強く思い出を振り返させられる男です
時刻は深夜1時。
俺はまだ、相変わらずベッドで横になりながらも、全くもって眠れてはいない。
そして、それは明日の華怜との打ち合わせの件をどうするかを迷っているからではない。
いや、その件についても悩みに悩んではいるが、その後に来たもう1通のメッセージにまた...。
『夜分遅くにごめんなさい。私のなかで最高傑作の漫画が完成したので連絡をしました。以前にあなたに見てもらったものをブラッシュアップしたものです』
そして、そこにはその文言と一緒に、彼女が書いたであろう漫画の添付画像が何枚も張りつけられている光景。
『もう今までの様な変な小細工はしない。この作品で連載がとれなければ、私は漫画もあなたも諦める。両親とも既に約束した。西園寺家に生まれた私に二言はない』
いきなりではあるが、しっかりとまた、そうメッセージには送られてきている。
でも、彼女がいきなりなことはいつものこと。もう慣れている。
紗弥加...。
『だから、真剣に読んで感想を教えてほしい。あなたが今までで私が書いたモノの中で一番面白いと言ってくれれば、私は迷わずにこの作品をまた賞に応募するわ。そして、全てを手に入れる。もし、あなたが面白くないと感じたなら賞には出さない。だってこの作品はあなたに向けて書いた作品でもあるから』
そして、そう。彼女が俺に最後に見せてくれた作品も面白かった。あの作品自体もかなりのブラッシュアップを経て結果として有名雑誌の短編に載った。
ただ、確か、念願の連載にまでは至らなかった...。
そして、それをさらにブラッシュアップか...。
『そこまでは急がないから、しっかりと読んだ上での感想が欲しいです。なので、この前にお願いしたyoutubeの動画撮影の件についてもなしで結構です。本当に真剣にお願いします』
それも、このタイミングで...。
もしかして、とは思ったが....
案の定...そうだった。
藤堂...。
その紗弥加からデータでスマホに送られてきた漫画には、以前の作品以上に、俺とあいつとの入れ替わりについての出来事が詳細に書かれていた。
そう。俺と藤堂しか知り得ないことがまた詳細に...。
本来であれば、その時の藤堂と彼女しか知り得ないことも、しっかりと...
そして、この作品を読みながら俺は色々とまた思い出して...。
そうだった。
藤堂と彼女との出会いは確かこんな感じだった...。
大変だったあの時のことも書いてある...。
他にも、あの時に紗弥加と交わした会話の数々がセリフとして作品には散りばめられている。
全部、色々とあったが、ことが終われば俺にとっては楽しかった思い出だ。
あなたのおかげで学校生活が楽しくなった...か。逆だ。
俺は俺で彼女からは色んなことを教えてもらった。
そして...
【ねぇ、私、あなたにフラれちゃったみたいだけど。もし、私の夢がかなった時に、あなたの隣に今の彼女がいなかったら、その時は私があなたの隣にいてもいいのかしら】
【ハハ、その時にもし俺の隣に彼女がいなくて、そして、お前が俺のことを好きでいてくれたなら、俺としては何の問題もないと思うけど。まあ、あいつとは別れるつもりはないけどな】
このセリフも俺の記憶の中には確かに...ある。
他人の身体で何を言っているのかという話だが、間違いなくあの時の藤堂が俺の意思で発した言葉だ...。それも入れ替わりからちょうど元に戻る直前あたりに...。
だから、覚えている。鮮明に...覚えてる。
そして、たった今、彼女からの作品を全て読み終えたところだが...。
彼女が得意だったコメディ要素も上手に織り交ぜられながらドキドキさせてくれるところではしっかりとドキドキさせてくれるラブコメディ作品だった...。
現に、俺自身も、心臓がまた...
そうか。紗弥加も全てを...。
駄目だ。今までも頭が破裂しそうなぐらいに、一杯いっぱいになったことは沢山あったけど、今日は本当に...。
しかも、正直に、この作品は嘘偽りなく、俺が読んだ彼女の作品の中で一番...




