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-断頭台の憂鬱- Part 19

ダイに頭を撫でまわされながら、ルフトジウムは少しだけ目を細めながら上目遣いで怖ず怖ずと質問を投げかける。


「な、なぁ……。

 そのー……怒らねぇ……の……? 」


 企業裁判所の法廷前で話すような内容ではないが、ルフトジウムはとにもかくにもダイの置かれてしまった状況が自分のせいで引き起こされた事をかなりの重荷に考えていた。彼女にとって彼は名付け親であり、育ての親と言っても謙遜なく、愛娘の立場として考えればむしろ当然とも言えた。だからこそ、こういう時彼女は父親の事が心配で、しおらしい態度になる。人間と同じだ。   


「あ?

 怒る? 

 なんで俺が怒るんだ?」


鼻をふんと鳴らし、ダイはルフトジウムの頭から手を退ける。ちゃんと顔を上げてダイの姿を真正面に見据え、ルフトジウムは言葉を繫げる。


「だってよー……。

 俺がしくじっちまったから……。

 だから、あんたの立場が……」


「……………」


ダイは何も言わずにサイントの頭からも手を退け、横でぼーっと窓の外を見ているカンダロにこっちへ来るよう指示する。カンダロはまた泣きそうな顔になり、ダイの近くに来ると頭を垂れる。


「すいません…。

 すいません、隊長…。

 僕が…僕がもっと……」


ダイはメソメソしているカンダロとルフトジウム、ぼんやりとしているサイントをまとめてぎゅっと思いっきり抱きしめた。


「お前らが思い詰めるのも無理はねぇよなぁ。

 何しろまだ六時間前の話だもんな。

 心配しなくていい。

 大丈夫、大丈夫だからよ。

 どうにでもなるさ。

 だからしっかりしろ」


 ――六時間前、無事に帰還したF部隊をビルの屋上で待っていたのは“AGS”の重役達だった。彼らはルフトジウムがボロボロになってヘリから降りてくるや否やすぐに状況を聞き出そうとする。

 “ドロフスキー”の戦車と殺り合って、疲れて動きたくないルフトジウムは重役達を一瞥してさっさと逃げる。すると今度は頭から血を流しているサイントに聞こうとするではないか。呆れたベアトリスが状況を説明する。それとほぼ同時に、負傷者がぞろぞろとヘリから降ろされるのを見た“重役”達は作戦の失敗を悟り、顔面蒼白になってひそひそ話を始めていた。

 おおかた誰の責任にするべきかの話だろう。案の定すぐに企業裁判が開かれ、特別任務の失敗はダイに全ての責任が押し付けられた。


「すいません、隊長。

 僕が……僕が……」


「ガハハハ!

 いつまでメソメソしていやがる!

 問題ないと言ってるだろ!」


「な、なぁ、おっさん」


「ん?」


「そ、そろそろ離して欲しいです…。

 サイントは今息が出来ていません…」


「おお、そうか悪ぃ、悪ぃ。

 がっはっは!」


豪快に笑うダイに対して、一人と二匹はまだ鬱蒼とした気分が晴れずにいた。ダイはふう、と息を吐いて目を閉じながら頭を掻くと一人と二匹を解放し、口を開く。


「お前ら腹は減ってないか?

 いい加減に飯にしよう。

 どこでもいいぞ。

 今回は俺が奢ってやる。

 行きたいところに行こう」


サイントがすぐに手を上げて反対する。


「隊長。

 サイント達はまだ勤務中です。

 そのような行動は重役たちの心象を更に悪くするかと思います。

 最悪もっと重い処分が…」


つらつらとしないほうがいい理由を並べるサイントの手をルフトジウムは掴んで降ろすと、腹を軽く抑える。


「いいから行こうぜ。

 俺達が働き始めてもう十八時間も経ってんだ。

 普通なら退勤の時間なんだよ。

 それにこんな大企業の小さな歯車が四つ欠けても問題ないって。

 カンダロもいいよな?」


メソメソしていたカンダロは半ば自棄になっていた。


「僕は今日もう沢山食べます。

 お酒も飲みます!!」


「いいじゃないか!!

 がはははは!

 じゃあ早速行くとしよう!」


そのまま二人と二匹はエレベーターに乗ると自分達に下った処分なんて気にも留めず、カンダロが早速用意した自動運転社用車にいそいそと乗り込んだ。




      ※  ※  ※




「ほーう?

 ここがお前達が足繁く通ってる中華料理屋か。

 中華料理“陽天楼”…。

 確か、お伽噺に出てくる古の戦艦の名前だったか?

 ここの店主はいいセンスをしてるぜ。

 それにしてもこの店、個人でやっているにしては店構えが……」


入口で看板や外見を見て腕を組みながら考えるダイの背中をルフトジウムはバシンと思いっきり叩く。


「痛ぇ!」


「なにブツブツ言ってんだよおっさん!

 早く入ろうぜ!

 すっげーうめえから!」


「サイントも今日は珍しく沢山食べます。

 こうなれば自棄です」


サイントはもう何を食べるのか車の中で既に決めていた。候補を五つ頭の中で浮かべ、どれも食べたいと結論を出した彼女は今日はカンダロに倣い沢山食べると決めたらしい。


「僕もです!」


「ほどほどにしろよな、お前ら!」


二人と二匹はワイワイと話しながら店の扉を開ける。


「ん、お客さんっスか?

 いらっしゃいっス~!」


店内に入るや否や青色のチャイナドレスに身を包んだ小さな狼の獣人が両手に焼売や肉まんを入れる三段重ねの蒸籠を両手に持ったまま二人と二匹を迎え入れた。ルフトジウムは誰よりも早くその子に思いっきり抱きつくとさっそく頬ずりする。


「あーかわいい!

 くそっ!

 癒される!」


「うえっ!?

 誰かと思ったっス!

 めちゃびっくりしたっス!

 ルフトジウムさんじゃないっスか!?」


 ハルサは初めはセクハラおやじによるセクハラと勘違いして逃げようと抵抗したものの、相手が分かると抵抗を止めて頬ずりされるがままになる。時折ルフトジウムの頬に貼ってある絆創膏が擦れて痛いのか少し眉がハの字になっていたがそんなことはルフトジウムからしたら些細な問題だ。


「はーいい匂いだ。

 たまらん。

 ハルサはいい匂いするし柔らかいし癒されるなぁ~」


そういいながらルフトジウムはハルサの持っている蒸籠を取ろうとする。


「ちょ、それは他のお客さんのっス!

 それになんか発言がなんかどこかの変態さんみたいっスよ!?

 どうしたんスか一体!?

 サイントさん、カンダロさん助けてくれっス~!」


ルフトジウムの横暴に困ったハルサはサイントとカンダロに助けを求める。しかし当てにしていた一人と一匹は既に空いている席に案内される前に座ると真っ先に酒と食べ物を机の上に置いてあるタブレットを連打して注文していた。


「えぇ…!?

 な、どうしたんスかみなさん!?」


「すまん、なんか…」


その雰囲気と状況についていけないのは初めてこの店に来たダイだ。一瞬で繰り広げられる目の前の状況を理解できずに入口で立ちすくむ彼の側にもう一匹の店員が近づいてくる。


「あらあら、“AGS”の皆様。

 ようこそ、いらっしゃい。

 しかしまぁ……一体何があったのかしら?」


ツカサがお盆の上に麻婆豆腐や唐揚げの乗った皿を持って出て来たのだ。そして目の前の光景を見て流石の彼女も理解できずに困ったような表情を浮かべる。


「えっと…?

 お客さんはおひとり様かしら?」


「ああ、いやこいつらと一緒だ」


ダイはサイントとカンダロ、ルフトジウムを順番に指さす。


「あら、そうでしたの。

 でしたらあのお二方が座っているところに座ってくださいな」


ツカサはカンダロとサイントの席に座るようダイに促す。ダイは静かにツカサのいう通りカンダロの横に座ると、既に料理を頼み終わってご満悦の表情の彼に奥に詰める様に言う。


「注文はタブレット、もしくは呼んでくれれば私達が伺いますわ。

 お水はセルフサービスになってますの。

 そこのコップを使って下さいまし。

 では、ごゆっくり。」


ニコニコと笑みを崩さずツカサは一気に説明するとまだハルサに抱きついて匂いを堪能しているルフトジウムの方を向いた。


「ルフトジウムさん。

 そろそろハルサを放してあげて下さいね」


「んお?

 あ、ああすまん。

 ハルサ、また後でな」


「うぇぇ…えらい目にあったっス…」






                -断頭台の憂鬱- Part 19 End

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