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【コミック全4巻発売中】100日後に死ぬ悪役令嬢は毎日がとても楽しい。  作者: ゆいレギナ
他愛もない話②

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87/97

いつかどこかの遠い未来の話

『このラノ2023』投票お願いします!! て意味で書きました。

公式……というより二次創作みたいなイメージで読んでいただけたら幸いです。

 ボクの名前はアンドレ=オスカー。世界で一番の御曹司さ☆

 たとえ世界で一番の御曹司であれど、まだ十六歳。発展途上の育ちざかりである。たくさん食べて、よく眠り、多くの生徒が通う学園で勉学を誰より精進してこそ、将来の『貴族の義務ノブレス・オブリージュ』へと繋がるのだろう。


 だからボクは雑用すらも率先して行う。オスカー財閥の御曹司なれど、このエクラディア学園では生徒会の下っ端の一人にすぎないからね。せっせと書類の山を顧問へと運ぶ。早く書類を全て電子化すればいいのに……生徒会も、そして教師も、誰も時間の余裕がなくて、今のご時世も生徒の作成書類は紙で行われている。まったく、非効率だ。ボクが生徒会長になったあかつきには、ボクの私財を使って人材を雇い、システムの一新を進めようかと思っている。


 だけど、重ねてになるがボクはまだ生徒会の末端だから。

 下手に出しゃばってしまえば、奨学金で通っている生徒会長の顔に泥を塗ってしまうことになるだろう。今のボクは、あくまで彼のサポート役。こうした苦労もまた、ボクの輝かしい将来の一助となるのだ!


「たのもー! ナナシ先生はいらっしゃるだろうか⁉」


 ボクが職員室へ入れば、教師陣が一斉に顔を向けてくれた。

 見よ、ボクこそがアンドレ=オスカー! 世界で一番の御曹司だ!

 その中でもひときわ険しい顔をした白髪の教師こそ、ボクが求めるナナシ先生である。


 眼鏡越しの冷ややかな金の瞳が、ボクを見るやいなやため息を吐く。


「職員室はもっと静かに入ってくるよう、何度も言っているだろう」

「それは失礼した! ボクの御曹司オーラはとても隠しきれる規模ではないようだ!」

「ほんと……きみは相変わらずだなぁ」


 このナナシ先生はとても愉快な人でもある。

 この世のあらゆる化学賞を総なめにし、軍人としても高い名声を持つ超人じみた教師なのだが……普段、冷酷無慈悲な教師を装っているのである。他の教師、生徒からもろバレレベルで。

 どうやら奥さんから「教師としての威厳が足りない」と助言を受けた結果との噂だが……こうしてすぐに『地』が出るため、ただの愉快な人としか思われていない残念な人なのだ。


 だけど、それも愛嬌として多くの生徒から慕われており、ボクの尊敬する教師の一人となっている。そんなナナシ先生の机に持参した書類をドンッと置けば……ナナシ先生はまたもやため息を吐いた。


「この書類にもサインしろというのか? 少々自分を働かせすぎではないだろうか」

「でも全てナナシ先生が発案した文化祭に関する書類です。こちらが設備の申請書、こちらが国立美術館からお借りする絵画の申請書、こちらがダンスパーティー時に呼ぶ楽団の――」

「あ~、そうだった。すまない。明日には戻すから、会長と一緒に各施設に提出してくるように」

「わかりました! この世界一の御曹司、アンドレ=オスカーにお任せあれっ‼」

「はぁ……きみはほんといつでも元気だ――」


 その時、ナナシ先生のそばから振動音が発せられた。白衣のポケットからだ。

 その携帯型通信機(モバイル)の画面を見るやいなや、ナナシ先生が「げっ」と顔を歪める。


 だから、ボクは尋ねた。


「どうしたのですか?」

「あぁ……いや、妻からで……」

 

 そう言いながらも、先生は仕事中であるにも関わらず机の下で携帯型通信機(モバイル)をカチカチ操作し始める。


「いやぁ、無茶だって~。急に揚げたてドーナツが食べたいとか言われても……今日確実に残業なんだけど? 深夜に揚げろと? は? 出来上がるまで夕飯も食べずに起きて待ってるって、プレッシャーが半端ないんだけど⁉」

 

 リアルタイムですぐさま返事が返ってきているようである。

 独り言(?)から察するに……先生はお噂通り、奥さんの尻に敷かれているようだ。


 噂だと、奥さんは辺境のしがない潰れかけの商店をひとりで再興し、今や世界規模のオンライン商店にまで発展させたのだとか。しかも、今の世で疎まれがちな黒髪を持ちながらも、数々の地主や企業の重鎮たちと対等に渡り合っているらしい。社交界のルールやしがらみもなんのその。数々のパーティーでも彼女ひとりいるだけで会場中に華が咲く――と謂われたほどの貴婦人だったようだが、その現場をボクは見たことがない。ボクが生まれる少し前に、引退してしまったからだ。


 今はオンラインなことを活かして、故郷でのんびり経営をしているらしい。


 ……ん? 故郷?

 今、ナナシ先生は奥様から『今晩ドーナツを作れ』と命じられたような口ぶりではなかっただろうか。このエクラディア学園は首都にあるため、その辺境に行くためには私用ジェットを使っても一時間はかかると思ったが……。


 まぁ、気のせいだろう! ボクは細かいことを気にしないタイプだ。なんせ世界一の御曹司は大局を見ないといけないからな!


 なので、ボクは将来に役立ちそうなことを質問することにする。


「つかぬことをお尋ねしますが……先生は奥様のどこが良いと思ってご結婚されたのですか?」

「いきなりだな……」


 ボクにも婚約者がいるが、いつどこで友人の見合いを頼まれるかわからない。

 そんなときになるべく素敵な女性を紹介するのも、『貴族の義務ノブレス・オブリージュ』だろう! と意気込んで聞いて見れば。


「……魂?」

「回答のスケールが大きいですね」


 思わず唖然としてしまうような答えが返ってきたではないか。

 これは……何かの隠喩なのだろうか……。

 深く考え込んでいると、ナナシ先生が困ったように眉根を寄せる。


「いや、急に真面目に聞かれてもだな……まぁ、彼女がこんなわがままを言える相手も自分しかいないと思えばやぶさかでもないし……いつか終わりが来るからこそ、こうした何気ないわがままを聞いてあげられるのも、今しかない。次を待っていたら、また何千年後になるかわからないし」

 

何千年後とか……話すスケールが本当に大きいぞ。

これが世界のトップに立つ男の発言なのかと感銘を受けつつも……予想外の言葉には突っ込まずにはいられない。


「……いつか、別れるつもりなのですか?」

「永遠にずっと一緒にいられるなんて、そんなのは絵空事にしかすぎない」


 そう話すナナシ先生は、そっと携帯型通信機(モバイル)を撫でていた。


「生きとし生ける存在は、いつか必ず死ぬ――だから一緒にいれる僅かな時間を、自分たちは一生懸命に楽しむしかないんだ」

「て、哲学……」


 だけど、すぐに顔を上げて。

 ナナシ先生が苦笑した顔を、ボクは初めてみたかもしれない。


「まぁ、ごくまれに本当に何度生まれ変わっても変わらないって人もいるみたいけど――」


 それを案外可愛らしい顔だと思った、その時、


「失礼しますっ!」

 

 その途端、ナナシ先生が机の家族写真をぱたりと伏せて。

 職員室の扉が強く引き開けられる(なお、本来なら自動ドアだ)。驚いた様子の他の先生らを一切見ずに、その女生徒はこちらへ一直線に近づいてくる。


彼女はとても有名な先輩だった。

生徒会長と同じクラスのいじめられっ子。いじめられている原因は、その珍しい黒髪だ。しかも彼女はその黒髪を腰まで伸ばして、今も堂々と職員室を闊歩している。いじめられているといっても、堂々と言い返し、やり返す……そんなだから、いつもクラスが騒がしいと生徒会長はいつも笑っている。あんな騒動を毎日笑って処理できるのだから、さすがボクの憧れる生徒会長殿である。


そんな彼女がそばに来た時には、ナナシ先生はビシッとクールな教師の顔を決めていた。

だけど、彼女は容赦なく先生の机を叩く。そこには数えきれない量の課題プリントが置かれていた。


「ナナシ先生、これはどういうつもりですか⁉」

「どういうつもりとは?」

「なぜ、私だけ宿題の量が多いんですか⁉」


 まさか……先生もいじめに加担を……?

 それなら由々しき事態だ。アンドレ=オスカーの名にかけて、ただちに止めさせなければならない!


 だけど軽く覗く限り……それは手書きのプリントのようだった。筆跡はおそらくナナシ先生のもの。問題内容は……まだボクには難しくてわからないが、かなり高度な問題のように思える。


 たしかこの先輩は、将来化学系の国家機関に進みたいという話だ。

 それならば……後輩の目から見ても、これらの問題は彼女のためになるのではなかろうか。


 案の定、先生は堂々と言い放った。


「自分からの愛だ。しっかりと全て受け取れ。でなければ単位はやらん」

「はあ~~⁉」


 非難を口にしながら、彼女はじーっとナナシ先生を睨みつけるものの……ナナシ先生はぴくりとも眉を動かさないし、視線も彼女を見明けたまま。


 先に根負けしたのは、彼女の方だった。


「……この偏屈教師」

「お褒めいただき光栄だな」

「ほんっとむかつく!」


 そうして彼女はバッとプリントを回収し、「失礼しました!」とつかつか職員室を出ていく。

 なんとなくその背中を見送ってから……ボクは再びナナシ先生に聞いた。


「あの先輩は……どことなく先生の奥さんに似てますね」

「髪色のことか?」

「いえ、それ以外にも……姿勢のよさ、とか?」


 なんだろう……写真でしか見たことがない先生の奥さんだが。

 先生が再びその写真を起こす。そこに写った赤ん坊を抱いた女性は――産後まもない頃だろうに、背筋をピンと伸ばしていた。切れ長の瞳ながらも少し困ったようにはにかむ顔が、人の奥さんながら愛らしい。


「ま、うちの妻に比べたら、まだまだ可愛いものだ」

 

 自分の手に負えているんだからな――と。

 そう笑った先生は、いつになく優しい顔をしていて。


 だけどすぐに、冷たい顔でボクを見てくる。


「それはそうと、いつまでこんなところで油を売っているんだ? 生徒会はそんなに暇なのか?」

「いえ、失礼しました!」


 そうだ! 今も生徒会室では、会長が大量の書類と格闘している!

 それを手伝わなければと慌てて頭を下げて、踵を返せば。


「……じゃあまたね。アンドレ」


 そう若干こどもっぽい口調が聴こえて振り返ったが――ナナシ先生はもう淡々と書類仕事を始めてしまっていた。


《いつかどこかの遠い未来のお話 完》


と、いうわけで。9/15は「100あく完結1周年」です。

皆さんのおかげで書籍化できました! コミカライズも作業順調らしいです!

ありがとうございます!!


そしてわがままなお願いではございますが、9/19でわたしの誕生日でもありまして。

https://questant.jp/q/konorano2023

ぜひこちらにご投票いただけましたら幸いです。〆切は9/25までです。

イラストレーターさんや出版社の皆様に恩返しがしたいー!!

どうぞご協力お願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 入ってきた黒髪の生徒は……もしかして2人の子供……?
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