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-断頭台の憂鬱- Part 21

「ちょっと待て。

 なんで“ドロフスキー”が関わってくるんだ?」


 ダイは不思議そうに首を傾げる。ルフトジウムは十時間ほど前の自分の記憶を掘り起こす。あの場にいた敵の銃や防弾チョッキからは小さい時頭に詰め込まれた“ドロフスキー”製の特徴が随所に散りばめられていた。また、襲い掛かってきた戦車の機構も“ドロフスキー”製の独特の特徴を有していた。これらは証拠としては少し詰めが甘いかもしれない。が、いずれにせよ装備を提供したのは“ドロフスキー”で間違いなく、彼女の中では“ドロフスキー”が今回の事件に関与している事は確定していた。


「俺はアイツらの装備を見た。

 襲ってきた戦車とも戦って撃破してるしな。

 ガキの頃に覚えさせられた兵器とか銃とか、特徴が一致した。

 だからそういう風に判断しただけだ。

 なにより反企業組織が自前で戦車を揃えるなんて不可能だろ?」


「なるほど、証拠としては少し甘いが一理あるな。

 お前が言うなら間違いない所もあるだろう。

 少し短絡的かもしれないが」


「短絡的言うな」


 山羊はまた冷めた野菜餃子を一つ摘まむ。口を動かしながら空になった烏龍茶が入ったジャッキを不満そうに傾け、ルフトジウムは壁際に立てかけられた注文用タブレットをじっと眺める。


「…飲み物頼むか?」


カンダロがタブレットを取るために手を伸ばすが、ルフトジウムはやんわりと首を振った。


「いらねぇ。

 もうお腹いっぱいなんだよ。

 なぁ、おっさん」


「おっさん言うな」


「俺さぁ、“AGS”に買われた時にある程度兵器や銃、装備の勉強はさせられたけどよ。

 いまいち肝心の“ドロフスキー”ってのがどういう企業なのか知らねえんだよ。

 教えてくれよ」」


ちらりと説明を求めるようにルフトジウムはダイの顔を見る。ダイは呆れ顔で口を開くと「勘弁してくれよ」と言う様に肩を竦める。


「お前、まさかとは思うがこの俺に社会の先生をさせるつもりか?」


「冗談じゃない」と言いながら残っていた大量の麦酒を喉を鳴らして全て飲み干し、ダイは気持ちよさそうに目を瞑った。空になったジャッキを机の上にドン、と置きゲップを一つすると彼は座布団の上に横になる。


「別にいいじゃねぇかよ。

 いちいち調べる方が面倒じゃん!」


「持っている便利な板で調べろよ」


「チッ…。

 トドみたいに寝っ転がりやがって。

 そのうちトドの獣人になっても知らねーからな」


「言ってろ、アホ山羊」


 ダイは体を起こしてタブレットから新しく唐揚げと炒飯、そして麦酒を注文する。


「まだ食うのかよ」


「腹が減ってはなんとやら」


ルフトジウムは教えてくれる気配のないダイを見限り、渋々ポケットから端末を取り出して検索して出てきた情報にざくっと目を通す。

 “ドロフスキー産業”はペンジア大陸の六十五パーセントを支配している世界で一番の大企業だ。資本金は軽く十兆リルを超え、従業員数だけでも十五万人と百二十万匹を有している。傘下の企業を含めたらその数字は更に跳ね上がる。

 元々は社会主義国家の一機関に過ぎなかった彼らは“大崩壊”で国家が瓦解した際に軍事行動によって実権を握った。支配地域では基本的に他社製品の輸入を禁止しており、そこに住む人たちは“ドロフスキー”製以外の製品を基本的に買う事は出来ない。そのような環境下でのシェア率は当然ながら全ての分野でほぼ百パーセントとなっている。会社が倒産する恐れは無いが、行き過ぎた拡大社策は順調に腐敗の芽を育んでいるとか。

 そんな会社への入社条件の一つは“人権の売却”だ。社員は会社の持ち物となり、一度入社すれば絶対の服従を義務付けられていて上司の命令は絶対。万が一逆らうと北極大陸での強制労働が課せられ――。


「うわ…」


 これ以上読むと自分がいる環境に感謝してしまいそうなので、ルフトジウムは端末から目を離し、もにもにと目頭を揉んだ。


「…なんかよくわからんがやべーとこだな。

 人権の売却なんて獣人の俺達と何も変わらない所までその身を落とすって事だぞ」


「そんなにヤバイのかよ、あそこ。

 そいつらがお前が言う事が本当だとしたら“大野田重工”の支配地域にまで出張ってきてる。

 これがどういう意味か分かるか?」


「えー…?」


口を閉じうーむ、と考える山羊を横目にツカサがにダイが頼んだ品を持ってきた。


「お待たせ致しました。

 唐揚げに炒飯、麦酒特大サイズです。

 お客さん健啖家ですのね?」


「がはは!

 まだまだこいつらに負けはしないぜ」


「沢山召し上がってくださいね。

 ではごゆっくり」


揚げたてで湯気を立てている唐揚げとパリパリとしたレタスの触感が残っている炒飯を口に入れ、ダイは満足そうに麦酒を一口飲む。


「あぁ~うめぇ~!!

 やっぱこれだよなぁ~~!

 で?

 分かったか?」


ルフトジウムはギブアップという様に大きく息を吐いて座布団の上に寝転がった。


「分かったらどや顔で言ってるよ」


「まぁそうだな。

 俺も完全に答えを知っているわけじゃないから少しは加減してやるぜ?

 気が付いたことを言ってみろ」


「“気が付いたこと”かぁ。

 “ドロフスキー”が狙うものなんて基本的に軍事技術だよな。

 あそこは拡大社策を基本とした企業だ。

 その根は軍事産業にある」


「続けて?」


「“大野田重工”領域内には存在しているが、“ドロフスキー”には無いものってことか?

 自国でほぼすべてを生産できる大企業が欲しいもの…。

 やっぱり軍事技術だと思うんだよなぁ~…」


ルフトジウムは起き上がるとようやく酒が回ってきたのか顔が赤いダイの顔を見る。


「お前が出した答えに間違いはないだろう。

 そんでもって、これ以上俺達は先には行けないぜ。

 何にせよ情報が無いからな。

 …ここからは俺の推測になるんだが、恐らく“遺跡”関係だ。

 “大野田重工”のここ二年の領土の拡大率を調べたことは?」


「はぁ?

 ねぇよそんなもん。

 社会の先生じゃねえかお前」


「約八パーセント。

 それが二年連続で、だ。

 三年前は一パーセントにも満たなかった。

 最近ニュースでずっと“AtoZ”の戦争の結末が流れているだろう?」


「あー…ああ。

 うん、多分」


ダイはため息をつく。


「お前も“AGS”の一員ならニュースぐらい見ろ。

 毎日サイバー鳥居とか五重塔のホログラムで勝利の宣言が出ているだろうが。

 それで、連戦連勝するなんて流石に異常だと俺は考えたんだ」


「歴史上、ずっと勝ち続けた奴なんていないもんな」


「全くその通りだ。

 で、だ。

 お前、ずっと前に“上”から口止めされた事件覚えてるよな?」


「口止めされた事件…?」


ルフトジウムはまた座布団の上に寝転がって記憶を巡らせる。二分ぐらい沈黙した後


「あ!!!

 もしかしてあのひとく――むぐっ!?」


思い出して大声と共に飛び起きたルフトジウムの口をダイは手で塞ぐ。


「声がでけぇ!」


「ほへんっへ…」


「けど、まぁ思い出したようだな」


口から手を退けて、ダイは唐揚げにたっぷりマヨネーズをかけて頬張った。ルフトジウムは声を顰めて思い出したくなさそうに目を片方だけ閉じて右手で頭を抑える。


「後にも先にもあんなに後味が悪い事件は無かったからよ。

 ばっちり思い出したぜ。

 人食い虎獣人の件だよな?

 俺の戦闘技術をもってしても、敵わなかった事件。

 いまいち要領を得ないが、あいつが“新技術”って奴なのか?

 少なくとも五年前には無かったのは確実だよな。

 そしてそれを“ドロフスキー”が欲しがってる?」


「俺の予想では、だけどな」


「趣味が悪い予想だぜ」


ルフトジウムは唇を尖らせて憎まれ口を叩く。


「“鋼鉄の天使級”…」



「!?」


「うおお、びっくりした。

 何だよカンダロ、起きてたのかよ」


いつの間にか起きたカンダロが頭を抑えながら一人と一匹の会話に入ってくる。


「途中から聞いてましたよ…。

 あー頭痛い…」




                -断頭台の憂鬱- Part 21 End

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