-角が折れた日、初めての出会い- part5
カンダロはその隙に隣の車両に移り、無線機で迅速に本部へと連絡を取ることに成功した。
「本部!
聞こえますかこちらF部隊所属カンダロ!」
『音声認証、照合完了。
カンダロか、どうした?』
無線機から帰ってきた図太い声はF部隊の部隊長、ダイ・セイカだった。
「護衛の輸送車両で敵と遭遇!
重症者が一人!
応援を!」
『……!
わかった!
細かいことは後だな!
今すぐに向かうここからだと……大体十五分ってとこだな。
なんとか持ちこたえろ、いいな!』
「早く!!
出来るだけ早くお願いします!
ルフト……!!
ルフトジウムさんがやられる前に!」
『なん……!?
ルフトジウムが負けそうな相手なのか!?
おい出撃するぞ!
ヘリを出せ!!すぐにだ!!
カンダロ、最悪お前だけでも逃げろよ。
ルフトジウムは惜しいが、換えは効く!
いいな!』
無線機はそれっきり、何も鳴らなくなった。増援を約束したF部隊の隊長の声を聞いて、ようやく少し落ち着いたカンダロは自分が震えていた事にようやく気が付いた。全身から冷や汗が噴き出して、半端なく喉が渇いていた。侵入者とルフトジウムがいた車両で大きな物音がする。戦闘用獣人同士の戦いは派手で、ほとんどが物理法則を無視したような動きをする。
「今戻りますから……!!」
エネルギーライフルを握りしめ、動こうとしたカンダロだったが足がもつれその場にヘナヘナと座り込んだ。ルフトジウムを援護しに行きたいのに、震えて思い通りに動かない足が、カンダロをあの現場に戻すことを拒否していた。第一人間が一人戻ったところで何が出来るというのか。急激な無気力感が彼の身体を包み込んだ。
「あぁ……ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
カンダロは行かなくていい理由を探す自分が何より情けなくて、さめざめとその場で涙を流し始めた。
※ ※ ※
一方で二人の戦闘用獣人は狭い車両内で戦っていた。二万度の温度を持ったデバウアーの刃を持ってしても断ち切れない物質が存在している事が、ルフトジウムにとって初めての経験だった。しかし動揺を押し殺し、侵入者を正面から真っ直ぐ見据える。
「何が目的だてめえ!」
「………………」
暗い中でも侵入者の持つ大鎌の形状はうっすらと見て取れた。あんな形のものをルフトジウムはカタログで見たことがない。おそらくたった一つだけ特別に何かの理由で作られた特注品か何かだろう。
侵入者はその大鎌の先をルフトジウムに向けると手元にある引き金を躊躇わず引いた。何かまずい、と直感で感じたルフトジウムは咄嗟に横に飛び、射線から外れる。デバウアーとは比べ物にならないほど大きな銃声が鳴り響き、ルフトジウムの背後の壁に拳大の穴が穿たれた。
「流石に当たらない……。
そこまで威力があると流石に逆に使いづらいっ……!」
「ご機嫌な武器じゃねーかよ!
“対物ライフル”まで付いてるなんてよ!
多脚戦車でも壊すつもりか!?」
「…………」
そのまま侵入者はルフトジウムを下から攻撃するため体を捻りつつ近づいてくる。それを完全に見切ったルフトジウムはデバウアーの片方を分離して、地面に突き刺してストッパーにすると同時にもう片方で侵入者の体目掛けてのその刃を振るう。しかし侵入者もその攻撃でやられるつもりは毛頭ないらしい。刃の下を潜るようにさらに深く身を屈めると捻った体をの勢いを借りた大鎌の威力でデバウアーごとルフトジウムの体を吹き飛ばした。
「っ化け物かよ!」
「………!」
見た目からは到底見えない馬鹿力にルフトジウムは驚愕するが、肉食動物がベースならその力は当然だ。それでもルフトジウムの、フルパワーには劣るが、これは体の成長もあるので一概には言えない。その小さな身体で既にこれだけのパワーを持っている事自体が肉食動物ベースの利点なのだ。しかしその分、他の所にしわ寄せが行く。
「はぁ……はぁ……」
必死に侵入者は隠していたがルフトジウムは聞き逃さない。侵入者の息は切れ、明らかにその呼吸は大きくなっていた。と、同時に先程迄の持ち前のスピードが鈍って来ている。左目瞼に垂れてきた血を拭い、ルフトジウムはデバウアーを構え直し、引き金に指をかけた。
「さてはスタミナ切れか?
なぁ一回休憩しようぜ?
目的を聞かせてもらえるくらいいいだろ?」
しかし侵入者は何も答えず、ジリジリと壁側に移動していく。
「動くな!」
一発、弾丸がデバウアーの切っ先にある銃口から放たれ、侵入者の首元ギリギリを掠める。いくら獣人といえど、亜音速で放たれる銃弾は普通に効く。
「動いたらそのかわいい首に撃ち込んでやるからな!」
「……………」
「なにが目的なのか言えよ。
ぬいぐるみや食料が欲しいなら別に俺達が争う意味はないんだからよ」
「ッチ………」
侵入者は舌打ちして動きを止めるがその目は細められ、ルフトジウムの挙動の一つ一つに神経を尖らせているのが伝わる。しかしルフトジウムもプロだ。もう隙を見せるはずもない。アサルトライフルの二つの銃口が侵入者の動向全てを監視していた。
「オーケイ、仲良くしようぜ。
俺達は同族だ、そうだろ?」
「誰が……!」
侵入者が拒否するように大鎌を右から左に振るうと、大鎌から発せられる青い光と桜色の放熱線の光が徐々に強くなって息、刃からはデバウアーの刃と同じように陽炎と蒸気が立ち昇り始めた。その迫力は触れるものを全て貪り食うようで、ルフトジウムはそれを扱う目の前の獣人と武器を目の前にデバウアーを握る手に知らない間に力が入っていた。
「なんでそんなもんがこの列車に乗ってんだよ……」
「………」
「だんまりかよ。
その武器はおそらく世の中に出ていいもんじゃねえぞ」
「知ってますよ……。
ただ私は返してもらっただけです」
「返してもらった……?」
-角が折れた日、初めての出会い- part5 End




