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-断頭台の憂鬱- Part 8

 通路を守るようにしっかりと警備していた三人を簡単に蹴散らしたルフトジウムは首を失って痙攣している三人の遺体をじっと眺め、反企業組織のテロ集団にしてはかなり立派な整った装備をしているなと改めて感心する。

 銃についている装備はゴテゴテの合いの子で、特徴的な作りを見てみる限り“大野田重工”と敵対している“AtoZ”や“ドロフスキー産業”から支援金を得ている事が簡単に読み解けた。


「…こういう奴らの裏側を洗ったらさぞかし埃が出てくるんだろうなぁ。

 都市を仕切ってる部長達も五割ぐらいの確率で真っ黒かもしれないぜ」


そういった反企業組織を放置し続けることは都市の治安悪化に直結するのだから、ルフトジウム達“AGS”としては何か理由を付けて捜査したくてしょうがなかったのは事実だ。そう考えれば今回のオオウナバラの依頼は不思議と悪くは無いと思えてくる。


『確かにそうですね。

 もしかしたらルフトジウムさんからしたらかなり満足が出来る捜査になるかもしれませんよ?

 今回の潜入は“重工”の部長による汚職と腐敗の証拠集めにもなるんじゃないですか?』


「はっ、どうだか。

 こういう奴らに限ってしっかり証拠は消してるもんなんだよ。

 自分達が危なくなったらすぐに尻尾を切って逃げれるようにな」


『でももし捕まえれれば“重工”から報酬金が払われますよ。

 ボーナスですよ、ボーナス』


「能天気な奴だぜ…」


 ルフトジウムはデバウアーをクルクルと回しながら通路を歩き、突き当りに辿り着いた。部屋の扉はかなり厳重な鋼鉄で出来ており、壁にも三センチ程の厚さがある鉄板が後付けで貼られている。ただの幹部の部屋にしては厳重すぎる作りに大きな違和感を覚えながらもルフトジウムはドアノブに手をかける。


「標的がいるのはここの部屋だよな?」


『はい、そこです。

 直ちに彼を確保してください』


 重苦しいドアを開けようとドアノブに手をかけていたルフトジウムだったが、背後から漂ってくる重苦しい殺気に敏感に気がついて振り返る。眼前に真っ黒な影が迫ってきていて、彼女はほとんど何も考えずに長年の経験から来る反射でその体を大きく後ろに逸らした。今までルフトジウムの頭があったところを巨大な斧がブン、と風切り音を立てて通り過ぎ、その場に切れた前髪が何本か滞空する。


「うおっ!?」


 斧を避けながら三回ほど後方転回したルフトジウムは先ほどまで後ろに立っていた敵の姿をようやく目に入れる。威風堂々と立っている敵の身長は軽く二メートルを超えていた。その両手には先ほど襲い掛かってきた刃渡り一メートル以上ありそうな巨大な斧を持っており、体は固い甲冑のようなもので包んでいる。関節と関節の間には金属製のインプラントが埋め込まれていて、そこから赤色のチューブのようなものが脊髄へと向かって伸びていた。下顎から上に向かって二本の巨大な牙が生えていて、目はまるで飢えているかのように血走っている。獣人というよりはもはや化け物に近い見た目にルフトジウムも鼻で笑ってみせる。


「はっ、事前に言っていた戦闘用獣人ってのはこいつか」


 企業によって生体兵器として改造された戦闘用獣人を見るのはルフトジウム自体当然初めてではなく、この程度見慣れている彼女は冷静に左右のデバウアーを合体させて構えた。


『大丈夫ですか!?

 襲われたんですね!?』


 ルフトジウムの状況を確認したカンダロが心配そうに声をかけてくる。ルフトジウムは変な長さになってしまった前髪を一瞬だけ見て返事をすると引き金を引いて弾を敵へとばら撒き始める。


「俺のかわいい前髪が二、三本持っていかれたけど何とか大丈夫だ。

 とりあえず標的が逃げないようF部隊の残りの連中に連絡しておいてくれ。

 俺は目前のこいつを片付ける」


『分かりました!

 もし危なくなったらすぐに援護を送りますからすぐに連絡を――』


「いらねーよ、そんなもん」


 銃口から放たれた銃弾はルフトジウムへと猛スピードで向かってきながら闇雲に斧を振り下ろしてくる敵の皮膚に食い込んでいくが、敵は皮膚の下に鉄板のようなものを入れているらしい。銃弾は薄皮一枚を少しだけ千切る程度で、デバウアーの持つ銃弾の威力程度ではとても内部にまでダメージが通らない。胴体に当たった銃弾は甲冑で弾かれてしまい、実質デバウアーの銃は全く意味を為していない。


「ちっ、固ぇな。

 おいサイント、聞こえるか?

 こいつをお前が見える場所まで誘導する。

 援護頼むぞ」


デバウアーの弾倉を交換しながらルフトジウムは走り出す。


『サイントさんから返事はないですが、聞こえてます。

 大丈夫ですよ』


 逃げるルフトジウムを理性すらとっくに吹っ飛び、もはや本能のみで直線的に行動している獣人が追いかける。彼は見た目通り猪の獣人で、アサルトライフルの銃弾が与えた小さな痛みで既に興奮状態にあった。


「ほらほら、こっちだぜウスノロ!」


そんな猪獣人目掛けて装填を終えたデバウアーから弾をばら撒きながらルフトジウムは来た道を戻っていく。ガラスが大きな通路にまで誘導できればしめたもの。サイントからの狙撃でアイツの頭蓋を砕くことが出来るだろう。猪獣人はルフトジウムをぶった切るように縦に、横にと縦横無尽に振り回すが山羊には当たらない。ひらひらと攻撃を躱し、まるで遊び踊るかのように避ける。そうして簡単に窓ガラスがある通路にまで来たルフトジウムはサイントに話しかけた。


「そろそろだ!

 いってぇの一発頼むぜ!」


 イライラと興奮状態でまともな思考回路を持ち合わせていない敵獣人は雄たけびを上げてルフトジウムへと襲い掛かってくる。その巨体が窓ガラスの側を重戦車のように走り抜ける。すぐにサイントからの一撃で戦闘用獣人の頭蓋は砕け散る――はずだった。しかしそうはならなかった。

 ルフトジウムの望み通りの狙撃は無く、猪獣人はピンピンと元気なまま斧をルフトジウムに振り下ろしてきた。てっきりこの一撃で戦闘が終わると慢心していた彼女が攻撃を避けるには時間が足りない。ルフトジウムはデバウアーを少しだけ開き、灼熱の刃で斧を受け止める。


「サイント!?

 おい、てめぇ、何してやがる!

 寝てんのか!?」


『サイントさん!?

 すぐに援護を!』


 しかしサイントからの返事は無く、彼女から援護の狙撃も無い。斧を受け止めている山羊よりも遥かに大きな体の戦闘用獣人はそのままルフトジウムの体を押し切ろうと思いっきり力を込めて来る。


「ぐっ…!

 くそっ、この馬鹿力め…!」


ルフトジウムも出し惜しみしている状況ではなくなった。すぐにリミッターを解除し、負けじとデバウアーを押し戻しながら鋏の機構を利用して斧の刃を逆に切り取ってやった。溶けた鉄が真っ赤になりながら滴り落ち、切り取られた刃が通路に突き刺さる。


「サイント!

 お前、マジで何してやがる!」


 心拍数と息をゆるりと整えながらルフトジウムは後輩に文句を垂れる。猪獣人が使えなくなった斧を投げ捨て、ボクシングのような構えを取ると敵の両手が真ん中から左右に割れた。左右に割れた拳の内部でまるでモーターが高温で回るような音がするとチェーンソーの刃がにゅるりとその姿を現す。


「おいおいマジかよ。

 大道芸人はお呼びじゃねぇんだぞ……」


 にやりと笑い、猪獣人はルフトジウムへと掴みかかってくる。右手、左手と順番に繰り出される相手の一撃をルフトジウムはデバウアーの背を利用して弾いていたのだが、距離をとるために一歩ずつ後ろへと下がることを強制される。チェーンソーとデバウアーがぶつかるたびに金属が削れ、火花が散り、頑丈だったデバウアーの切っ先が少し削れるのを見た山羊は、もし一撃でもチェーンソーの攻撃を食らえば簡単に再起不能に追い込まれることを嫌でも感じ取る。


「おいサイント!

 こいつ、マジで聞こえてねぇのか!?」


聞こえていないにしても見えてはいるはずだ。援護射撃が無いのはおかしい。カンダロもそのことに気が付いたらしい。


『何かあったに違いないです!

 僕、ちょっとサイントさんの様子を見に行ってきます!』


「用心しろよカンダロ!」






                -断頭台の憂鬱- Part 8 End

いつも見て頂き、ありがとうございます~!

何卒これからもヨロシクオネガイシマス!

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