表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミック全4巻発売中】100日後に死ぬ悪役令嬢は毎日がとても楽しい。  作者: ゆいレギナ
他愛もない話①

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/97

閑話 元は付かない父親の独白②

 だけど、そんな娘との楽しい日々は、十六年間と少しで終わりを迎えてしまった。


 葬儀の時の記憶は、あまりない。

 ただ、彼女の友人だったという一人の少女が、声をあげて泣いてくれていたな……と印象に残っている。対して、彼女の婚約者でもあった王太子は、涙ひとつ零していなかった。可愛げのないやつめ、と殴ってやりたくなった。娘の最期を看取ったのは、この二人だったという。


 娘の死因は刺殺。だけど彼女を刺したはずの犯人も、凶器さえも、どこを探しても未だ見つかっていない。ただ、凶器はおそらく小剣くらいのサイズの得物だという。亡くなる直前、娘がよく振り回していた代物と同じくらいだろうとのことだ。あの小剣も行方知らずとなっている。

 そして、娘が亡くなったのとほぼ同時刻から、第二王子が行方不明となった。


 調べによれば、第二王子は派手なドレスを着た令嬢とどこかへ消えていって、それっきりだという。だけど第二王子の調査については、かなり早期に中止が伝えられたから――おそらく、娘の死に関わっているのだろう、という疑念しかない。


 それでも、自分はその憤りを行方知れずの第二王子や、可愛げのなくなった王太子や、何かを隠しているだろう旧友に、ぶつけることができない。


 仮にも王家を敵に回せるほど……すべてを捨てることができなかったからだ。

 だって――。


「わああああああん」


 今日も、隣の部屋から子供の泣き声が聞こえてくる。

 もう夜もとうに更けた時間。それでも自分はひとりで寝ていたベッドを抜け、隣の部屋の扉をそっとノックする。


「自分だ、入るよ……」


 どうせ、幼児の泣き声でノックの音など聞こえていないだろう。

 ゆっくり扉を開けば、薄闇の中で妻が泣きそうな顔で懸命に幼児を抱っこしていた。


「あなた……ごめんなさい。明日も朝、早いんでしょう?」

「いや、構わないよ。少し代わろうか」


 自分は半ば無理やり、彼女から子供をもらい受ける。

 もうすぐ二歳になる子だ。一時期、ようやく夜泣きも終わったと胸を撫でおろしていたのに、近頃再び再開してしまったのだという。これも成長の一環だという話だが……それにずっと付き合わされる親としては、たまったものではない。


 それでも、日中はとても良い子だ。男の子らしく、庭を走り回るのが好きらしい。こないだは木に登ろうとして落ちたらしいが……好奇心が旺盛で、今は自分の名前が書けるようになりたいと練習しているとのこと。それでも、まだミミズの域を出ていないのだが。


 妻に似て、黒々とした髪。同色の瞳。

 三人子供が生まれて、全員妻の特徴を受け継いだのは、何の因果なのだろうか。

 毛根と一緒で、自分の因子は弱いのか……そう考えたことは、一度ではない。

 だからといって、妻の不貞を疑うのは論外だし、大好きな女性にそっくりの子供というのは、可愛い以外の何物でもないのだけれど。


 それにこの子は……娘の発言がきっかけで、できた子だ。

 妻の妊娠が発覚したのも、葬儀を終えた直後のことだった。



 だから、どうしてもこう思ってしまう。

 この子は、彼女の生まれ変わりなのではないか――と。



「……そんなはずはないのにな」

「あなた?」

「いや、何でもないよ」


 自分はだいぶ重たくなった息子を抱っこしたまま、妻に笑いかける。

 妻は息子を産んでから、だいぶ痩せてしまった。久々とはいえ、三人目の子供。多少は勝手もわかっているはずなのに……彼女は育児疲れを起こしているらしい。なんせ今回は、乳母役を一切頼ろうとしないのだ。


「ほら、明日は新しい娘(・・・・)が挨拶しに来るのではなかったか? 君も少しは仮眠をとっておいた方がいい。やつれた顔を見せるのは忍びなかろう?」

「でも……」


 彼女が頑なに、乳母役を頼ろうとはしない理由。

 それを口にする時、彼女はいつも泣きそうな顔をしていた。


「だって、もし私が目を離している間に……この子に何かあったら……」


 彼女は途中で口を閉ざし、自分と寝息を立て始めた息子に抱き着いてくる。


「わかっているわ。こんなこと、ただの杞憂だって。でも……怖いの。いつ、どこで、大切なわが子をまた亡くしてしまうんじゃないかと……」

「ははっ。そんなこと言ったら、ルーファスはどうなる? 明日は一度帰ってきてくれるらしいが……しばらくしたら留学に行くという話だろう? 美術に特化した学校に通うとか――」

「それは、そうなんですけど……」


 せっかく息子が眠ってくれたのだ。このまま話続けていたら、起こしてしまう。

 自分は息子をそっとベッドに横たえてから、妻を抱き返した。


「大丈夫だよ。自分が、必ずみんなを守ってみせるから……」


 だから、王家の命令に歯向かうことはない。

 たとえ、娘の無念を晴らそうともしない根性なしの父だと罵られようとも――今の自分に課せられた一番の使命は、残った家族を守ることだ。この小さな息子が、いつか盤石の状態で公爵家を継げるように――粛々と、家族と領地を守ることに専念するのみ。



 そのために、明日は新しい娘を家族として受け入れる。

 彼女は……娘が一度、うちに招いたことがある少女だという。



 そもそも、娘が王太子と婚約する羽目になった理由は、『異国の美姫の娘を、王家と縁続きにするため』である。だから、血を継いだ娘が死んでしまった今……義理の娘を王妃に就けることは、異国に対してのせめてもの敬意となろう。

 だから、次期王太子妃に決まった彼女を我が家の養子にすることは、我が家としても、王家からしても願ったり叶ったりの事案であった。


 そして、昼より少し前の時間に、彼女は一人でやってきた。

 無論、彼女の両親ともきちんと話を付けてある。元々、彼女からの紹介で農業に詳しいアルジャーク男爵を紹介してもらったこともあった。そのため、縁がなかった家系ではない。彼女の父親も、学者らしく少し風変わりな雰囲気はあれど、とても娘思いの気のいい男だった。


 彼女自身も――表情が明るく、可愛らしい印象が強い淑女だ。

 珊瑚色のふわふわな髪。愛嬌のある顔つき。だけど、彼女の一部の隙もないお辞儀(カーテシー)は、娘に瓜二つだった。


「本日より、どうぞよろしくお願いいたします」


 彼女は現在十八歳だという。娘も通っていた学園を首席で卒業し、こないだまで単身隣国へ赴き、妃として必要な伝手を作ってきたのだとか。そんな行動的なところも……亡き娘を思わせて仕方ない。


 そんな新しい娘に向かって、自分は告げる。


「もっと気安くしてくれて構わない。君はこれから、自分の娘だ。君もこの頭を叩いてくれても構わないのだぞ」


 自分で自身の頭をペシンと叩いてみせれば、彼女は一瞬目を丸くしてから、くすくすと笑う。


「もしかして……ルルーシェ様はお父様の頭を……?」

「ちなみに、自分の頭をつるっつるになるまでむしり続けたのはあの子だ」

「うぷぷ……ごめんなさい。もう、ルルーシェ様ったら……」


 腹を抱えだした彼女の屈託のない笑顔が、なんと眩しいことか。

 だけど、自分は見逃さなかった。その目の端に、涙が浮かんでいることを。


 ――あぁ、きっと……いや、彼女がどんな子であろうとも、上手くやってみせるさ。



 なぁ、ルルーシェ。大好きな君に誓おう。

 君の忘れ形見も、自分が必ず守り通してみせると。

 だけど、君も忘れないでほしい。

 自分はいつまでも、君の父であることを――。


《閑話 元は付かない父親の独白 完》

いよいよ本日、発売日でした。

ここまで来れたのは、去年の夏、こちらで応援くださった皆様のおかげです。本当にありがとうございました。

挿絵(By みてみん)

そして、本作書籍を買ってくださった皆様、本当にありがとうございました。全特典集めてくださった方もいらっしゃるようで…本当に頑張った甲斐があるというものでございました。

特典がなくても、ルルーシェが剣術大会でやんちゃするエピソード(↑の挿絵)や、レミーエの誕生日を祝おうとする話など、なろうでお読みでも充分楽しんでいただける小説ができたと思います。ぜひ、まだ未購入の方はご検討いただければと思います!

挿絵(By みてみん)

どうぞ、よろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらの作品が気に入ったなら、絶対好きだと思います!
【カクヨムで新作投稿しました】             「雑草令嬢が【溺愛スルー】した結果~お金も青春も手に入れて、人生大勝利してました~」

a
コミックス全4巻発売中!
100日後に死ぬ悪役令嬢は毎日がとても楽しい。④
 

3ige30sr6higa29dt29ko0iotq_lk5_s0_13s_qphf.jpg
Amazonはこちら





【書籍全2巻発売中!】 100日後に死ぬ悪役令嬢は毎日がとても楽しい。

fv7kfse5cq3z980bkxt72bsl284h_5m4_rs_13w_9uuy.jpg
Amazonはこちら
― 新着の感想 ―
[良い点]  ルル様が居なくなった後も世界はこともなく続いてゆく。  とても切なくて、だけども平和な世界があり続ける。 [気になる点]  もうね今から次巻が待ち遠しくてたまらんのですよ。  挿絵からも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ