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-断頭台の憂鬱- Part 16

「まずはよく吠える機関砲からだ!!」


 投げつけられたデバウアーは獣人の筋力も相まって時速三百キロものスピードで今から発砲を始めようとする機関砲の銃座へと突き刺さる。デバウアーの刃は簡単に機関砲の銃身を切り落とし、そのまま分厚い装甲版を簡単に溶解させて貫通するとその奥深くにまでその身を沈み込ませる。


「我ながらいいコントロールだぜ」


 悦に浸りながらもルフトジウムはその体の動きを止めない。生き残った機関砲と主砲が隙あらばすぐにでも山羊を粉砕するために狙いを定めている為だ。ルフトジウムは銃弾の嵐の中を走りながら冷静に敵の戦車の稼働領域とその装甲配置を目視で計算する。“ドロフスキー”の設計がどうかは知らないが、こういう地上兵器は大体上と下、後ろの装甲が薄いと相場が決まっている。


「どうやって上にまで上がるかなぁ」


山羊は戦車の側面に収納されている脚に目をつける。あれを利用しない手はないがどうやって使わせるべきか。


「まぁやるだけやってみるか」


壊れた機関砲の死角から一本だけ残ったデバウアーを地面に擦り、ギラギラと火花を上げながらルフトジウムはまず脚を止めるために戦車のキャタピラ部分へと近づいた。戦車はすぐに短絡的ルフトジウムを踏み潰すことを選択し、巨体が彼女を目掛けて突っ込んでくる。ルフトジウムはキャタピラに踏み潰されそうになるギリギリのタイミングでその上体を屈めると車体下部へと滑り込んだ。


「らぁ!」


 ルフトジウムはそのままデバウアーを履帯に押し付け、走る勢いのままその手に微かな抵抗を感じながらも武器を振り切る。デバウアーの高熱の刃は回転する分厚い履帯をもってしても防げるはずもなく、履帯は沸点に達し、溶けだした履帯はお互い結合する事が出来ずにバキン、と嫌な音を立てて弾けた。

 片方一本だけを壊しただけではまだ足りないと判断したルフトジウムは後部の履帯へ引き続き向かう。片側二本の履帯を破壊すれば戦車の動きは鈍り、脚が出てくるはずだ。当然右前方の履帯が切られたことを把握した敵戦車は対応を迫られる。戦車に搭載された人工知能が導き出したのはエアサスペンションの空気を抜き、ルフトジウムを押しつぶす作戦だった。機械の判断は無慈悲で、すぐにサスペンションの空気が抜けて車体が下がってくる。


「正気かよ!?」


 ルフトジウムは向かっていた後部履帯ではなく、外に出ることを強いられる。車体が落ちてくるスピードはかなりの物で、コンマ一秒もかからずにルフトジウムは直感で拘束で動く戦車の履帯の隙間へプールに飛び込むような姿勢で体を滑り込ませた。

 ひらりと舞うコートの端が履帯に飲み込まれそうになるが何とか無事にルフトジウムは車体下部からの脱出に成功する。判断が少しでも遅れていたら地面と車体の間に彼女は挟まれて死んでいた。何とか脱出出来たルフトジウムに一息つく暇は無い。戦車は傷んだ履帯を切り離すと側面に収納していた四本の太い脚を展開し、ルフトジウムを踏み潰そうとその脚を振り下ろしてきた。


「くっ…!」


脱出したのも束の間、すぐにルフトジウムは行動する。滑り止めの為に脚の先に取り付けられていた尖った金属の杭を避け、ズズン、と振り下ろされてきた脚を駆け上る。脚には油圧サスペンションを始めとした数多くのでっぱりがあり、車体上部へと駆け上るのは予想通り容易だ。


「こいつもくれてやるよ!」


 デバウアーを脚に突き刺し、高熱を伴った先端を脚の装甲深くに突き刺しながら彼女は車体の上へと駆け上っていく。まるでバナナの皮のように結合部分を切り裂かれた装甲版が剥がれ、関節の構造上弱くならざるを得ない部分が露呈する。駆動用のモーターや脚を動かすための機関、瞬発性の為に開発された人工筋肉が詰まったその部分をルフトジウムは遠慮なくデバウアーでバッサリと斬り払う。深く切り裂かれた部分からブルーブラッドがまるで噴水のように噴き出し、ルフトジウムにかかる。


「きったねぇなぁ…」


 関節を切り裂かれた戦車はすぐに立ち上がる力の一本を失い、姿勢を崩す。しかし残っている三本の脚を利用し巧みにバランスを整えながら攻撃を止めることは無い。機関砲と二本の小型対人ミサイルが彼女に狙いを定めて攻撃を開始する。

 車体の上でも吼えてくる機関砲の死角に駆け込んだルフトジウムを狙って対人ミサイルが突っ込んでくる。


「やべぇ、忘れてたぜ」


ついいつもの癖でミサイルを狙って引き金を引いてしまったルフトジウムだったがすぐに銃弾が尽きている事を思い出す。彼女へと遠慮なく突っ込んでくるミサイルを迎撃するため、ルフトジウムはデバウアーの峰を外に向け、ミサイルを待ち構える。ミサイルを見てルフトジウムは舌打ちしながらぼやく。


「よりによって“悪魔のボール”かよ!」


 “ドロフスキー”の使う対人ミサイルはかなり小さい。ミサイルと言えば一般的に細長い形を連想するだろうが、“ドロフスキー”の使う対人ミサイルはバスケットボール程の本体にプロペラが左右に突き刺さっているという見た目をしている。

 直径三十センチにも満たない小さな本体の中には高性能火薬がたっぷりと詰まっており、ミサイル一本で簡単に車一台を消し飛ばすことが出来る程の威力を持っている。誘導性能もかなりのもので、二枚のプロペラと姿勢制御装置のお陰でトンボのように急に向きを変えることも、空中で止まることも簡単に出来てしまう。更にこのミサイルは殺傷能力を高めるために当然のように近接信管も搭載しており、対象へその身を直撃させることが難しいと判断するや否や爆発し、破片を広範囲に撒き散らす。

 大企業同士の最前線にて、必ず“ドロフスキー”が繰り出してくる程嫌らしいその兵器は、一度ロックオンされてしまえば例え対象が小さな隙間へ逃げようが隠れようが追いかけてきて必ず命を摘み取りに来ることから“悪魔のボール”等と呼ばれている。


「全く、厄介なもん積んでやがる…!」


 ミサイルは戦車に搭載された母機からの指示を受けて、獲物の動きを読み取り効率的に襲い掛かってくる。数多くの“AGS”の戦闘用獣人すら簡単に葬ってきた曰く付きの厄介な兵器は、今回も山羊を目掛けてその身をもってして襲い掛かって来た。


「ボールで遊ぶなんて何年振りだろうな、俺」


 デバウアーをぐっと握りしめ、突っ込んでくるミサイルを相手にルフトジウムは前へ出る。近接信管が作動するよりも早く、近接信管が入っている下部ハッチの部分をルフトジウムは狙いすましてデバウアーを振り、思いっきり下からカチ上げた。

 デバウアーの強く、重い一撃を食らったミサイルの近接信管は強い衝撃により破損し、ルフトジウムの生体反応を検知することは無かった。プロペラ部分も根本から折れてしまい、既に飛行能力を失ったミサイルはそのまま大きく空へと向かって飛んでいく。立て続けに続いて襲ってくる二つ目も同じように彼女は大きくまた一歩踏み出して勢いを乗せて下からカチ上げた。プラスチックで出来た破片を撒き散らしながら文字通りボールとなった二つはすぐにその勢いを失い、重力に従い落ちてくる。


「オラッ!!」


そして落ちてきたボールの一つ目を目掛けてルフトジウムは大きくジャンプする。


「“ボール”としての役目を果たしやがれ!」


落ちてきた一つ目のボールにオーバーヘッドシュートを決めるとボールは鋭く一直線に戦車の照準器を目掛けて飛翔していった。






                -断頭台の憂鬱- Part 16 End

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