっているのは間違いないでしょうけど。

 正直、僕自身も確信に至っている訳ではありません」


 “鋼鉄の天使級”に“鍵”というものが存在することはラプトクィリもアイリサから聞いて事前知識として理解していた。アイリサが血眼になって探し求めているもので、マキミが所持、保管していたことは確かなのだが…。


「じゃあ、どこからその情報を手に入れたのにゃ?

 “大野田重工”の持つ超絶企業秘密なのに間違いはないはずにゃけど?」


退屈そうに頭を掻いて、ルフトジウムはジャケットのポケットからアスパラを取り出し、ボリボリと齧り始める。


「んお?

 食うか?」


「いや、今はいらないのにゃ」


「カンダロは?」


「僕も今は大丈夫です。

 この情報の出元は、死んだ僕達の仲間が残してくれたものです。

 “鍵”という物の存在を認識し、確定したのも彼女です。

 彼女は貴女ほどではありませんでしたが、凄腕でしたよ。

 脳の義体化をしている訳ではありませんでしたがその道ではある程度はプロだったと思います。

 そんな彼女が死んだあと、自動的に一つの端末がルフトジウムさんの所に届いたんです」


カンダロがルフトジウムに目配せする。


「それがこいつだ」


ルフトジウムは懐から小さな情報端末を出し、ラプトクィリの前にことりと置いた。端末にはマジックで兎のマークが描かれている。


「中には今まで彼女が独断で調べた情報が入っています。

 当然、会社にはバレていないはずです」


「…そんな事を調べているからその子は死んだんじゃないのかにゃ?」


冗談と皮肉たっぷりにラプトクィリは端末を指の間に挟んで犬歯を見せながら笑ってやる。カンダロは思い出したかのように表情を暗く変え、ため息をついた。


「……僕も初めはそう思いましたが、彼女は要人を守るためにその身を犠牲にしたんです。

 会社の陰謀で殺されたなんて考えたくありません。

 サイントさんは最後の最後まで“AGS”と僕の為にその身を捧げたんです。

 本当に惜しい獣人でした」


重くなってしまった空気の中、ルフトジウムはボリボリと乾燥アスパラを噛み砕き、もう一本新しいのを齧りだす。ラプトクィリは情報端末を机の上に置き、大きく伸びをした。


「ふぁ~あ…。

 ま、別にボクにはそのサイント?とやらの面識がないにゃからどういう奴なのかは知らにゃいから別にどういう最後を遂げたのかはどうでもいいのにゃ。

 彼女が死んだきっかけにその情報が関わっていなかったらいいにゃ、と思っただけなのにゃ」


「……そうか、その線は考えたことが無かったな。

 ありがとうございます、少し調べてみます。

 とりあえずこの件はさておき、前回僕達が出張で行った場所で新しく気になる情報を手に入れました。

 ここから僕達はハルサさんがもしかしたらその“鍵”と関係があるんじゃないかと考えているんです」


「にゃ、お前らが前回出張で行った場所……。

 ああ、あのクソ寒い終わってる場所の事かにゃ」


 ラプトクィリの脳内に浮かんでいた場所は、彼女からしたらバカみたいに寒い上に、嫌な状況が沢山重なっていてもう思い出したくもない。“第十五資源切削都市”…あの日、傷ついたハルサを引きずり何とか逃げ出した都市はもう地図には載っていない。アイリサの手配した“ギャランティ”のヘリに回収してもらった二匹は、命からがら“ドロフスキー産業”と“鋼鉄の天使級”の光から逃げたのだ。


「はい。

 そこで得た音声データがあります。

 聞いてもらえますか?」


「流してみろにゃ」


カンダロは携帯端末を取り出して側面のスイッチを押した。ブツブツと切れたような音声が少し続いたが、直ぐにクリアな音声に代わる。


『あれを使えば…。

 あれを使えば大鎌の獣人……マキミの亡霊なんてすぐに……』


『マキミ?

 亡霊?

 何のことです?』


カンダロは一度ここで音声データを止める。


「これはヤマナカとうちの職員の会話を記録した物です。

 彼の発言で僕は“大鎌の獣人”のしぐさや癖が分かる映像をありったけ集めました。

 幸い、彼女が住んでいる都市にはあちらこちらにカメラがありますから想像よりも容易でしたよ。

 今まで関与していると思われていた事件が起こった周辺の映像はもちろんの事、焼けて失われたマキミ邸にも赴きました。

 何故か記憶媒体が全て抜き取られている監視カメラの内部に残っていた微量のデータをつなぎ合わせた結果、僕達はハルサさんがヤマナカの言っていた亡霊だと確信するに至ったんです。

 なんせ灰色の髪で三本の尻尾を持つ狼獣人なんて腐る程いますからね」 


「それだけじゃねーぜ。

 俺の持つ武器の痕跡も特定に一役買ってんだ」


「うちの会社にはちょっと武器に詳しい奴がいまして…。

 ルフトジウムさんの“デバウアー”に残されていた傷の痕跡から、その傷を付けた武器がマキミ博士が作り出した“アメミット”である事を突き止めました」


アスパラを飲み込み、ルフトジウムがカンダロの言葉に補足で説明を加える。


「デバウアーはかなり頑丈だからよ。

 通常武器ぐらいじゃあ中々傷つかないんだ。

 だけど前回はそうも言ってられない戦いだったからよ。

 ハルサの大鎌によってついた傷跡は今までよりも深く、特徴的だったんだ」


 ラプトクィリは鼻から息を長く出しながら参ったというように天井を仰いだ。ヤマナカ、あのタヌキオヤジめ。やはり彼は殺しておくべきだった。情報は予期せぬ所から漏れ出ると何度かアイリサに忠告したというのに、何故かアイリサは首を縦に振らなかった。「親殺しはよくない」という理由だったが、果たして彼女は本当にそう考えていたのだろうか。ハルサの事を知る人間を一人でも残しておきたかったのはヤマナカが“鍵”に通ずるからで、だから前回二匹をあの極寒の地へと向かわせたのでは無かったのか。


「もう一つの音声データも再生しますね。

 こちらの音声データで僕はもしかしたらハルサさんは“鍵”と関係しているのではないかと勘付きました。

 こちらはルフトジウムと“鋼鉄の天使級重巡洋艦アオザクロ”との会話です」


ラプトクィリは一言も逃すまいと耳を澄ませる。


『んー、なんて言ったらいいのかな。

 俺は“重巡洋艦”なんだけど……ふと近くに“旗艦”の気配を感じてさ。

 その気配、ずーっと俺達が探してた存在なんだけど目が覚めたら反応は消えていて…。

 近くに他に“天使級”いたかどうか知らない?』


『……お前は何を言って…?』


『伍番と捌番も“旗艦”の気配を感じたらしいから俺の勘違いじゃないと思うんだよね。

 だからここにいたおねーさんなら何か分かるんじゃないかなって。

 知ってるならすぐに教えて欲しいな』


「…どうですか?」


短すぎる音声ではあったが、妙な説得力と圧倒感がラプトクィリの脳内を満たす。


「この音声の存在は“AGS”にはまだバレてないのにゃ?」


「はい。

 この音声データ及び情報は僕とルフトジウムさん、そして貴女しか知りません。

 そして“鋼鉄の天使級”と“鍵”、揃ったら何か良からぬことが起きる…そんな気がするんです。

 ですから、ハルサさんを“大野田重工”ひいては“ドロフスキー産業”に渡してはならない。

 ハルサさんはマキミ博士の死についても知っているでしょうしね。

 どうですか、“サンレスキャット”。

 僕達の仮説は」


 ラプトクィリはただ無言で頷くしかなかった。“ドロフスキー産業”は“大野田重工”の持っている“鋼鉄の天使級”の技術を喉から手が出る程欲しがっている。“鍵”がどう作用するのかは分からないがカンダロが言った通り、“ドロフスキー産業”が手に入れるにしろ、“大野田重工”が手に入れるにしろいい方向に進むとは考え難い。


「にゃー……。

 なんともまあ…仕事が出来る男なのにゃ」


「ありがとうございます。

 お褒め頂き、光栄ですよ」


ルフトジウムは膝を叩いて立ち上がり、人差し指を立てた。


「さて、猫も納得したところで作戦会議でもしようぜ!

 囚われの姫様を助けるのが騎士としての役目ってもんだろ?」


「……お前は騎士というよりはただの押しかけ女房にゃ。

 それで、ボクを巻き込むからには成功確率の高いプランがあるんだろうにゃ?」




                -朱と交わろうが白であれ- Part 16 End

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