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第13章 その10 これがホントのガクエンサイ 中篇

その10 これがホントのガクエンサイ 中篇


 遠くに見えるのは、オレンジ色のローブをまとった、冒険者チームの代表ルル・ルーラさんです。


 黒や茶、灰色が多いチームの中で、随分目立つなぁって思いました。


 赤よりも目立ちます。


 今までの落ち着いた印象からは随分遠いんです。


 先週は、試合前に中止になったおかげで魔術師としての正式な服装をする前だったのか、或いは今日の為に新調したのか・・・全部の試合が終わったら、ガクエンサイの案内をしながら聞いてみることにします。


 試合前はそんなものに気を回す余裕はなかったんですけど、試合後、ようやく「あんな派手はローブはどこで売ってるんでしょう」とか「冒険中の魔術はどんなものが有効なんでしょう」とか「やはり会場の警護をしながら試合は大変ですね」とか、いろいろお話したいのです。


「クラリスは、そんな人だけど・・・相手の様子を見ることね。」


「年下相手に負けたことを根に持つ人ではないと思いますけれども、配慮は必要ですわね。」


 エミルやシャルノからそんな忠告を受けます。


 ルーラさん、いい人だと思うんですけど。


「戦隊長閣下、ルーラさんはパン魔女の卒業生でジェフィ様とも親しい間柄です。エミルやシャルノの言う通り、少々の用心は必要かと・・・ホラ。」


 デニーが指さす先には、パン魔女の薄い緑の制服をまとった生徒が、ルーラさんたち冒険者さんの中に入っていくのが見えます。


「ですが・・・先輩後輩であれば普通では?」


 とは言え、創立1年目の我らがエス女魔は、未だそういう「縦の関係」が薄く、ピンとこないのですけど。


 


 そこに、ジーナたちが一試合目で使った模擬標的を運んできました。


「ジーナさん、ありがとう。助かります。」


 デニーのメガネが怪しく光ります。


 アルユンと二人で標的の破損状態の調べたいんだそうです。


「じゃ、試合はわたしたちが見ておきます・・・リル、アルユンに「魔力供給トランスファーをかけてください。」


「いいよぉ、ほらアユルン。」


 リルがニコニコしてアルユンに触れようとします。


 リルが言うには、接触した方が魔力を分けやすいんだそうです。


 ですがアルユンは


「別にいいわよ。さっきは温存できて結構残ってるし。」


 そう言って、サッサと行ってしまおうとします。


 自分だけ回復されるのがイヤなんでしょうか。


 ですがそれは困るのです。


 わたしはその腕をつかみました。


 そしてお願いするのです。


「作戦通り回復してください。あなたが二戦目の要なんです!」


 って。


 なかなかわたしに打ち解けてくれないアルユンですが、その習得した術式の種類や習熟度はかなりのもので、レベル3とは思えない上に、希少な「幻視」の才能まであるのです。


「ホラホラ、ちゃんと言うこと聞いて。」


 彼女とも仲のいいリルが、笑顔でわたしとは逆の腕をつかみ、抱きつきます。


「うっ・・・リル、離して。もう逃げないから。・・・クラリスも!頭なんか下げないで。命令すればいいでしょ、戦隊長なんだから。まったくこの甘ちゃん!」


 逃げないとはいうものの、ムスっして不機嫌そうです。


 ですがファラファラに


「あらぁ~アルユン。顔が赤いのぉ~♡」


 って言われると、慌てているのです・・・そうなんでしょうか?


 なんだかアルユンは、地肌が赤いので、わたしにはわからないのです。




「クラリス、始まるよ!」


 エミルに言われ、慌てて試合場に注目します。


 第二試合はレリューシア王女殿下率いるヘクストス女子魔法学校(以後 ヘク女魔)とジェフィが中心となるパントネー魔法女子学園(パン魔女)の対戦です。


 両校とも事前に潜入偵察を敢行しました・・・パン魔女では散々でしたが。


 調査をまとめると、総合レベル的にはヘク女魔が高いと思われますが、自由過ぎるというよりは研究と貴族の子女教育に特化した校風で、集団行動は苦手。


 一方パン魔女はもともと半民半軍学校を目指していましたが軍の評価が上がらず、今年度になってからかなり厳格な教育方針に移行したとか。


 おかげで教育課程では魔術士としての練度より軍人教育を優先している傾向がみられました。


 「個」と「集」。


 「魔術師」と「軍人」。


 ある意味対極的な二校です。




 先ほどの、わたしたちの初戦も、普通に戦ったらこんな感じだったのでしょう。


 個々の強力で多彩な術式を繰り出すヘク女魔と、20人をいくつかの班に編成し組織的に戦うパン魔女の戦いです。


 ヘク女魔チームからは「魔力矢」「火撃」という定番の攻撃呪文にまぎれて、「飛礫」「風酸」といったレアな術式まで飛んできました。


 まるで自慢してるみたいです。


 一方パン魔女は「魔力矢」一辺倒です。


 「魔力矢」は軍の制式術式の中でも一番推奨される、攻撃呪文です。


 パン魔女は全員が同じ術式を身に着け、しかも詠唱技術によって5つの班を編成したようです。


 略式詠唱で次々術式を唱える班が1つ。通常術式を唱える班が3つ。


 そしてなんと集団詠唱を行う班も1つ。


 4人で一組の班を5個作っていました。


 わたしたちのように15人とか20人とかではないものの、集団詠唱を身に着けていたとは、さすがです。


 結局この二校の対戦も、壮絶な削り合いになりました。


 継続してダメージを与え続けるヘク女魔が優勢に見えました。


 しかしところどころで集団詠唱が決まり、ヘク女魔の標的に大ダメージを与えます。


 そこに更に畳みかけるように略式詠唱の「魔力矢」が4本!


 これがとどめとなり、ヘク女魔の標的が壊れました。


 信じられないように立ち尽くすレリューシア王女殿下のお姿。


 式典で必勝宣言したように、絶対の自信がおありだったのでしょう。


 一方ジェフィはまったく表情を変えずに試合場から立ち去りました・・・しかしジェフィのあの長いスカートは、とっても目立ちます。


 同じパン魔女の生徒もあそこまでは長くなかったです。


「ですが、わたくしたち、逆にスカートが短すぎるのではないでしょうか?」


 シャルノに同感です。


 入学して以来、校則の範囲でもありみんなに合わせていましたが、実は膝小僧が見えるのはわたしにとっては恥ずかしい短さです。


 他校と比べても短いんです。


「ええ~?かわいいじゃん!」


「そうですね。エミルに賛成です。」


「気にしたことない。」


 リトまで。


 どうやら気にしているのはわたしとシャルノだけのようです。


 もっともそろそろ冬なので、タイツ着用にはなります。


 タイツはタイツで、あったかいんですけど、ちょっと窮屈で。


 すぐにデンセンしちゃうし。


「・・・クラリスたち、余裕あり過ぎ。」


「そうそう。次の試合よりスカートの長さなの?」


 レンとリルにもたしなめられてしまいました。


 ですが、もう打つ手は決まっています。


 できることは全てやったという自信のせいでしょうか?


 みんなにリラックスしてもらうには、ちょうどいい話題でした。




 第三戦は、まさにこの後。


 わたしたちが最も警戒戒していたジェフィたちパン魔女との戦いなんです。


 この組み合わせは先週の段階でリーグ表とともに送られてきた、いわばジェフィ監修のもの。


 それなのにパン魔女は一見連戦で、不利に見えます。


 しかも、疑っていた最終戦での決着・・・交代要員のいないわたしたちが疲弊しきったところでの決戦・・・ではなく第三戦目で、まだ余力を残したわたしたちとの対戦。


 あの腹黒陰険謀略女にしては手落ち?


 そういう声もあったんですけど・・・


「これも策略ですね。パン魔女はおそらく冒険者さんたちと盟約を結んでいます。ですから三戦目は勝利確定。」


 そんなデニーの推測をファラファラが裏付けしていきます。


「そうなの~パン魔女の教官たちも学園ぐるみで応援しているの~♡」


「要は、軍に認めさせて、学校経営に積極的に関与してもらうための広報活動です。」


「それで卒業生の冒険者さんにも教官たちから、いろいろと・・・ねぇ~♡」


 つまり、パン魔女は実質この試合が天王山。


 ここで使い切ってもいいのでしょう。


 一方、次戦を残し、まだ余力を残さなければならないわたしたちがここで気を緩めると・・・。


「なによりも、最終戦はさすがに王女殿下に譲らなくてはいけなかったようですし。」


 なんですか、結局は政治的な配慮ですか。


 なら、その覚悟もしれたものです。


「おそらく、ジェフィは全てを手に入れるつもりです。王家へのコネも、学園内の地位も・・・そしてわたしとの決着も。」


 わたしと決着をつけ、勝つということは、わたし公認で叔父様に接触できる。


 そんな約束をしてしまいましたし、もしそうなれば、叔父様に取り入ってその利権に参入できると考えているのでしょう。


 あんなに脈がない叔父様の反応にもまだあきらめてはいないのです。


ちょっとイラッ、です。


「ですが・・・それは欲張りすぎです。そんな片手間で勝てるほど、わたしたちは甘くありません。」


 おそらくパン魔女はまだ秘策を隠している。


 でもそれはお互い様なのです。




 そして試合前の待機場所。


 わたしたちの打ち合わせです。


「敵のチームの術式の発動タイミングは、指揮官のジェフィ様が全てとりしきっていました。」


 デニーの言うことは、前の試合の観察結果で確認したのです。


「実はジェフィ様は一度も術式を行使せず、学生杖ワンドを操って、5つの班の指揮に専念しておられました。」


 実は初戦のわたしもそう。


ただ違うのは、打ち合わせの後は細部をみんなに任せっぱなしで、結果的に何もしなくても終ってしまったわたしと、細かいところまで全て自分で指揮するジェフィという所。


「全員が同じ「魔力矢」の術式を放つため、同じタイミングで放った場合、互いの信頼関係で威力が左右されてしまいます。そして、パン魔女は、組織としての訓練を十分に積んだせいか、術式のタイミングもそろっています。」


 デニーも、先週の日の戦いで


「違う魔術師が同じ術式を行使した場合、それが同じ術式であるからこそ、互いの意志に干渉し、打ち消し合う。まるで、同じ水面に二つの石を投げた時のように。だからその術式の効果も弱まったり、全くなくなったりする」


 という魔力の作用について学びました。


 だから、仲のよくない魔術師が同じ術式を同じタイミングで行使した場合のことを知っているのです。


「でもね~班の仲間はともかく、他の班との競争心が強すぎるのぉ♡」


 ファラファラが調べてくれた情報は、とても重要なもので、わたしたちが立てた作戦は、かなりその内容に拠っています。


 本当に助かったのです・・・でもこの子、いつもあんなことしてるにかしら?


「加えて、ジェフィは指揮官になるために、教官と3年生に気に入られようといろいろ裏で手を尽くしたけど、そのかわり仲間からは浮いてるのぉ~♡」


 一見ジェフィは統率力がありそうでしたが、その源は上からの権力。


 同じ一年生はコワゴワ、イヤイヤ従っているわけなのだそうです。


 打ち合わせにいつも一人で来ていたのは・・・そういうことなのかもしれません。


 そして、その分析と作戦立案に協力してくれたデニーが、続けます。


「ファラファラの言うことを考えれば、仲がいい同じ班の術式は強くなるかもしれません。ですが、他の班と、特に通常詠唱の3つの班の術式が、そろってしまえば魔力の共鳴現象がよくない方に作用し、おそらくその威力は弱まるのです・・・つまり、それが、ジェフィ様自ら術式のタイミングを指揮していた理由。同じ班の中の術式は強くし、他の班とはタイミングをずらす、そのための班編成と術の指揮、そういう作戦なのよ!」


 敵の作戦の推理を披露したデニーはメガネを怪しく光らせ満足そうです。


 最後なんか、あの探偵口調に戻ってます。


 ですが、その後、デニーはわたしの発言を仰ぐように見つめてきます。


 そのまま最後まで言ってもいいのに。


 変なところで律儀なんですから。


 でも、さっかくの好意ですし。


 わたしは前に出て、デニーとファラファラの肩を抱き、そして一人一人の目を見つめていきます。


 みんなしっかり見つめ返してくれて・・・リト、リル、レン、エミル、シャルノ、ヒルデア、ジーナ・・・あのアルユンですら。


「いいですか、みんな。作戦に大きな変更はありません。今のデニーの分析だって、あくまで最終確認。だから、パン魔女の弱点を突く、そこは作戦通り。その機を待って、時が来たら一気に畳みかけます。それまではガマン。・・・何か質問は?」


 みんな、口を一文字にして、目はまるでにらみつけるみたい。


 そんな同じ表情を浮かべています・・・きっとわたしも。


 気が付くと、いつのまにか、自然に互いに肩を抱いて円陣を組んでるわたしたちです。


 あの「巨人災禍」を生き抜いて、やっとたどりつた今日なのです。


 せっかくのガクエンサイで優勝しないでどうするのですか!


 だから


「・・・勝ちましょう!みんなで!」


「「「「はいっ、戦隊長!」」」」


 みんなのその声は、強く響き渡ります。


 術式なんか使わなくても、きっとこの空間にわたしたちの意志を刻み付けた、そんな錯覚を感じさせるくらいに。




 ジェフィとの握手は初めてです。


 試合前の儀礼ですからしかたありませんけど。


 ですが次期男爵とは思えないほど、その手は力強く、しかしその皮膚は少し荒れた、ギザギザした違和感を残しました。


 何より、その強い視線。


「邪視」でもできるのではないかと思うくらい。


 もっともわたしも「ガンつけ」で負ける気はしません。


「両者離れて!」って審判に止められなければ、「ガンつけ」に続いて「握力勝負」に移行していたでしょう。


「なんかの格闘戦みたい」ってリトにつぶやかれる有様です。


 今日は、ジェフィの、いつもの「らしい」微笑みは、まったく影を潜めています。


 そんなに勝ちたいんでしょうか?


 あるいは・・・わたしが憎いのでしょうか?


 特に何をした、という覚えはまるでないのに。


 ふっとよぎったそんな疑問は


「開戦!」


 審判の合図ですぐに消えていきましたけど。




 開戦直後から、次々とわたしたちの標的を襲うのは火の矢!


 パン魔女はメンバーを入れ替えたこともあってか、威力の高い「火撃」の術式に切り替えてきました!


 それは簡易詠唱の防御術式を突き破り、次々と標的を焦がしていきます。


「全員が火撃なんて・・・。」


「おそらく、得手不得手も含めて、全員に「魔力矢マジックアロー」と「火撃ファイアボルトの二つだけを徹底的に覚えさせたのでしょう。」

 

 そして、二戦目に「火撃」を得意なメンバーにしたということ。


「人数が多いといろいろできるんですね。感心します。」


「閣下!感心してる場合ですか!」


 もともと「ウチ」は、そんなに「術式を暗記させて教え込む」という校風ではありませんし。


 さらに叔父様が教官になってからは「魔法文字の特性を理解」して「自分に合わせた覚え方」を身に着ける方が主流になりました。


 でも、そのくせハードルは更に上げるっていう・・・一見優しくて実は厳しい、「悪魔」とかいう異世界存在並みに邪悪なやり口で鍛えられました。


 しかも軍人教育には、更に別の邪悪な教官がいて・・・ウチの学園って、意外に悪の巣窟では?


 もちろんワグナス教官のような温厚で優秀な方もいらっしゃいますけど、でも学園長と謀ってゴラオンの帰還の隠蔽に改修、生き生きとしていらしたし・・・やはり向こう側なのでしょうか?

 

 なんて考え事ができるのも、基本的に各人、各班に任せて大丈夫ってことが初戦で証明できてみんなも自信がもてたし、この、初戦のメンバーにデニーまで加わった遊撃隊では、わたしのすることなんてほとんどないんです。

 

 簡易詠唱の防御術式の展開もみんなやってくれましたし、何も指示しなくても今は次の詠唱に入っています。


 そして、ホラ!


「あれね♡・・・加力フォース♡」


 3人組の学生の集団詠唱でできた大きな魔法円を見て、ファラファラが右手でクイって引く動作をします。


 左手はワンドを掲げたままですけど。「加力って言うけどファラの感覚じゃちょいって引っ張る感じなの~♡」って簡易詠唱の動作も引く感じ・・・「引力」のほうが正解かも?

 

 ですが!?


 ファラファラの揺らした標的が揺りもどった瞬間に、大きな火の矢が標的にぶつかるのです!


「最後のタイミングずらされたのぉ~♡」


 って、ここでそのハートマーク要りますか!?


 命中した火の矢は、シャルノやリトの術式をあっさりと突き破り、火を散らすのです。


 幸い、アルユンの「木材硬化」の効果はかろうじて有効でした。


 敵の集団詠唱は3人なので、威力もそこまでではなく、まだ大丈夫です。


 しかし・・・大技がたった一撃が決まっただけで、味方に動揺が見えます。


「閣下ぁ~、どうすればいいんでしょう?」


 なんてデニーのメガネはいきなりすりガラス状態になるし、ヒルデアの「戦隊長~」って声まで。


 リトやシャルノたちは変わらず詠唱を続けていますが・・・このままでは危ないのです。


 戦機を待つつもりでしたが、逆に今が戦機かもしれません。


 もともと長引けば、うちが不利。


 ならば「主導権を握れ」です!


「わかりました・・・アルユン、頼みます!」


 わたしの声を聴いたアルユンは、集中していた詠唱を中断してはくれました。


 ですが


「ちょっと早いんじゃないの、クラリス!」

 

 って怒りだします。


 戦場では指揮官に従うべきなのですが、彼女がわたしに抱く感情は理屈では抑えられないのでしょう。


 わたしもここで争う愚は侵せません。


「文句は後で聞きます。ですが、今こそあなたの出番です。わたしたちの切り札の。」

 

 わたしはそう言ってなだめ、あらためてアルユンに指示を下すのです。


 あら?


 アルユン・・・ちょっとだけ口元が緩んでます?




 しかし・・・ジェフィ!


 やってくれます。


 一試合目で見せたファラファラの「加力」での大技回避を、あっさりと自分の指揮で・・・わたしを見て、うっすらと微笑むジェフィが見えます。


 今日初めてのその微笑みは、でもいつもモノとはやはり違って、「どや顔」めいています・・・悔しいのです!

 

 ですが、それもここまで。


 これから逆転してみせます!


 アルユンが大きな動作で術式の詠唱に入ります。


 後は稀有な適性と才能を必要とするこの術式を使える彼女に託すだけです。


 しかしその間も敵の攻撃は続きます。


 それをなんとかしないと・・・


「リト!」


「了解!」


 リトも完成間近の術式を中断します。


 ですが、アルユンと違い不満もまったくない、


 わたしを信頼しきった視線がわたしをかすめます。


 そのままためらいなくリトは「閃光フラッシュ」を連続詠唱!


 ジェフィに、続いてパン魔女各班長の眼前に強い光が浴びせられます。


 もっとも初級術式の簡易詠唱ですから、魔法抵抗されてます。

 

 少し詠唱の足並みが乱れるだけ。


 でもその「少し」が大きいのが集団戦なんです。


 相手からは「卑怯な」とか「ルール違反よ!」とか聞こえてきますが、術者を直接攻撃したわけではありませんって、初戦からなんか言い訳ばっかりです。


 だけど、エス魔院発祥の対抗魔術戦公式規則を読破して、エクスェイル教官にも認めてもらったんです・・・ホントですよ。


その間にシャルノの魔力を込めた「防御プロテクション」も完成します。


 わたしとデニー、ファラファラも「魔力矢」を略式詠唱で連続斉射です!


 しばらく詠唱が乱れ、守勢に立ったパン魔女でしたが、


「みなさん、所詮は一時しのぎです。こないな子供だましに惑わされてはいけまへんなぁ。」


 ジェフィにたしなめられて、落ち着きを取り戻します。


 そして再び火の矢がわたしたちの標的を襲います。


 断続的に注がれるそれは、まるで「火の雨」にすら見える密度。 

 

 しかし、そんな敵味方の攻防の中でも、アルユンは揺らがず詠唱を続けていたのです。


「それは境界はざまをゆらす影の形  それは現世うつしよに見せる虚ろの形  


それは幽世かくりよに偏在する夢の形・・・姿なきものよ、我の望みし心象を描きたまえ・・・


あたしは人の子、アルユン。頼んだわ!「幻影イリュージョン!」


「幻影」の術式は、「魔術師」というより「幻術師」に適したものです。


「幻視」などの才能がないわたしなんかが唱えても一定の効果はありますが、対象に魔法抵抗されれば霧散してしまいます。


 しかし・・・


「なに?あれ?」


「幻影だろ・・・でも音まで聞こえて・・・本物かも?」


「幻影だって、わたしにはわかったわ・・・あれ?でもなんで消えないの?」


 「幻術」系の才能があるアルユンのふるう「幻影」は、幻術って気づかれても消えることはないのです。


 もっとも・・・「そんなものわざわざ幻術でつくってみせるなんて、魔術の無駄遣いよ」なんて、事前に散々ごねられましたけど。

 

 気持ちはわかりますけど、ね。


 チャリ~ン・・・ジャラジャラジャラ・・・。


 鈍い輝きを放ちながら、赤銅色の小さな金属片が次々と空から降ってくる、そんな光景がわたしにも見えます。


 まるでホンモノみたい。


 空から降り注ぎ、地面に落ちて、音を立ててのは、大量の銅貨なんです。





「空から銅貨が降る幻・・・?あんた、バッカじゃなの!あたしに何させるかと思えば!」


 初めてみんなにこの作戦を伝えた時、当のアルユンから思いっきり拒否されました。


「なんで銅貨?」


 一番仲のいいリトですら、なんで金貨じゃないのって質問です。


 そこで、わたしは以前ジェフィを送る途中にキッシュリア商会に襲われた時のことを告げます。


 あの時アントの「指弾」で放たれた銅貨の音で、自分の術式を中断しそれを拾い始めたジェフィの様子を! 


 そして


「金貨より身近なお金ですし、きっとジェフィにはこの方が効きます!」


 って押し切りました!


「次期男爵様に銅貨ですか?それはどうかと思いますけど。」


 デニーが言うのは、別にシャレではないのでしょう。





「痛いわ!・・・本物よ。本物の銅貨よ!?」


 頭に銅貨が落ちてきた生徒が大げさに痛がっています。


 魔法抵抗に失敗したものは、視覚や聴覚は愚か、痛覚まで惑わされているようです・・・さすがに怖いくらいです、アユルン。


 通常の「幻影」であれば、視覚のみ。「聴覚」や他の感覚まで欺くことはできませんし、「幻影」と「幻聴」の術式を同時展開なんて、叔父様の「付帯術式」でも使わなければできないはずです。


 しかし、「幻術師」の適性をもつアユルンには、「幻影」だけでそれが可能なんです!

 

 ジャラジャラジャラ・・・。


「お金です!こないにぎょうさん!夢なら醒めんと~。」


 そして、中には自分から幻影にとらわれたがる人もいます!


 お金が欲しい人はお金の夢から醒めたがらないのです!


 ジェフィは夢中で両手に銅貨を拾い集め、歓喜の声を上げています。


 まるでエミルみたい。 


「なんやて、今何言うたクラリス!」


「・・・作戦通りです!みんな、ここが勝負どころです!」


 指揮官がいなくなれば、術式のタイミングを頼っていたパン魔女の班編成の意味も大きく減じてしまうのでから。


「スルーすな!」





「勝者、エスターセル女子魔法学園!」


 結局指揮官であるジェフィが銅貨の雨に目がくらんで指揮不能になった時点で、もう勝敗は決していたのです。


 彼女に代わって指揮をとろうとする者も現れず、後は互いに責任をなすりけ合うだけ。


 パン魔女は半ば自壊したのです。


「みんな・・・礼!」


 試合後の敬礼を行うわたしたちの前で、ジェフィはうつむいたまま。


 そしてそのジェフィを見つめるパン魔女のクラスメイトの冷たい視線。


 それはとても仲間に向ける視線ではありません。


 その中で、まだ動かないジェフィ。


「あなたは仲間を従わせる、それにこだわり過ぎたのです。上から権力で得た地位で、みんなをしめつけて、結果、指揮権は確立しても孤立を招いてしまった。だからあなたは、パン魔女の要であると同時に弱点にもなってしまったんです。」


 顔を上げ、ジェフィは強い視線を向けてきます。


「仲良しごっこのあなた方に言われとうありまへん。お友達がぎょうさんいらはることがそないに自慢ですか?そんなの、卒業すれば終わり。軍に入隊すれば、だれとでも仲間にならんといきまへん。なら、今からそれに慣れよう思うてはるだけです。」


 その反撃は思いのほか胸に突き刺さります。


 あとあと2年余りで、卒業。


 みんなとは、配属先はバラバラで、そもそも軍にいくって決めてない子の進路だってまだわからない。


 卒業すれば終わり・・・そうなのかもしれません。


 でも、本当にそれだけなんでしょうか?


 うまく言えませんけど・・・でも、きっとそんなんじゃない。


「先のことはわかりません。でも・・・いえ、ですから、今、仲間と、みんなといられることが、わたしにとって大切なんです。」


 だから、立ち去るジェフィの後ろ姿に向かって、わたしはそう声を投げかけたのです。



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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://book1.adouzi.eu.org/n8024fq/
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