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-作られた命、自然の村- Part 23

 船の周囲に纏わりついていた獣人達がジオフロント内へ走って戻っていくのを確認したグンジョウが手元にあったスイッチを押すと、破壊され、その場に残っていたドリル搭載艦の残骸が起動する。その体にまだ残っていたジェネレーターがたちまち暴走を始める。暴走したジェネレーターは直ぐに自ら発する熱に耐えることが出来ずに自壊し、その時吐き出されたエネルギーはドリル搭載艦の装甲部を吹き飛ばして一つの破片が拳ぐらいある鉄の雨を“重工”の戦車部隊に降らせた。


「どうだ!?」


大した装甲を持っていない装甲車や兵員輸送トラックが主にその被害に会い、幌を貫通した鉄の雨は内部で暴れまわった。後部の幌の中に積まれていた機械兵は起動前に何体か破壊され、不幸にも運転手を殺られた装甲車が護衛対象であるトラックにぶつかるとその二台は絡み合ったまま六脚戦車の脚部にぶつかり横転した。その横転した車を避けようと右にハンドルを切ったトラックをエクロレキュールの投げつけた紅い雷が直撃する。トラックに積まれていた燃料と予備弾薬が火を噴き、十五トンもある車体が真ん中からへし折られる。


「おお!かなり被害なのにゃ!」


「やるっスね、グンジョウ!」


二匹はグンジョウに親指を立て、敵の被害の大きさに目を丸くする。グンジョウは再びコックピットの中で体を小さくすると船を目立たない残骸の奥底に操縦して持って行った。


「俺が出来るのはここまでだぜ!

 そこの小さい狼と戦った傷のせいでもうろくに戦えん体になってるからな!」


「奇遇なことに私も左腕が使えないんスけどね!?」


 ハルサ達の援護に気が付いたエクロレキュールがこちらを振り返る。その目は変わらず「逃げろ」と言っているようにも見えたが、その奥底には自分と共に戦ってくれるハルサ達に対しての希望のようなものが浮かんでいた。瞳に光が宿り、エクロレキュールは天高く吠える。


「エクロ!

 一匹で戦わなくてもいいんスよ!

 私達全員で戦って逃げるんス!」


 返事のようにエクロレキュールは小さく呻いた。ハルサはアメミットを構え、走り出す。戦車部隊はエクロレキュールから一定の距離を保ったところで止まり、残った兵員輸送トラックからは腕に銃を取り付けた機械兵がぞろぞろと出てきた。


「うげ、またぞろぞろと面倒なの来たっスね」


『ハルにゃん、ボクはあいつらの制御を奪えないかチャレンジしてみるのにゃ!

 それと、敵の機械兵指令送信機の位置は特定したのにゃ!

 モノクルに表示しておくのにゃ!』


「頼んだっスよ!」


 機械兵は腕についたエネルギーミニガンをハルサとエクロレキュールに向かって浴びせてくる。ハルサは腰を低くしながらエクロレキュールの巨体の影に隠れて銃弾を避けつつ、エクロレキュールの体を利用して高く飛んだ。


「さて、二次会の開始っス!」


片腕が使えないとは思えないほど俊敏に動く小さな狼はパーティ会場に飛び込むと、機械兵相手に華麗に戦い始めた。




      ※  ※  ※




「流石“大崩壊”時の生体兵器。

 中々やるじゃない?」


 高高度のカメラから送られてくる映像が三枚のディスプレイに映し出されている。ディスプレイに映し出されているのは大野田重工本社都市より遥か遠く離れた場所で戦っているエクロレキュールとハルサ、そしてラプトクィリの三匹だ。解像度は非常に高く、ラプトクィリの毛の一本までばっちり見えそうな程高性能なカメラは三匹の動きを決して逃さない。


「そりゃやるでしょうよ。

 これじゃあ送り込んだ中隊のメンバーがかわいそうなぐらいです」


シナチクは少し酷なのでは?というような表情を横で見ているアイリサに向けた。アイリサはそんなシナチクの目線と言葉を完全に無視して、エクロレキュールに釘付けになっている。


「あの、主任、聞いてますか?

 そろそろ撤退命令を出した方がいいのでは?

 おそらく手負いの龍に手負いの狼ではこのレベルの敵はキツイかと。

 マキミ博士の置き土産まで死んでしまいますよ?」


そう言うシナチクの顔を見ないでアイリサはふふっ、と笑う。


「そうかしら?」


彼女は手に持った湯呑を机の上に置き、大野田重工のロゴが入った白い急須から熱いお茶を注ぐ。ほわっとしたお茶の匂いが広がり、アイリサは引き出しから取り出した煎餅の封を一つ開けると一口齧った。


「ねえ、シナチク。

 私としてはこれぐらい簡単に退けて貰わないと困るのよ。

 “大崩壊”時代の白い龍の本当の力が見たいの」


モニター内で暴れ回るエクロレキュールはハルサが倒し、機械兵の護衛が外れた戦車に雷を投げつける。雷は戦車の正面装甲を簡単に貫通し、内部から爆発させた。


「主任、突入させた中隊の損害がまた出ました。

 四脚戦車が二台です。

 これでこちら側の戦力の三分の一が消えました。

 敵の戦力及び影響力を再計算。

 ライグモの主砲の使用制限を解除します。

 四脚程度の砲では相手に通用していないでしょうから」


シナチクは中隊長にライグモの主砲の解禁を伝える。


「いい判断ね。

 ライグモの主砲なら白い龍の鱗を貫けるでしょう。

 ……しかし不思議じゃない?」


「何がです?」


アイリサはお茶を一口飲んで煎餅をもう一口齧る。


「“大崩壊”時代の生体兵器って言うと何を思い出すかしら?」


質問を質問で返され、むっとしたシナチクだったが素直に顎に手を当てて俯いて考える。


「そうですね。

 やはりこの個体に代表される通り紅い雷…でしょうか?」


「うーん、まぁ基本的には正解よ」


にこりと優秀な部下に笑いかけるアイリサだったが、シナチクは褒められたとは受け取らずにむっとした表情を継続している。


「主任、一体何が言いたいんです?」


アイリサは煎餅を上下にひらひらと振りながら机に座り足を組む。タイツの眩しいアイリサの足をシナチクは気怠そうに肘で動かし、パーソナルスペースを守る。


「答えは簡単。

 “大崩壊”時代の兵器に共通しているのは純粋な破壊力よ。

 防御力は無いの」


 ディスプレイではライグモの主砲がエクロレキュールに向かって飛んでいく所が丁度映し出されていた。八十センチ多薬室火薬滑空砲から撃ち出された砲弾の重さは約二トンにもなる。“AtoZ”や“ドロフスキー”を始めとした大企業が持つ超巨大兵器“L.A”にも有効的な一撃を与えることが出来る砲弾はエクロレキュールの胴体へと鋭く飛翔した。

 ライグモの巨体ですら十発程しか砲弾を積めないため、ここぞという時にしか使わない程の砲弾は、エクロレキュールの堅い鱗に直撃すると中にたっぷりと積んでいた爆薬に火をつけた。熱さなのか、痛みなのか、ただでさえ傷ついていたエクロレキュールの胴体正面の鱗が剥がれ、その下の肉が顔を出す。血がじんわりとにじみ出し、白い胴体が赤く染まっていく。幸い被弾ヶ所には堅い鱗が残っていたおかげで致命傷には至らなかったようだが、間違いなく強烈なダメージをエクロレキュールに確実に与えていた。


「ね?

 あの程度の威力ですら無効化できていない。

 防御力はほぼ無いに等しいかもしれないわね」


倒れこんだエクロレキュールに四脚歩行戦車の主砲が次々と命中する。袋叩きとしか言いようがない程に余りにも惨たらしい姿に咄嗟にシナチクは目を背けた。痛みに耐えながら怒りに燃えた白い龍は自分自身へ有効打を持つライグモに掴みかかると、足の接合部へと尻尾を叩きつけ装甲版を歪める。手から雷を吐き出し、ライグモの操作系統を破壊しようとする。アイリサは目を細めながら言葉を続ける。

 

「大昔、まだ私達の祖先が別の惑星に住んでいた時の言葉を知ってるかしら?

 “攻撃は最大の防御”っていうんだけど、あなた知ってるかしら?

 ああ、それと“大崩壊”時代の兵器の特徴はもう一つあるみたいなの。

 …最もこれはまだ推測にしか過ぎないんだけどね」


「と言いますと?」


「ハルサやラプトクィリがどうして外にいるのに倒れないのか…ってことよ」


エクロレキュールがライグモに掴みかかり動きを止める。そしてハルサがそれを援護するようにライグモの巨体を駆け上がって、エクロレキュールに攻撃を続けるガトリング砲をアメミットで斬り落とす。


「言われてみれば確かにそうですよね。

 彼女たちが戦っている場所は十五年程前に“重工”と“AtoZ”との間で激戦があった場所。

 “重工”のL.A(超巨大兵器)と“AtoZ”のL.Aが潰しあった場所でしたよね?」


「そうよ。

 そして“重工”は“鋼鉄の天使級”を出し、“AtoZ”は“人形遣い”を出して戦ったわ。

 あの地域の汚染は半端なものでは無いはずよ。

 そこから導きだされる一つの答えはもう分かったわよね?」


シナチクはアイリサに信じられない、という表情を向けた。


「……汚染除去能力ですか」


「そう、その通り。

 あの子は“大崩壊”時代の汚染も除去可能なのよ」






                -作られた命、自然の村- Part 23 End

昨年からずっと読んでいただいて本当にありがとうございます。

今年もバシバシ続けていくので何卒宜しくお願い致します。

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