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【コミック全4巻発売中】100日後に死ぬ悪役令嬢は毎日がとても楽しい。  作者: ゆいレギナ
本編

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58/97

最後のダンスを踊りましょう②

 草葉が揺れたような気がした。だけど見渡しても、静かなグラウンドに誰もいるわけもなく。

 それなのに、目の前にとてつもなく嫌な予感が迫って。それは、剣を持ったザフィルド殿下と対峙した時の感覚に似ていた。


 だから、悟る――今がわたくしの死ぬときだ。

 

 わたくしは跳ねるように立ち上がり、ザフィルド殿下の腕を思い切り引いた。……これもあなたに教わった動きね。そのままあなたの足を思いっきり払うの。さすがわたくし。練習よりも綺麗にあなたに尻もちを付かせることができたわ。


 その結果――鋭い剣先がまっすぐわたくしの腹部に突き刺さる。痛い。そして熱い。全身の血流が燃えるように熱いのに、全身が凍てついたように冷たくなる。訳がわからない感覚に、わたくしの膝は自然と折れていた。ふふっ……思わず笑ってしまうわ。死ぬのってやっぱりつらいのね。


 そんなわたくしを見下ろして。ザフィルド殿下は絶句していた。だけどその直後「去れ――依頼はこれで終了だ‼」と叫んで。四つん這いのまま近づいてくる殿下に、わたくしは微笑む。


「もう……ズボンが汚れてしまいますわ、よ?」

「ルル……ルルーシェ……?」


 彼の命令で、刺客はすぐさま去った様子。その場に落とされたのは、見覚えのある小剣だ。……あぁ、そういうことでしたの。


「あなた……わたくしに殺された体にしたかった……んですの?」

「ルルーシェ……ちょっと待ってて。今すぐひとを――」

「答えなさい――ザフィルド=ルイス=ラピシェンタっ‼」


 わたくしの怒号にも似た叱責に、ザフィルド殿下とようやく目が合う。わたくしは彼の胸ぐらを掴んだ。


「馬鹿ですか! あなた、自分で死のうとしたんですの⁉ 自ら命を投げ出すとはなんたる愚行! そんなこと神が――いえ、このわたくしが許すはずがないでしょう⁉」

「ルルーシェ……」

「わたくしを犯人に仕立てようとか、今までの嘘がどうとかどうでもいいですっ! そんなことよりも……どうしてわたくしたちを見ていたのなら、気付かなかったんですか。あなたがわたくしにとっても、サザンジール殿下にとっても大切な存在だと、どうして気づいてくださらなかったんですか……」


 わたくしの言葉が聞こえているのか、いないのか。彼はふるふると首を振っている。馬鹿ね……もう起きてしまったことは、いくら否定しても変えようがないのに。


「ぼ、僕は……きみをこんな目に遭わせるために指導していたわけじゃ……」

「あら……わたくしは案外予定通りでした、わよ……?」


 まぁ、庇うお相手は代わりましたけど。大した違いではありませんわね。ザフィルド殿下は予想以上の大馬鹿者でしたが――予定調和の範疇ですわ。


「ねぇ、ザフィルド殿下……わたくしにとって、あなたは大切な幼馴染ですわ……。あなたがずっと見てくれていたから……わたくしは安心して、たくさんの馬鹿ができましたの」


 わたくし知っておりましたのよ。サザンジール殿下がすぐにわたくしに駆け寄る反面、あなたは一歩離れた場所で見守ってくれたことを。そしてわかっていたから。本当に危ない時は、あなたが止めてくれるということを。

 剣の指導の時だって、本当に危ない時には真剣に怒ってくださいました。こないだの泥遊びの時もそうでしたわね。なんやかんや、先生が親に報告すると言い出す前にあなたが「反省文で勘弁しては」と先生を宥めてくださいました。そんなあなたに、わたくしはずっと甘えておりましたのよ?


「幸せでしたわ」


 だからわたくしはゆっくりと足に力を込める。やっぱり、わたくしはあなたに甘えるの。死にゆくわたしの姿は見苦しいかもしれないけど……どうか、そのまま見送って。


「さて……行かないと」

「そ、そんな怪我でどこへ――」

「ついてこないでっ‼」


 もうっ、わたくしを叫ばせないでよ。無駄に視界はチカチカするし、全身ふらふらなの。勿論腹部は動くたびにすっごく痛いのよ。


「残念ながら……わたくしの死に場所はあなたの隣ではありませんの。だから、あなたはこの場所で、わたくしの他にあなたを叱ってくれるひとを、お待ちなさい」


 ――だけど、わたくしはまだ終わるわけにいかない。

 行かないと。彼に、彼女に、まだ伝えたいことがありますの。


 壁に手を突き、ぬるつく腹を押さえながら。わたくしは一歩、また一歩と前へ進む。あぁ……こんな時に限って、会堂までがひどく遠いわ。


「本当……ルルーシェには敵わないなぁ」


 最後に膝をついたザフィルド殿下は、それ以上わたくしを追って来なかった。

 管弦楽器の音色が、ひどく大きく聴こえる。




 歩く度に、桃色のドレスが赤いシミを増やしていく。

 もうっ、本当にこのドレス嫌いだわ。ドレープが多いからすごく重たいし、足払いも最悪よ。揃えてた靴も見栄えだけでピンヒールの位置が微妙だし……歩きにくいったらありゃしないわ。だからドレスはシンプルに普通が一番なのよ。


 胸中でそんな難癖つけても、現実は変わらず。

 わたくしはとうとう這いつくばるように廊下を進んでいた。非常口から校舎に入り、ここを進むんで渡り通路から会堂へ入るのが一番近いはず。こんな盛大なパーティの開始真っ只中で校舎に人気はない。それでも誰か衛兵などと会ってしまうかもと危惧していたけれど……そんなことにならないで良かった。そんな騒ぎが起きたら、最後にゆっくりできませんでしょう?


 あぁ……でも、本当に会堂が遠いわ。普段ならほんの数分でたどり着くはずの距離なのに。もうっ、どれもこれもこのドレスのせいよ! せっかくもっと軽い素敵なドレスを用意していたのに。どうして一番キライなタイプのドレスを最期に着なければ……本当、サザンジール殿下のせいだわ。あとザフィルド殿下のせい。ぎゃふんと言わせてやろうと変装してやりましたけど、やっぱりやめれば良かったですわ!


「あぁん、もうっ!」


 もう疲れた……とうとう、わたくしはその場に倒れてしまう。床がひんやりして気持ちいいですわ。思わず目を閉じてしまいたくなるくらい……ふふっ、不甲斐ない末路でしたわね。あんなに神様にかっこつけてしまいましたのに、結局わたくしは……。


「もう……助けてよ……」


 そんな泣き言を漏らした時だった。


 ――頑張って。


 そんな、短い応援が聴こえた気がして。一瞬視界が白く染まる。あまりのまぶしさに目を凝らして、気がついたら――身体が軽くなっていた。慌てて身を起こすも、やっぱり腹部は痛むし熱いけど……それでも、無駄なドレープも、フリルも、全部なくなっていて。わたくしは深紅のドレスを身に纏っていた。裾以外タイトなシルクのドレス。当然袖にも無駄な装飾がなく、腕も足回りも自由に動く。靴もヒールが太めで安定感ばっちり。肩や顔にかかる髪も、普段以上に滑らかだ。


「……言われなくても」


 思わず、わたくしは苦笑してしまう。

 一瞬にしてドレスが変わる――そんな魔法みたいなことが行使できる人物に、ひとりしか心当たりがない。


「もうっ……やっぱりあなた、神様失格よ」


 こんな一個人に、奇跡を使っていいわけないじゃない。ただでさえ大目玉食らうって言ってたのに……もう、本当に馬鹿なひと。

 

 でも、ここまでお膳立てされたなら。王妃候補とか、公爵令嬢とか、そんなものも関係ないわ。ここで諦めたら女がすたる。わたくしは再度足に力を込めて、立ち上がった。

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― 新着の感想 ―
泣きながら思わず、「神様っっっっ!!」と叫んだ瞬間でした。
[気になる点] 何だろう。個人的な感想にすぎませんが、暗殺者は別の勢力でそこからも縺れがあると思っていたので、マイナスがあまりにも弟王子にかかってしまっているような。(ルルーシェが身内に甘いとしても)…
[一言] 前回は動転して血で赤いのかなどと書きましたが冷静に読み返したら大丈夫でした! 失礼しました… 終盤は読み急いでしまいます。2回は読まないと(笑) ルルーシェが思っている最期になりますよう…
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